第36話 『魔王。『切り札』を切る』


 俺と司令塔として。


 そして輝夜を統率主体に指定して組みあがった人形にどんどん『竜族の魂』を宿らせて『マシンナリー・ドールズ』を誕生させて1人1人命名していく。


 当然のように全ての『龍人の少女』達は俺を『マスター』として認識し――同時に俺を父親と認識しているようだった。


 何故こうなったのかといえば…。


「私が統率主体として全ての姉妹達とリンクして知識を共有しているからです」


「…そっすか」


 どうやら『マシンナリー・ドールズ』達は輝夜の主導の下、俺の知識を――式紙の知識を応用して『念話』という独自の会話方法を導入しているらしい。


 その『念話』によって彼女達は認識の齟齬なく意思疎通が可能で、全ての娘達がかなり似通った『価値観』を手に入れてしまったらしい。


 それは、もうハッキリ言ってしまえば『ラルフ教』とでも言うべき絶対的な妄信であり、例えば俺が『黒』と言えば全員が世界を黒く染め上げてしまうほどの狂信だった。


「(こえぇ~よ)」


 ぶっちゃけ『龍人』として新生した彼女達は1人1人が『魔王』や『勇者』に匹敵するスペックを持っている訳で、その彼女達が全員俺を狂信している時点で、なんかもう――色々やばい。






