第32話 『魔王。分身体を修理する』


「逃げた…か」


 私は100以上放った『ホーミング・レーザー』が全て不発に終わった事を知り天翼種の女自身か、もしくは精霊王によって転移で逃げられたのだと悟る。


「ケティスちゃん。居る?」


「はい!ご主人様♡」


 私が呼ぶと直ぐにケティスが現れ私に擦り寄ってくる。


 この子は獣人だからなのか森での隠密能力が高い。


「掴まって。一旦撤退します」


「?…追いかけないのですか?」


「今は…無理」


「ご主人様…目がっ!」


 天翼種の女の攻撃は確かに殆ど私にダメージを与えなかったけれど、私の身体に仕込まれた5枚の式符の内の1枚を切り裂いていた。


 5枚の式符は私の体のそれぞれ五感に対応していて、それを1枚でも壊されると私は五感の内の1つを失う事になる。


 今回失ったのは『視覚』。


 だからこそ私は『ホーミング・レーザー』以外の攻撃手段がなかったのだ。


「(最初にロックオンしておいたから良かったものの、そうじゃなかったら一方的に嬲り殺しにされていたわね)」


 過剰な数の『ホーミング・レーザー』を放ったのも撤退を促す為の布石。


 仕留める訳にはいかない上に視覚を制限されては仕事を完遂する事を困難としての判断だ。


「大丈夫よ。私は分身体だから修理が可能だから」


「そ、そうなのですか」


 ほっとした感じのケティス。


 まぁ修理するにも色々面倒な手順が必要なんだけどね。




 ★




 分身体を適当な街へ転移させて、その街の宿屋の一室で待機させる。


 そして『魔法の鞄』を使って転移石を本体である俺に受け渡して俺も同じ街へと転移して移動する。


「ふぅ。説得が大変だった」


 その際ソフィアの自宅に置いて来るのに凄く手間が掛かった。


 いや。本当は置いて来たくなかったのだけれど連れてきたら多分…。


「(ケティスを殺しちゃうだろうなぁ)」


 出会った瞬間に『こんにちは…死ね♪』で殺すだろう。


 流石に分身体を管理する人材を殺されるのは勘弁なので説得してお留守番して貰う事にしたのだ。


「面倒臭ぇ」


 で。分身体を待機させた宿に向うと宿の表でケティスが待機していた。


 勿論、俺が分身体を通して指示していたのだが――なんかナンパされていた。


「えっと。その…あの…」


 本体である俺が向かう事は伝えてあるが俺の容姿を知らない為にナンパしている奴が本体なのかと思って強く拒否出来ないらしい。


「ぶげぇっ!」


 とりあえずナンパ野朗を蹴っ飛ばしてゲシゲシ踏みつけて無力化してやる。


「…行くぞ」


「は…はい!」


 問答無用の雰囲気と逆らいがたい『奴隷の契約』の効果によってケティスは俺の後を素直に追随してくる。


 本当なら宿の部屋の中に直接転移したかったのだが、そういう細かい調整はサミエルでもなければ出来ない。


 そういう訳で宿の前で待ち合わせをして分身体――スミカの修理を行う事になった。






 スミカの修理は式符1枚壊れただけだから式符1枚交換すれば良い――という単純な物ではない。


 5枚の式符は全て『連動』して五感を俺とリンクしている訳だから、1枚破られたら5枚全部交換しないと修理出来ない。


 スミカの身体から4枚の式符と1枚の破れた式符を摘出して廃棄して、新しく5枚の式符をスミカに埋め込んでいく。


 そして微調整。


 この微調整が精密作業になるので俺が直接出向かないと出来ない作業だ。


 俺の五感とリンクさせながら時間を掛けて調整する以外の手段がない。


「…ふぅ」


 まぁ、それでも俺なら10分も掛からずに調整出来るのだけれど。


「さてと…」


 俺は早速調整したスミカを起動させてみる。


「うん。見える見える」


「ご主人様♪」


 で。起動したスミカに早速抱きついてくるケティス。


「ふむ。耳も聞こえるし匂いも分かる。味は…」


