第40話 『魔王。元カノの治療を開始する』
俺の前世の恋人――この世界では天翼種の『オリヴィア=ディプシー』という名前の彼女とは色々と認識の齟齬を改める必要があったのだけれど、その前に…。
「うぅ…身体が…痛いです。あなた様ぁ」
「精霊王の口車になんて乗るからだ。馬鹿が」
精霊王に無理矢理強化された身体を何とかする必要があった。
なんと言っても日常生活に支障が出るような無理な強化をされているので、それを俺の『スキャン』で解析して『火の最上級回復魔法』や『ソフィアの魔法薬』で治すにも時間が掛かる。
「それと…おっぱいが潰れて痛いです。うぅ…」
「……」
更に言うと背中のデカイ翼が邪魔で仰向けに寝られないのでうつ伏せにベッドで横になって休む必要があるので前世の頃と変わらないくらい大きなおっぱいが邪魔になっているらしい。
「…抉り取っては如何ですか?」
そしてソフィアさんが限りなく不機嫌になっていた。
まぁ前世とはいえ夫の元カノが家に居座っている訳だから、機嫌が良くなる材料なんて全くないわなぁ。
それでも『同じ男を愛した共感』からかソフィアがオリヴィアを追い出すという強硬手段に出る事はなかった。
「…折角だから身体を治すついでに『魔力回路』も開いてみるか」
「良いですね♪」
「…え?」
まぁ仲良くする気はないらしく、ソフィアは当時の記憶を思い出してオリヴィアの魔力回路を開く提案に即座に賛成していたけれど。
「痛いっ!痛いっ!痛いですっ!あなた様ぁっ!許してくださいっ!」
「…我慢しろ」
なんか既視感を覚えるやりとりに少々ゲンナリする。
しかも痛がるオリヴィアを見てソフィアが少しニヤニヤしているのが居た堪れない。
「うぅ。これ絶対に前世での『初めて』の時より痛いですよぉっ!」
「…知らんがな」
なんでソフィアと似たような事を言うんだろ?
「いたた…。前世ではあなた様の愛を感じたので我慢出来たのに、これはひたすら痛いだけです。あなた様、もっと愛を篭めてお願いいたします!」
「今日はこれで終わりにするつもりだったが続けて良いのか?」
「…また今度で」
弱い。
まぁ前世では常に俺の庇護下において護っていたし強くなる要素なんてなかったか――あれ?
「つ~か。考えてみれば精霊王の強化に発狂せずに耐えられたのに、なんでこのくらいの事で根をあげる訳?」
「…甘えられる人が近くに居るからです」
「……」
俺の気を引きたいから弱音を吐いていただけでした。
★
「ボクの記憶が正しければ…君には『あれ』の抹殺を依頼した筈だけど?」
そして当然と言えば当然のように事情の説明の為に呼んだサミエルにはジト目で睨まれた。
「ひぃっ!」
ちなみに同じく睨まれているオリヴィアはガタガタ震えて涙目になっている。
うん。サミエルさん怖いよねぇ。
「とりあえず今までの貸しを全てゼロにして、その上で私の借り1という事で如何でしょうか?」
「へぇ~」
言い訳せずに実利で話したらサミエルは興味深そうに俺を眺めてきた。
「それはつまり『あれ』を譲って欲しいって事で良いのかい?」
「そういう事になります」
「君が屁理屈を言わないって事は、かなり『本気』って事だね」
「……」
「良いよ。君に貸しを作れる機会なんて滅多にないからね。抹殺予定だった子を1人譲るくらいなら構わないさ」
「ありがとうございます」
俺が素直に礼を言うとサミエルは何故かニマっと笑った。
この魔王――俺に何をさせる気だ?