 そんな事実に金を出した教会の上層部は全く気付く事無く『対・大魔王特選部隊』として『マシンナリー・ドールズ』は早急に量産されていき…。


「うん。計画通り全部の『竜族の魂』を救済した」


「…これは救済なのでしょうか?」


「……」


 計178体の『マシンナリー・ドールズ』が完成して、それと同時に178人の俺の狂信者達が生まれた。


 人形の方は、まだ何体かは残っていたが、そっちは『竜族の魂』が残っていないのだからどうしようもない。


 ちなみに『龍人』となった少女達は全員が全く同じ容姿を持っているのだが、頭に生えた『竜のツノ』だけは1人1人違う形と色を持っている。


 まぁ、それ以外は全員同じ顔だし、全員が同じメイド服を着ているので、そこを見て区別するしかないという事でもある。


「マスター。『マシンナリー・ドールズ』全員に武器の配布を完了いたしました」


「ああ。ご苦労さん」


 彼女達は全員が輝夜と同じく『超高出力ビーム』を撃つ事が出来るが、それだけだと接近戦に全く対応出来ないので教会から支給された装備を使わせてもらう事にした。


 その配布が完了したので、後は…。


「よし。夜逃げしよう」


『 「 「 「 「 「 「 イエス、マスター 」 」 」 」 」 」 』


 とっとと教会からはトンズラこく事にした。






 そもそもの話、彼女達――『マシンナリー・ドールズ』が幾らハイスペックな『龍人』とはいえ所詮は生まれたばかりのゼロ歳児だ。


 戦闘経験など無いに等しいし、それは逆に言えば同レベル者達――『魔王』や『勇者』を相手にしたら一方的に蹂躙される程度の強さでしかない。


 そして俺から言わせて貰うなら、やっぱり『大賢者』や勇者達以上に『大魔王』とサミエルを敵に回すのはごめんだった。


 そういう訳で俺とソフィアは178名の娘を連れて夜逃げを実行した。


「…君は一体何処に向かおうとしているんだい?」


「ああ、サミエル様。お待ちしていました」


 残念ながら俺の持っている転移石では178人もの『魔王』や『勇者』に匹敵する力の持ち主を転移させる事は出来ないので大魔王に連絡してサミエルを派遣して貰った。


 教会の外で待ち合わせをして転移の専門家であるサミエルに一気に運んで貰う為だ。


「これだけの戦力を確保したんだからボク達を裏切って教会に付こうとは思わなかったのかい?」


「あっはっは。178人居てもサミエル様1人に手も足も出ない『玩具の兵隊』で、そんな無謀な事はしませんよ」


 正直な話、確かに『マシンナリー・ドールズ』は身体能力だけでも十二分に強いし、並みの攻撃なんかでは傷1つ付けられないくらい強固な肉体を持っている。


 けれどサミエルの持つ怪力は彼女達を圧倒的に凌駕する。


 彼女達の『強固な肉体』なんて一撃でぶち抜かれて『強固な肉体(笑)』に成り下がる。


 戦闘経験の無いヒヨッコ178名なんてサミエル1人で蹂躙出来るし、切り札の『超高出力ビーム』だって『転移の魔王』であるサミエルにとって避けるのは児戯に等しい。


 つまり逆立ちしたってサミエルには勝てないのだから素直に大魔王の軍勢に戻った方が吉という事だ。


「はいはい。これだけの人数だし、幾らボクでも運ぶのはギリギリだからね」


「別に急ぐ必要な無いので。私は妻といちゃついていますし」


「…そう」


 何故かゲンナリしつつサミエルは『マシンナリー・ドールズ』の引越しを始めてくれた。


 そして数十人単位で娘達を転移させていき…。


「流石に疲れたから君達を運ぶのは一休みしてからで良いよね?」


「ええ。お疲れ様でした」


 最後の娘達と一緒にサミエルも転移で移動していった。


 この場に残されたのは俺とソフィアだけ。




 そして――音もなく飛来した『氷の矢』を上空から正確に『ホーミング・レーザー』が撃ち落した。




 それを確認して俺は背後を振り返る。


「これはこれは。お久しぶりですねぇ…アークス様にアルビア様。夜のお散歩ですか?」


 そこに居たのは2人の勇者達。


「黙れ。裏切り者!」


「裏切る?」


 アークスの言葉に俺は困惑して首を傾げる。


「しらばっくれるな!お前が…魔王サミエルと一緒に居るところはしっかり目撃させて貰ったぞ!」


「ほぉほぉ」


「お前…大魔王のスパイだな!」


「いいえ。違いますよ?」


「は?」


 俺はキッパリ否定するとアークスは困惑して混乱した。


 まぁ、こいつは強いけどあんまり頭は良くないみたいだし暫くは放置で良い。


「ところでアルビア様。1つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


「…何?」


 俺が問いかけるとアルビアは最高に不機嫌そうな顔で俺を睨みつけて来る。


「お2人は先程からずっと『見ていた』訳ですよね?アークス様が『目撃した』と豪語している訳ですから」


「…だから?」


「ですから…」


 俺はニッコリと笑って言ってやった。




「どうして貴重な人形兵達が連れ去られるのを黙って見ていらしたのですか?」




「っ!」


 アルビアは当然のように顔色を変えた。


「勇者様が2人も居て、な~んで黙って見ているだけだったのですかぁ~?」


「…まれ」


「そして、な~んで『今』出てきたのですか?しかも奇襲なんてして」


「黙れっ!」


 強烈な殺気を撒き散らして叫ぶアルビア。


 だが――心は負けている。


「勿論、サミエル様が居たからですよね?」


「……」


「あの方は『魔王』や『勇者』からしても規格外としか思えない強さを持っていらっしゃいますからねぇ。サミエル様がいらっしゃるんじゃ正面から堂々と戦いを挑むなんて自殺行為でしかありませんしねぇ」


