第41話 『魔王。嫁と元カノ相手に会議する』
正直な話をすれば『2人の女と同時に付き合う』なんて事は俺の主義に反する行為だった。
1人の女と付き合うだけでも俺の全精力をつぎ込んで、それでもまだ足りないくらいだというのに『2人同時』なんて無理に決まっている。
実際の話、俺は前世でオリヴィアと付き合っている時に『物足りない』なんて思った事もないし『浮気』なんてしようと思った事も無い。
俺は『お付き合い』を始めるまでは俺の求める『最高の女』を厳しい目で選定する事はあっても『お付き合い』が始まってしまえば後は徹底的に愛でたくなる性だ。
1人の女を徹底的に可愛がって、更にその女の『全て』が知りたくなる。
前世ではオリヴィアと9年以上付き合った経験があるが、それは逆に言えば『たったの9年しか付き合えなかった』と言い換えても良い。
俺はまだまだオリヴィアを愛でたかったし、もっともっとオリヴィアの事を知りたかったのだ。
だから――1人の女しか愛さないと決めていたのに、ソフィアが居る現状であってもオリヴィアに対して『未練』が膨大に残っていた。
頭では割り切ったつもりでも、感情が――俺の中の『1人の女』を求める好奇心が、半端で中断されたオリヴィアの『全てを知りたい』という欲求が理性を上回ってしまった。
見捨てるつもりだったオリヴィアを受け入れたのにはそういう俺の事情もあったからだった。
しかし、やはり『2人の女』と付き合うのは大変だ。
俺は行為を――エッチする時には1人の女に集中する事になるので同時に2人は不可能だ。
けれど、それだと1人を相手にしている最中は、もう1人は放置される事になってしまうので寂しい思いをさせる事になる。
そう思うと思いっきり慰めたくなるし、1人の女に集中するのも難しくなる。
今はまだ良い。
オリヴィアの『治療』は非常に繊細な作業になるので、その『治療』の最中に身体の状態を変化させる『処女喪失』は避けなければいけない。
そういう事情なのでオリヴィアには申し訳ないと思いつつも俺はソフィアだけを徹底的に可愛がっていられる。
「……」
まぁ『最後まで出来ない』というだけでソフィアの目を盗んで頻繁にオリヴィアとは逢瀬を重ねているのだけれど。
だってオリヴィアの奴、当然だけど前世とは肉体が違うのだ!
前世ではオリヴィア本人よりもオリヴィアの身体の事を知り尽くしていた筈なのに――オリヴィアの身体の何処を触れば気持ち良くなって、何処を触られると嫌がるのか良く分かっていた筈だったのに!
今のオリヴィアは前世のオリヴィアとは全く違う場所を触られて喜ぶし、良く知っている触られたくない場所を触っても嫌がらなくなった。
だから俺は今直ぐにでもオリヴィアの身体を徹底的に愛でて、オリヴィアの身体の隅々まで調べ尽くしたいのだ!
それこそ許されるなら三日三晩、不眠不休でオリヴィアと愛し合いたかった。
それが出来ない現状が物凄く――もどかしい!
「……」
まぁソフィアの目があるから、そんなに簡単にオリヴィアに手を出せないんですけど。
そもそもオリヴィアにばかり構ってソフィアを放置したい訳じゃないし。
「あ~、だから女は1人で良いのに」
2人の女と付き合うのって本当に面倒臭い。
え?輝夜達――『ドールズ』は良いのかって?
