第34話 『魔王。あくまで初志貫徹を貫く』
道中。ソフィアとエッチな事は色々あったけれど、それ以外だと問題になるような問題は発生しなかった為、俺とソフィアは比較的スムーズに教会へと辿り着いていた。
「ここが教会ですか。なんだか想像していたのと違いますね」
「…というか要塞都市って感じなんですけど」
少なくとも俺は『教会』という名前から宗教色の強い禁欲的な都市をイメージしていたのだが、実際に辿り着いてみればガチガチに武装された『防衛の要』とでもいえるような様相をしていた。
この時代――というか、この世界ではありえないような技術で作られた要塞と、その要塞に装備されたどう見ても『銃火器』にしか見えない武装。
流石にミサイルまでは搭載していないようだが、要塞の各所には大型の大砲が設置されていて外敵に対する備えは万全と周囲を威圧していた。
「(異世界転生者の知識と技術を無理矢理吸い上げて独占しているっぽいなぁ)」
「(旦那様の同郷の方が何人も居そうですね)」
要塞の外見を見ながら俺はソフィアと内緒話をしながら呆れ果てる。
こいつらは一体何と戦うつもりなのだろうか?
いや。大魔王に対する備えだという事は分かるのだが――幾らなんでもやりすぎだ。
ぶっちゃけ、あの大砲の直撃を受けてケロッとしていられるのは魔王の中でもサミエルくらいだろう。
あの空気を読めない古参魔王は色々な意味で非常識で規格外な存在だ。
エルズラットとタキニヤートは直撃しても死にはしないだろうが大ダメージを受けるだろうし、俺なんて直撃したら即死だ。
魔王の軍勢が教会に対して積極的に行動しない理由が良く分かったよ。
「さて。とりあえず中に入ってみるか」
まぁ今は敵対する事が目的じゃないし招待状を見せて『教会』という名の要塞都市へと入場してみる事にした。
教会――というか要塞都市という名の強固な国の中に入るには厳しい審査が必要のようだった。
普通に入ろうとしても追い出されるだけだし、怪しい奴は何処かへ連行されていく。
俺は一応正規の『招待状』を持っていたので顔パス――という程ではないが相当怪しまれながらも厳しい審査をスルーして内部へと案内される事になった。
「…直ぐに迎えの者が来るのでそこで待て」
まぁ門番――というよりは警備員か軍人のような格好をした奴には威圧的で、何故か見下された目で命令されたけど。
どうやら、ここでも『人間種』というだけで色々不利な立場に立たされるようだ。
その例で言えば件のニコラスも人間種の筈だが――まぁ金のある奴は別という事だろう。
「奴が金を手に入れた経緯は…」
「状況的に考えて、私の両親が騙されて膨大な借金を負わされた事と無関係とは思えませんね」
「…だな」
ソフィアも正しく状況を認識しているようだった。
「お待たせいたしました」
そうして待っていた俺達の前に現れたのは2人の男…。
「わたくしはセルゲイン家で家令を勤めさせていただいておりますアニタと申します。以後お見知りおきを」
否、1人は執事服を着た男装をした女のようだった。
嫌味なくらい美形で何気に俺より背が高いが、その真紅の瞳と異様なほどの白い肌には見覚えがある。
「(この女…吸血鬼の血が入っているな)」
「(教会の中で吸血鬼が堂々と蔓延っている現実に眩暈がしそうです)」
「(…同感だね)」
まぁ『教会』なんて名前ではあるけれど、正式には『大魔王反抗組織』とでも言うべき集団なのだから強い奴は優遇されるという事だろう。
で。もう1人の方に視線を向けてみたのだが…。
「俺はただの付き添いだ。気にするな」
「…そうですか」
男の方の格好は言ってみれば戦士と魔法使いを混ぜて2で割ったような服装だった。
ド○クエで『賢者』がしていそうな格好と言えばイメージして貰えるだろうか?
