エピローグ 『天才がやると洒落にならない効率が出せるお仕事です』
「あの女、ムカつくんだよっ!何かと言えば『大魔王様』『大魔王様』って大魔王様に擦り寄ってくるし、気に入らない事があれば力で解決しようとするし…おまけに空気が全く読めないし!」
「…そうですね」
俺は自宅に遊びに来たサミエルの愚痴を聞きながら盛大に『お前が言うな!』と叫ぶ事を自重していた。
予想はしていたがサミエルとミカエルは似た者同士なので同属嫌悪で非常に相性が悪いようだ。
「おまけに誰かさんが魔王を辞めたせいでボクに回ってくる仕事が増えてるし!」
「…ちゃんと依頼として手伝っているじゃないですか」
サミエルは面倒な仕事が入る度に俺のところへ来て仕事の依頼をしに来ている。
「それならもっとまけてよっ!流石に予算が苦しいんだよっ!」
「…料金設定を決めたのってサミエル様ですよね?」
「そうだよっ!」
「……」
こいつは俺にどうしろというのか。
「サミエル様。『ぶぶ漬け』は如何ですか?」
「あ。ありがと。嫁が不在でもお茶漬けを出す習慣は変わらないんだね」
「…そうですね」
ソフィアに代わってサミエルにお茶漬けを出したのはオリヴィアだ。
まぁ今日は週に3日あるオリヴィアの時間なのでサミエルに遊びに来られては普通に邪魔だとしか思えないのだから仕方ない。
「そういえば、まだ嫁とは喧嘩中なのかい?」
「いえ。とっくによりを戻しましたよ。唯、妻は仕事で外に出る事になって週末にしか帰って来られないだけです。それ以外にも私も週2日は妻の手伝いに行っていますし」
「ああ。偶に居ないと思ったら、それでなんだ」
「…サミエル様、そんなに頻繁に遊びに来ているのですか?」
「…偶にだよ」
寂しがり屋かっ!
この人、マジで俺を友達ポジションに認定してんだなぁ。
「さ。それでは邪魔者も帰った事ですしデートに行きましょう♪あなた様♡」
「…あれでも一応『天翼種の王』なんだけどなぁ」
オリヴィアに完全に邪魔者扱いされたサミエルに少し同情しつつ、でもデートには応じる。
まぁデートと言っても行き先は毎回決まっているのだけれど。
「弟よ。私が言う事でもないが冒険者ギルドはデートの場所として不適切ではないか?」
「…良いんだよ。何処でだってイチャイチャ出来れば」
冒険者ギルドの指定席でオリヴィアとイチャイチャする俺にジト目を向けてくる『お姉ちゃん』。
この呪い、相変わらず解けねぇなぁ。
というか、既に『お姉ちゃん』の事を『お姉ちゃん』と呼ぶ事に違和感が無くなっているので今更呪いが解けてもどうしようもないのだが。
「そういえば最近レギニアって見ないけど、どうしている訳?」
「…あの子はA級冒険者になってからエレンちゃんを教育する為に国中を回っている」
「おぉ。あいつA級になれたんだ」
「弟よ…あの子はずっと前からA級だぞ」
「…仕事が忙しかったんだよ」
態々興味も無い男の動向なんて調査してねぇよ!
ちなみにセレーナには冒険者ギルドで結構な頻度で出会うのだが――大抵はソフィアかオリヴィアに追い払われて涙目で隅っこに居座るのが関の山だ。
あいつって美人で優秀な騎士の筈なのに不憫だ。
「他に何か面白い情報ないの?」
「うむ。噂レベルだけどエルフを連れた英雄種が人間種の国に入ったという話を聞いたぞ」
「あ~…」
それは知っている。
エルフを全滅させた上、カエラという最後の生き残りを連れたライノルが英雄種から指名手配されて人間種の国に逃げてきたのは俺の知るところだ。
いつになるかは知らんが俺のところに訪ねて来るのも時間の問題だろう。
「~♡」
なんて会話をしつつも俺はオリヴィアとずっとイチャイチャしていた。
★
久しぶりに分身体スミカを動かして目を開くと…。
「…はれ?」
全く見覚えの無い、何処かの広い部屋の中に居た。
「おぉ。動きおったわ」
そして、そこで私を見てニヤニヤと笑っていたのは…。
「だ、大魔王様?」
見間違う事無く大魔王だった。
「くっくくく。久しいな…スミカよ」
「ど、どうしてここに?」
「どうしてと言われても、ここは私の城ぞ。私が居てなんの不都合がある?」
「…へ?」
周囲をキョロキョロと見回してみれば確かに見覚えのある大魔王の居城の中の1室だった。
「うぅ…ご主人様ぁ~」
そして涙目の獣人のケティスが部屋の隅っこで蹲っていた。
「なに。ちょっとした実験で貴様の分身体の中に仕込んだ私の魔法力が篭められた魔法石に干渉してみたのだが…狙い通り貴様の分身体のコントロールを掌握出来てのぉ。折角なのでスミカを『魔王』に任命し終わったところぞ♪」
「なにしてくれてるんですかぁっ!」
折角魔王を脱退したのに分身体が魔王に任命されるとか、どんな無限ループだ!
