第47話 『魔王。恋人の愛剣を新生する』
1週間なんて長いようで短いものだ。
ソフィア、オリヴィア、輝夜の3人を連れまわして教会の中を見学しているだけで、あっという間に時間は過ぎていく。
まぁ時間が早く過ぎた気がする最大の原因は夜のムフフな『お楽しみ』が充実していたからなのだが。
「ちっ。やっと着やがったか」
そして約束の1週間後にちゃんと来たのにドワーフの鍛冶師は俺達が出向くと不機嫌そうに文句を言った。
恐らく早過ぎても邪魔だと追い出されただろうし唯の常套句なのだろう。
「獲物は?」
「……」
無言で――しかし何処か自慢げに指さされた先に『見事』としか言えないような出来の大剣が飾られていた。
「ほぉ」
「綺麗…ですね」
俺とソフィアは剣に関しては専門ではないので普通に感嘆しただけだが、剣の専門であるオリヴィアは無言で近付いてそっと持ち上げる。
「良い…重さです。重過ぎず、軽過ぎず…」
そして、その場で大剣を振り始めた。
「危なっ…!」
「いや。ちゃんと計算された範囲の中で周囲に被害を出さないように振っているだけだ」
「ほぉ」
ソフィアは驚いていたようだが俺はオリヴィアの行動を理解したし、ドワーフのおっさんは感心していた。
「天才剣士ってのは、あながちハッタリでもなさそうだ」
「100年に1人の天才って呼ばれていたらしいぞ」
「はっ!異常に寿命の長い種族が溢れて居やがるんだから100年に1人も現れるなら世界中に居らぁな」
「…褒め言葉だよな?」
「…ふん」
その『異常に寿命の長い種族』が闊歩している世界でもオリヴィアほどの天才剣士には滅多にお目に掛かれないって言っている訳だから。
「重量、握り易さ、振りの残留感、全てわたくしに合っています。良い剣です。気に入りました」
暫く剣を振り回していたオリヴィアは少しだけ息を荒げて嬉しそうに報告してくる。
「良い仕事をしてくれたみたいだな。代金…なんて無粋な話だが『あれ』でどうだ?」
「…良いのか?」
俺がオリヴィアの剣を作る為に預けていた金属の『余り分』を指さすとドワーフは静かにゴクリとツバを飲み込んだ。
「構わない。彼女の剣を作る為に用意した物だからな。残りは好きにしてくれ」
「ふん。そういう事なら貰っておいてやる」
「邪魔したな」
そうして俺達は西の『旧体制派』の鍛冶工房を出て――東の『新体制派』の鍛冶工房へと向かう事にした。
「あなた様。わたくしは『この剣』で十分満足しているのですが…」
「剣としては兎も角、常に持ち歩くのには流石に不便じゃね?」
オリヴィアの大剣は軽くても大きさは大剣のそれなので非常に持ち運びには不便だ。
以前の剣は両翼の間に縦に背負うようにしていたらしいのだが、オリヴィアの身長と同じか、それ以上の長さがある剣を背負っては、どう考えても日常生活には邪魔だ。
「折角利用出来るところがあるんだから輝夜の腕輪みたいに持ち運びに便利なように改良して貰っても良いだろう」
「それは…確かにその通りなのですが…」
作って貰った剣が気に入っただけに、それに余計な手が加えられるのではないかと不安になっているらしい。
「駄目なら駄目で良いが、俺はオリヴィアにプレゼントする剣に妥協するつもりはない。出来る可能性があるなら俺はやらずに諦めるつもりはない」
「あなた様♡」
それはまるで『惚れ直しました』って感じのキラキラした目で俺を見つめてくるオリヴィア。
「旦那様。私にも…何かくださいませ」
オリヴィアだけが『特別扱い』されている事に不安を覚えたのかソフィアが『おねだり』してくる。
「それじゃ俺が作った『首飾り』をプレゼント♪」
「まぁ♡」
こんな事もあろうかと――というかオリヴィアの剣を作る事が決定していたのでソフィアにも何か必要だろうと思って既に準備していた首飾りを首に掛けてやる。
それは例の教会からかっぱらった金属を俺が『火の魔法』で加工して細工した品で、中心に白い宝石がはめ込まれているのが特徴的なソフィアに似合うだろうと思って作り上げた一品で、豪華ではないがシックなデザインで非常に俺好みの首飾り。
