第35話 『魔王。不死の兵団(?)に出会う』


 教会に用意して貰った家は小さいとはいえ、かなり快適だった。


 なんと言っても、この家――ライフラインが完備されているのである。


 具体的にいうと電気、ガス、水道が通っていて、現代日本もかくやという住み心地の良さなのだ。


 まぁ俺とソフィアは人間領の家に居た時も基本的に魔法を使って同レベルの生活をしていたのだけれど、それでも快適と言わざるを得ない。


「つか。水とガスもそうだが電力なんてどうやって確保してあるんだか」


 教会というたった1国だけとはいえ電気事情を快適にする為には最低限『発電所』が必要な訳で、その発電所をどうやって確保しているのかが至極疑問だった。


「まさか『雷魔法』を開発した訳じゃないだろうなぁ」


「『雷魔法』なんて可能なのですか?」


「…理論上は不可能じゃないなぁ」


 雷だから『光魔法』に含まれるだろう――なんて単純な思考では雷魔法には絶対に辿り着けない。


 魔法的に雷を起こす為には最低限『雷雲』を作り出す必要があるので、恐らくではあるが『火』『水』『風』の3属性適正が最低限必要であると思われる。


 その3属性を、あの勇者アークスがやっていたように天才的なセンスで融合させる事で初めて可能になる――気がする。


 まぁ最低でも大魔王クラスの実力が必要になると思うが。


「って考えると件の『大賢者』自身が発電所代わりになっている可能性があるのか」


「人力発電所ですか。なんだか凄そうですね」


 というか本気で大賢者1人で数百万人規模の電力を確保しているのなら普通に化け物だ。


 まぁ俺は最初から大賢者をどうこうする気はないので普通に快適な生活を楽しませて貰うだけだが。


 という訳で早速ソフィアを抱き寄せる。


「~♡」


 俺達には案内人という名の監視役が付けられているが部屋の中まで踏み込んでくる訳でも無いし、夫婦の時間を邪魔してくるサミエルほど無粋ではないのでたっぷりと快適な部屋でお楽しみを堪能した。




 ★




 2~3日部屋に篭ってベッドやお風呂の中で一通りお楽しみを終えてから俺はソフィアを連れて教会内にある施設を見て回る事にした。


「……」


 案内人はジト目で呆れたように俺達を見ていたが――勿論、警戒心を弱める為の作戦だ!


 決してソフィアとのお楽しみに夢中になって時間を忘れて楽しんでいた訳ではない!


