第4話 『まだ15歳。今日から冒険者?』


 この世界では15歳で成人とみなされる。


 15歳になれば普通に働けるし、お酒だって飲めるし、結婚だって出来る。


 そして15歳で冒険者ギルドに登録して冒険者として活動する事が出来る。


 まぁ要するに『死んでも自己責任だから文句言うなよ』って歳が15歳という事だ。


 15歳で王立魔法学院に入学して2ヶ月で卒業して、更に実家に一旦帰ってダラダラしてから王都を目指したものの――結局、俺はまだ15歳のままだ。


 何が言いたいかというと、つまり…。


「本気?」


「……」


 実家から3週間も掛けて王都に辿りつき、その足で冒険者ギルドに登録しようとした俺が受付で言われたのが『その一言』だった。


「あのね。冒険者ギルドに登録するって事は『冒険者になって死んでも文句は言いません』って書類にサインをする事なの?そこんところ分かってる?」


「……」


 一瞬、ブチ切れて魔法学院の卒業証明証を突きつけてやろうと思ったが、そこは流石に自重した。


 学院の卒業証明が出来れば冒険者ランクB級からスタート出来る筈だが、それによって有象無象が寄ってくるのは勘弁だった。


 冒険者になる以上、目立たないようにしようなどとは欠片も思っていないが、せめて最初の仲間くらいは俺の目に叶う人材で揃えたい。


 そういう訳で俺は最初の仲間が揃うまでは卒業証明を封印しようと考えていた。


「それとも君には何か特別な技能でもある?」


「ああ。火の魔法が使えます」


 証拠に小さな炎を手の上にポッと生み出してやる。


「あら。あなた…貴族様?」


「冒険者になろうって人間に余計な詮索をするのはルール違反でしょう」


「…生意気」


 受付は小声で呟いたが、その声は無駄に性能の良い耳が全て拾ったので丸聞こえだった。


「それじゃ、この書類に必要事項と…登録に銀貨1枚必要。払える?」


「払えないって言ったら負けてくれる訳?」


「追い出すだけ」


「……」


 とりあえず銀貨1枚を払いながら、こいつの顔をロックオンしておいた。


 仲間が手に入ったら魔法学院の卒業生としての権力で泣かす。






 冒険者としての活動は何の資格も無かった場合、ランクは『F級』から始まるらしい。


 ランクF級用のバッチを付けて俺は早速仲間を募集する為の書類を書く。


『仲間募集:採用条件…美少女!』


「完璧だ」


「…馬鹿じゃない?」


 例の受付がポツリと呟いたが無視した。


 ぶっちゃけ美少女でさえあれば技能なんかなくても俺が育てるので全く問題ない。






 問題ないのに――何故か誰も募集してこなかった。


「何故だ?」


「…当たり前」


「……」


 あの職員、後でぜってぇ泣かす。




 ★




 今現在、俺が欲しいのは『仲間』であって『お金』ではない。


 装備は両親から餞別に貰ったダガーと外套だけだが、初心者冒険者としては及第というところだろう。


 つまり益々お金を稼ぐ意味はないし、そもそも入学金を稼ぐ過程で裏カジノでGETしたお金の残りはまだ残っているので無理に稼ぐ必要も無い。


 そういう訳で俺は日永1日冒険者ギルドの片隅に座って募集希望の美少女を待っていた。


 仲間が欲しい理由?


 まぁ、なんだかんだ言って魔法使いである俺は後衛職なので前衛を務める仲間は欲しいと思っていた。


 というのは建前で美少女を仲間にしてイチャイチャしたい。


 俺は前世で最後に望んだ『可愛くて、美人で、スタイルが良くて、俺の事だけを愛してくれる嫁さん』を手に入れる事を諦めていなかった。


 あの時、管理者っぽい奴はお金さえあれば条件の合う奴隷を手に入れる事など容易いと言っていたが…。


「(条件に合う奴隷を探したら金貨200枚もするじゃねぇか。馬鹿じゃねぇの!)」


 奴隷の中でも特に質の高い最高級奴隷だった。


 そりゃ『金さえあれば』と言われたが限度があるだろうが。


 日本円に換算して2億だぞ?2億!