輝夜達の身体は『教会製の人形兵』の物を使っているとはいえ、その本質は『竜族の魂』が担っている。
そして竜族という奴は非常に長寿の為か『恐ろしく気が長い』性質がある。
『ドールズ』達はエッチな事には興味津々のようだが、それでも順番を遵守する律儀さもあるし100年くらいは平気で待っていてくれるだろう。
まぁ、その基準で言うと天翼種のオリヴィアもエルフ程ではないにしても人間種よりはかなり長寿なので気の長い性質がある筈なのだが――まぁオリヴィアは異世界転生者だし価値観が前世の物に引っ張られているので仕方ない。
ともあれソフィアとオリヴィアの2人と付き合う事になった現状、明確なルールが必要になる。
もっとも単純なのは『交代制』だ。
1日交代、もしくは3日交代でソフィアとオリヴィア、交互に愛し合う。
「嫌です」
ソフィアはバッサリ切った。
「お断りいたします」
オリヴィアも容認しなかった。
「絶対にごめんだ」
そして俺も嫌だった。
交代制を採用してしまうと、なんとなく『女を抱く義務』が発生したような気がして『女を抱くという作業』をしているような気分にさせられる。
俺は女を愛でて――愛し合いたいのであって『女を抱くという作業』をしたい訳ではない。
『義務で女を抱く行為』程つまらないものはない。
第二案・2人を同時に抱く。
「 「 絶対に嫌です 」 」
「…殺す気か」
ソフィアとオリヴィアを同時に抱くという事は2人がお互いを意識し過ぎる為、高い確率で競争になる。
2人の競争に俺が巻き込まれる形になるのも問題だが、2人同時に搾り取られれば俺は100%腹上死だ。
第三案・女を1人に絞って1人を捨てる。
「 「 「 …… 」 」 」
これにはソフィアとオリヴィアだけではなく俺も沈黙した。
なんというか、この2人は俺の為なら『何でも出来る』と豪語するだろうけれど、それでも捨てられるなら何をするかは分かりきっていた。
即ち…。
「 「 捨てるくらいなら旦那様(あなた様)が殺してください 」 」
捨てられるなら俺の手に掛かって死んだ方がマシと思っている。
その後も3人で色々な意見を交わした訳だけれど、その末に出された結論は…。
「とりあえず常識的な範囲で臨機応変に対応するという事で」
「 「 異論はありません 」 」
条件付きで保留という場当たり的なものだった。
まぁ、ここで明確なルールを作っても彼女達が色々溜め込んだら困るしねぇ。
え?それならこんな話し合いに意味はないって?
いやいや。
例え『結論が出ない話し合い』であったとしても『やる』と『やらない』とでは雲泥の差がでる。
話し合った末に『結論が出ない』のならば当事者達はある程度は『納得出来る』が、話し合いもせずに『結論が出ない』という結果だけを出されても『納得出来ない』のだ。
それに、こういう話し合いは後になればなるほど拗れると相場が決まっている。
このタイミングでの話し合いが恐らくはベストではないもののベターな判断だろう。
★
「そもそもの話、オリヴィアさんの方から旦那様に別離を突きつけたのですよね?」
「うぅ」
ソフィアの指摘にオリヴィアが反論の余地なく怯む。
まぁ確かにその通りなのだが、それでも俺はその件でオリヴィアを責めるつもりはなかった。
俺は転生してから16年以上好き勝手に生きてきたが、オリヴィアの方は俺と別離した事を後悔しながら16年以上を生きてきた。
その事は彼女が『死にたがり』と呼ばれていた事からも明らかだ。
『俺もこの世界に転生しているかもしれない』という、ほんの僅かな希望がなければ今日まで生きていなかっただろう。
だから許す――という訳ではないのだけれど…。
「……」
「あなた様?」
ジッと見つめると直ぐに俺の視線に気付いて小首を傾げるオリヴィア。
やっぱり見捨てる気にはなれないくらいには俺はオリヴィアに対して『未練』があるようだった。
「むぅ」
その事実にソフィアも気付いているので強硬にオリヴィアを拒絶出来なくさせている事が申し訳ないけれど。