「旦那様♡」


 ソフィアが俺に対して益々メロメロになっていたが何の問題も無いのである。






 案内人の後を付いて俺達は教会内の施設を巡る。


 よくも、まぁこんなものを作り上げた物だと思う現代的な施設の数々で、一体誰が好き好んでこんな物騒な場所に攻め込んでくるのかという程の強固な要塞だ。


 つ~か軍団規模で攻められたら大砲で前進を止めて、銃火器を雨霰のようにばら撒いて数を減らし、とどめに勇者が一掃する。


 その戦法だけで100万の軍団が攻めてきても確実に勝てるだろうって設備があるのだ。


 まぁ、それでも大魔王とサミエルの2人が攻めてきたら防ぎきれないだろうが、その時は大賢者が出て追い払う算段になっているのだろう。


「(そう考えると大魔王ってマジチートだなぁ)」


「(旦那様が協力しているので無敵ですしねぇ)」


 普通に考えてRPGのラスボス――『ド○クエ3』の大魔王『ゾー○』に『ベ○マ』を掛けられたらレベル99の4人パーティでも勝てる訳がない。


 俺が大魔王に協力するという事は、そういう事なのだ。


 まぁゲームだと『ベ○マ』はダメージになるんだけど俺のは普通に回復させるからねぇ。


 そんな感じで俺とソフィアはワイワイ楽しみながら教会の施設を巡っていたのだけれど…。


「ん?」


 教会内でも『その施設』は異例とも言えるような異様な雰囲気を漂わせていた。


「ここって何の施設なの?」


「ああ。そこですか」


 俺が尋ねると案内人は嘆息しながら答えてくれた。


「廃棄された研究施設です。当初は期待された画期的な研究だったのですが、完成の目処が立たず、予算ばかり食うので廃棄されて研究施設ごと放棄される事になりました」


「ふぅ~ん。どんな研究なの?」


「私も詳しくは知りませんが『不死の軍団』を作る研究だったと言われています」


「…ロマンだねぇ」


「同感です」


 案内人はリアリストだったらしく廃棄された研究所には余り興味がないらしい。


「中を見てみますか?」


「廃棄されたんじゃなかったの?」


「一応、名目上は『研究の延期』になっているので研究内容は当時のまま保管されている筈ですよ」


「…ゾンビとか溢れてこないよね?」


「はははっ。魔王タキニヤートではあるまいし、そんな事は教会内ではありえませんよ」


 笑って言いながら案内人は俺とソフィアを研究所の中へと案内していく。


 そうして入った研究所の中にあったのは…。


「人形?」


「ええ。人形兵なら死ぬ事はありませんし、何度でも、幾らでも作り出せるという事で開発が進められていたらしいですよ」


「ほぉ~」


 研究所内に放置されていた資料を確認しながら説明してくれる案内人の横から資料を覗き見て少し感心する。


 ここで研究されていたのは正確には人造人間ホムンクルス機工人形アンドロイドとして作られた物だろう。


 テーブルの上に放置された機械的な中身がはみ出している物や、床に投げ出された人間の手足に近い部品などが散乱している。


 その中で大きなタンクの中で培養液に浸けられた固体もあった。


「…こんな扱いを受けるほど生体部品が使われているようには見えないな」


 その中にあったのは誰の目にも人形と分かるような可動ギミックの部分がむき出しになった女性型の人形だった。


 パッと見では関節球体人形というのが1番近い。


「ああ。それは確か完成品に1番近付いた固体で、でも致命的な欠陥が2~3個解決出来ないから解決案が出るまで劣化しないようにという建前で培養液に浸けられていたんだと思います」


「ほぉ~」


「聞いた話では、これ1体で金貨5万枚以上費やされているそうですよ」


「ぶっ!」


 余りの金額に思わず噴出してしまった。


 金貨5万枚って言ったら500億ですよ?500億円。


「それで失敗作だったら、そりゃ『延期』の名目もつけられるわ」


「…しかも、これって研究を前倒しで進められていたのでパーツだけで200体分作られて倉庫に眠っているんですよ」


「……」


 5万×200で1000万。


 金貨1000万枚=10兆円だ。


 まぁパーツのままって事は少しは安くなるのかもしれないが、それでも10兆円近く予算が費やされたのは事実なのだろう。


「よく暴動が起きなかったなぁ」


「…大賢者様は偉大なお方ですから」


「……」


 それは言い換えると大賢者が強権を振るわなければならない事態まで追い詰められたという事だ。


 恐らく『これ』の研究者は残らず公開処刑にされただろう。


 とりあえず、そこまで高級品なら興味が出てきたので『スキャン』を実行してみたのだけれど…。


「う~ん…」


 見た目はまるっきり人形で可動部分が丸出し。


 おまけに女性型ではあるけれど胸は非現実的な作りになっていて『胸の形に整えて多少柔らかくしてあるだけ』という有様だ。


 生殖機能は勿論ないし、生殖器なんてついてもいない。


 これはつまり『服を着せれば外見上女性に見える』だけで中身をどうこうする気はなかったという事だ。


「(つ、つまらん)」


 そりゃ『不死の軍団』を目指して作られた訳だから無駄がないのは分かるが、それでも『遊び心』が無いのは色々と納得行かない。


 しかし、それを踏まえても…。


「確かに金にモノを言わせただけあってスペック自体は相当高いなぁ」


「分かるのですか?」


「…なんとなくだけど」


『遊び心』を無くして『実利』を追求しただけあって素材1つとっても妥協が全く見られない。


 なんというか――スペックだけなら『魔王』や『勇者』に匹敵するほどだ。


「これ…1体でも完成させたら教会から予算が下りるかな?」


「…へ?」


「1体でも完成品を仕上げたら、倉庫に眠っているっていう200体も組み上げて研究を再開する許可が下りるのかなぁ~って思って」


「それは…まぁ完成品の練度によると思いますが」


「そっか」


 もう、この時点で俺は『やる気』になっていたりする。




 ★




「旦那様。こんな物を本当に完成させられるのですか?」


「まぁ…駄目元でやるならタダだし」


 この研究を引き継ぐといっても当然のように教会からは予算が下りなかった。


 つまり、この培養液に浸かった1体を完成させて実益を証明して見せなければ次の個体を弄る余裕は無いと思って良い。


「この人形が完成せずに廃棄された原因は大きく分けて2つある。1つはハイスペック過ぎる人形の稼動させる為のエネルギー不足。つまり動力が不足しているという事」


「魔法石では駄目なのですか?」


「前の研究者もそう思って最高級の魔法石を仕込んであるが、それを使っても1分も動かせなかったようだな」


 膨大な魔法力をつぎ込んでもハイスペック過ぎる人形の機能を稼動させると消耗が馬鹿みたいに大きくなって1分で魔法力が尽きてガス欠になる。


「もう1つが人形を動かす為の高度なプログラムが未完成だという事だな」


「魔法石を仕込んであるのなら旦那様の式紙のように動かせば良いのでは?」


「それも前の研究者が実行したけど、動力不足も相まって『決められた動作しか出来ない』事からもっと高度なプログラムを要求されたらしい。最低限、敵味方を識別して戦闘行動を起こせるプログラムを組めってね」


