この物語を読ませて頂いてひとこと紹介するならと考えて真っ先に思い浮かんだのが、静かに、染みる、でした。
急速にではなくゆっくりと。でも読み進める程に静かに染みて、自分自身も物語の世界の一人になってしまったのではないかとと錯覚してしまう程に入り込んでしまいます。
雪国を舞台としたこの物語には、卵を他の鳥の巣に産み付ける──託卵と呼ばれる習性を持つカッコウという鳥が根幹にあります。そして繊細で丁寧な情景描写によって、重厚な人間ドラマをとにかくリアルに描かれています。血の繋がりとは何なのか、家族とは何なのか、そのかたちは全て似通ったかたちでもいいのか、そして人生とは何なのか、そんなことを強く訴えかけられている気がしました。この圧倒的な世界観の余韻は、読み終えた今もずっと続いています。
この作品を読むことが出来て良かったと、心からそう思えた作品でした。
読み終えてはじめに思ったのは、私はこの作品を評価するために適した言葉を持ち合わせているのだろうかという、羞恥か、あるいは羨望にも似た感情でした。
レビューを書いてもいいものだろうか?
そうかもしれない。
そうじゃないかもしれない。
語りたい気持ちは山々ですが、いたずらにその熱を吐き出すと、しんしんと積もった美しい雪景色が解けて、泥と混じった陳腐な水溜まりになってしまいそうで、困っています。
本編の核たる事件について語れば楽しみが褪せ、結末の先に抱いた感情を語れば想像の余地を固めてしまう。
難儀ですね。ほんとう、何てものを書いてくれたんですか夷也さん!笑
彼ら彼女らに救いはあったのか。
螺旋の先は何処へ向かうのか。
ぜひご自身の目でお確かめください。
雪深い地だからこそ、起こってしまったであろう事故。
その裏には、何人もの生き様が絡み合っていました。
一人一人の心情を丁寧に掘り下げて描かれた本作は、抉られるような重さとやりきれなさを突き付けてきます。
誰もが必死に生きているのに、うまくいかずにのたうち回る様に、シンパシーを感じるからでしょうか。早く続きが読みたくて仕方ありませんでした。
また、題名の『カッコウの巣』は子供食堂の名前です。様々な事情で、家庭での居場所や食事が困難な子供たちを受け入れているのですが、親子問題や格差社会の影で、大人も子供も鉛を飲み込みながら生きている姿が浮き彫りになります。
人間ドラマと叙述トリックが冴える本格ミステリー作品。
是非皆様も体験してみてください。お勧めです。
今、読み終わった。
身も心も震えた。
何か作者に伝えなければ。衝動のままコメント欄を開いたが、自分の文章力では言葉にならなかった。
コメントは作者へ向けたコミュニケーションだが、レビューならある程度は独り言でいい。なので、こうしてレビューを書いている。
初めの数話のうち、俺はかなり失礼なことを考えていた。よくわからないプロローグに、あまりストーリーの動きが感じられない冒頭。ラノベに慣れた身には少ない改行に重い描写。全て、読者が離れる典型的な理由に思えて「これは無理かもな」と思った。
それでも先に手を進めたのは、キャッチコピーにあった雪国という一言のせいだった。雪国に生まれ雪国しか知らないで育った自分には、雪国に色々と思う所がある。
一体何が描かれるのだろう、それは俺が知っている光景なんだろうか。生意気にも「見せてもらおうじゃないか」なんて考えていた。
すっかり、やられてしまった。
雪国の情景の手触りが、俺とは無関係であるはずの人間模様から目を逸らすなと訴える。
何もかもがますます重くなる。人間たちの思惑と過去が、重なり絡み合い、少しの隙間さえも黒く塗りつぶして、どこまでも終わりの見えない底へ底へ沈んでいくかのようだった。
その陰鬱さとは反するように、俺は読み進めるのを止められなくなった。
暗く暗く重く重く、だからこそのあの最後だった。
正直、ネタバレ的なことは一切書きたくない。上手く書く技量が俺にない。他の方のレビューを読んだ方がいい。読んでみようかな、と思った方へ。どうか、飛ばして先を読まないでほしい。
素晴らしい体験を、ありがとうございました。
出だしは、リアリティ溢れる豪雪と過酷な在宅介護に翻弄される男性の姿を描いていますが、途中で物語が一変します。
一見、積雪による交通事故に思われたが、この事故にはどこか裏があり……。
そこから、過去に遡り、さまざまな関係者からの語り口で、事故(事件)の背景が詳らかになっていきます。
この物語構成が実に巧妙で、湊かなえさんの『告白』にも似た、おどろおどろしい雰囲気がありながらも、読者を引き付けてガッチリ離さない、それくらいの魅力があります。
雪国での戦い、過疎地域のリアル、壮絶な高齢者介護、地方に根付いた因習。
どれもやや暗鬱とし、目を逸らしたくなるようなエッセンスを兼ね備えながらも、それをありありと描写し、それでいて読者の興味を引くことができる筆致というのは、容易ではないと思います。
そして、タイトルの『カッコウの巣』。
托卵という独特な習性を持ったこの鳥を引用した意味は明らかになり、最後に、まさにこのタイトルしかない、と唸らせるほどの、言い得て妙なセンスに感銘を受けています。
カクヨムでは珍しい、重厚な社会派ヒューマンドラマとも言えるのではないでしょうか?
ぜひご一読下さい!
家庭に事情のある子供にごはんを食べさせてくれる施設『カッコウの巣』。托卵の習性のあるカッコウに準えた名です。
本作は、仮親、つまりこの施設の経営者である女性の死から続く悲劇を、関係者全員の視点から捉えていく群像劇です。
真実は、人の数だけ存在します。
ある人から見たら完全な悪だった人が、実は同情すべき事情を抱えていたり。
誰もが称賛する善人が、実はとんでもない秘密を隠していたり。
育児放棄、老人介護、同居問題、不倫など家庭内の問題に触れつつ、それぞれの人が見る真実が語られていきます。
どのストーリーも、驚くほどリアル。
誰も彼もが儘ならなさを抱え、完全な悪人は存在しない。
ちょっとした巡り合わせで道を踏み外し、どんどん転落してしまう……
そうしたシーンの切り取り方が、非常に秀逸です。
雪国特有の空気が物語全体の雰囲気を引き締め、読み進めるほど息が詰まります。
誰しもみんな、幸せになりたいだけなのに。
彼、彼女らに、希望の春は訪れるのでしょうか。
最後まで目の離せない作品です。シリアスでリアルな現代ドラマがお好みの方に全力でおすすめします。
タイトルにあるカッコウは、童謡「かっこう」や「静かな湖畔」の歌詞に登場する夏鳥です。草原や牧草地、林などを住処とするカッコウの鳴き声は、国によって明るいものと悲しいものに分かれます。そして、カッコウの特徴的な特徴はもう一つ。文化人類学に造詣が深い作者様ならではの切り口に魅了される、プロローグをご覧になればご理解いただけるかと思います。
雪国を舞台にした短編連作の群像劇。そう一言でまとめてしまうのが惜しく感じられるほど、人の生き方を深く考えさせられる作品です。
残酷、卑怯、冷徹といった言葉の認識を揺らがせる現代ドラマ、ぜひご一読ください。