第18話 『S級魔法士。嫁と新婚旅行に行きます』



「『お姉ちゃん』の特殊能力、その4。お姉ちゃんは弟を守る時、無敵になる」



「…本当に言ったよ」


 隠し事は出来そうにないので仕方なく『お姉ちゃん』に事情を話したら予想通りの事を言われてゲンナリした。


「だから『お姉ちゃん』も連れて行く」


「仕事はどうすんだよ」


「弟の為なら『お姉ちゃん』は仕事を放り出す事も厭わない」


「…頼むから留守番してて下さい」


 魔法を使えるソフィアなら兎も角、基本スペックが一般人の『お姉ちゃん』を連れて行くのはマジで勘弁だった。


「む。『お姉ちゃん』を連れて行けばきっと役に立つ」


「本当勘弁してください。家の鍵預けていくから家を守っててください」


「む。弟の家。弟のベッド。弟の下着」


「『お姉ちゃん』かっ!って、ああ。何を言っても『お姉ちゃん』に変換されてしまうぅ!」


 どんな悪態をつこうとも結局は『お姉ちゃん』になってしまう。


 例えば『馬鹿』とか『変態』とかでも『お姉ちゃん』に向って言えば『お姉ちゃん』になってしまうのだ。


 本当に無駄に高性能で厄介な呪いだなぁっ!


「仕方ない。弟の家を守るのも『お姉ちゃん』の役目。ベッドの下のエッチな本はちゃんと処分しておくから安心して出掛けて来る」


「……」


『そんなの持ってねぇよ』とは言わない。


 確かにソフィアが居るから必要ないといえば必要ないのだけれど、ソフィアに見つかって怒られたり拗ねられたりしたかったので密かにベッドに下にセットしてあったりする。


「あ」


「旦那様。まさか…」


「ちがっ…!」


 それをセットしたままだった事を今ほど後悔した事はない。


 なんで、このソフィアと『お姉ちゃん』には隠し事が出来ないんだよっ!


 って、ああ。また『お姉ちゃん』を複数形に混ぜようとして強制分離されたぁ。






 という訳でお留守番を『お姉ちゃん』に任せて俺とソフィアは国外に使者として旅立つ事になったのだった。




 ★




 緊急事態であっても国外までは転移魔方陣を使っても移動出来ないので国の方で馬車を用意して貰った。


 それほど大きな物ではないが2人で旅をするには十分な大きさの幌付きの馬車と意外と立派な馬を用意して貰った。


 話によると速さはそれ程でもないが体力や頑丈さには定評のある種類の馬で馬車を引くには1番適している馬らしい。


 俺は御者などやった事がなかったが教えて貰えれば10分でマスターした。






 その馬車を使って国境まで2週間。更に国を出てから3日が経過していた。


「ふわぁ~あぁ」


 盛大に欠伸をしながら俺は御者台に座って馬の手綱を握っていた。


 国の外は確かに危険なところだ。


 例えば出現する魔物の種類1つとっても危険度が段違いになる。


 国内に出現する魔物がアリ○ハンの周囲に出現するレベルだとすると、国外で出現する魔物はネクロ○ンド付近のレベルに近い。


 国内で魔物相手に無双出来る強さがあったとしても国外に出たら普通に死ねるレベルだ。


 唯、俺に関して言えば相手がスライムだろうとドラゴンだろうと『アトミック・レイ』を1発ぶち当てれば死ぬので労力に大差がない。


 リアルで『今のはメ○ゾーマではない…メ○だ』が出来る俺だからこその感想だろう。


 通常の魔法使いだったら使う魔法のレベルを上げる必要があるので必然魔法力の消耗が大きくなって1日の移動距離に制限が掛かった筈だ。


「だ・ん・な・さ・ま♡」


 なんて事を考えていたら馬車の中で休んでいた筈のソフィアが起き出して来て背後から俺に抱きついてきた。


「おはようございます♡寝坊してしまって御免なさい」


「おはよ。まぁ昨夜は遅くまで起きていたからなぁ」


「ぽっ♡」


 はい。そういう意味です。


 昨夜とか言いながら朝方までニャンニャンしてました。


 馬車をギシギシ揺らして馬の安眠妨害をして正直『すまんかった』と思う。


 で。昼頃になって起き出して来たソフィアは俺のシャツ1枚だけを着た状態で背後から抱き付いているらしく正直、色々当たっている。


 具体的にはソフィアの大きな『おっぱい』が当たって溜まらんです。


「ん~♪ちゅっ♡ちゅっ♡」


 しかもソフィアさん、俺の背後から抱きつきながら首とか頬にキスの雨を降らせてくるではありませんか。


「あむっ♡」


「~~~っ!」


 耳を甘噛みされましたよ!危うく叫びそうになりました!


