第27話 『魔王。色々な人達の事情』




 ☆ケティス




 私の名前はケティスといいます。


 種族は狼の獣人で――ご主人様の奴隷をしています。






 私のご主人様はスミカ様というとても綺麗な女性とライノル様という英雄種の剣士様です。


 何故ご主人様が2人も居るのかというと私を購入しようとしたライノル様がお金が足りなくてスミカ様に借りる事になったからです。


 そのお金を返済するまではスミカ様が私のご主人様でした。


 一時的とはいえ女性がご主人様で私は密かにほっとしていました。


 いつかは借金が返済されてライノル様に貞操を捧げる事になるとは分かっていますが、それでも時間の猶予が与えられた事で心の準備が出来るのは幸いだと思ったのです。


 私のご主人様となられたスミカ様は私の服装一式を買い与えて下さり、その後は宿屋で私と同部屋になったのですが…。


「服を脱ぎなさい」


「え?」


 えぇ~!スミカ様ってまさか『そっち』の方だったのですか?


 うぅ。まだ心の準備は出来ていませんがスミカ様はお綺麗な方だし…。


「あ、あの。私…初めてなんです」


「いや。お風呂に入るだけだから」


 赤っ恥でした。


 考えてみれば奴隷だった私は正直色々汚れています。


 高く売る為と処女は奪われませんでしたが、ろくに身体も洗う事を許して貰えなかったので女の子としては残念な状態になってしまっています。


 私はご主人様に言われたとおり服を脱いでいったのですが――何故かスミカ様も一緒に服を脱いで浴室に入られてきました。


「ご主人様…綺麗」


「…ありがと」


 スミカ様は本当に綺麗な方でした。


 綺麗なだけではなくスタイルも私よりずっと優れていて、女の子としてはちょっと複雑な気分になってしまったのですが…。


「あんっ♡」


 ご主人様に身体を洗って貰うという奴隷として本末転倒な事になってしまっても抗議が出来ませんでした。


 ご主人様に洗われて――触れられた箇所から全身に未知の感覚が広がって行き、生まれて初めて淫らな声を上げてしまいました。


 ご主人様の話では暫定とはいえ主人である彼女に触れられると感度が倍増するのでは?という説明を受けましたが私はそれどころではありませんでした。


「(き、気持ち良い♡)」


 ご主人様に触れられる度に至福の快楽が全身を駆け巡り、浴室には私の甘い声が響き渡ります。


「~♪」


 その私を見て何故かスミカ様はご機嫌で私の身体を撫で回してきて…。


「~~~っ♡」


 私は生まれて初めて女の快楽というものに身を委ねたのでした。






 たった一夜の逢瀬で私はご主人様にメロメロになってしまいました。


 しかもご主人様ってば、こんなにお綺麗なのに英雄種であるライノル様よりも強かったのです。


 そんなお綺麗で格好良いご主人様に私は益々虜にされてしまいました。




 ☆




 そんなご主人様であるスミカ様が実は大魔王の配下である魔王の分身体である事が告げられました。


「どうする?ケティス」


 そして混乱する私に決断を迫るご主人様。


 本来の主人であるライノル様と暫定の主人であるスミカ様が敵対してしまった現状、私はいったいどちらに味方すれば良いのか動揺して答えを出せませんでした。


 心情としては勿論スミカ様の味方になりたかったのですが、それでも『大魔王の配下』とか『魔王の分身体』と言われて本当にそれで良いのか迷ってしまったのです。


 そうして何も出来ないまま私の勇者様一行としての旅は終わりを迎えました。






 全てが終わった後、私はスミカ様に言われました。


「1週間だけ時間を上げる。だから、その間に自分の進むべき道を決めなさい」


 私に提示された選択肢は4つ。


 1つは、このままスミカ様の奴隷としてお仕えするという事。


 スミカ様は魔王の分身体であって普段は人形のように動かず椅子の上にジッと座っているだけです。