「…難しそうですね」


「超難しいよ。俺の式紙を例に出せば、3つしか命令を組み込めないのに『自分で考えて』『臨機応変』に行動出来るようにしろって言われているようなもんだし」


「…不可能ではないでしょうか?」


「当時の研究者もそう思ったみたいだねぇ~」


 ハッキリ言って最高級の魔法石とはいえ、この2つの問題を解決しろと言われるのは『無理難題』以外の何者でも無い。


「旦那様には解決の道が見えていらっしゃるのですか?」


「解決の道っていうか、こんな『都合の良い物』が見つかってラッキーってところかなぁ」


「?」


 簡単な話じゃないか。


 この人形は『魔王』や『勇者』に匹敵する『器』を持っている訳で、俺は『それ』を探して来いと何処かの誰かさんに命令されていたのだから。




 ★




 転移石で『霊峰』まで行ってきて『竜族の魂』を1つ持ってきてハイスペックな人形に内蔵された魔法石に宿らせる。


 教会内には大魔王やサミエルの侵略を防ぐ為か、転移を妨害する結界が張ってあるらしいので態々一旦教会の外に出てから転移石を使う必要があったが、特に問題が起こるでもなく目的を完遂出来た。


 変化は劇的だった。


 人形のむき出しだった可動部分が溶けるように変化して自然な形に再構成される。


 その上で不自然だった胸が培養液の波に揺られてプルプル震えて胸が――おっぱいと呼ぶに相応しい形と柔らかさへと変化し、その上ツルツルで何もなかった股間部分に『性器』と呼ぶべき物が形成された。