銃火器で武装された要塞都市の中では物凄く場違い感が半端じゃないけど。
「それではご案内いたします」
そんな奇妙な2人組に連れられて俺は教会の中を案内される事になった。
★
案内と言っても連れて来られたのは恐らくはセルゲイン家が所有している屋敷。
「(…広いな)」
「(無駄にお金が余っているようですね)」
その屋敷は広大で数百人は普通に住めそうな建物と、学校で体育の授業が出来そうな広い庭があった。
「やぁ。いらっしゃい」
敷地内に入ったら、その広い庭の方から声を掛けられた。
若い――と言っても俺よりは年上で20代前半くらいの金髪碧眼の男。
その男を見た瞬間、俺の隣に居たソフィアがピクリと反応したので恐らくはこいつが…。
「僕はニコラス=セルゲイン。君を…君達をここに招待した者さ」
「……」
抹殺対象本人らしかった。
「そして久しぶりだね、ソフィア。元気そうでなによりだよ」
で。何故か招待した本人である俺ではなくソフィアの方へ話し掛けて来るニコラス。
とりあえず話を遮る意味でも、馬鹿の視線からソフィアを護る意味でも俺が間に入った訳だが…。
「ああ。君が例の新人S級魔法士君?君はもう帰っても良いよ」
まぁ大体予想通りの事を言われた。
「目的は…ソフィアの作る『魔法薬』か」
「…へぇ。君、分かっていたんだ」
ソフィアの作る魔法薬は既に『中級』を越えて『上級』の域へと入っている。
正式には既に『最上級』も作れるようになっているのだが、その辺は材料の問題と相談がある為に市場へ流しているのは専ら『上級』までとなっている。
「いやいや。僕も驚いたんだよ?最近、巷で流行の魔法薬の出所を探っていったら、まさか愛しの婚約者様に辿り着くとは思っていなかったからねぇ」
「……」
「でも、そんな事を馬鹿正直に言って教会に招待したら誰かに横取りされないとも限らないじゃないか。だから…」
「横にくっついている都合の良いS級魔法士に招待状を送った…か」
「ふふん。頭が良いだろう?」
「いや。凡人が思いつきそうな頭の悪いアイディアだ」
「……」
肩を竦めて言ってやると馬鹿は簡単に沈黙した。
紳士ぶった態度を取ってはいるが所詮、馬鹿は馬鹿、下衆は下衆って事だ。
「君ってS級魔法士なんだっけ?確か…」
「ラルフ=エステーソン様です。人間種の国の中で最難関と言われる王立魔法学院を僅か2ヶ月という『歴代最速』で卒業した『人間種の中では』天才と言われているお方です」
ニコラスの言葉を引き継いで答えたのは例の家令の執事女――アニタ。
但し『人間種の中では』という部分を主張して俺の事を『井の中の蛙』が調子に乗っているだけだという事を主に伝えているらしい。
ムカツク?
いやいや。俺が『魔王』だなんて情報を持っていないようで逆にほっとしたくらいだ。
こいつらは俺を『人間種のトップであるS級魔法士風情』と思っているから舐めているのであって『魔王』である事を知られれば腰を抜かして驚くだろう。
勿論、そんな事を教えてやる義理は無いので知らないまま『あの世』へ行って貰うつもりだが…。
「(ソフィアの安寧の為にはワームを使って拷問してから殺してやりたいが『こいつ』が少し邪魔だな)」
俺が邪魔だと感じるのは例の賢者風の男。
俺に対して警戒態勢に入っている訳でも無いのに絶妙な位置取りで俺とニコラスの間に割って入れる位置を確保して居やがる。
「アークスが気になるみたいだね。まぁ当然だよね。なんて言ったって彼は…」
「『勇者』だろ?そんな事は見れば分かる。見て分からないのは…唯の馬鹿だ」
「……」
俺がズバリ正解を言い当てるとニコラスは再度沈黙した。
アークスという名前に聞き覚えはないが教会が確保している4人の勇者の中の1人だろう。
問題はなんで教会の切り札とも言える勇者が、こんな馬鹿の護衛をしているのかという事なのだが…。
「…ねぇアークス。彼と少し遊んであげてくれないかな?」
「そいつは契約内容には含まれていないから別料金になるが…構わないのか?」
「ちっ。守銭奴勇者め。構わんっ!必要なのはソフィアだけだ。ソフィアさえ確保出来れば魔法薬で幾らでも金など稼げる!」
「へいへい」
ご親切に俺の疑問を綺麗に解消してくれた上で俺の前に気だるそうに立ち塞がる勇者アークス。
「金…ね」
「教会ってところは面白いところだが、武器や防具、それ以外にも色々金が掛かる。小遣い稼ぎにはこういうボンボンの護衛をするのが割が良いのさ」
「ご親切に説明どうもっ…!」
開幕に俺はとりあえず勇者アークスに『アトミック・レイ』をぶっぱなした。