「あんっ♡」


 スミカを通してケティスの首筋を舐めてみる。


「正常と。触覚の正常みたいだし、これで修理完了だ」


「えっと。あの…」


 ケティスは俺の方が本体だと分かっていても会うのは初めてなので困惑しているようだ。


「別に俺がどうこうしろとは言わない。契約したのはスミカの方だからスミカの方に忠誠を誓っておけば良い。俺とは滅多に会わないだろうしな」


「ご主人様の…上司様なのですよね?」


「いや。違うけど」


 ケティスは俺が分身体を作り出しただけで俺とスミカが同一人物だとは理解出来ていないようだった。


「だから…」


「こういう感じで…」


「1人で…」


「2つの肉体を…」


「動かしているだけ」


 俺とスミカで交互に喋るとケティスは驚いて固まる。


「前にちゃんと説明した筈なんだけどなぁ。私は本体が手動で動かしているから使わない時は待機状態なるって」


「あ」


「本体が男だったから混乱しちゃった?」


「は、はい」


「別に本体にまで忠誠を誓えとは言わないけど、本体に失礼な態度を取ったら私の好感度も一緒に下がる事を忘れないようにね♪」


「は、はひぃっ」


 まぁ、これもスミカを通しているだけで俺が喋っている事なんだけど。


「じゃ。俺は戻るから」


「はいは~い」


 という感じでスミカで自分を見送って俺は自宅へと転移する事にした。






 自宅に転移してからソフィアを連れて再び別の場所へと転移する。


「何者だっ!」


 そして転移してきた俺達を見て警戒して槍を構える男が2人。


「サミエル様に面会希望だ。仕事についてといえば分かる」


 ここはサミエルの居城。


 その城の前に転移した俺達を門番が警戒している。


「人間種がサミエル様に面会?そんなふざけた要望が通ると思っているのか?」


 門番は俺に対して困惑した――というより見下した視線を送ってくる。


「はぁ。あの人はなんで人に仕事を頼んでおいて配下への通達を怠るのかねぇ」


「優秀な人なのに色々と抜けていますね」


「まったくだ」


 俺とソフィアが嘆息していると門番の視線が険しくなっていく。


「人間種がサミエル様を侮辱するかっ!」


「…おまけに門番なのに観察眼が足りないと来た」


 サミエルと同様に頭が固いというか融通が利かないというか。


「『これ』を見ても同じ事が言えるのか知りたいもんだ」


「?」


 仕方なく俺は指に嵌めていた指輪を門番に提示する。


「そ、それはっ…!」


 俺が提示したのは大魔王から下賜された青い宝石が付いた魔王の指輪。


「1度だけ聞いてやる。この城の門番には魔王の進行を妨害する権利でも与えられているのか?」


「っ!」


「それとも最初からこう言えば良かったのか?『魔王ラルフ』が『魔王サミエル』様に面会希望だと」


「し、失礼致しましたっ!直ぐにサミエル様にお取次ぎいたします!」


「…早くしてくれ」


「は、はいっ!」


 俺の正体を知った途端、恐縮して態度を変える門番にゲンナリした。






「門番にくらいちゃんと私が来る可能性を示唆してくださいよ」


「…それ以前に、どうして君はボクの居城の位置を知っているのかな?」


「ひ・み・つ♪」


 勿論、何度か転移で送って貰った際にサミエルの身体に式紙を貼り付けて居城の位置を探ったからだ。


 隠密に特化した蜂型の式紙で、逆に言うと『隠密』と『俺に位置情報を送る』事しか出来ない式紙だけど。


「まぁ良いけど。門番には君の事を伝えておくから、これからは用事がある時は通すように言っておくよ」


「ありがとうございます♪」


 よしよし。これで今後面倒な悶着はなくなりそうだ。


「…それで?頼んでおいた仕事の話だと思うけど進展はあったの?」


「はい。対象を再度発見には至りましたが…」


「が?」