 培養液の中を漂うだけだった白く長い髪も少し青みを帯びる。


 そうして見た目だけなら大体15~16歳くらいの少女として完璧と言っても良い『女性体』へと何故か勝手に進化して…。


「ありゃりゃ?」


「ツノ…生えてきましたね」


 人形の両耳の上の部分からツノが――鬼のようなものではなく『竜のツノ』と呼ぶべき物が勝手に生えてきた。


「流石『竜族の魂』。人形に入れただけで肉体に与える影響力が半端じゃないな」


「もう、これは人形とは呼べない『何か』ですね」


「だなぁ」


 ハイスペックな人形にハイスペックな魂を入れた結果、ハイスペックな『新種族』が誕生したらしかった。


「『人間』でも無いし『人形』でも無い。『竜』でも無いし『人』でも無い。言ってみれば『龍人族』ってところかねぇ」


 培養液の中を漂う美しく新生した『龍人の少女』を眺めていたら不意に少女の目が開いて緑色の――翡翠色の瞳と正面から目が合った。


「あ」


 その瞳の余りの美しさに俺は思わず数秒『龍人の少女』と見詰め合ってしまった訳だが…。


「だ・ん・な・さ・ま?」


「ひぃっ!」


 流石に裸の少女と見詰め合っているのはソフィアさん的にはアウトだったらしい。


「と、とりあえず外に出してみようか。培養液の中じゃ話も出来ないし」


 とりあえず誤魔化しの意味も篭めて『龍人の少女』をタンクの外に出してみる事にした。






「……」


 培養液の外に出た『龍人の少女』は裸のまま床に座り込んで呆然と――何故か俺を見つめているだけだった。


「なんで、この子は旦那様を見ているのでしょうか?」


「さ、さぁ?」


 なんとな~く『インプリンティングじゃね?』とか思いながら視線を逸らして誤魔化してみる。


「と…」


 そうしてソフィアを宥めていたら『龍人の少女』が俺の逸らした視線を追いかけてくるようにペタペタと這い寄って来る。


「と…さ…ま…」


「へ?」


 そして俺にすがり付いて――言った。




「とう…さま?」




「……」


「……」


 俺もソフィアも思考が停止して暫く何も考えられなかった。




 ★




 そもそもの話、人形の身体を自律的に動かすのは『竜族の魂』で何とかなるにしても、もう1つの問題である『動力源』はどうするのかという問題がある。


 こっちの方は大魔王にも秘密の俺の『切り札』を使ってエネルギー問題を解決しておいた。


 だから『龍人の少女』は問題なく肉体を動かせたし、ある程度は俺の知識を同期させる事によって『一般常識』を備えた状態で起動させた事は事実なのだが…。


「まさか、いきなり『父親』認定されるとは思わなかった」


「…予行演習ならもっと小さな子が良いのに」


 ソフィアはエレンの時と同じ不満を漏らしていただけだが。


 そして肝心の『龍人の少女』なのだが…。


「父さま。これでよろしいでしょうか?」


 身体能力の確認と、身体に不具合がない事を確かめさせる為に、その場でピョンピョン飛び跳ねさせていた。


「……」


 うん。ソフィアほどではないけれど、なかなかの大きさの『美乳』がバインバイン揺れて俺の目を楽しませてくれる。


「だ・ん・な・さ・ま?」


「そ、そろそろ服を着せようか」


 裸のまま飛び跳ねさせるのも危険だし、研究所内を探して『龍人の少女』に合いそうな服を探してみる。


 探してみたのだが…。


「…なにゆえメイドさん?」


 見つかったのは何故かメイド服一式だった。


 黒のロングスカートタイプのワンピースに白いエプロンドレスとホワイトプリム。


 下着類もバッチリ揃っていて、ブラ、ショーツ、ガーターベルトにストッキングと完璧なメイドさんセットだった。


 そのメイド服は…。


「…ぴったり、です」


 何故か『龍人の少女』に図ったようにぴったりだった。


 いや。元々彼女用に作られた品なのだからピッタリなのは当たり前なのだが…。


「父さま。似合いますか?」


「…ああ。良く似合っているよ」


 ソフィアさんの視線が恐いのであんまり迂闊な事を聞かないで欲しいのだが、似合っているのは事実なので仕方ない。


「~♪」


 反射的に頭を撫でると嬉しそうに目を瞑って心地良さそうに身を任せてくる。


「なんだか本当に子供みたいですね」


「まぁ…実際ゼロ歳児だしなぁ」


 生まれる事が出来なかった『竜族の魂』を『今』誕生させた訳だから、多少の知識は持っていても『生まれたばかり』という事実には違いない。


 ソフィアとそんな事を話していると『龍人の少女』が俺をジッと見て――何かを待っているようだった。


「これはつまり…俺に名前を付けろと要求しているのだろうか?」


「そういえば付けていませんでしたね」


 まぁいつまでも『龍人の少女』じゃ面倒だったし命名くらいは構わないだろう。


「それならお前には…『輝夜かぐや』と命名する」


「か…ぐや?」


 こうして龍人の姫『輝夜』が誕生した。






 まぁ、とりあえず『父さま』は色々な意味でまずいので違う呼び方を要求してみたのだが…。


「それならば、これからは『マスター』と呼ばせていただきます」


「えぇ~…」


 名前を付けたらいきなり理知的な行動を取るようになってしまった。


「私は…いいえ、これから生まれてくる全ての『竜族の魂』を持った龍人達は1つの例外もなくマスターの娘です。末永くよろしくお願い致します」


「あ、うん」


 とりあえず色々失敗したと思いながら反射的に頷いてしまった。




 これが後に世界を震撼させる魔王ラルフの軍団――『魔王の娘達マシンナリー・ドールズ』の誕生の瞬間だった。




「…なんつって」


 まぁ後々にどうなるかは分からんが輝夜が無事に誕生出来た訳だし、これを報告して次の固体を組み立てる予算を教会に組んで貰う事にしよう。


 上手く行けば霊峰に居る『竜族の魂』は全部『器』を手に入れる事が出来るようになる訳だし大魔王の依頼は達成間近だ。






 という訳で教会に申請したら輝夜の戦闘実験を行うと言われた。


 輝夜が自律的に動いて喋っているだけでは軍事的に有用かどうかを疑われたらしい。


 その為、戦闘力の有無を調べる為に教会の腕利きの小隊10名を相手に戦闘試験が行われる事になった。


 相手は銃火器で武装した屈強な10名の戦士であり、生まれて間もない輝夜には少々荷が重い――とか思われているかもしれない。


「マスター。『あれ』を消し飛ばせばよろしいのでしょうか?」


「そうそう。遠慮なくやっちゃって」


「イエス、マスター」


 そうして輝夜は戦闘の開始と共に『超高出力ビーム』で対戦相手の10名をこの世から消滅させた。


 あっはっは。


 あの『超高出力ビーム』って俺の『アトミック・レイ』より強力なんだぜ?


 俺の『切り札』を内蔵している輝夜にたかが銃火器で武装した10名程度で勝てる訳ないじゃん。






 こうして俺の主導の下『マシンナリー・ドールズ』の量産が開始された。



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