概要
①「これは、□□だ」
②「これは△△△△よ」
③「これは〇〇〇〇だろう」
④「これは××だ。少なくても××##だ」
*一人の老婆が死んだ。
老婆の息子は、これは不幸な事故だったと思っていた。
しかし、息子の「妹」はこれは復讐殺人だと言い張った。
決して再会してはならなかった「兄」と「妹」。
運命的な邂逅が、一人の老婆の死を、複雑なものへと導いていく。
第16回小説現代長編新人賞 一次通過作品。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!静かに、染みる。
この物語を読ませて頂いてひとこと紹介するならと考えて真っ先に思い浮かんだのが、静かに、染みる、でした。
急速にではなくゆっくりと。でも読み進める程に静かに染みて、自分自身も物語の世界の一人になってしまったのではないかとと錯覚してしまう程に入り込んでしまいます。
雪国を舞台としたこの物語には、卵を他の鳥の巣に産み付ける──託卵と呼ばれる習性を持つカッコウという鳥が根幹にあります。そして繊細で丁寧な情景描写によって、重厚な人間ドラマをとにかくリアルに描かれています。血の繋がりとは何なのか、家族とは何なのか、そのかたちは全て似通ったかたちでもいいのか、そして人生とは何なのか、そんなことを強く訴…続きを読む - ★★★ Excellent!!!しんしんと降る雪の底で、とぐろを巻く復讐の螺旋
読み終えてはじめに思ったのは、私はこの作品を評価するために適した言葉を持ち合わせているのだろうかという、羞恥か、あるいは羨望にも似た感情でした。
レビューを書いてもいいものだろうか?
そうかもしれない。
そうじゃないかもしれない。
語りたい気持ちは山々ですが、いたずらにその熱を吐き出すと、しんしんと積もった美しい雪景色が解けて、泥と混じった陳腐な水溜まりになってしまいそうで、困っています。
本編の核たる事件について語れば楽しみが褪せ、結末の先に抱いた感情を語れば想像の余地を固めてしまう。
難儀ですね。ほんとう、何てものを書いてくれたんですか夷也さん!笑
彼ら彼女らに救いはあったのか。…続きを読む - ★★★ Excellent!!!与えられた環境で足掻きながら生きる人々と雪が交差した時 それが起こった
雪深い地だからこそ、起こってしまったであろう事故。
その裏には、何人もの生き様が絡み合っていました。
一人一人の心情を丁寧に掘り下げて描かれた本作は、抉られるような重さとやりきれなさを突き付けてきます。
誰もが必死に生きているのに、うまくいかずにのたうち回る様に、シンパシーを感じるからでしょうか。早く続きが読みたくて仕方ありませんでした。
また、題名の『カッコウの巣』は子供食堂の名前です。様々な事情で、家庭での居場所や食事が困難な子供たちを受け入れているのですが、親子問題や格差社会の影で、大人も子供も鉛を飲み込みながら生きている姿が浮き彫りになります。
人間ドラマと叙述トリ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!震えた
今、読み終わった。
身も心も震えた。
何か作者に伝えなければ。衝動のままコメント欄を開いたが、自分の文章力では言葉にならなかった。
コメントは作者へ向けたコミュニケーションだが、レビューならある程度は独り言でいい。なので、こうしてレビューを書いている。
初めの数話のうち、俺はかなり失礼なことを考えていた。よくわからないプロローグに、あまりストーリーの動きが感じられない冒頭。ラノベに慣れた身には少ない改行に重い描写。全て、読者が離れる典型的な理由に思えて「これは無理かもな」と思った。
それでも先に手を進めたのは、キャッチコピーにあった雪国という一言のせいだった。雪国に生まれ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!雪国と高齢者介護のリアル……そして積雪の日に事件は起きる!
出だしは、リアリティ溢れる豪雪と過酷な在宅介護に翻弄される男性の姿を描いていますが、途中で物語が一変します。
一見、積雪による交通事故に思われたが、この事故にはどこか裏があり……。
そこから、過去に遡り、さまざまな関係者からの語り口で、事故(事件)の背景が詳らかになっていきます。
この物語構成が実に巧妙で、湊かなえさんの『告白』にも似た、おどろおどろしい雰囲気がありながらも、読者を引き付けてガッチリ離さない、それくらいの魅力があります。
雪国での戦い、過疎地域のリアル、壮絶な高齢者介護、地方に根付いた因習。
どれもやや暗鬱とし、目を逸らしたくなるようなエッセンスを兼ね備えながらも、そ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ただ幸せになりたかっただけの雛鳥たちに、あたたかな春は訪れるのか
家庭に事情のある子供にごはんを食べさせてくれる施設『カッコウの巣』。托卵の習性のあるカッコウに準えた名です。
本作は、仮親、つまりこの施設の経営者である女性の死から続く悲劇を、関係者全員の視点から捉えていく群像劇です。
真実は、人の数だけ存在します。
ある人から見たら完全な悪だった人が、実は同情すべき事情を抱えていたり。
誰もが称賛する善人が、実はとんでもない秘密を隠していたり。
育児放棄、老人介護、同居問題、不倫など家庭内の問題に触れつつ、それぞれの人が見る真実が語られていきます。
どのストーリーも、驚くほどリアル。
誰も彼もが儘ならなさを抱え、完全な悪人は存在しない。
ちょっとした巡…続きを読む - ★★★ Excellent!!!雪からは、涙の匂いが漂ってくる
タイトルにあるカッコウは、童謡「かっこう」や「静かな湖畔」の歌詞に登場する夏鳥です。草原や牧草地、林などを住処とするカッコウの鳴き声は、国によって明るいものと悲しいものに分かれます。そして、カッコウの特徴的な特徴はもう一つ。文化人類学に造詣が深い作者様ならではの切り口に魅了される、プロローグをご覧になればご理解いただけるかと思います。
雪国を舞台にした短編連作の群像劇。そう一言でまとめてしまうのが惜しく感じられるほど、人の生き方を深く考えさせられる作品です。
残酷、卑怯、冷徹といった言葉の認識を揺らがせる現代ドラマ、ぜひご一読ください。