「逃げられました」


「…そんな事を報告する為にわざわざボクの居城まで来たの?」


「対象は精霊王に取り込まれていました」


「っ!」


 呆れ顔のサミエルの表情が一変する。


「…本当に?」


「はい。そうでなければ私は間違いなく対象の身柄を確保して今ここで献上する事が出来たでしょう」


「……」


「大魔王様によって与えられた大きな負傷があるようで直接は介入して来ませんでしたが、それでも精霊王による妨害と逃走の補助をされては捕らえきれませんでした」


 実際には天翼種の女自身に式符を1枚切られて視覚を遮断されたのが最大の原因だが、それは精霊王のせいにしてしまう。


「事が精霊王の介入を受けるとあっては私1人では荷が重いと判断して報告に参りました」


「…そうだね」


 実際の話、大魔王に大打撃を受けているとはいえ、精霊王と対等に戦えるのは大魔王しか居ないので俺の手には余る。


 大きな負傷を抱えている今なら魔王を4人全員召集すれば何とか互角くらいまで持っていけるかもしれないが――俺にもサミエルにも魔王を召集する権利はない。


「…大魔王様に報告して指示を仰ぐ必要があるかなぁ」


「ああ。大魔王様へは既に報告を済ませておきました」


「どうやってっ!」


 式紙がばれているので会話用の式紙を『報告用』に1体置かせて貰っているだけだ。


「以前のように精霊王を直接引っ張り出せる策があるのなら大魔王様自らがお出向きになるそうですが、負傷を抱えた精霊王はまず前線には出ないので私達だけで何とかしろという指示を頂いています」


「…そ、そう」


 俺が大魔王と直接コンタクトが取れる事実を知って顔を引き攣らせるサミエル。


 いや。実際の話、大魔王の居城へ行くにはサミエルの転移以外に方法がないのが実情だ。


 転移石を使ってもなにかの力が妨害されるし、直接出向こうにも居城の位置は誰も知らない。


 唯一の例外は精霊王によって導かれる光の勇者だったが、その方法は俺も知らんし。


「報告が出来るだけであって直接出向く事は出来ませんからね?念の為に言っておきますが」


「わ、分かっているよ!当然じゃないか!」


 サミエルの専売特許――というか特権を奪った訳ではない事を教えると焦ったようだけど何故か嬉しそう。


「それで、どうしましょう?」


「…どうって?」


「対象の現在地は既に把握してありますが精霊王の助力があるとなると捕らえる事は困難ですから。何かサミエル様に捕らえる策がおありですか?」


「あると思う?」


「言ってみただけです」


 例の天翼種の女には蜂型の式紙を貼り付けてあるので現在地は手に取るように分かるけど、あの女を捕らえる為の手段がないのが困ったものだ。


「精霊王を一時的にでも足止め出来れば良いのですが…」


「無茶言わないでよ。そんなの出来るのは大魔王様くらいだよ」


「ですよねぇ~」


 幾ら弱っていても強さの次元そのものが違う相手っていうのは厄介なものだ。


「そういう訳ですので、この件は一旦保留という事でよろしいでしょうか?」


「分かったよ。流石にボクも君に精霊王に玉砕して来いとは言わないよ」


「…マジで勘弁してください」


 唯でさえ俺って精霊王に滅茶苦茶恨まれているっていうのに。


「それでは失礼致します」


「うん。何とか出来そうだったまた連絡するよ」


「あはは…」


 何とか出来るなら自分で何とかしろよっ!


 という言葉を飲み込んで俺はソフィアを連れて自宅へ帰る事にした。






「はむっ」


「ひぐぅっ!」


 で。自宅に帰ってきたら後ろからソフィアに抱きつかれて何故か――何故か噛まれた。


「そ、ソフィアさん?何を…」


「またあの獣人の子に何かしたでしょう?」


「……」


 味覚を確かめる為に確かにちょっと舐めたけど、それを敏感に察知出来るソフィアさんは一体何者なのでしょうか?