「まぁ…でも確かに私もオリヴィアさんの『そこ』を責める気にはなれないのですが」
「そこ?」
「旦那様の視線は…本当に強烈ですから。もう幾度も肌を重ねてきましたが未だに裸を見られるのは…恥ずかしいですし」
「ああ、分かります。あの視線の前に立たされると…羞恥心が掻き立てられますよね?」
そうして何故か2人はガールズトークを始めてしまった。
「あの視線の前に立つには最低限『自信のある姿』じゃないと耐えられませんよね」
「はい。あの視線の先にいるのが『最高の自分』じゃないと思うだけで恐くて恐くて…わたくしには耐え切れませんでした」
「…長寿である天翼種のあなたには必要かどうか分かりませんが『不老長寿の妙薬』の余剰分を分けて差し上げましょうか?」
「是非っ!」
「……」
なんか本当にガールズトークっぽいんですけど。
それにしても――視線ねぇ。
俺はジッとソフィアを見てみる。
昨夜も散々可愛がったので良く知っているが、やっぱり俺の嫁さん美人でスタイルが良いなぁ。
こうして見ているだけで今直ぐにでも押し倒したくなってくる。
「…んっ♡」
って。見てたら本当にソフィアが俺の視線に気付いて頬を染めて羞恥に身体を悶えさせていた。
俺は次にオリヴィアをジッと見てみる。
うん。ソフィアに負けないくらい美人でスタイルが良いわ。
さっさと治療を終わらせて、あの身体を1秒でも早く隅々まで貪り尽くしたいと思う。
「…ぽっ♡」
って。見てたらオリヴィアも俺の視線に気付いて頬を染めて恥ずかしそうに――でも嬉しそうに見つめ返してきた。
いつの間にか2人のガールズトークは終わっていて、2人同時に立ち上がってソファに座る俺の両脇を確保して身体を密着させてきた。
「あ…もうっ…!」
そうなると人間種のソフィアは単純に俺の隣に座って身体をぴったりくっ付けてくるだけだが、天翼種のオリヴィアは背中の大きな翼が邪魔なので素直にソファに腰掛ける事が出来なくて不利だった。
「…この翼、邪魔だから切り落としてしまいましょうか」
「やめれ」
天翼種にとって誇りである翼を『俺の隣に座るのに邪魔だから』という理由で本気で切り落とそうと思っている顔のオリヴィアを慌てて止める。
「ですが…」
「確かに日常生活では邪魔かもしれないが、少なくとも俺はオリヴィアの純白の翼って綺麗だと思うし好きだぞ」
「まぁ♡」
俺がオリヴィアの翼を褒めると思った以上に喜んで正面から抱きついてきた。
「…オリヴィアさん?」
「仕方ないではありませんか。わたくしソファに座れませんもの♪」
そう言いつつ俺の首に両腕を回して首筋にちゅっちゅ♡とキスの雨を降らせてくるオリヴィア。
「えいっ♡」
負けじとソフィアもより密着しておっぱいを押し付けてくる。
「……」
2人同時っていうのも案外悪くないかも――って思ってしまった。
★
当たり前の話だが背中に大きな翼を持つ天翼種は人間種の国の中では非常に目立つ。
非常に目立つのだが…。
「最初は驚かれるみたいなのですが『あなた様の連れ』だと分かると凄く納得した顔をされて対応がフラットになります」
まぁ『S級魔法士の連れ』や『SS級冒険者の連れ』という肩書きなら天翼種もあまり特別扱いされないみたいだった。
「旦那様はこの国では有名人ですからね♪」
「…働かない事で有名」
ソフィアは褒めてくれるが何故か『お姉ちゃん』はジト目で見てきた。
はいはい。裏から手を回してオリヴィアが『俺の連れ』だという事を触れ回りましたよ。
ついでに余計なちょっかいを掛けないように釘も刺したし。
別にこのくらい良いじゃねぇかよ!
「あなた様も冒険者だったのですか?」
「…基本、薬草採取くらいしかやらないSS級冒険者」
「……」
なんか今日はやけに『お姉ちゃん』のツッコミが厳しいんですけど。
「マスター。お茶を淹れてまいりました」
「む」
って。これが原因かっ!
良いじゃねぇかよ!メイドの恰好をしているんだからお茶くらい輝夜に淹れさせても!
