第46話 『魔王。教会の中を走り回る』



 ☆オリヴィア




 久しぶりに――本当に久しぶりに背中の翼を広げて空に舞い上がる。


 最近は人間種の街の中で暮らしていたから飛行は必要なかったから――という事もあるのだけれど最大の理由は精霊王によって無理矢理強化された私の身体が『完治』するまでは飛ぶ事を禁止されていたからだ。


 それが今日、やっと『完治』の太鼓判を押されて早速私は翼を広げて空の散歩へと出かける事にした。


 そして自分で飛んでおいて自分で驚く羽目になった。


「(凄いっ…!前とは段違いだわ)」


 自宅の中庭から垂直に飛び上がって、ある程度上昇したら通常飛行に移行しようと思っていたのだけれど――そのまま一気に高度数千メートルまで上昇してしまった。


 以前タキニヤートの死霊の軍団から逃げる際は数分は掛かった筈の高度まで今は1分も掛からずに辿り着いてしまった。


「(これが…『風の魔法』を会得した天翼種の本当の能力なのね)」


 私がやった事は『風の加護』を身に纏って飛行の際、身体と翼に掛かる負担を軽減して、更に翼に下から風を送り込んで飛行を補助する事を意識しただけ。


 それだけの事で前よりずっと速く飛べるし翼に掛かる負担もずっと少なくてすんだ。


「(これなら…何処まででも飛んでいけそう)」


 高度数千メートルから翼を折り畳んで落下するように斜め下に急降下する。


 以前だったら試そうとも思わなかった危険な重力の助けを借りた急加速。


 十分なスピードを確保してから翼を広げて、速度に比例した風圧を翼が受け止めて上空へと舞い上がりながら――更に加速する。


「(これだけやっても翼への負担は想像よりずっと少ないまま)」


 前は翼の負担を無視して全力で飛んでも時速に換算して約120キロの速さを出すのが精一杯だった。


 けれど今は…。


「(150キロ…180キロ…210キロっ…240キロっ…!まだ…まだいけるっ…!)