俺の指先から放たれた炎熱のレーザーはまともに勇者アークスに直撃して…。
「へぇ。火の魔法を圧縮してレーザーみたいに発射したのか」
何の効果も与える事が出来なかった。
「初級魔法を応用しているから消耗は少ないし詠唱も不要で、一点集中しているから威力も『最上級』並に高い。面白れぇ魔法の使い方だな」
「……」
俺の魔法を分析するアークスに沈黙する俺。
無論、唯沈黙した訳ではなくアークスのように分析結果を相手に報告して動揺を誘うのではなく、冷静にアークスが『アトミック・レイ』を防いだ方法を分析していただけだが。
「(壁。魔法の防護壁。不意打ちに近い『アトミック・レイ』の速度と威力を防げる以上、自動で強固な防護壁を張る魔法と判断するべき。魔法使いタイプの勇者。接近戦用の武器を所持していないが決め付けは危険。周囲の温度が僅かであるが低下している。という事は『氷の魔法』を使って『アトミック・レイ』を防いだ可能性大)」
以上の思考をほぼ一瞬で終えた俺は即座に次の行動を起こす。
「…順次開放…順次射出」
とっくに準備を終えていた圧縮球体から1万発分の『ホーミング・レーザー』をアークスに向って開放する。
「おいおい。いきなりかよ」
当のアークスは平然とした顔で『氷の防護壁』に護られて『ホーミング・レーザー』の雨の中で立っていたが…。
「(やはり防御魔法で攻撃を防いでいる間は攻撃に移れないようだな。攻撃と防御は同時に出来ないってのも定番だな)」
完全ではないが攻撃される心配を少し減らす事には成功したようだ。
「(ってかマジで『氷の魔法』かよ)」
この世界の中に『氷』の属性魔法なんて物は基本的に存在しない。
例えば『水の魔法』に適正のあるソフィアでも『氷』を魔法で作り出す事など出来ないし、どんなに頑張っても出来るのは『ちょっと冷たい水』程度の物だ。
それならどうやって『氷』を作り出すのかというと――『水』と『風』の2つの魔法を融合させて作り出しているのだ。
つまりアークスは『水』と『風』に適正のある2属性適応の魔法使いなのだろうけれど、それでも『氷』を作り出した上に『氷の魔法』を編み出すのには相当なセンスが必要だった。
氷の防護壁を作り出して『ホーミング・レーザー』の雨の中で平然と立つアークスは流石勇者と呼ばれるだけの事はある。
「…追加開放…順次射出」
1万発を撃ち終えた圧縮球体を新しい物に換えて追加の『ホーミング・レーザー』を与えてやったら僅かに顔を顰めたけれど。
「まさかとは思うが、こっちの魔力切れを狙ってんのか?このままだと最初に魔力切れを起こすのはどう見てもそっちだと思うがな」
「……」
内心で思うのは『勘違い乙』だ。
確かに人間種の俺と、恐らくではあるが英雄種から覚醒して勇者になったアークスとでは魔力量に差がある。
俺は人間種としては魔力量は多い方だが、それでも種族的に英雄種の勇者であるアークスと比べると10倍~20倍近い魔力差がある。
しかし俺が今行っている攻撃は『過去の魔法力で作っておいた圧縮球体』であって、式符の運用によって可能になった『魔法力の貯金』という奴だ。
つまり圧縮球体で幾ら攻撃しても現在の俺の魔力は全く消費されないって事。
次に俺は別にアークスの魔力切れなんて狙っていない。
俺が『ホーミング・レーザー』を『小出し』にして攻撃を続けているのはアークスの攻撃の手を止めつつ『氷の防護壁』の硬度を調べる為。
「(見たところ『氷』に『火』の魔法だから当然のように攻撃した箇所は溶けているが、その都度魔法を重ね掛けして硬度を保っているようだな)」
そして魔法障壁としての硬度という点においては…。
「(ガルズヘックスの張っていた魔法障壁の2倍~3倍程度の硬度だな)」
特に問題は見当たらなかった。
「『ホーミング・レーザー』…順次開放…順次射出」
ガルズヘックスを倒した時と同じ戦法で十分だと判断した。
「なぁっ!」
さっきまでの1万倍近い『ホーミング・レーザー』の雨――否『豪雨』に流石にアークスも顔色を変えた。
「がぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
パリンッ!パリンッ!パリンッ!と連続でアークスの『氷の防護壁』が割れる音が響く。
やはり自動で展開するタイプの魔法だったらしく、ガルズヘックスのように1枚破られただけで悲鳴を上げるという事はなかったが…。
「そのつもりはなかったんだが、これだと魔力が切れるのも時間の問題だな」
