第37話 『魔王。魔王筆頭の恐ろしさを再認識する』


「…と言う訳で178名ほど配下が出来たので彼女達が住む為に広い家が欲しいです」


「多くね?」


 教会との一悶着が終わった後、いきなり増えた配下のような――扶養家族のような178名を養う為に俺は閣下に相談していた。


「色々ありまして」


「まぁ良いけど…その人数を住まわせるなら家というより中規模以上の屋敷が必要になるな」


「ください」


「…流石に無料配布は無理だろ」


「幾らくらい掛かります?」


「買うとしたら最低でも金貨1000枚以上は必要だろうな」


 金貨1000枚と言うと日本円で約10億円だ。


「S級魔法士としての仕事とか、魔王としての仕事をやらされたので金貨3000枚くらいまでなら即金で払えます」


「…魔王の仕事って儲かるんだなぁ」


「……」


 大魔王に貰う報酬って大抵が『暴露された俺の秘密を内緒にして貰う』という事に集約されるので、そんなには貰っていない。


 どっちかと言うとタキニヤートと試しの勝負を挑まれた時に貰った報酬とか、サミエルから仕事を頼まれた時に貰った報酬の方が膨大だった。


 あいつら平気で金貨数百枚とかポンと出すんだもん。


 それにS級魔法士として稼いだ金額をプラスすると大体金貨3000枚くらいになるという話だ。


「……」


 どうでも良いけど『マシンナリー・ドールズ』の元となった人形って金貨5万枚の価値があって、それの完成品が178体居るのになんで俺は金貨3000枚でカツカツなのだろう?


 いや。金貨3000枚は十分に大金なんだけどさぁ。


「とりあえず広い屋敷を紹介してください」


「あ~…S級魔法士なら大丈夫か」


「いえ。住むのは私の配下の178体…いや、177体だけで、私とソフィアは元の自宅に継続して住むんですけどね」


「…え?」


 別にソフィアとイチャイチャするだけなら広い屋敷とか必要ねぇし。


 1人くらいならメイドとして傍に置いても良いが、それ以上になると部屋が足りなくなるので却下だ。


「う~む。まぁ名目上は『S級魔法士の屋敷』って事にすればなんとかなるか」


「よろしくお願いしますね♪」


 これで、とりあえず『マシンナリー・ドールズ』は路頭に迷わずに済む。


「それより教会に喧嘩を売った形になるが本当に大丈夫なのか?」


「ウチの178名の『娘達ドールズ』がいれば100万の軍団に攻められても30分で全滅させられますよ?」


「なにそれこわい」


『超高出力ビーム』という名の『プラズマ・ブラスター』で地平線の果てまで攻撃出来るからねぇ。


「…世界が終わらね?」


「さぁ?」


 100万の人間が死んだくらいでは世界がどうこうなったりしないと思うが、とりあえず首を傾げておいた。




 ☆輝夜




 私は輝夜。


魔王の娘達マシンナリー・ドールズ』の指揮を任された上位固体であり、全ての『龍人』達の姉でもあります。


「ハァハァ…」


 そんな私は今『父さまマスター』の家でメイドをしているのですが、夜にはこうして夫婦の寝室の隣の部屋を陣取って壁に耳を押し当てて出歯亀しています。


「あんっ♡」


『…こちら輝夜。本日もマスターはソフィア様と『お楽しみ』中です。音声と映像を『念話』で同期します』


『 『 『 『 『 ごくり 』 』 』 』 』


 私達はなんというか――エッチな事に興味津々なお年頃です。


 壁の向こう側を『振動感知センサー』を使って生々しい描写を覗き見て、それを『マシンナリー・ドールズ』――長いから『ドールズ』と略しておきましょう――で共有して楽しむのが毎晩の私の日課となっています。