「ありがとう…ございます♡大事に…しますからね♡」
俺が首に掛けた『それ』を宝物のように扱うソフィア。
まぁ2人の女と付き合うという事は、このくらいの機転を利かせられないと無理って事だ。
「帰れっ!」
が。世の中そんなに上手くいく訳もなく、東の『新体制派』の鍛冶工房にオリヴィアの剣を持ち込んだ結果、怒鳴り声と同時に工房を追い出された。
「まぁ…こうなるわな」
「犬猿の仲という話ですし、西の工房で作られた剣を改良して欲しいと素直に依頼しても駄目でしょうね」
無論『こうなる』事は最初から分かっていたし、そもそも俺は『素直に』依頼する気など更々ないのである。
だから俺は追い出された工房の前で大声で『独り言』を叫ぶ事にした。
「あぁ~あ!東の工房では素晴らしい剣を作ってくれたのに西の工房は期待外れだなぁ!」
「っ!」
対抗意識がある以上、こう言われて黙って見過ごせる訳がない。
「ちょっとは骨のあるところを見せて『西の工房』で作られた剣を『最高の剣』に改良してくれる事を期待してたのになぁ!」
「…おい。その『出来損ないの剣』を見せてみろ」
勿論、俺の言葉が挑発である事は分かっていた筈だが、それでも言われっぱなしで黙っているのはドワーフの――否、鍛冶師の誇りが許さなかったのだろう。
そして改良項目を聞かれたので持ち運びに便利な魔法を付与出来ないか相談してみた。
「簡単過ぎて拍子抜けの改良だ。それで…どんな形にする?」
「この子がつけている腕輪みたいな…」
「『首飾り』でお願い致しします!」
輝夜の腕輪を指定しようとしたらオリヴィアに遮られてソフィアの身に付けている『首飾り』を指定された。
何も言わなかったけど羨ましかったのね。オリヴィアさん。
「ちっ。面倒臭ぇ注文しやがって」
「出来ないなら別に腕輪でも…」
「誰が出来ねぇなんて言った!」
「……」
「但し、加工に1週間は掛かるからな。その間は適当に暇を潰してやがれ」
「…はい」
こいつら本当に双子じゃないんだろうか?
ともあれ剣の改良に更に1週間待つ事になった。
☆輝夜
「ハァハァ…♡こちら輝夜。今夜もマスターはお盛んで既にソフィア様が幾度も…」
「あんっ♡旦那様ぁ…♡」
「…ゴクリ」
『 『 『 『 『 『 『 ゴクリ 』 』 』 』 』 』 』
生唾を飲み込みつつ私は壁に耳を押し当てて『ドールズ』達への実況を続けます。
『ハァハァ…マスターこの後にオリヴィア様のところへも向うのかしら?』
『統計で言えば…今夜は間違いなくオリヴィア様のところにも向う筈です』
『なんて…お盛んな…♡』
『わ、私…そろそろ我慢がっ…!』
『私もっ…!』
「~~~っ♡」
『 『 『 『 『 『 『 !!! 』 』 』 』 』 』 』
共有した私の聴覚センサーから『念話』にソフィア様の最後の声を響き『ドールズ』全員が『
「あぁっ…♡愛しています…旦那様ぁ♡」
そして始まる事後の『
『 『 『 『 『 『 『 ゴクリ 』 』 』 』 』 』 』
その扇情的な内容に私達は再び耳を傾けるのでした。
★
「…だるい」
最近は夜にハッスルしすぎて朝になるとだるくて覚醒するのに大分時間が掛かってしまう。
「 「 ~♡ 」 」
まぁソフィアとオリヴィアはご機嫌なので朝のちょっとした時間を無駄にするくらいは別に構わないのだが――俺って寿命に関係なく早死にするんじゃないか?
俺は今日も朝食をもそもそ食べながら、そんな栓なき事を考えて…。
「旦那様。あ~ん♡」
「…あむ」
「あなた様。あ~ん♡」
「…もぐ」
とりあえずあんまり食欲はなかったけど2人に差し出されたスプーンを口に入れて食事を楽しむ事にした。
「…私もマスターに『あ~ん♡』したいです」
「……」
輝夜の呟きは悪いが聞こえなかった事にした。
とりあえず約束の1週間をそんな感じで過ごして東に工房に行ってみると…。
「ちっ。やっと着やがったか」
「……」
こいつら本当に双子じゃないんだろうか?