「旦那様は私だけの旦那様ですっ!」


「おぁっ」


 玄関先で後ろから抱きつかれたまま押し倒されて…。






 今回は搾り取られるという程には怒っていなかったようで俺はベッドの上で気だるい気分で横になっていた。


「んぅ~♡ちゅっ♡ちゅっ♡」


 ソフィアは事後にも関わらず楽しそうに俺の身体にキスマークを付けていたけど。


「こうやって旦那様の身体に私の印をつけると『私だけの旦那様』って実感出来てとっても幸せです♡」


「俺は元からソフィアのものだよ」


「はい♡」


 その後、ソフィアが満足するまで好きにさせて2人で一緒に眠りに付いた。




 ☆オリヴィア




 砂漠の中から砂金を見つけた――かもしれない。


 あくまで『かもしれない』レベルだし、そもそも見つけただけで拾い上げた訳ではない。


「(でも前よりは確実に可能性は高くなっている)」


 もう砂漠の中に埋もれた砂金ほどに低い可能性ではない。


「(でも、どうすれば良いのかしら?)」


 魔王ラルフが本当に『彼』だとしても連絡を取る手段なんてないし、そもそも精霊王の契約に縛られる身では出会った瞬間に殺し合いになってしまう。


 精霊王との契約の解除――なんて出来るのかわからないし、そもそも本当に『彼』だという確信も無い。


「あ」


 そんな事を考えてフラフラ飛んでいたら『それ』を見つけてしまった。


「はぁ…。わたくしってどうしてこんなにタイミングが悪いのかしら?」


 私が見つけてしまったのは作りかけの集落。


 恐らく隠蔽の魔法が完璧ではない為に発見出来た『英雄種の隠れ里』だ。


 今更見つけても余り意味が無いような気がするが、それでも一応降りて様子を探ってみる。


「(人数は…聞いていた通り多くない)」


 恐らく英雄種の数は多くとも100人前後というところ。


 天翼種の数と良い勝負だと思う。


「(見つけたからどうしろという指示は受けていないし、見つかる前に撤退を…)」


「うおぉっ!翼付きの美少女発見っ!」


「っ!」


 隠れて英雄種の隠れ里を観察していた私の背後から声を掛けられてビックリして振り返る。


「君ってもしかして天翼種?可愛いねぇ!名前教えてっ!」


「……」


 え?もしかして私――ナンパされているの?