「(奴隷1人に2億出すくらいなら俺が1から育てた方が早いわっ!)」


 という算段の元、俺は美少女の仲間を募集して教育方針なんかを考えていた訳だ。


「よぉ。暇そうだな」


「っ!」


 そんな俺の座っている席の正面に誰かが座ってきて俺はガバっと顔を上げて…。


「…何か用?」


 座ったのが男だったと知って自分でもどうかと思うほど不機嫌な声を上げた。


 いや。声から分かっていたがハスキー声の美少女という線を捨てきれなかっただけだ。


「不機嫌そうだな」


「字が読めないなら代わりに読んでやろうか?」


 俺の席には『募集:美少女』の文字がしっかりと書かれている。


「お前、魔法使いだっていう話は本当か?」


「おっさんの質問に答える義理はないね」


「…俺はまだ29だ」


「おっさんじゃねぇか」


「……」


 見た目からして大体30前後だと思っていたが15歳の俺からすれば29歳は十分おっさんだ。


「俺はクランク。一応C級の冒険者として登録されている」


「聞いてねぇよ」


「お前の名前は?」


「知りたきゃ美少女を連れて来い」


「……」


 取り付く島のない俺の反応に流石に奴――クランクとかいうC級冒険者も嘆息を漏らす。


「お前、ここに来てからまだ1度も依頼を受けていないんだってな」


「だから?」


「冒険者ギルドに登録した奴には依頼達成の義務があって一定期間依頼を受けない場合、罰金を取られる規則があるって知っていたか?」


「……」


 勿論、知っていたが俺は意図的に沈黙してみせた。


「1人で依頼を受けるのが不安なら手伝ってやろうか?」


 で。まぁ大体予想通りの台詞を引き出す事に成功した。


「気付いているか?おっさん」


「あん?」


「お前の台詞の中に『お前、魔法使いだっていう話は本当か?』ってのがあったよな?」


「……」


「もしも俺が本当に魔法使いだったら物凄く貴重だよな?今の情勢だと魔法使いは貴族連中が独占しているし、貴族は冒険者になんかならないからな。何処から来たのか知らないが本当に魔法使いなら恩を売ってツバを付けておこうって思うのが普通だよな?」


「…何が言いたい?」


「見え見えなんだよ。失せろ、三下」


 こいつの狙いは、この冒険者ギルドに所属する唯一の貴重な魔法使いを勧誘して利益を得る事だ。


 俺に今まで声を掛ける奴が居なかったのも、こいつがC級という立場を利用して周囲に圧力を掛けていたからだ。


「俺は親切心で声を掛けてやったんだぜ?」


「知らないのか?利益を計算に入れた行動は『親切心』とは言わないんだぜ」


「…そうかよ」


 クランクとかいうC級冒険者は不機嫌そうに席を立って去って行った。


「受ければ良かったのに」


 やっと鬱陶しいのが去ったと思ったら面倒なのが近くに立っていた。


 例の失礼な受付の女職員だった。


「口の軽い女だ」


「君が魔法使いであるという情報は既に冒険者ギルドの中で出回っている。守秘義務はない」


「で?」


「クランクの言っていた依頼を一定期間受けないと罰金を支払わなければいけないという話は本当。このままだと君は冒険者ギルドの中で微妙な立場に立たされる」


「まるで今は微妙な立場じゃないような言い方だな」


「今よりもっと微妙な立場になる」


「それが?」


「君は何の為に冒険者になったの?」


「美少女とイチャイチャする為だよ」


「…はぁ」


 俺が本音をぶち撒けると何故かその女は深く溜息を吐き出した。


「真面目に冒険者をやるつもりがないなら帰った方が良い。正直、邪魔」


「まるで自分が真面目に働いているとでも言いたげだな」


「そうやって無用に敵を増やし続けるの?」


「言っている意味が分からないな。まるで俺の周囲に敵じゃない奴が1人でも混ざっているみたいだ」


「周囲にトゲをばら撒くから皆が敵に見える」


「まるでお前はトゲをばら撒いていないとでも言っているように聞こえるな」


「……」


 冷たい視線で俺を見つめる受付の女職員。


「魔法が使えるからといって優秀な冒険者とは限らない。誰も君に期待なんかしてない」


「さっきクランクとかいう男が勧誘に来たけどな」


「きっとあれが最後のチャンス」


「知らないのか?チャンスって奴は自分で切り開くものらしいぞ」


「君には無理」


「まるで俺以外の奴になら出来るような言い方に聞こえるな」


「……」


 こいつは気付いているのだろうか?