 そう。だからこいつらは2人揃ってコソコソ隠れている事しか出来なかったのだ。


 ぶっちゃけ俺だって敵にサミエルみたいなのが居たら絶対隠れて出てこない。


「そしてサミエル様が居なくなったのを確認してから安心して出てきた。私を始末して口封じすれば人形兵の方は色々言い訳できそうですもんねぇ」


「まさかとは思うけど…それは時間稼ぎのつもりなのかしら?」


「……」


「確かにサミエルは恐ろしいわ。けど恐いのはサミエルであって君じゃないのよ」


「……」


「たかが人間種のS級魔法士程度が本気になった勇者に勝てると思っているのかしら?」


「S級魔法士?」


 俺はそれを鼻で笑ってやる。


「それは一体誰の話だ?」


「何を…」


「そういえば、まだ自己紹介をしていなかった」


 俺は勇者2人を見下すように眺めて俺の本当の『役職』を教えてやる事にした。




「大魔王様の忠実なる配下…『魔王ラルフ』だ。以後よろしく」




「 「 は? 」 」


 2人同時に間の抜けた声を上げる勇者達。


「何の…冗談だ?」


「だから。俺は最初から大魔王勢力の一員だから『裏切って』なんか居ないって話だろ」


 ピラピラと『青い宝石の付いた指輪』を見せびらかすように振ってやる。


「冗談じゃ…ないのね」


「指輪…魔王の指輪。本物…か」


 俺の指輪が本物であると認識した瞬間、2人の俺への警戒が跳ね上がった。


「…今度はこちらから1つ尋ねても良いかしら?」


「ん?」


 その上でアルビアが怪訝な顔をして俺に質問してきた。


「どうして『今』正体を明かしたのかしら?黙っていれば私達が油断してあなたの勝率が上がったかもしれないのに」


「そんな事もわからないのか?」


 俺は肩を竦めてやれやれって感じで答えてやった。




「お前らを生かして帰すつもりが無いからだよ」




「……」


「これから死ぬ奴に正体を明かしたからって痛くも痒くも無いね。お前らって勇者にしては雑魚だし」


「……」


「教会なんて大層な名前が付いているが、本当に危ないのは『大賢者』くらいで他の奴らが幾ら出てこようと負ける気がしねぇよ」


「…そう」


 アルビアは深く――深く息を吐き出して俺を真っ直ぐに見つめた。




「それなら『大賢者』様が出て来られたらあなたは大ピンチよね?」




「っ!」


 アルビアの発言と同時に『力の塊』のような何かが出現する。


「ハッタリだと思うけど、それでも念には念を入れて『大賢者』様を使わせてもらうわ」


「…なるほど。大賢者ってのは人物ではなく『現象』だった訳だ」


 恐らく、それは『雷の塊』。


 俺とソフィアが予想した『大賢者』が『雷の魔法』を使えるんじゃないかという予想を大幅に裏切って『大賢者』自身が発電所そのものだった訳だ。


「どうする?『大賢者』様が出てきた以上『大魔王』でも出てこない限り、あなたに勝ち目は無いわよ」




「くっくくく。ならば何の問題も無いではないか」




「っ!」


 そこにあった『雷の塊』を非常識にも素手でぶん殴った『そいつ』が笑いながら語りかけてくる。


「さ~て。噂の『大賢者』がどの程度か小手調べといこうかのぉ」


 そして楽しそうに笑いながら『そいつ』――『大魔王』が吹っ飛んでいった『雷の塊』――『大賢者』を追って疾走した。


「ど…どうし…て?」


「そりゃ君達が彼の罠に見事に引っかかったからだろう」


「っ!」


『大魔王』の出現に呆然としていたアルビアは背後から聞こえてきた声に驚いてギョッとして振り返り…。


「やぁ、初めまして。ボクは魔王サミエル。以後よろしくね」


「あ…ああ…」


 そして予想通りの人物がそこに居る事を確認して絶望した。


「そもそもさぁ。あの程度の人数を転移させただけでボクが『疲れる』なんてある訳無いじゃないか」


「……」


「彼女達を運ぶ際に絶対に尾行されるから逆に罠を張っておびき出そうって提案されてね。それに大魔王様が乗ってしまったんだよ。まぁ君が『大賢者』を出さなければ傍観しているだけの予定だったんだけど『大賢者』が出てしまったから嬉々として出撃されてしまったよ」