『マスター…凄い。あんな事までっ…!』


『ソフィア様…羨ましい』


 普段はすまし顔の『ドールズ』達ですが178体全てに当然のように『個性』があって、それぞれ別の考え方をします。


『念話』によって齟齬無く意思疎通出来るので普段は波風が立たないように行動していますが『こういう時』は色々違いが出てきます。


 まぁ全員が『エッチな事に興味津々』という事は間違いないのですが。


『わ、私達はいつ頃マスターに寵愛を頂けるのでしょうか?』


『焦ってはいけないわ。私達にもマスターにも寿命なんて無いのだから100年くらいは普通に待てるのだし』


『…それ以前に『ドールズ』の私達は子供を産めるのでしょうか?』


 などなど毎晩のように会議――という名の『ガールズトーク』が花を咲かせます。


『ソフィア様が御懐妊されたらマスターの性欲を処理する人材が必要になると思います!』


『それは…確かにっ!』


『だから…今の内に予行演習として勉強しておいても早過ぎるという事は無いわ!』


『そうね!』


『その通りだわ!』


「~~~っ♡」


『 『 『 『 『 !!!!! 』 』 』 』 』


 まぁ、そんな話もソフィア様の『最後の喘ぎ声』を聞いた瞬間に静まり返ってしまうのですが。


『…マスター…凄い』


『うん。こんな…毎晩何回も…』


『ごくり』


 私達はマスターに絶対忠実な『魔王の娘達マシンナリー・ドールズ』。


 エッチな事に興味津々なお年頃で――趣味は『覗き見』です。




 ★




「ちょっと考えたんだけどさ…」


 その日、何故か俺の自宅にやってきたサミエルはメイドの輝夜が淹れたお茶を飲みながら世間話でもするように話し出した。


「どうせなら勇者2人だけじゃなくて教会の戦力をもっと削っておけば良かったんじゃないかな?」


「…サミエル様、忙しかったんじゃないのですか?」


「忙しいよ!でも…偶には休憩も必要だろう?」


「…そうですね」


 俺はお前の茶飲み友達かっ!


 まぁサミエルとは敵対したくないから、ある程度友好を保っておく必要はあると思っているが、なんで俺がサミエルの『友達ポジション』な訳?


 この人、物凄く長く生きているのに友達居ない人?


「……」


 まぁ――俺も友達居ないんですけどね!


 俺、ソフィアがいればそれで良いし。


「それで、何の話でしたっけ?」


「だから!せめて4人の勇者を全滅とかさせておいた方が良かったんじゃないかって話!」


「いや。それは駄目でしょう」


「…なんで?」


 この人、マジで『自分で考える』って事を放棄しているんじゃないだろうか?


「大魔王様としては反抗勢力は一箇所に集めておきたいと考えておられるからです」


「???」


「大魔王様に反抗する勢力が世界各地に散らばっていたら、その情勢を把握するのが面倒じゃないですか。だから敢えて1箇所に勢力を集中させて、その情勢を把握しておく方が良いのですよ」


「全滅させちゃった方が楽じゃないの?」


「全滅させると、また世界各地で反抗勢力が発生して結局『教会』のような組織を作って一箇所に集める必要があるので二度手間になるじゃないですか。世界中の生物を死滅でもさせない限り反抗勢力が出てこなくなるって事はありえませんし」


「それなら…勇者を潰したのはまずいんじゃないのかい?」


「教会は少しばかり勢力が大きくなり過ぎていましたから。勇者を半分削って統率力を半減させて勢力を減衰させるくらいで丁度良いんですよ」


「へぇ~」


「……」


「も、勿論知っていたよ!君を試しただけさ!」


「そうですねぇ~」


 この人も暴走してなきゃ結構愉快な人なんだけどねぇ~。


「サミエル様。『ぶぶ漬け』は如何でしょう?」


「あ。ありがと」


 そして毎度の如くサミエルに『さっさと帰れ』と意思表示するソフィアさん。


「ここに来ると毎回お茶漬け出してくれるよね。なんかそういう風習でもあるの?」


「…さぁ?」


 とりあえず本気でさっさと帰って欲しいとは思っているけどねぇ。






 サミエルの帰宅後、俺は久しぶりに冒険者ギルドに顔を出す事にした。


 教会に行っていた時間もそうだが、帰ってきてからも『ドールズ』達の住む場所を確保したり、屋敷を快適に整えたりするのに時間を取られて冒険者ギルドに顔を出す時間が取れなかったのだ。