「旦那様ぁ♡ねぇ~♡」


「……」


 めっちゃ誘惑されています。


 馬を止めて、振り返ってソフィアを正面から抱き締めて唇を奪う。


「あんっ♡」


『こんなん我慢出来る奴が居たら聖人認定してやるわっ!』


 という心の叫びと共に馬車の中に用意した簡易ベッドの上にソフィアを押し倒した。






 何故か原因は分からないのだが国外に出てからソフィアの俺に対する誘惑が強くなってきた気がする。


「だって新婚旅行ですもの♡」


 うん。原因は分からないんだけどソフィアが毎日のように発情して所構わず俺を誘惑してくるのです。


「新婚旅行って憧れていたから気分が高揚してしまって♡」


 いやぁ~。本当、全く原因が分からないなぁ。


「ねぇ旦那様♡もう1回…しましょ♡」


「…うん」


 とりあえず新婚旅行中のお嫁さんは無敵だという事が良く分かったよ。




 ★




 そんな感じで俺とソフィアはゆっくりと旅路を進めて行く。


 魔物が出現する頻度も国内と比較してもそれほど高くはないし、目の前に出てきても『アトミック・レイ』で1発退場して貰うので馬車を止める必要さえない。


 最初は馬の方もビビって速度が鈍っていたのだが最近では魔物を見ても全く動じなくなった。


 人間だけじゃなく馬も慣れるんだねぇ。


「すやすやぁ~♡」


 ちなみにソフィアさんは今も馬車に設置した簡易ベッドでお休み中。


 ぶっちゃけ国外に出てからソフィアがまともに服を着ている所を見た事ない。


 今も裸で毛布にくるまっているだけだし。


 何か着ているとしても俺のシャツを裸の上に1枚着るくらいだ。


 パンツなんて履き方も忘れているんじゃないかと思う。


「にしても誰にも会わんなぁ~」


 俺とソフィアが国外に出て既に2週間以上が経過している。


 国外で人間種に会う事が稀である事はよく分かっているのだが、それにしても『人間種以外』とも出会わないのは意外と言えば意外だった。


「情報通り戦争の準備中かねぇ」


 この世界は現在、絶大な力を持った4人の『魔王』によって支配されている。


 より正確に言うと4人の絶大な力を持った魔王を統括している存在――『大魔王』という1人の存在によって支配されている。


 大魔王の配下である4人の魔王達は互いの戦闘行為を禁止されているが、逆に言えば魔王が支配していない者達への侵略は禁止されていない。


 俺が住んでいる人間領は長い間、魔王達との外交によって侵略を避けてきた。


 しかし今回、4人の魔王の内の1人が『気に食わん』との理由を掲げて人間領への侵略を計画した。


 ガキみたいな理由だが実際に魔王が侵略を決定してしまった以上、それを覆す事は困難だ。


 だからこそ俺がその『交渉』の為に派遣される事になったのだ。


「新人S級魔法士に『魔王と交渉しろ』とは随分と無茶ぶりしてくれるなぁ」


 まぁ閣下としても俺が魔王との交渉を成功させるなどと本気で期待している訳ではないだろう。


 唯、俺ならば時間稼ぎくらいはして上手く逃げ遂せるくらいはやってのけるだろうと算段を立てているというところか。