「案ずるでない。基本的には私が外に出掛ける用の予備の身体として使わせて貰うだけぞ」
「…ケティスが泣かない程度でお願いします」
「うむ。心得ておるわ♪」
この大魔王、自由すぎだろ。
★
『超越者』の一角である大魔王はお察しの通りだが、天使族は熾天使が全滅した事で天界の結界を発動させて地上との干渉を完全に断つ方針になったようだ。
分かりやすく言うなら安全な天界に『ひきこもる』つもりのようだった。
俺の中で『天使族=ニート』の図式が完成しつつある。
精霊王は今の俺にとっては仕留める事は容易い相手なのだが――『超越者』の一角として倒してしまうのは『管理者』の意志に反するので泳がせておいてやっている。
今度下手なちょっかいを掛けてきたら実力の差という奴を見せ付けて追っ払ってやろう。
最後の『超越者』である大賢者――というか『教会』とはガゼルを通じて不干渉を貫く事になっている。
勇者筆頭であるエルジルがリハビリ中らしいので、そのリハビリが終わるまでは停戦状態にしたいと提案があった為、その提案を受けて見逃しておく事にした。
「……」
こうして考えると3人の『超越者』と言っても大魔王が頭1つ飛び出しているようで『管理者』の望むような『三竦み』には程遠いように思える。
「三竦みなんて、あくまで理想だよ。僕達はそれに近い形を維持しつつ、それを崩さないように調整するのが仕事なのさ」
とは例の『調停者』の言葉だ。
まぁ、今の俺はその『管理者』の『協力者』という立場なので方針には従って『超越者』を倒すのは自重する日々だ。
★
「旦那様ぁ♡ここはどうすればよろしいですか?」
「…俺に聞かれても」
管理者の本拠地でソフィアの仕事を手伝っている時に、ソフィアに寄り添われて仕事の事で質問されるが――俺に聞かれても困るだけだ。
一応ほぼ完全に仕事は出来るようになっているが、それでもソフィアにわからない事が俺に分かる訳が無い。
「もう♪仕方ないですねぇ♡ここはですね…」
そして嬉々として俺に仕事の内容を教えてくれるソフィア。
どうやら『家庭教師プレイ』がやりたかっただけらしい。
「楽しそうだねぇ~」
「邪魔だ。失せろ」
俺への対応とは180度うって変わって話し掛けて来た『調停者』を冷たくあしらうソフィアさん。マジ怖ぇ~っす。
どうやら俺と一緒に居る時はソフィアの一面が色濃く出ているようだが、『調停者』と相対すると調停者だった頃の一面が色濃く出てしまうらしい。
「以前だって、ここまでは冷たくはなかったけどね」
「知らんがな」
一方で俺の方は『調停者』とそこそこの関係を維持していた。
別に特別親しくしている訳ではないが、ソフィア程冷遇している訳ではないという感じ。
「まぁ、これはこれで新鮮だから良いんだけどね」
「…ドMかよ」
まぁ大抵の感情は枯れ果てている奴なので少しくらい刺激が強いアプローチの方が嬉しいのかもしれない。
「で。物は相談なんだけど…」
「断る」
「失せろと言ったであろうが」
「…酷い」
以前から『こいつ』にも仕事を頼まれていたのだが流石に『それ』を引き受ける義理は無いので俺とソフィアで一蹴する。
「勿論、タダでとは言わないからさぁ。『彼女』の仕事を僕が引き受けて3日ほど休暇を上げるって言うのはどうかな?」
「 「 …… 」 」
★
そして俺は『地球』という惑星に帰ってきた。
『縮退炉』で重力をコントロールしたり『フライング・ユニット』を行使して空を飛びまわり『ターゲット』を探していく。
「こちら『調停者代理』、ターゲットを発見…確認を頼む」
『確認致しました。間違いなく『魂の質』の高い私達の目標に間違いありません。流石旦那様です♡』
「ああ、うん」
とりあえず『調停者』の通信装置での確認に太鼓判を押してくれたソフィアには帰ってからイチャイチャしようと提案して真面目に仕事をして貰う。
3日間の休暇が掛かっているのだからミスをする訳にはいかない。
そして俺は自分の目の前と『ターゲット』の鍵の掛かった部屋の中へと『ワームホール』で空間を繋げて、部屋の中へ移動して…。
「お前の望みをどんな願いでも1つだけ叶えてやろう。さぁ…お前は何を望む?」
『調停者代理』としての仕事を開始する事にした。
リアルでガチな天才が異世界に転生しても天才魔法使いになって元娼婦嫁とイチャイチャする話。 @kmsr
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