というか実は同一人物でした――とか言われても信じてしまいそうだ。
「獲物は?」
「……」
無言で――しかし何処か自慢げに指差された先に『見事』としか言えないような出来の『首飾り』が飾られていた。
「ふむ」
「あんなに短時間しか見せていないのに良く出来ていますね」
俺とソフィアは普通に感心しただけだがオリヴィアは『首飾り』をそっと手にとって――俺に渡してきた。
「お願い致します♡あなた様」
「ああ。分かっているよ」
俺の手で直接オリヴィアの首に首飾りを掛ける。
「うん。良く似合っているよ」
「ありがとうございます♡」
俺が褒めると嬉しそうに――大事そうに首飾りを扱うオリヴィア。
「本当に良く出来ています。重量、質量、肌触りまで変化させている上に…」
オリヴィアが首飾りに魔力を流すと一瞬で首飾りは大剣へと姿を変える。
「タイムラグ無しに元の大剣へと戻せます。良い腕ですね」
「ふん」
ぶっきらぼうに――しかし何処か嬉しそうにそっぽを向くドワーフ。
「良い仕事をしてくれたみたいだな。代金…なんて無粋な話だが『これ』でどうだ?」
「こいつはっ…!」
俺が『魔法の鞄』からオリヴィアの剣を作る為に用意した金属の『残り半分』を差し出すとドワーフは静かにゴクリとツバを飲み込んだ。
「彼女に剣を作る為に用意した物だが…残り物は好きにしてくれ」
「ふん。一応貰っておいてやる」
「邪魔したな」
そうして俺達は東の『新体制派』の鍛冶工房を出て――目的を達成した。
後で聞いた話が、やっぱり東と西の鍛冶工房に居るドワーフは双子だったらしい。
道理で言動が似通っていると思っていたよ。
★
無事にオリヴィアの剣を作り上げる事が出来たので、もう教会には用はないのだが…。
「マスター。出来れば『マシンナリー・ドールズ』の為の予備パーツを追加しておきたいのですが…」
「それは構わんが…予備パーツなんて作っているかな?」
輝夜の提案に俺は首を傾げる。
確かに23体分しか予備パーツがないので追加があれば貰っていきたいところだが『俺』と『竜族の魂』抜きで人形兵が完成しない事は教会側だって分かっている筈だし追加を作っているかは至極疑問だ。
「まぁ、このまま唯帰るってのもつまらんし、予備パーツは兎も角お土産を貰って帰るとするかな」
幸い今回も『魔法の鞄』には容量に余裕があるし教会の資金力に物を言わせた貴重品を前回と同じようにネコババして帰ろう。
そんな感じで人形兵が作られている研究所へとやってきたのだけれど…。
「あれ?廃棄…されてないな」
人形兵は俺が全て持ち出してしまったので当然のように廃棄されていると思っていた研究所は普通に開いて稼動しているように見えた。
「罠…でしょうか?」
「貴重な電力を供給してまで罠を張る意味が不明だが…少し偵察してみるか」
迂闊に中に入る事無く俺は式符を1枚取り出して小鳥型の『偵察用式紙』を作り出して研究所の中へと送り込む。
本当は隠密用の蜂型の式紙の方が見つかりにくいのだが、蜂型の方は『視覚』をリンクする訳ではないので偵察には向いていない。
潜り込んだ研究所の中では普通に人員が居て普通に働いているように見えた。
しかも…。
「人形兵の製造ラインが…稼動している?」
1体金貨5万枚もする筈の人形兵の製造が再開されていた。
「どういう事でしょう?旦那様が居なければ人形兵は完成しない筈なのに…」
「ヒントを貰ったからさ」
「っ!」
困惑して相談していた俺達の背後から声を掛けられて驚愕して振り返ると――1人の青年が佇んでいた。
「…エルジル=エイセリア」
「ほぉ。私の事を知っていたか」
「…有名だからな」
教会の勇者を調べて真っ先に名前が出てくるのが、この男――エルジル=エイセリアだ。
勇者筆頭とも言われていて強さに関しては折り紙つきだが、何よりも…。
「その姿…まさか天翼種?」
「ふっ。こんな成りでも、まだ私を天翼種と認識してくれるとは嬉しいね」
「……」
左腕が千切れて、右目は大きく抉られて、その上背中の翼は両方ズタズタに斬り裂かれた『天翼種だった男』だ。
だが、そんな姿でも『この男』の名を貶める事にはならない。
何故なら、こいつは…。
「『魔王サミエル』の逆鱗に触れて、それでも尚、生き残った天翼種…か」