 実際、今も私と同じ部屋の中で椅子の上に座ってグッタリした体勢で全く動く気配を見せません。


『エッチな事はしても良いけど男の人に渡しちゃ駄目よ♡』


 と言われて1週間はこのお体を私が管理する事を任されたのです。


 2つ目は本来の主人であるライノル様にお仕えする事。


 と言っても彼は、彼を含めた全ての英雄種と共に新たな行動を起こすべく準備期間に入ってしまいました。


 精霊王に騙されていた事を知っても『大魔王打倒』を辞める気はないらしいのですが、それに加えて『精霊王打倒』が追加されたようでした。


 ライノル様もそれには賛同していて正直、私に構っている暇はなさそうでした。


 3つ目は奴隷から解放されて自由に、自分の力で生きていくという事。


 私はスミカ様のお母様の形見である『虹色の宝玉』によって購入された奴隷なのですが…。


「ああ。あんなの信じていたの?」


 どうやら、あの時に見せた『虹色の宝玉』がお母様の形見だというのは嘘だったみたいです。


 本当は大魔王から下賜された品の1つで、しかも奴隷商人に渡したのは偽物だったらしいです。


 だから実質的に私の購入金額はライノル様が支払った金貨2枚のみで借金というものは特に存在しないようでした。


 だから私を解放してもスミカ様には特に損はないようです。


 4つ目は『その他』。


 アバウトな分類ですが上記3つ以外で私が思いついた事を実行しても良いという事でした。


 今は特に思いつきませんが、それだけ私に与えられた選択肢は膨大という事です。


「どうしよう」


 1日中考えても全く答えが出ない私は思わず椅子に座ったスミカ様に視線を向けてしまうのですが、中身の入っていないスミカ様は答えてくれません。


「…ごくっ」


 それにしてもスミカ様は本当にお綺麗な方です。


 これが魔王によって作られた芸術品とも呼べる作り物なのは分かっているのですが、それでも…。


「ご主人様…綺麗です♡」


 私はスミカ様の身体をベッドに横たえて、うっとりと眺めます。


「(ちょっとだけ。ちょっとだけ)」


 エッチな事をしても良いというご主人様の言葉に従って私はスミカ様の身体に手を伸ばして…。


「柔らかい♡暖かい♡良い匂い♡」


 我を忘れました。






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「あ」


 ハッと気付くと私はスミカ様の身体を裸にして体中を舐め回していました。


「スミカ様の身体が私の唾液塗れに…」


 いけないと思う。


 早くお風呂に入れて綺麗にしないと、とも思う。


 けれど、それ以上に…。


「スミカ様…私の唾液塗れでなんて…いやらしい♡」


 私の唾液塗れになったスミカ様の身体の淫靡さに心を奪われてしまいました。


「ご主人様ぁ♡」


 そうして私は完全に理性を手放したのでした。






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 ☆




「わひゃぁっ!」


「え?」


 夢中で舐めていたスミカ様の身体が突然跳ね起きたので私は驚いて身体を硬直させてしまいました。


「な、ななな…なにこれぇっ!」


 私の唾液でベトベトになった身体を両腕で抱き締めるように混乱したスミカ様は――なんて可愛らしいのでしょう♡


「ご主人様ぁ~♡」


「え?ちょ…ケティスちゃん、待っ…!」


 私は本能の赴くままスミカ様をベッドの上に押し倒しました。






 その後、途轍もない快楽を十分に満足するまで味わった私達は一緒にお風呂に入る事になったのですが――何故か私はスミカ様にお説教される事になりました。


「うあ。耳の奥までケティスちゃんの唾液が詰まっているわ。どんだけ舐めまわしていたのよ」


「えっと。ご主人様は1週間経たないと戻って来られなかったのではないのですか?」