 前世も含めて実は初めての経験だった。


 今世では殆ど人と関わらないように生きてきたし、前世では――『彼』が私を守ってくれていたから。


 そう思ったらなんだか悲しくなってきた。


「…天翼種のオリヴィアです」


「俺は英雄種のライノル!よろしくねっ☆」


 キラン☆と光るスマイルに――正直ドン引きする。


 私にとっては『彼』以外の男は恋愛対象に入らないし、そもそも『彼』以上に格好良い人なんて居る筈が無いと思っている。


「それで…こんなところで何をやっているのかな?」


「っ!」


 ナンパな雰囲気から一転、鋭い視線を私に向けてくるライノルという英雄種の男。


 ナンパな雰囲気に騙されてしまったけれど、この男も英雄種。


 油断して良い相手ではなかった。


「ここってさぁ作りかけだけど隠れ里なんだよねぇ。だから外部に漏れたら作り直しになっちゃうから色々困るんだよねぇ」


「…あ」


 雰囲気を思わず後退しつつ、気が付けば既に囲まれている事に気付く。


 私は既に10人以上の英雄種に囲まれて――絶体絶命のピンチに陥っていた。






 地上に降りていた事が災いして飛行能力という優位性を生かす事も出来ずに私はあっさりと捕まって拘束された。


 両手両足に加えて翼まで拘束されて動く事も飛ぶ事も出来なくされた。


「流石に偶然じゃないよね?天翼種がこんなところに居る事自体おかしいし」


「……」


「ダンマリは良くないなぁ。可愛い女の子に酷い事はしたくないけど英雄種としては見過ごせる事態じゃないしねぇ」


「っ!」


 ゾッとする。


 私の身体を『彼』以外に触れられるかと思うと、それだけでゾッとした。


「やめ…て…」


 そう思ったら私の口からは想像以上に弱々しい声が漏れた。


「それじゃ話して貰おうかな。君がこの隠れ里に来た目的を」


「……」


「精霊王に何か言われてきた?」


「っ!」


 ギョッとして顔を上げて――その私の反応を見てニンマリしている男を見てカマを掛けられたのだと気付く。


「まぁカマを掛けたのは事実だけど、そもそも里を探し出そうって一派は今のところ精霊王以外に考えられないんだよね。大魔王が今更この隠れ里を探そうとしているとは思えないし」


「?」


 困惑する。


 確かに私は精霊王の指示で英雄種の隠れ里を探していたけれど、何故大魔王が隠れ里を探そうとしていないのか根拠が不明だった。


「君がどうして精霊王を支持しているのか知らないけど辞めておいた方が良いよ。俺達なんて何百年も利用されて大魔王と戦わされていたんだから」


「……」


「それに大魔王の配下には敵に回したくない恐ろしく頭の切れる『参謀』が居るしねぇ」


「っ!」


 私はその『恐ろしく頭の切れる参謀』という言葉に再び反応する。


「魔王…ラルフですか?」


「ん?知っているの?」


「…少しだけ」


 これだ。


 精霊王が私に英雄種の隠れ里にいくように指示した本当の理由は『彼』の――魔王ラルフの情報を得る為。


「…教えてください」


「ん?」


「魔王ラルフの事を…教えてください」


「…今の君に質問する権利があると思っているのかい?」




「教えてくださいっっ!!」




「っ!」


 全身全霊の気迫を篭めた問いに英雄種の男――ライノルも困惑しているようだった。


「まぁ…別に良いけどさ。俺達は精霊王と敵対する道を選んだけど大魔王に与した訳じゃないから両者が潰しあってくれる方が都合が良いし」


 そう言ってライノルは魔王ラルフの事をポツリポツリと話し始めた。


 最初に出会ったのは分身体スミカ。


 彼女は大魔王の命令で英雄種の隠れ里を探していたと思われる。


 そして勇者候補として旅に出ていたライノルに取り入って『仲間』として行動していたらしい。


 分身体スミカは強かったらしい。


 ライノルよりも――ライノルの兄ランディよりも。


 その強さを精霊王に目を付けられて英雄種の魔法の教師として隠れ里に招待される事になり――大魔王を隠れ里へと導く事になった。


「俺が会った事があるのは分身体のスミカちゃんだけで本体には会った事はない。彼女の奴隷になった獣人のケティスちゃんなら知っているかもしれないけど今何処に居るのか知らない」


「そう…ですか」


 結果として大魔王と戦ったのは精霊王だけで英雄種にはたいした被害は出なかったらしい。


 分身体スミカによって勇者候補筆頭であったランディが殺されてはいるけれど、それはランディの方が先に手を出した正当防衛というのが英雄種の認識だった。


「逆に言うと、そういう理由をつけてでもスミカちゃんとは敵対したくないって事だけどね。彼女がその気になったら英雄種が全滅しそうだし」


「……」


 私の中で益々魔王ラルフと『彼』が繋がっていく。


『良くやった。十分な成果だ』


「…え?」


 そして、何処からか声を聞こえて私の身体が強い力で引っ張られる。


「待っ…!」


 ライノルの言葉を遮って私の身体が空間を越えて――見知らぬ場所へと転移させられていた。


「…精霊王」


『お前は英雄種どもとは違う。契約によって縛り私のいう事に逆らう自由を与えていない。真実を知ったところで…何も出来ない。逆らえない』


「……」


『魔王ラルフの本体を探し出し…殺せ!』


「っ!」


『そうすれば契約を解除して自由を与えてやろう』


「…分かりました」


 とりあえずはそう答えておいた。


 魔王ラルフが『彼』である可能性が高い以上、こんなところで死ぬのは嫌だった。


 

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