「周囲が言うほど自慢にはならんがな」
ブチ切れたサミエルを相手にして、それでも尚生き延びた――というだけで十分称賛に値する。
例え、その代償が膨大であっても、だ。
「それで…ヒントがどうとか言っていたが?」
「ああ。人形兵を運用する為に必要なノウハウを提供して貰ったからな。後はそれを実戦で使えるようになるまで練度を上げるだけだ。そして、そのノウハウの一部を提供してくれたのは君だろう?ラルフ=エステーソン君」
「……」
俺の名前を知られている、か。
前に来た時は最低限にしか名前を残さなかった筈だし、教会を出る前にその『最低限』の部分も削除した筈だった。
それなのに俺の名前を知られているという事は…。
「提供者は『天使』って事か」
「ご名答♪」
パチパチと拍手をしながら『降りて』来るのは純白の翼を持った1人の少年。
パッと見では天翼種と言われても違和感がないが…。
「ああ。言っておくけど僕を天翼種みたいな下等な生物と一緒にしないでくれよ?天翼種っていうのは『鳥の獣人』がちょっと突然変異を起こして僕達に似てしまっただけの存在なんだから、そんなのと一緒にされるのは不本意だからね」
どうやら『こいつ』は天使で間違いないらしい。
まぁ今のところ『自称天使』だが。
「例の『映像』は僕も見ていてね。その映像から大体の仕組みを解析して教会に教えてあげたんだ。そんなに難しくもなかったしね」
自分の優秀さをアピールする『自称天使』だが…。
「ふん。確かに提供されたノウハウで人形兵は起動したし動きもしたが…例の映像に出ていた程の出力は出ていない。優秀というなら『そこ』を解明して欲しかったのだがな」
「……」
俺ではなくエルジルに皮肉を言われて沈黙した。
まぁ『竜族の魂』なんて普通に考えて手に入らないし『核融合炉』はもっと手に入らないだろう。
つまり『自称天使』が言っている解明と提供とやらは『劣化した代用品』に過ぎないという訳だ。
恐らくではあるが『奴隷の契約』に縛られた奴隷の魂を人形兵に移植して、更に『大賢者』の電力を使って動力を確保している――とかだろう。
そんな事をしている暇があるなら教会のライフラインを復活させた方が良いと思うが『例の映像』の恐怖で『対・大魔王』の意識が薄れている今、大魔王に対抗出来る戦力を確保は急務と考えているのだろう。
「まぁ、その辺は『オリジナル』を確保すればどうとでもなるか」
「っ!」
エルジルの視線が輝夜に固定される。
同時に、その視線の意味を理解した輝夜が身震いして俺の背後に隠れた。
「どうやら相当主人に依存した『魂』を入れてあるらしいな。これでは懐柔は無理だが…サンプルにするには十分か」
「僕も興味があるね。あの人形兵に『何』を入れればこうなるのか」
結局エルジルと『自称天使』との戦いは避けられそうにない。
「俺はこれ以上、勇者を削って教会の統率力を削ぐつもりはなかったんだがな」
「それなら大人しくオリジナルを引き渡して貰いたいものだな」
「いやいや。もっと簡単な手段があるじゃないか」
俺は肩を竦めて言ってやった。
「お前をブチのめして、その上で『もしも』死んでなかったらトドメは刺さないでおいてやるよ」
それで教会の統率力が落ちる事は防げるだろう。
「人間種の魔王…か。冗談だと思っていたが…流石に笑えなくなってきたな」
この『自称天使』がどの程度まで俺の情報を持っていて、どの程度まで教会に提供したのかは知らないが――丁度良いタイミングだ。
「オリヴィア。新しい剣の試し斬りをしてみるか?」
「天翼種から生まれた勇者。少し…興味がありますね」
「輝夜。天使とやらの戦力がどの程度か知るには良い機会だ」
「イエス、マスター。あの『自称天使』を敵性存在と認定いたします」
「俺はオリヴィアの援護に回る。ソフィアは輝夜の援護に回ってくれ」
「分かりました。旦那様」
折角4対2の状況なのだから1人に対して2人掛かりで仕掛けさせて貰う事にしよう。
「行きますっ!」
「『
そして教会という転移の出来ない――逃げ道のない場所での戦闘が開始された。
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