アークス本人が言ったように、このまま『氷の防護壁』を連続で張り続ければあっという間に魔力切れだ。
「それを待っていてやる義理も無いけどな」
ガルズヘックス戦の再現のように『氷の防護壁』が割れる瞬間を狙って『アトミック・レイ』をアークスに撃ち込んで…。
「はい。そこまで」
首筋に剣を突きつけられて渋々動きを止めた。
同時に『ホーミング・レーザー』の豪雨を降らせていた圧縮球体も待機状態へと移行させておく。
視線を向けると俺に剣を突きつけているのは見知らぬ少女だった。
「教会の内部で騒ぎを起こせば勇者がすっ飛んでくるなんて予想出来たでしょ?」
「…『すっ飛んでくる』?『最初からずっと居た』の間違いでは?」
「あら。気付いてたんだ」
この少女――否、『女勇者』は俺とアークスが戦闘を始める時点で既に俺を影ながら監視していた。
しかし戦闘状態になっても介入してこなかったので『何処まで』大丈夫なのか試してみたのだが――流石に勇者を殺されそうになったら介入してきた。
「がはぁっ…!ぜはぁっ…!ぜはぁっ…!げほっ!げほっ!」
「失態ね、アークス。英雄種の勇者が人間種の新人に遅れを取るなんて…無様だわ」
「…だ…まれっ…」
「最初から全力でやっていれば勝てたのに、相手を舐めているからそういう目に合うのよ」
「黙れっ!」
アークスは俺よりも女勇者の言葉の方に激昂しているようだ。
どうやら勇者同士でも仲間意識よりも対抗意識の方が強いらしい。
「はいはい。でも今回の事は失点として上に報告させて貰うわよ。それに…任務失敗の報告もね」
「…ちっ」
名前も知らない女勇者とアークスが向けた視線の先には――『偶然』俺とアークスの戦いに巻き込まれて無残な死体となったニコラスと家令の姿があった。
「おやおや。勇者様に襲われて恐怖で錯乱していたので周囲の安全を考慮する余裕がなかったですからねぇ」
目標達成。
ソフィアの手前、もっと凄惨に拷問してやりたかったが第一目標は『ニコラスの抹殺』なので機会があったら確実に殺す事を優先した。
俺とアークスの戦いに『巻き込まれた』のだから事故に決まっている。
「君…良い性格しているわね」
「良く言われます♪」
俺の目的が勇者との戦いなんて二の次で『ニコラスの抹殺』である事に気付いたのか女勇者は顔を顰めていたが、俺に何を言ってものらいくらりと言い逃れされると分かったのだろう。
結局、彼女はその点については何も言わない事にしたようだ。
「兎に角、これだけの騒ぎだし当事者である君には事情聴取が必要だわ。私の拠点まで御同行願えるかしら?」
「任意同行ですか?」
「強制連行に決まっているでしょう」
「…さいですか」
前世の世界なら容疑者に対しては任意同行で拒否出来たのだが、この世界――しかも教会内部で勇者の発言力から強制連行なら逆らうだけ無駄だろう。
「一応、自己紹介しておくわ。私は勇者の1人アルビアよ」
「ラルフ=エステーソンです♪」
「妻のソフィアです♪」
で。とりあえず笑顔で自己紹介する俺とソフィアにヒクヒク頬を引き攣らせるアルビア。
この人、カルシウム足りてないんじゃないかな?
★
事情聴取は俺がオーバーリアクションで被害者面をして正論を並べ立て、ソフィアはそんな俺の隣でニコニコしていたら直ぐに終わった。
「…もう良いわ」
なんだか物凄く疲れた顔でゲンナリしているアルビアが印象的だった。
「それで。あなた達はこれからどうするつもりなの?」
「一応、教会から正式な招待状で幹部に取り立てると連絡を貰ったから来たのですが」
「ああ~」
俺が招待状を見せるとアルビアはまた頭を抱えて机に突っ伏した。
「最近、金とコネで人事を操作して利益を得ようって馬鹿が増えているのよ。しかも正規の手順で招待状を出しているから余計性質が悪いわ」
「大変ですねぇ~」
「…あなたが言わないでよ」
だって俺にとっては他人事だし。
「兎に角、正式な招待状を持っている以上、あなたの教会内での地位は『幹部候補生』って事になるわ。案内人をつけるから、その人の目の届かないとこには行かないようにして頂戴」
「分かりました♪」
「…その中身のない笑顔がイラっとするわ」
わざとやっているしねぇ。
★
という訳で俺達は案内人を付けられて教会内に小さな家を貰って住む事になった。
まぁ、それ程長くいる予定はないが、適当に内部を視察して目ぼしい物を頂いて帰りますかねぇ。
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