 時速250キロを超えたところで私は安定飛行に移る。


 以前の最高速度の倍以上の速度を出して飛行しているのに私にはまだ余裕がある。


 まぁ――時速に換算してとは言っても、あくまで『体感的』な物で正確に測れる訳ではないのだけれど天翼種の勘(?)のような物で大体の速さは分かってしまう。


「(普通に考えたら時速250キロなんて人間の耐え切れる速度じゃないのに…)」


 実際、前は時速120キロでも相当な負担で1分も飛んでいられなかった。


「(『風の加護』が身体や翼の負担を極端に軽減してくれているからこそ出せる速度だわ)」


 前世の頃とは違って今の私は――天翼種の私は『速く飛ぶ事』に対して種族的な快楽を覚える。


 それは『恋人』と愛し合うときに味わう快楽とは全くの別物ではあるけれど…。


「(癖に…なりそう♡)」


 この速度は天翼種にとって麻薬に近い快楽物質を脳内から生み出す効果を発揮してしまった。


「あ」


 だから調子に乗って相当遠くまで飛んできてしまった。


「…やっちゃった」


 時間にして数時間も飛び続け自宅から1000キロ近くも離れた場所まで来てしまった。


 当然、既に人間種の国から『国外』に出てしまって危険な地域だ。


 まぁ、空の上では危険な魔物に出会う事は滅多にないのだけれど…。


「(ほっ。ここはサミエル様の領域ではなさそうね)」


 危険な魔物に会うよりもサミエル様の領域に迷い込んでしまう方が今の私のとっては危険な事だった。


 空中で楽な姿勢をとって飛行を続けながら、そろそろ帰る算段をつけようと思う。


「(わたくしの恋人は、こういうときは本当に頼りになります♡)」


 空の散歩に出かけるといったら貴重な『転移石』を持たせてくれた。


 貴重な『転移石』ではなく『使い捨て召喚陣』で良いのではないかと聞いたら…。


『使い捨ての召喚陣は1回の消費に限って言えば『転移石』より出費が大きいんだよ』


 とか言っていたけれど実際には私の事を信用してくれているという事だ。


「~♡」


 思い出したら嬉しくなって早く恋人の元へと戻ろうと『転移石』を起動させて…。


「っ!」


 敵影に気付いた。


 それは翼を持った大きな体躯を持った魔物で…。


「飛竜?」


 竜とは名が付いても輝夜達『ドールズ』の元となった竜族とは違って知性を持たない魔物に分類される空の狩人だ。


 武器を持たない丸腰に私には少々キツイ相手…。


「えいっ」


「ギャブッッ!!」


 だったのだけれど指先に集めた風の球体から放った一撃は容易く飛竜の身体を貫き、地面に叩き落した。


「う~ん。今の時点でも十分使える魔法ですね」


 まだまだ未完成と思っているけれど私の初級魔法を収束・圧縮して放つ魔法――『ウィンド・スピア』は想像以上の威力だった。


 風を圧縮して放つ性質の為か『速さ』という点において彼の『アトミック・レイ』すら凌駕する速度――になる予定。


 まだまだ圧縮が甘いので速度もそこそこだ。


「さぁ。帰りましょう」


 私の武器を用意する為に教会に出発する前の息抜きとしては十分だったので私は『転移石』を起動させて自宅へと帰る事にした。




 ★




 オリヴィアが息抜きから帰ってくるのを確認して俺達は教会への出発の準備を昼前には終わらせた。


「それじゃ行くか」


「はい。旦那様♡」


「お供致します。あなた様♡」


「ご命令ください。マスター♡」


 連れて行くのはソフィアとオリヴィアと輝夜の3人。


 立場的に輝夜を連れて行くのはまずいのだけれど、別に置いて行かなくてはいけないほど問題がある訳でもない。


 例の研究所の関係者に会ったら殺して埋めれば良いだけの話だ♪


 教会も今は色々と混乱している最中だろうし問題にならないだろう。


 そんな事を考えながら俺は『転移石』を起動させて4人で教会の近くへと転移を開始した。






 今回は前回のように『招待状』がある訳ではないので通常の手段を用いて教会の中へと入る事になる。


 まぁ今の教会は『入る者』よりも『出る者』の方が多いので入国手続きもそれ程時間が掛からない。


 前回、大魔王によって『大賢者』がコテンパンに叩きのめされたお陰で教会内の電力供給に支障が出ている上に今回の『マシンナリー・ドールズ』による100万の軍の虐殺映像だ。


 大魔王反抗組織である教会から出て行こうとする奴が多く出るのは当然の結果だった。


 だから今の教会は『入る者』を歓迎している為、厳重な入国審査は行われる事なく俺達は易々と教会内部へと入り込む事に成功した。


「さてと。ドワーフはどの辺に居るのかねぇ?」


「教会は色々な施設が多いですから探すのが大変そうですね」


 俺とソフィアは前回に色々と見て回ったが、その時は『武器製造』には関わらなかった為ドワーフが何処に居るのか知らなかった。


「最低限、工房が必要な訳ですし煙の出ている建物ではありませんか?」


「…そんなのいっぱいあるんだよねぇ」


 オリヴィアの意見は正しいが、しかし鍛冶工房を特定するには少し弱い。


「マスター。『ソナー』を使って探査されては如何でしょうか?」


「あんなん使ったら勇者がすっとんでくるって」


 一般人なら兎も角、魔法を使える人間にとって『ソナー』はピリッとした違和感を与えるので速攻ばれるし逆探知される。


「流石に今回は勇者にちょっかいを掛ける気はないから穏便に行こう」


「…前回はちょっかい掛ける気満々だったのですね」


「ナンノコトヤラ」


 呆れるソフィアにすっとぼけて俺は適当な通行人にドワーフの工房への道を聞く事にしたのだが…。


「新体制派の工房なら東、旧体制派の工房なら西にあるよ」


「…は?」


 なんか面倒臭い事を聞かされた気がした。






 ちょっと情報を集めて分かった事なのだが『新体制派』というのは『新しい技術』を積極的に取り込んで次々と新しい武器を開発する一派で、『旧体制派』というのは古い伝統を守って連綿と培われた技術を継承していく一派だそうだ。


