ただ幸せになりたかっただけの雛鳥たちに、あたたかな春は訪れるのか

家庭に事情のある子供にごはんを食べさせてくれる施設『カッコウの巣』。托卵の習性のあるカッコウに準えた名です。
本作は、仮親、つまりこの施設の経営者である女性の死から続く悲劇を、関係者全員の視点から捉えていく群像劇です。

真実は、人の数だけ存在します。
ある人から見たら完全な悪だった人が、実は同情すべき事情を抱えていたり。
誰もが称賛する善人が、実はとんでもない秘密を隠していたり。
育児放棄、老人介護、同居問題、不倫など家庭内の問題に触れつつ、それぞれの人が見る真実が語られていきます。

どのストーリーも、驚くほどリアル。
誰も彼もが儘ならなさを抱え、完全な悪人は存在しない。
ちょっとした巡り合わせで道を踏み外し、どんどん転落してしまう……
そうしたシーンの切り取り方が、非常に秀逸です。

雪国特有の空気が物語全体の雰囲気を引き締め、読み進めるほど息が詰まります。
誰しもみんな、幸せになりたいだけなのに。
彼、彼女らに、希望の春は訪れるのでしょうか。
最後まで目の離せない作品です。シリアスでリアルな現代ドラマがお好みの方に全力でおすすめします。

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