 そもそもの話、俺とソフィアだけなら教会の外に出た時点で転移石でさっさと逃げる事も出来たのだ。


 それを長々と話していたのは、話の展開次第では『大賢者』を引きずり出せるかもしれないって事で大魔王が俺の式紙を通して覗き見していたからだ。


 で。まんまと大賢者を引きずり出して大魔王にパスした訳だ。


「さて。君はどっちにする?」


「私は『あっち』と因縁があるので『あっち』を貰いますね」


「ん。ボクはどっちでも良いから譲ってあげるよ」


「ありがとうございます♪」


 まぁたいして感謝していないのだけれど、俺は勇者アークスを貰って対峙する事にした。


「ひやぁぁあああっ――――――!!!いやぁああああっ――――――!!!」


 アルビアの方はサミエルに引きずられて悲鳴を上げながら遠ざかっていった。






「こりゃ、お前を殺してさっさトンズラをこくのが正解だな」


「俺から言わせりゃ、お前らはなんで勇者をやっているのか?って疑問だけどな」


「あ?」


「サミエルに勝てないって分かっているのに、どうして敵対する道を選ぶ訳?」


「……」


「勇者なんてやっていたら、いずれサミエルと敵対する時がくるのは分かりきっていただろうに。破滅願望でも持っているのか?」


「…魔王より勇者の方が格好良いからだよ」


「あっそ」


 そんなどうでも良い会話をして――俺とアークスの第二回戦は幕を開けた。


「おらぁっ!」


 そして開幕一番にアークスは地面を殴りつけて――氷のドームを作り上げた。


 ドームといってもアークス自身を護る防壁を作り出してだけで、俺を取り囲むような大きさではなかったけれど。


 どうやらアークスは防御を固めてから攻撃に移るタイプのようだ。


「お前…絶対零度って知っているか?」


「……」


「あらゆる物質が凍りつく温度。この絶対現象の前じゃ炎なんてハナクソみてぇなもんだぜ」


「……」


「お前に言ってもわからねぇだろうけど…なっ!」


 そしてアークスを護る氷の防壁の『外』の温度が一気に下がっていく。


 しかし俺が焦るという事は無かった。


絶対零度アブソリュート・ゼロ。セルシウス度で表せればマイナス273.15℃。ファーレンハイト度で表せばマイナス459.67°F。熱振動が小さくなり、エネルギーが最低になった状態。この時に決まる下限温度の事だ」