 そして稼いだ時間を使って専守防衛の準備と魔王との再交渉の準備を進めるという感じだろう。


「閣下も真面目だねぇ~」


 俺が旅を初めて既に1ヶ月。


 閣下は寝る間も惜しんで準備を整えている事だろう。




 ★




 で。更に2週間を掛けて俺は魔王の居城があるという大きな街へと辿り着いていた。


「ここが魔王ガルズヘックスが支配する魔王都か。流石に…物々しいねぇ」


「旦那様。私のパンツ…知りませんか?」


 魔王都への感想を漏らす俺の背後の馬車の幌の中でソフィアは毛布に包まりながらパンツを探していた。


「ソフィアは相変わらず魅力的だとは思うけど流石にパンツは盗まないよ」


「う~ん。最後に履いたのが大分前だったので何処に仕舞ったのか分からなくなってしまいました」


「あ。そういえば洗濯した後に俺の魔法の鞄に仕舞っておいたんだった」


「もう…旦那様ったら♡」


 結局ソフィアのパンツは俺が持っていた。


 その後、ソフィアにパンツを履かせるのを手伝ってから俺は魔王都に入るべく検問を受ける事になる。


「人間領より使者として参りました」


「…ふん」


 俺が提示したのは正規の使者として証だったので検問官に俺を止める権利などなかったのだが――あからさまに見下された目で見られた。


 まぁ通行は許可されたので普通に通るだけなのだけれど…。


「鬼人族ですか。噂通り屈強な肉体を持った種族みたいですね」


「男は勿論だけど、女もゴッツイのが多いなぁ」


 鬼人族。


 その名の通り鬼のような角を持ち、屈強な肉体と激しい闘争本能を持つ種族。


 4人の魔王の1人であるガルズヘックスが鬼人族であった為、彼の街には多くの鬼人族が住んで部下として働いている。


 鬼人族は角の数が多いほど強いとされているのだが通常は角が1本。魔王の親衛隊以上で2本。魔王ガルズヘックス本人は3本の角を持っているらしい。


 とりあえず俺は魔王と交渉に来た訳で、その為に魔王の居城へと向かい面会の約束を取り付けるところから始めた訳だが…。


「魔王様はお忙しい。人間との面会なら早くて半年後になる」


 とか言われた。


 鬼人族が人間種を見下しているという事も事実なのだろうが鬼人族が人間種へ侵略を計画している事は周知の事実。


 人間種との交渉など跳ね除けて侵略の準備をする気満々なのだろう。


 そもそも半年後では流石に侵略など終わってしまっている。


「わかりました♪」


 勿論、俺は下手に粘りなど見せる事無く素直に引き下がった。


 魔王本人なら兎も角、その前段階となる面会の取り付けで本気になっても仕方ない。




 ★




 翌日。


 俺は魔王の居城の謁見の間にて魔王ガルズヘックスとの面会を果たしていた。


「お初にお目に掛かります。私は人間領を代表してまいりました…そうですね『人間風情』とでもお呼びください」


「……」


 魔王ガルズヘックスは俺を射殺しそうな目で睨みつけている。


 え?なんで俺が昨日の今日で面会を取り付けているのかって?