「ボクが君にして欲しい事は1つだけだよ。唯…『大魔王様を裏切らない』とだけ約束してくれれば、それで良い」
「……」
それは――恐らく魔王サミエルという人物の根幹を成す部分。
「私は…」
だからこそ『安易』には答えられない。
「私はあくまで『打算的な人間』であり、自分に利のない事は一切行わないという信念があります」
「……」
「だから…1度だけです」
「……」
「1度だけ、大魔王様を裏切った方が利になると判断した時でも『裏切らない事を選ぶ』と約束しましょう」
「…十分だよ」
サミエルは出会ってから今までの間で1番の笑顔でニッコリと微笑んだ。
うん。もしも俺がロリコンだったら惚れちゃうくらい綺麗な笑顔だねぇ。
「よし。これからも君に貸しを作って2度3度と裏切らないように約束して貰おうかな」
「いや。私は基本的にサミエル様とは敵対したくないので、サミエル様が大魔王様を裏切らないのなら私も基本的には裏切りませんよ」
サミエルが大魔王を裏切るなんて想像も出来ないけどな。
そもそも、そう簡単にサミエルに借りなんて作って溜まるか。
なんて感じでオリヴィアを自宅に迎え入れて普通に1日を過ごして次の日の朝。
「おはよ…う?」
「おはよう…ございます。あなた様」
俺が機嫌よく朝の挨拶をしたら、何故かリビングにいたオリヴィアが物凄く落ち込んでいた。
「ど、どした?」
「覚悟は…覚悟はしていたつもりでしたのに…こんなにもガリガリと精神が削られるとは思ってもみませんでした」
「あ~」
俺は昨夜、当然のように夫婦の寝室にてソフィアを抱いた。
それは、もういつも通り3回戦までやって、お互いに疲れ果てて裸で抱き合って眠った訳だが、それをオリヴィアが察知してしまった訳だ。
「と言われても、こればっかりはなぁ~」
「うぅ~」
俺とソフィアが夫婦だから――という理由以上に今のオリヴィアは精霊王の強化を元に戻す為に色々と『調整』を受けているので下手に身体に負担のかかる性交を行う訳にはいかなかった。
だからソフィアに内緒でニャンニャンするなんて事も残念ながら不可能だ。
「…残念なのですか?」
「ひぃっ!」
俺の背後から唐突に聞こえてきたソフィアに声に飛び上がる。
俺の奥さんは旦那をビビらせる技能については天下一品です。
「おはようございます。オリヴィアさん」
「…おはようございます。ソフィア様」
昨日は互角だった視線による火花の散らしあいも今日はオリヴィアに随分と分が悪いようだった。
「立場上、味方は出来ないが元気出せ」
「…あなた様♡」
見かねて頭を撫でて慰めるとオリヴィアは少しだけ元気を取り戻した。
「むぅ。追い詰めれば有利になると思っていましたが、不利な立場になった方が旦那様に構って貰えるのでした」
ソフィアはソフィアでなんか『失敗した』って感じの顔をしていた。
★
そんな感じで俺達の日常の中にオリヴィアが入ってきて、少しだけ俺達の日常が変化した。
オリヴィアの身体は色々ゴチャゴチャと面倒な改造を受けていたけれど、俺とソフィアが協力すれば『致命的な手遅れ』という程には至っていなかった。
少しずつ、しかし確実に元の身体に戻しながら、同時に魔法の訓練も施していった。
「ふむ。やっぱり天翼種は先天的に『風の魔法』に適正があるんだな」
オリヴィアに魔法力の精製を習得させてから宝珠を触れさせると『緑』に変化して『風の魔法』に適正がある事を示していた。
「天翼種は普通に飛ぶ時でさえ無意識に『風の魔力』を行使していると言われているくらいですから。これで『風』に適正がなかったら今までどうやって飛んでいたのか困惑してしまいます」
「それじゃオリヴィアには予定通り『風の魔法』を覚えて貰う事にするか」
「はい♪あなた様♡」
オリヴィアは意外と元気だ。
夜の生活は今のところソフィアに独占されている訳だが、何も出来る事は夜の性生活に限定されている訳ではない。
「あの…上手く出来たら、ご褒美を…いただけますか?」
「何が欲しいんだ?」
「……」
オリヴィアは何も言わずに周囲を見渡して――目を瞑って『要求』してきた。
俺も周囲をキョロキョロと見渡してから――1つ嘆息してオリヴィアを抱き締めてキスをしてやった。
「んっ♡ちゅっ♡~~~っ♡」
オリヴィアは即座に俺にしがみついてきて、更に背中の翼で俺を包み込むようにして拘束してくる。