 俺はこれまでの会話の中で1度も沈黙で返したり話を打ち切るような言い方をしていないという事に。


 寧ろ、沈黙を返してくるのはこの女の方だ。


「冒険者の中で大成出来るのは本当に一握りの人間だけ。そして、その一握りの冒険者達は自分の周りに壁を作って周囲を遠ざけるような事はしていなかった」


「まるで自分がベテランの職員であるかのような言い方だな」


「……」


 なんだかなぁ。


 こいつ、ひょっとして俺にお節介でも焼いているつもりなのか?


「きっと君は直ぐに1人でも味方を作っておかなかった事を後悔する事になる」


「とある有名な仮面を付けた男爵だか伯爵の人が言っていたんだがな…」


「?」


「冷静に物事を判断した時、どんな結果が来ようと後悔せずに済むらしいぞ」


「…君が冷静だとは私には思えない」


「まるで自分は冷静だとでも言いたげに聞こえるな」


「……」


 その女は最後に沈黙してから背中を向けて去って行った。


 衛兵が3人ほど冒険者ギルドにやってきて俺の前に立ったのは、その30分後の事だった。






 俺は特に抵抗もせずに衛兵の詰め所へと案内される事になった。


「君が不正に魔法を習得し、無許可で魔法を行使しているという報告があった。その真偽について質問する為にご足労願った」


「……」


 魔法使いには『継承権』という物があって、そこには面倒なしがらみがいくつも付いて回る事になる。


 例えば基本的に1人の魔法使いは1人の弟子を取る事を許される。


 そして魔法使いは『その弟子』以外の者に対して魔法を教える事を法で厳しく禁じられている。


 俺がどんなに渇望しても学院に入るまでに呪文や詠唱を学ぶ事が出来なかったのが、この『法』によるものだ。


 そして俺が現在15歳で、更に貴族でも無いという事実から不正に魔法を習得した疑いを持たれるのは至極自然な事なのだろう。


 勿論、この程度の展開は当然予測していたので動揺などする必要も無い。


「勝手に調べろ」


 俺は学院の卒業プレートを調書室の机に放り出す。


 王立魔王学院の卒業生という時点で、既に『正規の魔法使い』として認定される事になる。当然、正規の手順で魔法を習得した証明になるし、その正規の魔法使いである俺には弟子を取る権利すらある。