 そして、その両派は性質的に犬猿の仲らしく、同じ教会の鍛冶工房なのに東の端っこと西の端っこに拠点を構えて互いに干渉を避けるほどだ。


 それでも互いに意識しあっているので時々諍いが起こって争いに発展する事もしばしばだとか。


「仲良くすればもっと良い武器を作れそうなのに、勿体無い話ですわね」


「いや。これは作為的に両者を競い合わせようとしているんだ」


 常識的なオリヴィアの意見を俺は全体の構図を把握して否定する。


「新体制派と旧体制派。どちらが正しいかとか、どちらが優れているかとか、そんな事は二の次で、両派の実力が拮抗していて更に明確な線引きがされている事が重要なんだ」


「???」


「平和な時代より戦争をやっている時代の方が技術の革新は急速に進む。これは敢えて両派を競い合わせる事で両派の技術を向上させる為の教会の策だな。教会にも頭の良い奴が居るもんだ」


「な、なるほど」


『競い合っていた方が技術は発展する』という俺の意見に少し悲しげな顔をするオリヴィアだが、基本的には俺の意見には賛同する女なので反論は出さなかった。


「ですが、そうなるとどちらに武器を作って貰いましょうか?」


「別に片方に肩入れする事も無いだろ。両方回って両方に武器を作って貰おう」


「え?両派は仲が悪い…のですよね?」


「それは教会の都合であって俺には関係ねぇし♪」


「は、はぁ」


「とりあえず新体制派の方を先に回ってみるか。無駄に広い教会の端と端に作るから移動に時間が掛かりそうだな」


 距離的に冗談抜きで移動だけで1日を潰されそうだ。


「『龍飛翔翼ドラゴニック・ドライブ』を起動致します。皆様、私の傍に寄ってください」


 普通に移動すればの話だけど♪


 輝夜の『フライング・ユニット』は六芒星の乗り物に乗って移動する訳だから複数人が乗って移動する事が可能だ。


 勿論、本気で全速を出されたら足元を固定されていない俺達は振り落とされてしまう訳だが…。


「低空低速で飛行を開始致します」


 地面スレスレを時速30キロ程度で走るのであれば何の問題も無い。


「これならスカートの中を覗かれずに済みますね♪」


「はい。旦那様以外の方にお見せするつもりはありませんからね♪」


「マスター以外の方に見れたら即座に『龍核熱砲ドラゴニック・ブラスター』で記憶ごと頭を消し飛ばします♪」


 まぁ低空を飛行する最大の理由は『それ』だけど。


 ちなみにオリヴィアは自力で飛行出来る訳だけど、その際は例の布を巻きつける天翼種用の服を着用するので、そもそもスカートじゃないから覗かれる心配はない。


 まぁ、それでも下から見上げた奴は『アトミック・レイ』をプレゼントしてやるがな。






 輝夜のお陰で約2時間ほどで東の新体制派の鍛冶工房へと辿り着いた。


 これだけで教会という名の要塞都市がどれだけ広いのか分かろうという物だ。


 俺達が居た南の城門から真東の鍛冶工房までが約60キロ。それが正方形の一辺と考えても、その周囲全体を強固な壁で囲っている時点で教会の資金力に眩暈がしそうだ。


「ごめんくださ~い」


 まぁ、そんな事は置いといて俺は件の鍛冶工房へと足を踏み入れた訳だが、その時点で中に居た髭面のいかついおっさんにギロリと睨まれた。


 身長が低い割に異常に筋肉質で、更に長い髭を生やしている。


 いかにも『ドワーフ』って感じのおっさんだが新体制派の割に客に対する態度が悪過ぎじゃありませんかね?