これは最近知った事なのだが、天翼種は愛情表現として翼を使って相手を抱き締める習性があるらしい。
翼に誇りを持つ種族なので、その行為は最上級の愛情表現とされて下手をすればエッチをするよりも上の行為とみなされるらしい。
「んっ…はぁっ♡」
長々と舌を絡め合う大人のキスをして、やっと満足して唇を離し、俺を翼の拘束から開放したオリヴィアは、そのまま俺のしがみついたままスリスリと頬ずりして甘えてくる。
「…前払いだからな」
「やぁ~です♪後からもう1回くださいな♡」
こういう甘え上手なところは前世の頃から変わらない。
勿論、色々変わってしまった部分もあるけれど、それでも根本的なところは変わっていないところが多かった。
しかし俺とオリヴィアは前世の思い出話などは滅多にしない。
ソフィアに遠慮している――というよりは前世での思い出は前世で幾度となく語り尽くしてしまったので『過去の思い出』を振り返るよりも『新しい思い出』を作る方が建設的だと思っているからだ。
「そうだ、あなた様。これ…今の内に渡しておきますね」
「なんだ、これ?」
オリヴィアが俺に渡してきたのは魔法の適正を調べる宝珠や、転移石のような球体状の物質だった。
「通信石です。精霊王から連絡を取るように渡されていたものです」
「へぇ~。そんなのもあるんだな」
「これをあなた様が解析すれば前世の『携帯電話』のような物が作れるかと思って♪」
「…ってか。精霊王と交信するのに使ったなら精霊王に痕跡を辿られる可能性もあるんだし、こういうのはさっさと出して欲しかった」
「ご、ごめんなさい。すっかり忘れていて」
「やっぱりか」
オリヴィアは前世の頃からそうなのだが『俺にかまけて大事な事を放り出してしまう』なんて事がざらにあった。
何事よりも俺を優先してしまう為、本来なら大事だった筈の約束をうっかり忘れてしまうらしい。
「なんか、他にも大事な事を忘れてそうだな」
「え?え~と…」
『通信石』を『スキャン』で解析しながら問いかけると、オリヴィア自身にも自覚があるので何か忘れている事がないか考え出す。
「…そういえば愛用の剣が壊されてしまったので新しい物が欲しいですね」
「それは身体が完治する前には何とかする」
『転移石』は材料が揃わないので無理だが、輝夜達『ドールズ』の装備の解析は終わっているし材料も確保出来ている。
100年に1人の『剣の天才』と言われているらしいオリヴィアには特注の腕輪をプレゼントしてやる予定だ。
「後は…後は…何かあったでしょうか?」
「…例の弟は良いのか?」
「あ」
言われて初めて気付いた――みたいな反応でハッとするオリヴィア。
最初にあの弟の為に俺に斬りかかってきた姉としての姿は一体何処に消えてしまったのだろうか?
「う~ん。でも確かにアシュレイはわたくしが今まで生きる為の指針となっていましたが、あなた様と再会出来た以上、そんなに重要という訳ではないのですよね」
「……」
やっぱりオリヴィアは『俺至上主義』だった。
「あの子は今どうしているのでしょう?」
「確か…天翼種の里に連れ戻されて謹慎させられていた筈だが、その後どうなったのかは知らんなぁ」
「まぁ、生きているのなら、その内会う事もあるでしょう」
「……」
本当に俺以外に関しては適当だった。
そういえば前世からこんな性格だった気もする。
★
「ふわぁ~。最高に気持ち良いですねぇ♪」
「……」
我が家の大きなお風呂に大きなおっぱいを持ったオリヴィアが気持ち良さそうに入浴している。
「天翼種は種族的にお風呂に入る習慣が皆無なので今までずっと我慢していたので久しぶりのお風呂…最高です♪」
「…うん。まぁ、そうだろうな」
まぁ確かにオリヴィアの――というか天翼種の背中の翼は大きいので普通サイズのお風呂では文字通り『羽を伸ばせない』だろうしな。
それは兎も角として、気持ち良さそうにお風呂に入るオリヴィアの大きなおっぱいがお湯に浮んでぷかぷか揺れている。
「あ」
それに注目する俺の視線に気付いたのかオリヴィアは恥ずかしそうに両腕で…。
「さ、触ったり舐めたりしても…良いのですよ?」
その大きなおっぱいを強調して俺の好きにして良いのだと言った。
頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながら!