 しかも『飛び級』で卒業した色違いの特殊プレートを持つ俺には弟子を2人まで取る権限が与えられているのだ。


「こ、これはっ…!」


 更に言うなら学院卒業生に与えられる資格と権利は一介の衛兵より数段階は上だったりする。


「が、学院の卒業には15歳から3年の単位が必要と聞いているが…」


「目でも悪いのか?プレートの色も識別出来ないなら医者に行け」


「っ!」


 色違いのプレートを持つ俺が持つ権利は更に通常の卒業生より1段階上だ。


「し、失礼しましたっ!」


 慌てて俺に非礼を詫びてプレートを返そうとしてくるが…。


「汚ねぇ手垢を付けたまま返すんじゃねぇよ。拭け」


「は、はひぃっ!」


 衛兵は慌てて綺麗なタオルを用意して綺麗に拭いてから俺にプレートを返却してきた。


 と、まぁ学院卒業生の権利はこのくらい強力なものらしい。






『余計な事を喋ったら首を飛ばす』と衛兵に脅しを掛けてから俺は悠々と冒険者ギルドへと戻った。


 定番の席に座った俺に対してクランクとかいう奴がギョッとしていた事実から考えて、衛兵に俺の事をチクったのは奴だろう。


 まぁ、どの道衛兵には機会があったら話を付けておこうと思っていたし丁度良いタイミングだったと思っておく。


 無論、唯で許してやるつもりは更々ないが。




 ★




 クランクというC級冒険者の調査を行った。


 奴はギルドの中ではそこそこ名が通っていたので調べるのは難しくはなかった。


 奴が冒険者になって10年以上が経過しているらしいが、その依頼の受け方はある種独自であると同時に至極平凡なものだった。


 ほんの僅かでも危険があれば依頼を蹴る。


 危険な冒険を生業とする冒険者としては異質ではあるが一般人としては常識的な判断をしているに過ぎない。


 冒険者としては、その慎重さを買われて有名になっているが危険な依頼を受けないのだからランクが早々上がる訳がない。


 それが10年以上冒険者を続けているベテランなのに未だにC級にいる理由だった。


 で。肝心なのはここから。


 クランクには最近、熱を上げている女が居るらしい。


 冒険で稼いだ金は殆どその女に貢いでいるらしいが、そのせいで常時金欠になっている為、新しく金を稼ぐ方法を探していたらしい。


 そこで現れたのが出所不明の魔法使い――俺という訳だ。


 クランクは俺を利用して金を稼ぎ、あわよくば万年C級という現状を脱却しようと画策していたらしい。


 クランクの仲間も慎重に依頼を選ぶ為、危険な依頼を達成出来ないのでもう5年以上もC級のままなので流石に焦っているようだ。






 という訳で俺はクランクが入れ込んでいる女とやらを見物しに街の娼館に来ていた。


 奴の惚れた女というのは娼婦らしい。


「随分と若いね。犯罪は御免だよ」


「成人だよ」


 冒険者ギルドのF級のバッチを見せて成人している事を示す。


「まぁ金さえ払えば文句はないさ。どの娘にする?」


「『ソフィア』ってのは居るか?」


 クランクの惚れている女の名前はソフィア。


 残念ながら容姿や年齢までは分からなかった。


「ん~。あの娘はちょいと訳在りでね」


「予約が入っているんだろう?割高で支払うよ」


 この娼館では気に入った娘を『予約』として他の客に買われないように防止出来るシステムがある。


 ソフィアを予約しているのは間違いなくクランクの奴だろう。


 奴が冒険者として稼いだ金をつぎ込んでいるのは予約の為の金だ。


 だが、このシステムには当然のように抜け穴がある。


 例え予約された娘でも、その予約金を上回る金額を支払いさえすれば娼婦を買う事が出来るのだ。


 まぁ娼婦としても娼館としてもケチケチ予約する客よりも金払いの良い客の方を優先するのが当たり前だ。


 実際には予約の金額次第だがクランクの支払える予約金などたかが知れている。


「ソフィアの予約金は銀貨6枚だよ」


「銀貨10枚払おう」


「毎度あり♪」


 という訳で俺は銀貨10枚払ってソフィアという女を一晩買う事になった。






「いらっしゃいませ。お客様」


「……」


 おっさんのクランクの入れ込む女だからケバくて派手な熟女かと思ったら、完全に予想が外れた。


「…君、いくつ?」


「年齢ですか?18歳です」


「……」


『犯罪だろ』って心の中で密かに叫んでしまった。


 いや、この世界なら10歳差くらいは当たり前なのかもしれないが、あの『おっさん』がこの『美少女』を囲もうとしている事実に嘆きたくなった。


 そう。ソフィアはかなりの美少女だった。


 綺麗で長い金髪と蒼い瞳、透けるように白い肌、その上で巨乳だった。


 大事な事なので、もう1度言うが『巨乳』だった。


 巨乳の美少女だった!