「彼女が使う為の剣を1本打って貰いたいんだが」


 俺が隣に立つオリヴィアを指して注文すると、そのドワーフのおっさんはオリヴィアをジロジロと見て…。


「その辺に転がっているのを好きに選らべ」


 壁の一面に飾ってある物を顎で指して視線を切って仕事に戻っていった。


「想像以上に無愛想だねぇ。オリヴィア、使えそうなのはあるか?」


「えっと。ちょっとお待ちください」


 オリヴィアは壁に掛けられた武器の中から剣を選んで1つ1つ丁寧に確認していく。


「殆どの物は重過ぎてわたくしには扱えません。使えそうな物も小さくてわたくし用には物足りません」


「だよなぁ」


 まぁ大体予想していた答えが返ってきた。


「だが重要なのは、ここが『新しい技術』を積極的に取り入れた『新しい武器』を作る為の新体制派の鍛冶工房だって事だ」


「そういえば、どの武器にも魔法のようなものが掛けられている感じがしますね」


「というわけで…おい、おっさん!既存の武器にここの技術を重ねて『改良』するって事は可能なのか?」


 俺が横柄な態度でドワーフのおっさんに問いかけると更におっさんは俺をギロリと睨みつけて…。


「…可能だ」


 そうポツリと零した。


「それだけ聞ければ十分だ。行くぞ」


「は、はい」


 言質を取ってから俺はオリヴィア達を連れて鍛冶工房を出た。


「次は西の旧体制派の鍛冶工房にいくぞ」


「マスター。今から出発するのでは日が暮れてしまいます」


「そだな。今日は近くに宿でも取って泊まって明日にするか」


「 「 ♡♡♡ 」 」


 宿に泊まると言った時点でソフィアとオリヴィアが何か期待しているっぽかった。




 ☆輝夜




「ハァハァ…こちら輝夜。ソフィア様は…既にダウン。現在オリヴィア様が…マスター…凄いです♡…ハァハァ」


『 『 『 『 『 『 『 ゴクリ 』 』 』 』 』 』 』


 今日も私はマスターの部屋の隣を確保して出歯亀に精を出しました。


 勿論『念話』は常にオンにして振動感知センサーまで使って克明に実況していきます。


 今日のマスターは最初にソフィア様の部屋で数時間を過ごされてから、こっそりオリヴィア様の部屋へ夜這いを掛けて…。


「あなた様ぁっ…♡」


「っ!」


『マスター…凄い』


『2人続けてなんて…!』


『わ、私達も恩恵に預かれないでしょうか?』


『あ、焦っては駄目よ。落ち着いてチャンスを待って…!』


「~~~っ♡」


『 『 『 『 『 『 『 !!! 』 』 』 』 』 』 』 


 共有した私の聴覚センサーから『念話』にオリヴィア様の最後の声が響き『ドールズ』全員が『お喋りガールズトーク』を辞めて耳を済ませる。


「あぁっ…♡愛しています…あなた様ぁ♡」


 そして始まる事後の睦言。


『 『 『 『 『 『 『 ゴクリ 』 』 』 』 』 』 』


 その扇情的な内容に私達は再び耳を傾けるのでした。




 ★




 翌朝。


「…だるい」


 俺はだるい体を抱えて朝食をもそもそと口に運んでいた。


 旅先だからって、ちょっとハッスルしすぎたかもしれん。


 ソフィアを満足させてから一緒に眠りについても良かったのだが、少しだけ物足りなさを感じてオリヴィアを訪ねたら猛烈に歓迎されて――無駄に頑張ってしまった。


 お陰でソフィアとオリヴィアは肌がツヤツヤして満足そうだが俺は普通に寝不足だ。


「ふわぁ…っ!」


 ついでに『何故か』輝夜まで寝不足になっていて欠伸を慌てて噛み殺していたが――きっと追求しない方が幸せになれるだろう。


 輝夜が何をしていたのかはなんとな~く分かっているが、それを追求してしまうと藪から蛇を出してしまいそうなので放置するのが吉だ。


 ソフィアとオリヴィアの2人だけで手一杯なのに、これ以上とか無理。






 ともあれ朝食を取ってから早速昨日と同じように輝夜の『フライング・ユニット』に便乗して西の旧体制派の鍛冶工房へと向う。


 今回は東の端っこから西の端っこへの移動なのでド真ん中を突っ切っていくのが早いのだが――残念ながら中央には教会の本部施設があるので勇者との接触を避けるなら回り道をしていく事になる。