「いただきますっ!」
「あんっ♡」
とりあえず我慢は身体に毒なので美味しくいただく事に…。
「えいっ♡」
「むぐっ」
オリヴィアの大きくて柔らかいおっぱいを弄り回している最中に頭を捕まれて強引に振り向かされて――凄く柔らかいものに顔を包まれた。
「…1番は私じゃなくちゃ…駄目ですよ?」
オリヴィアに負けないくらい頬を赤くして俺の顔を自分の大きなおっぱいに押し付けているソフィアさんでした。
「えいっ♡えいっ♡」
一旦離れたとはいえソフィアの反対側から――俺の後頭部に自身の大きなおっぱいを更に押し当ててくるオリヴィアさん。
「ま、ますたぁ♡手がお留守のようなので私のものでよろしければ…♡」
更に前後から大きなおっぱいに挟まれた俺の手を輝夜さんが取って、自身のおっぱいへと導いていく。
ここは何処の『おっぱい天国』だ?
と。『おっぱい天国』は良かったのだが、その後にオリヴィアの翼を皆で洗う事になってかなり大変だった。
なんと言っても、この翼。かなり大きい上にかなり繊細なので少しでも雑に扱うとオリヴィアが声を殺して悲鳴を上げるくらいだ。
結果、皆で丁寧に洗って、皆で丁寧に水気を拭いた訳だが…。
「お、重いです…あなた様ぁ」
「…乾くまで我慢しろ」
どの道、水気を吸った羽は相当重くなるのでオリヴィアはしんどそうだった。
「うぅ…でも大変ですがお風呂は気持ち良かったです。久しぶりにあなた様と一緒に入れましたし♡」
「そうだなぁ」
実際、前世ではかなりの頻度で一緒にお風呂に入っていたし、それに伴ってお風呂の中でエッチな事をする事も多かった。
「ふむ。俺の『火の魔法』とオリヴィアの『風の魔法』を上手く融合出来れば『ドライヤー魔法』を開発出来るかもな。それがあれば翼も簡単に乾かせるだろうし、もっと楽にお風呂に入れてやれるぞ」
「良いですね♪頑張ります♡」
「…不本意ですが便利そうな魔法ですね」
教会に居た勇者アークスのような『氷の魔法』ほど精密な制御が必要という訳でも無いし、俺とソフィアの『火の魔法』と『水の魔法』を組み合わせてお湯を出すくらいの気分で出来そうな魔法だ。
そんな感じで雑談しつつ俺達は服を着て…。
「あ、あなた様…手伝ってくださいませ」
「…天翼種の服って面倒臭いな」
背中に大きな翼を持つ天翼種は普通の――人間種と同じような服を着る事が出来ない。
その為、なんか『女神っぽい』感じで長い布を身体に巻きつけるようにして服にしているのだが、その作業は結構面倒臭い。
通常ならオリヴィア1人でもギリギリなんとかなるってレベルだが、今は背中の翼が濡れていてオリヴィアはまともに動けないし、手伝うにしてもキチンと巻き付ける手順があるらしく相当時間が掛かる。
「…湯冷めしそうですね」
「うぅ。早くドライヤー魔法を使えるように頑張ります」
そんな動機でオリヴィアは風の魔法の習得を頑張る事になった。
★
オリヴィアの治療が進み、出歩ける程度に回復したのを確認してから折角なので冒険者ギルドに連れて行ってみた。
「…お妾さん?」
「第一声がそれかよ」
そしてオリヴィアを見た『お姉ちゃん』の反応が『これ』だった。
でもあながち間違いじゃないのが悲しい。
「弟よ。良くお嫁さんが許してくれたな」
「…許してません」
ソフィアは不機嫌そうだが、そのソフィアの機嫌や気分とは裏腹にソフィアとオリヴィアの相性という奴は結構悪くなかったりする。
魔法的な相性は勿論だが、それ以外にも性格的な相性も良く、ソフィアの『俺を取られたくない』という心情を除けばソフィア本人ですらオリヴィアを嫌っている訳ではない――と思う。
「うむ。これで弟の『夜道で女に刺される未来』がまた一歩近付いた気がする」
「…やめれ」
夜道じゃなかったけど既にオリヴィア――の身体を乗っ取った精霊王には刺されたよ。
「大丈夫。ちゃんと『お姉ちゃん』が護ってあげる」
「…まさか『お姉ちゃん』の事を頼もしいと思う日がこようとは夢にも思わんかった」
ソフィアという美人の奥さんが居る上に、オリヴィアと輝夜を侍らせている俺はいつ『お姉ちゃん』が言うように『夜道で刺される未来』が来ても驚かないわ。
「『お姉ちゃん』…ですか?」
「…頼むから聞かないでくれ」
流石の俺でも『お姉ちゃん』の事を聞かれて上手く説明する自信ないわぁ。
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