本当。『お姉ちゃん』って面倒臭くて良く分からない生き物だなぁ。
冒険者ギルドで暫く時間を潰してから俺は屋敷――177人の『マシンナリー・ドールズ』が住む屋敷の方へと顔を出してみる。
そこでは相変わらず『ドールズ』達が戦闘訓練(という名の暇潰し)をしていた訳だけれど…。
「なんだか…動きがぎこちないですね」
それを見たオリヴィアは首を傾げて困惑していた。
どうやら『100年に1人の剣の天才』とか言われているオリヴィアからすれば戦闘経験の乏しい『ドールズ』達の訓練風景は違和感が強いらしい。
「よろしければ訓練指導を致しましょうか?」
「…身体、大丈夫なのか?」
「はい。まだ節々に違和感は残っておりますが、それでも動けない訳ではありませんから」
という訳でオリヴィアは『ドールズ』達に実地で戦闘訓練を行う事になった訳だが、それが凄いのなんのって…。
「すげぇ~」
基本スペックは明らかに『ドールズ』達の方が上なのに、それでもオリヴィアは本調子ではないという身体で『ドールズ』達を軽くいなしていく。
まるで『お前達の相手に力など不要』とでも言うように軽い動作で次々と『ドールズ』達を打ちのめし、悪い部分を的確に指摘していく。
とても少し前まで『死にたがり』と呼ばれていた女とは思えない動きだった。
「良く弟…アシュレイにも教えていましたから」
とは言うが、見ている俺からすればオリヴィアは近接戦闘だけで言えば『ドールズ』達の100倍は強い。
「動きは単調で読みやすいですし、身体能力は高くてもそれを十全に使えないのでは逆効果ですし、基本が殆ど出来ていないですから」
「…それは有体に言って『全部駄目』って言っているようなものじゃないか?」
「そうかもしれませんねぇ」
これからもオリヴィアには偶に『ドールズ』達の戦闘指導をして貰う事になった。
「……」
というか他人事みたいに見ていたが『センサー』を使っていたとはいえ俺って良くオリヴィアと互角に戦えていたなぁ。
万全の体調ではなくてもオリヴィアの動きは『達人』としか言いようのない素晴らしいものだった。
★
自宅に帰って俺、ソフィア、オリヴィア、輝夜の4人で寛ぐ。
まぁ寛ぐと言っても輝夜は基本、俺の傍に仕えているポーズなので突っ立ったままなのだが。
「う~ん」
そしてオリヴィアは背中の翼を維持したまま、どうやったら俺の隣に座れるか試行錯誤しているだけだが。
そういう訳で俺の隣にピッタリくっついて寛いでいるのはソフィアだけだったりする。
「やっぱり天翼種であるわたくしは、あなた様の正面から…このような形を取るのが最高の形だと思います」
そのソフィアに対抗するべくオリヴィアが俺に正面から抱きついて来て、スリスリと甘えてくる。
「却下です」
そして、それを引き離そうとグイグイ俺におっぱいを押し付けてくるソフィア。
柔らかい2人の女体に挟まれて俺としては言う事はないのだが――なんとなく、この2人もこのやりとりを楽しんでいないか?
「(考えてみればソフィアもオリヴィアも俺を最優先にしてきたから今までまともな『友達』が居たためしがないんだよな)」
2人にとっては例え『諍い』の形を取っていても、この手のやりとりは楽しいと思えるものなのかもしれない。
「あんっ♡」
「きゃっ♡」
友達が居ない事に関しては俺も負けていないので混ぜて貰う為に2人の身体を弄り回す事にしたけど♪
★
最近のオリヴィアは夜に眠る時はソフィア特性の精神安定薬入りの催眠導入剤を服用して眠りについている。
こうする事で俺がソフィアを抱いても朝までグッスリ眠れるようになった訳だけれど…。
「わたくしは…いつになったらあなた様に御寵愛を頂けるのでしょうか?」
だからと言って、それで不満が残らない訳ではない。
俺がオリヴィアではない女――ソフィアを毎晩のように抱いているのは覆しようも無い事実なのだから。
「…俺が聞きたいくらいだけどな」
実際、オリヴィアの身体は日常生活には支障がない程度には回復してきたが、それでも完治には程遠い。
だから駄目だとは分かっているのだが、それでもオリヴィアの誘惑に負けて幾度も襲い掛かった事がある。
まぁ、その全てをソフィアに阻止された訳ですけど。
「具体的にいつまで我慢すれば良いのか指針はないのでしょうか?」
「…完治まで1年は掛からないと思う」
「1年も我慢する事になったらわたくしが発狂してしまいますわ!」
うん。正直、俺も1年は流石に待てない。
「という訳で最低限のラインとして半分の半年…」
「それでも長いですわ」
「…の半分の3ヶ月を目安に頑張るという事で」
「うぅ。それなら…頑張りますわ」
「……」
まぁ頑張るのはオリヴィアではなく治療する俺とソフィアなんですけどね。
「あなた様」
「ん?」
オリヴィアの治療計画を頭の中でいくつか前倒しにして修正していると懇願するような声のオリヴィアに呼ばれて振り返る。
「わたくしの身体が治ったら…前世の時のように思い切り可愛がって頂けますか?」
「……」
上目遣いで『おねだり』するオリヴィアはそれはもう『そそる』姿だった。
「きゃんっ♡」
思わず押し倒してしまいましたとも♪
結局ソフィアさんに止められたけどね。
とほほ。
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