 そんなん今日面会の予定だった人と交渉したら『親切に』面会予定日を取り替えてくれただけの話だ。


 いやぁ良い人――いや良い鬼人族だった。


 今も生きているかどうかは知らんけど。


「それでは早速お話を進めてもよろしいでしょうか?閣下」


「…俺様が絶対に許せん事がこの世の中に1つある」


「なんでしょうか?閣下」




「俺様を…閣下と呼ぶなぁっ!!」




 陛下と呼ばれるのは世界の支配者たる『大魔王』1人だけなので、その配下である4人の『魔王』は閣下と呼ばれる事になる。


 しかし他の魔王と一緒くたにされる事を嫌うガルズヘックスは『閣下』と呼ばれる事を大いに嫌っていた。


 俺的に言うと『閣下』というと俺の国の胃薬中毒の宮廷魔法士様を思い出してしまうのだが。


「それは配慮が足りませんでした。閣下♪」


 勿論『こいつ』が閣下と呼ばれる事を嫌っている事など事前情報と知っていたが、だからと言って俺が従ってやる義理は無い。


「…死ね」


「っ!」


 そして俺の認識よりも早く動いたガルズヘックスは一瞬で俺の背後に回りこんで、その強靭な右腕で――俺の胸を刺し貫いていた。


「雑魚が」


 あっさりと俺の胸――心臓の位置を貫いたガルズヘックスはつまらなそうに鼻を鳴らして俺を貫いた腕を引き抜こうとして…。


「いやいやぁ~。流石腐っても魔王。いつの間に背後を取られたのか全く分かりませんでしたよ」


「っ!」


 俺の呑気な声を聞いて――それとは別の理由で慌てて俺を貫いた右腕を俺の体から引き抜いた。


「貴様っ…!」


「はいはい?なんでしょうか、魔王『閣下』?」


「…偽者か」


「今更かよ。鈍いなぁ」


 そう。ここに居る俺は火の魔法で作り上げた炎で出来た『分身体』。


 最低限の交渉と最低限の戦闘力だけを有した『それ』を遠距離からコントロールしているだけだ。


 魔王に喧嘩を売るのにわざわざ本体で出向くほど無謀じゃない。


 まぁ分身体だと気付かず攻撃した馬鹿は右腕を火傷したみたいだけど♪


「貴様の愚かな行動のせいで人間種は全滅する事になるぞ」


「ぷっ。何それ?独善で侵略しようとしているくせに今更脅しのつもり?」


「貴様が愚かな事をしなければ奴隷くらいで済ませてやった」


「知らん知らん。奴隷だろうと全滅だろうと好きにすれば良いじゃん」


「……」




「お前が今日を生き延びられたらの話だけどな」




 言葉と同時に俺は右手に赤い球体、左手に青い球体を掲げる。


「なんだそれは?」


「右手にあるのは俺が自力で作り上げた火を圧縮した球体。左手にあるのは俺の嫁が作ってくれた水を圧縮した球体だ」


 ソフィアは俺のように分身体を遠距離操作する事はまだ出来ないが作り上げた水を圧縮したものを俺の分身体に譲渡して持たせる事くらいは出来るようになっている。


「この2つを合わせると…どうなるかな?どうなるかな?」


 残念ながら『極大消滅』的な魔法を作り上げる事は出来ないが、それでも物理法則はしっかりと反映されるのだ。






 遠くから爆音が響き渡る。


「あれが『水蒸気爆発』ですか?旦那様」


「ああ。大体想定通りの威力だな」


 魔王ガルズヘックスの居城から5キロほど離れた位置で待機していた俺は城が丸ごと吹き飛ぶ様を眺めていた。


「通常の『最上級』魔法と同等か、それ以上の威力ですわね」


「魔王が相手じゃ焼け石に水さ」


「確認してみますね」


 ソフィアは水をレンズのように組み合わせて望遠鏡を作り上げると魔王の居城跡を確認してくれる。


 こういうところ本当に器用になったものだ。


「あ。確認しました。確かに健在のようですが…旦那様が言うほど『無事』という訳でもないみたいですね。それなりにダメージを受けているようです」


「ふぅ~ん。まぁ奴は魔王だけど四天王的に言えば『我らの中でも最弱』的なポジションだしなぁ」


 ガルズヘックスは確かに魔王だけど、そのコンプレックスとは裏腹に魔王の中では1番新参で力の弱い魔王だった。


 否。だからこそのコンプレックスか。


「あ。こちらに気付いたみたいです。凄い勢いで走ってきます」


「勘か、もしくはなんらかの感知系の技能を持っていたのかもなぁ」


 場所を特定されて接近を告げられても俺の中に焦りはない。


「それじゃ…作戦通り行ってみますかねぇ」


「頑張ってください♪旦那様♡」


「おうよ」


 という訳で俺は分身体で『ロックオン』していた奴――ガルズヘックスに対して待機させていた攻撃を開放する事にした。




「『ホーミング・レーザー』…順次開放…順次射出」




 次の瞬間、空から光の雨が降り注いだ。


 俺が準備していた1万を超える火の圧縮球体から放たれる『ホーミング・レーザー』の雨だ。


 ちなみに圧縮球体1つに付き『ホーミング・レーザー』を1万発撃てる計算なので計1億発以上の『ホーミング・レーザー』が奴を襲う事になる。




『ぐぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』




 流石に距離があるので聞こえないが、そんな感じの叫びを上げている気がする。


 え?いつの間にこんなに大量の圧縮球体を用意していたのかって?