「えっと。それじゃ早速…しますか?」


 しかし容姿とは裏腹に『仕事』は慣れているらしく、その行動には迷いは見られなかった。


「いや、一晩時間を取ったから、その前に少し話を聞かせて貰えるか?」


「あ、はい。喜んで」


 そう言って微かに作り笑いと分かる笑顔を見せるソフィアは密かにほっとしているようだった。


 で。ソフィアはこの手の話に慣れているらしく彼女が娼婦になった経緯をポツポツと語り始めた。



「私は昔は貴族だったのです。それほど高い身分ではありませんでしたが不自由なく過ごせるくらいには裕福な家でした。まぁ私が10歳の時に両親が他の貴族に騙されて莫大な借金を背負わされて私は娼館に売られる事になったのですが。両親の事は恨んでいません。売られた当初は理不尽に恨みもしましたが、今となっては両親が私を売った理由もなんとなく分かりますし。両親と一緒に居て莫大な借金を一生背負っていくよりは、小額のお金で売られて、その金額を返してやり直す方が遥かに現実的だったからです。売られた時点で私と両親との縁は切れていますから両親の借金を返す義務もありません。私が娼婦になったのは12歳の時です。それから6年お店で働いて借金は大体返済し終わったのですが、娼婦は身請けしてくれる人が居ないと解放される事はないので今は身請けしてくれる人を待っている段階ですね。クランクさんですか?私を良く指名してくれる人ですが、正直あの人に身請けされるのは気が進みません。身請けされたら一生一緒に居る事になる訳ですから」



 というような感じの会話をソフィアから聞きだした。


 どうやらクランクが一方的に熱を上げているだけでソフィアの方はクランクに身請けされるのに乗り気じゃない様子だ。


 なんか最初に思っていたイメージと全然違うし、普通に良い子で――しかも美少女だ。


 大事な事なので、もう1度言うが美少女だ!


 しかも巨乳美少女だ!


「元貴族って話だったけど魔法は使えないのか?」


「あはは。それも良く聞かれますけど使えません。貴族だった時に魔法の基礎を練習していましたが師になってくれる人も居ませんでしたし、魔法学院に通えるほど優秀でもありませんでしたから」


「基礎を勉強していたって事は魔力を練り上げて魔法力を精製する事くらいは出来るのか?」


「お客様詳しいですね。はい、今でも時間がある時は暇潰しに練習しているので少量ですが魔法力を精製する事は出来ますよ」


「へぇ~」


 なんか、この子…。


「お客様?」


「……」


 クランクの奴と穴兄弟になるような事は死んでも御免と思っていたし、ソフィアの事も話だけ聞いて直ぐに帰るつもりだったのだが…。


「気が変わった」


「え?…あっ」


 実際に会ってみて、かなり気に入った。


 クランクの奴は気に入らないがソフィアにお相手して貰う事にした。


「はい。御奉仕いたします…お客様」


 まぁ、この世界で『初めて』を経験するのにソフィアは十分過ぎる相手だったと言っておく。






「お客様。良かったのですか?」


「ん?」


「朝までまだまだ時間がありますし、それに私まで…」


「ああ」


 事後。ソフィアを侍らせてベッドで横になる俺は気だるい疲れと、思っていた以上の充足感に包まれながらソフィアを抱き寄せる。


 どうやらソフィアが一晩買われて不安そうにしていたのは文字通り『一晩中』相手をさせられた経験があるからだろう。


 客が一晩分の金を払っている以上、拒否する事も出来ないし、客を満足させなければ娼婦として失格なのでソフィアにとって――というか娼婦にとって辛い時間になると思っていたのだろう。


「お客様。お若いのに…とってもお上手なのですね」


「…どうも」


 ソフィアのお世辞――ではなく娼婦としての本音だろう。


 この世界、娼婦を相手にする時は男の一方的な行為で終わるのが一般的だ。


 俺のように女を喘がせて楽しむ――なんて奴は早々居ないらしい。


 実際、ソフィアは快楽に慣れていないらしく俺の覚束ない初体験の愛撫にも敏感に反応していた。


 いや。前世では結構経験豊富だった筈だが――なんせ15年ぶりだし。


「……」


 俺はこのままソフィアを腕に抱いたまま朝まで心地よく寝ても良かったのだが、ソフィアの視線がそこはかとなく期待している。


「それじゃ…一緒にお風呂に入ろうか」


「はい♪」


 通常の家や宿には滅多にないが流石に娼館には風呂が常備されている。


 俺はソフィアと一緒にお風呂に入って色々楽しんでから――ベッドでもソフィアとお楽しみしてから朝までぐっすり眠る事にした。


 夢は見なかったが、この世界に来てから1番良く眠れた夜だった。




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