「…もう1週間経ったから戻ってきたのよ」


「え?」


 どうやらご主人様を舐め回すのに夢中になって完全に時間を忘れていたようです。


 つまり私は6日間もご主人様の身体を舐めまくっていたみたいです。


「エッチな事をしても良いって言ったけど、ここまでやられちゃうとは…」


「ハァハァ。ご主人様…綺麗です♡」


「…あれだけやって、まだ足りないの?」


「全然足りません!」


「…私がケティスちゃんとエッチな事をすると本体が折檻されちゃうだけどなぁ」


「ご主人様、大好きです♡」


「あっ」


 私は我慢出来ずに浴室の中でご主人様を押し倒しました。




 ☆




 結局、私はスミカ様の奴隷を継続する事になりスミカ様が本体に身体を放置されている間はスミカ様の身体を自由にして良い許可を頂きました。


「ハァハァ。スミカ様…良い匂い♡」


 無論、本来の名目は奴隷である私に魔王の分身体であるスミカ様の身体を管理して御守りする事なのですが、私は毎日のようにスミカ様の身体を舐めまわしています。


 スミカ様の身体は魔王の分身体ではありますが、よく出来ているのでちゃんと管理さえすれば半永久的に存在を維持出来るという事でした。


 大魔王から命令が下り、再び魔王の本体がスミカ様の肉体を使う日も来るだろうという事で、その日までスミカ様の身体を管理するのが私のお役目です。





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 ★




「し、死ぬ」


 当然のように俺の分身体がケティスに押し倒された事は速攻でソフィアにバレた。


 そして、いつもの3倍くらい搾り取られました。


 超気持ち良かったけど流石の俺も死に掛けた。


「旦那様は私の旦那様です♡」


 俺を死ぬ一歩手前くらいまで追い込んだソフィアは心も身体も満たされて満足そうだったけど。


「……」


 それにしてもケティスは凄かった。


 いや。エッチの技術も経験値もたいした事はなかったけど体中を舐めまわして唾液塗れにするなんて人間種である俺には絶対に出来ない。


「あんっ♡」


 実際に俺もソフィアの身体を舐めてみるけど直ぐに舌が乾いてしまうし、舐めた箇所も直ぐに乾燥してしまう。


 これはケティスがどうこうではなく種族の差が大きいという事だろう。


 特にケティスは狼――というか犬系の獣人なので特に唾液の量や質が人間種とは段違いな性能を持っているのだと思う。


「ソフィアの身体、暖かい」


 残念ながら俺はソフィアの身体を舐めまわしても味は良く分からない。


 舐めていると暖かくて興奮するのは事実だが。


「旦那様ぁ♡」


 そして直ぐにソフィアもその気になって――何度目になるか分からない逢瀬を楽しむ事にした。




 ☆




 ライノル=グランディは転生者である。


 その転生者である彼は今――悩んでいた。


「あの時は流れ的に賛同しちゃったしスミカちゃんの意見を英雄種に伝えたら『打倒精霊王』って流れになっちゃったけど…これって誘導されたって事だよなぁ」


 ライノルは普段はノリで動くけれど、けれど決して頭が悪い訳ではない。


 瞬間的に的確な判断は出来なくても、後になって冷静に考えれば『答え』を探り当てる事が出来るくらいの頭脳は持っていた。


「それに…スミカちゃんって実は俺の兄貴を平然と殺してるんだよなぁ」


 嫌な奴ではあったけれど、この世界ではライノルにとってランディは実の兄だった。


 そう意識しても、実は余りスミカに対して強いわだかまりはわいて来ない。


「なんだかんだ言ってスミカちゃんが殺したのって殺意を持って殺しに来た馬鹿兄貴とエルフだけだし、殺しに来た奴を殺し返したってだけの正当防衛だよなぁ」


 ライノルが知る限りスミカが殺したのはランディとイオナの2人だけ。


 いや。そもそもスミカは相手が魔物であろうとも殺意を向けなければ積極的に殺すという事はしていなかった。