 まぁ別にどうしても行かなくてはいけない場所ではないのだが、なんとな~く足が向いてしまうのだ。


 そうして冒険者ギルドの中に入ったら何故か『お姉ちゃん』の視線が俺から、俺の背後に控える輝夜に移って…。


「め、メイドさん…だと」


 何故か戦慄した。


「弟の世話を焼くのは『お姉ちゃん』の役目だというのにメイドさんを連れ来るなんて…宣戦布告のつもりか」


「…面倒臭い『お姉ちゃん』だなぁ」


「そうですね」


 とりあえず面倒臭いのでスルーして指定席に座って、いつも通りイチャイチャする事にした。






「ほぉほぉ。つまりメイドさんの格好をしているだけで本当は弟の『妹的ポジション』だという事か」


「…何をどう聞いたらそういう解釈になるんだ?」


 相変わらず『お姉ちゃん』の思考はぶっ飛んでいた。


「メイドさんじゃなくて『妹』だというなら問題ない。『お姉ちゃん』が『怠惰な弟』と一緒に面倒見てあげないと」


「…そっすねぇ」


 なんか、もう本当に面倒臭くなってどうでも良くなってきた。




 ★




 冒険者ギルドで暫くダラダラした後『ドールズ』の住む屋敷の様子を見に行ってみる事にする。


 そうして辿り着いた屋敷の広い庭で『ドールズ』達が戦闘訓練を行っていた。


 別に俺がやれと言った訳ではないが暇だったらしい。


 ちなみに教会から支給された彼女達の装備は右腕に装着された特殊な腕輪で、それに魔力を流す事で術者のイメージする武器へと自由自在に変化させる事が出来るらしい。


 特に関係ないけど、その装備1つでお値段金貨300枚(約3億円)。


 更に彼女達が自然に身に付けているメイド服も実は特注の装備で、下手な剣士の斬撃や下手の魔法使いの魔法くらいでは傷1つ付かない特別製らしい。


 全く関係ないけど、お値段金貨500枚(5億円)。


「……」


 俺は腰の後ろに差してある何の変哲も無いダガーと普段から愛用している何の変哲も無い外套を眺める。


「…父さん、母さん。別に不満はありませんから」


 別に泣きたくなんてなってねぇし!


 特殊装備の腕輪を剣や槍に変えて模擬戦をする『ドールズ』達の他にも、離れた場所で別の訓練をしている娘もいる。


「ん~っ…!」


 拝むように両の掌を胸の前で重ね合わせて集中し、その掌をゆっくりと開いて――その両手の間に光る球体が出現する。


 彼女達に内蔵された『核融合炉』を臨界させる事により発生するプラズマエネルギーなのだが…。


「(臨界させるのに集中や長い溜めなんていらねぇし、そもそも全身にエネルギーが巡回している筈だから身体の何処からでも出せる筈なんだけどなぁ)」


 つまり彼女達がやっている事は唯の『ポーズ』だ。


 そしてカッと目を見開いて…。




龍核熱砲ドラゴニック・ブラスター!」




 空に向けて『超高出力ビーム』――というか収束させた『プラズマエネルギー』を撃ち出した。


 撃ち出したのは良いのだけれど…。


「(俺…一応『プラズマ・ブラスター』って命名した筈なんだけどなぁ)」


 いつの間にか彼女達によって『必殺技』として改名されていた。


 まぁ龍人として彼女達に相応しい名前――なのか?


 別に良いんだけどさぁ。


「マスター!」


「あ。マスター!」


「いらっしゃいませ。マスター」


 そんな感じに見学していたら『ドールズ』達に見つかって次々に囲まれて…。


「えいっ♡」


 抱きついてきて俺に『おっぱい』を押し付けていく。


「私も♡」


「えいっ♡えいっ♡」


 うん。当たり前のように嬉しいけど…。



「だ・ん・な・さ・ま?」



「ひぃっ!」


 ソフィアさんの目が恐いです。


 勇者アークスの自称『絶対零度』よりも絶対に冷たい気がするよ!


 そしてソフィアが俺を捕獲すると同時に『ドールズ』達は一斉に逃げ出した。


 こんな時ばっかり完璧な連携してんじぇねぇよ!