「…は?」


 俺がより詳しく絶対零度について説明してやるとアークスは呆気に取られて動きを止めた。


「この世界の魔法で絶対零度を再現出来るか少し検証してみた事があるんだが、答えは『不可能』だった」


「……」


「理由は色々とあるが、最大の理由としてはこの世界の魔法は『物理現象』を超越出来ないという検証結果の為だ」


「……」


「前世で…地球でさえ完全な絶対零度が再現出来ないのに、こんな中途半端な魔法で再現するなんて不可能だろ?」


「お前っ…!」


 そう。このアークスという男も俺と同じく異世界転生者だ。


「さて。魔法が物理現象を超越出来ない事は教えてやったが、それなら物理現象として可能な事を再現してやれば良いと思わないか?」


「くそっ!死ねっ!死ねっ!死ねぇっ!」


 必死に周囲の温度を下げようとしてくるが、ハッキリ言って無駄と言わざるを得ない。


 絶対零度は不可能でも、それに近い温度まで一気に下げる事が出来るなら兎も角、こんなに緩やかに下げるのでは俺の炎で温度を上げてやれば良いだけの話だ。


「例えば俺は日頃指先に集める炎の温度を『ある温度』以下に調整している。何故かと言うと、その温度以上にあげてしまう場合…」


 右手の人差し指と親指の間でパチンッ!と放電現象に似た『何か』が起こり俺の掌の上にソフトボール大の光の球体が現れる。


「…こうなる」


「雷を…起こしただと?馬鹿な!雷魔法は大賢者様のオリジナルだぞ!お前なんかに出来る訳が…!」


「別に雷を再現した訳じゃない。こいつも別に雷の塊って訳じゃない。ある『2つの物質』を高速で衝突させた結果、こういう現象が起きただけだ」


 俺は嘆息しながら掌に乗った光の球体を玩ぶ。


「簡単に言うと『重水素』と『三重水素』を秒速1000キロほどで衝突させると…こいつが出来上がる」


「…は?」


「まぁ、その条件を満たす為にはかなり洒落にならない超高熱の温度が必要なんだが、それさえ満たせば別に難しい事じゃない」


「お前、何を言って…」


「ああ。この『現象』の名前ならお前も知っているんじゃないかな?」


「…現象?」




「ああ。『核融合』って言うんだけどな」




「っ!」


 その瞬間、明らかにアークスの顔が盛大に引き攣った。


「ああ、大丈夫だよ。ちゃんと制御しているから放射能なんて漏らしていないし、熱量も中に閉じ込めてあるから。まぁそれなりの魔法制御力が必要なんだけどな」


「……」


「それじゃな」


「…え?」


 そして俺は掌に乗った球体をアークスに向けて解き放った。


「あ」


 球体は瞬く間に巨大になってアークスを包み込み、そして膨大な熱量が中に居る全てを焼き尽くし、溶かし尽くして――蒸発させた。


「まぁ…こんなもんか」


 これが俺に『勇者に負けない』と豪語させた自信の源。


 まぁ、確かに勇者には負けないのだけれど…。


「やっぱサミエル様は反則だよなぁ」


「そうですね」


『転移の魔王』たるサミエルに、こんな攻撃が当たる訳がない。


 例え核爆発を起こしたとしてもあっさり逃げられるだろうし、転移であっさり懐に入られて一撃貰えば俺は即死だ。


 苦し紛れに道ずれにしようとしても、やっぱり転移であっさり逃げられる。


 そう。俺にとって『魔王サミエル』こそが天敵なのだ。


 まぁ闇属性の大魔王も同じ事が出来るだろうから大魔王も天敵なのだけど。


 だからこそ俺は大魔王とサミエルを相手に敵対するなんてごめんだった。




 ★




「ふ~む」


 戦闘後、色々傷付いた大魔王は俺の自宅で俺に治療を受けながら首を傾げていた。


「どうしました?」


「いや。大賢者の奴と戦って思ったのだが雷が相手では勝ち負けも無いものだな」


「…勝ったのですか?」


「とりあえず殴りまくって消滅寸前まで追い込んだ気はするがのぉ。だが消滅までは確認出来んかった。恐らく逃げたのであろう」


「…雷を素手で殴れるのはきっと大魔王様だけですよ」


「ほぉ。貴様が掌に起こした現象や、龍人どもの体内に仕込んだ例の『光の塊』があれば雷くらいは打倒できそうだがのぉ」


「ぐっ。見ていたんですか?」


「くっくくく。さてのぉ」


 そう。俺が『マシンナリー・ドールズ』達の動力源として埋め込んだのは俺の『切り札』たる『核融合炉』だ。


 それに式符を何枚か混ぜて安定させて龍人達のエネルギー源にしてある。


 彼女達が使う『超高出力ビーム』は『核融合炉』を臨界させて放つプラズマの放出だ。


「まぁ貴様が何故私やサミエルに下手に出るのか謎が解けて少しスッキリしたがのぅ」


「ぐぬぬ…」


「くっくくく」


 楽しそうな大魔王とは裏腹に、俺は歯軋りして悔しがるしかなかった。


 ド畜生がっっ!!




 ☆




「ふむ」


 ラルフから『管理者』と呼ばれている彼は眉根を寄せて少しばかり不機嫌そうに唸っていた。


「『核融合』…か」


 彼は常に――という程の頻度ではないものの、かなりの頻度でラルフの行動を覗き見していた。


 そして当然のようにラルフが『切り札』と呼べる物を使用する姿を目撃していた。


「確かに…強力な力だ。彼にとっても『切り札』と呼んでも差し支えないほどだけれど…」


 それ故に彼は不機嫌だった。


「少しばかり簡単に見せすぎじゃないかな?それに確かに強力ではあるけれど大魔王クラスの相手に通じるほどの力じゃない」


 彼は思った。


 まるで自分や大魔王に『安心させる為にわざと見せた』ような、余りにも都合の良すぎる『切り札』じゃないか、と。


 確かに強力だけれど『管理者』や『大魔王』から見れば『強力過ぎない切り札』だった。


「本当に『核融合』が君の『切り札』ならガッカリして失望しているところだけど、まだまだ強力な手札を隠しているような気がするんだよねぇ」


 彼は――『管理者』と呼ばれている彼は、もう少しの間退屈しなくて済みそうだと心の中で笑った。



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