 お陰で昨日の倍くらいの時間が掛かってしまったが昼過ぎには西の鍛冶工房へと到着する事が出来た。


「何もせずに座って移動しているだけなのでお腹が空きませんね」


「でも御飯を抜いてしまうと美容にも問題があるので少しでもお腹に入れておいた方が良いかもしれませんね」


 ソフィアとオリヴィアは太るのは論外だが美貌が劣化するのも極端に恐れているので普通の女性より相当気を使っている。


 そういう訳でお腹は空いていなかったが適度に食事をしてから鍛冶工房へ向かう事にする。


「ごめんくださ~い」


 そして昨日と同じように工房の中に入った訳だが、昨日の焼き増しのように中に居た厳ついドワーフのおっさんにギロリと睨まれただけだった。


「彼女が使う為の剣を1本打って貰いたいんだが」


 更に昨日と同じように俺の隣に立つオリヴィアを指して注文すると、そのドワーフのおっさんはオリヴィアをジロジロと見て…。


「その辺に転がっているのを好きに選らべ」


 昨日と同じように壁の一面に飾ってある物を顎で指して視線を切って仕事に戻っていった。


「(双子なのでしょうか?)」


「(その可能性は捨てきれんなぁ)」


 ともあれ昨日と同じようにオリヴィアには壁に掛けられた剣を1つ1つ確認して貰う。


「やはりわたくしには重過ぎるものばかりですし、使えそうなものは小さくて物足りませんね」


「武器の出来の方はどうだ?『旧体制派』は長い歴史に培われた技術を継承している筈だが」


「そういえば…1つ1つの作りが丁寧で材質にも拘って作られているような気がします」


「ふむ」


 大体予想通りの結果という事だ。


 剣の基本的な構造は『旧体制派』の方が上だが、その剣に『魔法の付与』などをする技術は『新体制派』の方が主流という訳だ。


「『旧体制派』の鍛冶技術で作られた剣に『新体制派』の改良技術で改良を施して貰うのが1番良い剣を作る早道っぽいな」


「はい。ですが…了承して貰えるのでしょうか?」


「やってみて駄目だったら別の手を考えるさ」


 ともあれ実際に剣を作って貰わなくては話にならない。


 俺は『魔法の鞄』から『それ』を取り出して旧体制派の鍛冶工房の主人と思われるドワーフの前にドン!と置く。


「材料はある。剣を1本打って貰おうか」


「仕事の…こいつはっ…!」


 鬱陶しそうに俺を邪険にしそうになったドワーフだが俺が置いた『それ』を見て顔色を変えた。


神創金オリハルコン魔法銀ミスリルだと?しかも…見た事も無いほどの純度だ」


「少しは気に入ったか?」


 こいつは以前に教会からガメてきた物を俺が自前の『火の魔法』で精錬して不純物を取り除いた物だ。


「…物はなんだ?」


「彼女…天翼種の天才剣士が扱う剣を」


「ほぉ」


 そこで初めて彼――ドワーフが興味深そうにオリヴィアを見つめる。


 結局のところドワーフの鍛冶師なんて人種は『強い武器を作る事』と『作った武器を上手く扱える人材』にしか興味を示さない。


「あの細腕で扱うには重量に気を使う必要があるな。その上で…どんな剣が好みだ?」


「以前に使っていた剣の残骸になりますが…」


 輝夜の『プラズマ・フィールド』に刀身を半分以上も溶かされ、俺の腹を貫いたオリヴィアの愛剣だった物をドワーフに見せる。


「こいつはっ…!一体何を斬ったらこうなるんだ?」


 流石に『核融合炉』を臨界させる事で発生する『プラズマエネルギー』に斬りかかった結果だとは予想出来なかったようだ。


「そいつは残骸だが、それから元の形は予想出来るか?」


「…ああ。なんとなくな」


「形としてはそれに近い物を。彼女に『最適化アジャスト』した形で作って貰いたい」


「ふん。面倒な注文だな」


「俺は出来ない奴に出来ない注文はしない主義だが…もしかして出来ないのか?」


「…舐めるなよ。小僧が」


「期待している」


 それからオリヴィアの掌を眺めたり、適当な剣を持たせて振らせたりしてオリヴィアに適した形と重量を測ってから――金属を預けて俺達は退散した。


「イメージは出来たが打ち上げるのに、どんなに急いでも1週間は掛かる。それまでどっかその辺で暇でも潰していろ」


 とか言われたからだ。


 まぁ、ゆっくり待たせて貰おう。




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