「それじゃ帰りましょうか♡」


「…はい」


 そして俺はソファアに引きずられるように自宅へと連行されたのだった。


「…私もマスターにおっぱい押し付けたかったです」


 背後で輝夜が何か言っていた気がするが今は聞こえなかった事にする。




 ★




『ドールズ』達の使う『プラズマ・ブラスター』改め『ドラゴニック・ブラスター』は彼女達に内蔵された『核融合炉』を臨界させる事により発生するプラズマ現象を利用した必殺技であり『核攻撃』とは少しばかり違う物だ。


 それに対して俺は直接『核融合』を魔法制御力でコントロールして武器に出来るので正真正銘の『核攻撃』と言っても良いだろう。


 ちなみに俺が発生させる『核融合』は、あくまで『物理現象』であって『魔法』とは少し違う物だ。


 名前とは裏腹に『アトミック・レイ』は『核融合一歩手前』の100%魔法であり、使う度に術者である俺の魔法力を消費する。


 しかし『核融合』は発生させる為に魔法を使ってはいるものの、発生後は魔法制御力で制御しているとは言っても『唯の物理現象』を制御しているだけなので魔法力を消費しない。


 つまり1度『核融合』を発生させてしまったら、後は魔法力の消耗無しで使い放題という、まさに反則以外の何者でもない『チート攻撃』だった。


 まぁ常人には発生も制御も出来ないのだけれど。


 で。その『核融合』を発生させてから使える攻撃技をまたも3つ揃えてみた。




 1つは『アトミック・ブラスター』。


『ドールズ』達の使う『ドラゴニック・ブラスター』と良く似た一直線に『光の砲撃』を放つ技だ。


 あくまで魔法ではないので技と呼ぶしかない。


 威力も『ドールズ』達の『ドラゴニック・ブラスター』と同程度の物だが、こちらは俺が自力で魔法制御力を使ってコントロールしているので『ある程度』ではあるけれど撃ってから曲げる事が出来る。


『アトミック・レイ』ほど速度は出ないし『ホーミング・レーザー』のようにロックオンした対象を追跡する事も出来ないが――威力は段違いだ。


 これが命中した対象は大抵の場合、一瞬で身体が『融解』して『気化』して『蒸発』する。


 例え相手がサミエルであっても、これの直撃を食らえば無事では済まない威力だ。


 まぁ――転移で避けられるのがオチだけど。




 2つ目は『アトミック・スフィア』。


 掌の上に制御した『核融合』で発生させた『光の塊』を解き放って直径数メートル~数十メートル程度の球体に膨張させて対象を中に閉じ込める技。


 勇者アークスを消滅させたのがこの技であり、中に閉じ込められると超高熱+放射能の嵐に晒されて大抵の奴は溶けて消滅する。


 攻撃力だけなら『アトミック・ブラスター』の方が上だが、継続して核の暴虐の中に閉じ込められるという洒落にならない技なので、閉じ込められたらサミエルでさえ無事では済まないだろう。


 まぁ――転移で逃げられるのがオチだろうけど。




 3つ目は技というのもおこがましい『核爆発』。


 掌の上で制御した『核融合』の『光の塊』を故意的に暴走させて、その場に放置して転移石を使って影響範囲外に逃げるという『やり逃げ技』だ。


 その威力はまさに『核爆発』であり、半径数十キロ~数百キロは超高熱の超爆発に巻き込まれた上、放射能を撒き散らすという迷惑以外の何者でもない必殺技(?)だ。


 まぁ――サミエルなら(以下略)。






 サミエルさん、マジぱねぇです。


 これだけ洒落にならない必殺技が揃っていて通じる物が1つも無いという理不尽さ。


 大魔王みたいに存在自体が理不尽というなら諦めるしかないけれど、同格の『魔王』の筈なのに規格外にも程があると思う。


 こんな奴に喧嘩を売らなくてはいけないなんて勇者って本当に勇気があるというか――奴らってドMなんじゃないかと思う。


 少なくとも俺は真っ平ごめんである。


 例えば勇者が『物凄い必殺技』を編み出したとする。




 その必殺技をサミエルに使う→転移で避けられる→懐に転移される→怪力で身体をぶち抜かれる→終わり




 勇者からすれば『どうしろってんだ!』って話だろう。


 唯でさえ『転移』というのは厄介なのに『一瞬』で、しかも『連続』で転移出来る上に『途轍もない怪力』の持ち主だ。


 こんな奴に挑むのは『勇者バカ』しか居ないと思う。






「という訳で大魔王様は勿論だが、サミエル様にも絶対に喧嘩を売らないように『ドールズ』達に徹底しておくように」


「畏まりました。マスター」


 神妙な顔で頷いて『念話』で他の『ドールズ』達に通達していく輝夜。


「……」


 マジな話、俺とソフィア+『マシンナリー・ドールズ』178体で挑んでもサミエル1人に勝てるビジョンが無いというのが現実だった。


 なんか、もうサミエル1人だけで良いんじゃないだろうか?



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