 準備する時間なら山ほどあったじゃないか。


 俺が王立魔法学院を卒業して魔法使いになってから冒険者になってダラダラしていた時間が。


 正確に言うならソフィアとエッチな事に意識の大半を奪われている時間を除く全ての時間と魔力を費やして圧縮球体を作り続けてきた『貯金』だ。


『ホーミング・レーザー』は魔法力で作り出しても『ロックオン』する対象が居ない場合『待機状態』へと移行する。


 そして『ロックオン』する対象が出来た瞬間に猛威を振るう事になる。


 が。流石に数ヶ月~数年もの時間を『待機状態』で維持する事は普通なら出来ない。


 けれど圧縮球体に『式符』を混ぜる事によって式紙と同じように3つまでの命令を設定する事が出来るようになる。


 1つ目は『待機』。


 作り出した『ホーミング・レーザー』用の圧縮球体を俺の上空で待機させるように維持する為の命令。


 2つ目は『隠密』。


 上空で待機させる圧縮球体を不可視化させて隠す為の命令。


 3つ目は『維持』。


 待機状態の圧縮球体が自然消滅しないように大気中から自動で魔力を吸収して現状維持に努める為の命令。


 お陰で魔法の鞄に溜め込んでいた式符を大量に使う事になったが、代わりに過剰な砲撃を用意する事に成功した。






 しかし相手は腐っても魔王。


 身体の周囲に展開された魔法障壁は『ホーミング・レーザー』を容易く跳ね返した。


 少なくとも100発は余裕で耐え切った。


 1000発でも多少波紋が出る程度で影響はなかった。


 1万発でやっと少しだけヒビが入った。


 そして10万発で穴が空いて――100万発で粉々に砕け散った。


 逆に言えば『たったの100万発』で奴は魔法障壁を維持出来なくなってしまったのだ。




「ぐぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 まだ大分距離はあるのに奴の叫びが聞こえてくる。


 まぁ『ホーミング・レーザー』の豪雨に晒されているのだから当然か。


 魔法障壁を破るのに100万発使ったから残りは9千9百万発――とか計算されそうだが実際には俺が用意したのは『1億発以上』なので100万発程度は文字通り『誤差の範囲』という奴だ。


 残りは余裕で1億発以上残っている。


「あ。魔法障壁を復活させようとしています」


「迂闊だねぇ」


 ソフィアの報告を受けて俺は『アトミック・レイ』で奴をピンポイントで狙撃して魔法障壁の展開を妨害する。


「あ。角が1本…砕けてしまいました」


「あ~らら」


 鬼人族の角は魔力の源とも言われていて相当な強度を誇ると同時に弱点でもあるらしい。


 3本あるとはいえ、その内の1本を砕かれては大ダメージだ。


 奴の角は額に1本、即頭部に2本という配置で、俺が砕いたのは側頭部にある内の1本だったのだが…。


「なんか、もう1本くらいは砕けそうだな」


 再び『アトミック・レイ』で側頭部のもう1本を狙ってみる。


「あ。本当に砕けてしまいました」


「意外に脆いなぁ」


 2本目の角を砕かれて奴は激痛で跪いてしまったようだ。


「流石に最後のは砕けないだろうけど、やるだけやってみるか」


 額から生えた角は『鬼人族の誇り』とも言われるほどの強度を誇る筈で、流石の『アトミック・レイ』でも1発で砕けるという事はないだろう。


「う~ん。やっぱり1撃では砕けませんでしたね」


「ですよねぇ」


「でも、かなりひび割れていますし、もう1発撃てばいけるんじゃないでしょか?」


「お。マジで?」


 結果として言えば次の1発にもギリギリ耐えられて結局合計で3発必要だった。


 けれど全ての角を砕かれた奴は魔力の源を失って『ホーミング・レーザー』に耐える為の根本的な力を失った。




「ぎぃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!」




 今まで当たっても火傷程度で済んでいた『ホーミング・レーザー』が奴の身体を次々と貫通していき――合計で約3000万発を使用した時点で魔王ガルズヘックスは完全に消滅した。



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