 魔物の討伐依頼でも基本はライノルが前に出て戦い、スミカは後方で援護。


 大抵の場合、トドメを刺すのはライノルの仕事だったが――殺意を向けて襲ってきた魔物に対してはスミカは容赦なく命を奪った。


「普段は温厚で、でも敵対する奴には容赦しない…か。味方だった時は頼もしいって思っていたけど敵にしたら物凄く厄介だなぁ」


 ライノル自身の本能――と言うよりは『魂の質』の高さによって得た『勘』が無意識にスミカと敵対する道を拒絶させた。


 ライノルのこの『勘の良さ』は英雄種の中にあっても重宝されるもので、彼が勇者候補に選ばれた理由の1つでもある。


「ケティスちゃんもスミカちゃんに付いて行っちゃったしなぁ」


 スミカに借金さえ返しさえすればケティスは彼の元へ戻ってくる事になるのだが、肝心のスミカと接触出来ないのでは借金を返す事は出来ない。


 まぁ、それ以前に彼に金貨58枚を越える金額は早々用意出来ないのだけれど。


「ケモミミ美少女のケモミミを結局1回ももふれなかった」


 それだけが彼にとって心残りだった。




 ☆




「おのれぇ!おのれぇっ!」


 一方で精霊王は荒れ狂っていた。


 大魔王によって大ダメージを受けた傷を癒しながらなので怨嗟の言葉を吐き出す以外に出来なかったという事でもあるが。


「あの小娘ぇ。魔王ラルフの分身体とか抜かしておったな」


 正直、精霊王としては、その『魔王ラルフ』の元へ行き、速攻くびり殺してやりたいとすら思っていたのだが――出来ない大きな理由が2つほどあった。






 1つ目は単純に彼女が『魔王ラルフ』の顔と居場所を知らないからだ。


 彼女は大魔王と同格の存在ではあるが、逆に言えば大魔王と同じように『世界を見通す目』は持っていない。


 その為に大魔王は配下となる者を従えて広い視野を確保しているのだが、同じように精霊王が配下として従えていた英雄種達が精霊王に対して反旗を翻してしまった。


 つまり現在の彼女には世界の情勢を知る術が無いし、魔王ラルフの居場所を探し出す手段も確保出来ていないのだ。


 2つ目は大魔王によって受けたダメージが甚大な為に、その傷を癒すのに膨大な時間が掛かってしまう事だった。


 精霊王は大魔王とは違って『闇』や『火』に特化した存在ではない。


 だから通常の『光』や『水』の治癒魔法でも回復は望めるのだが――大魔王に受けた傷は回復魔法が非常に通りにくいという特性を持っていた。


 その傷を癒す為に今は動く事が出来なかった。






 以上2つが精霊王が魔王ラルフを殺しにいけない理由なのだが…。


「おかしい。おかしいぞ!大魔王は英雄種から生み出した勇者の呪いによって弱っていた筈だ。なのに…私と戦った時の奴は万全に近い体調だった」


 大魔王が弱っていれば彼女がここまでダメージを受ける事はなかった。


「何が…一体奴に何が起こって…ぐぅっ!」


 集中して考え事をしようにも大魔王から受けた傷が痛み集中が乱される。


「まずは…傷を癒さねば。それから…新しく配下を作り視野を確保して…裏切った英雄種どもにも制裁を下してやらねば…」


 配下を無くした精霊王は1から地盤を作り上げて準備を進めていく必要がある。


 その為――『大魔王への対策』や『魔王ラルフ抹殺』の優先順位はドンドン下がっていった。


「おのれぇ。おのれぇっ…!」


 その事実に歯噛みしつつ、それでも『大魔王と正面から直接対決』なんて2度ごめんだし、自らが直接『魔王ラルフを探しまわる』なんて面倒もごめんだった。


「次は…強く、忠実な配下を作らねば。大魔王の手の回っていない種族に…何か残っていたか?」


 勿論そんなもの『英雄種』に比べれば格段にランクが落ちる事は分かっていたが、それでも精霊王には配下が必要だったのだ。



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