第24話 『美桜の、赤い顔と恋心』



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————


——ピピピピピー


 アラームの音に目を覚ます。ふわっと甘いいい匂いがする。

 俺の腕の中で眠る美桜の匂いだ。


 ああ、しまった俺、あのまま美桜を抱きしめて寝てしまったんだっけ。


 少し反省しつつ、美桜はまだよく眠ったままだ。


「みーお、起きて。朝だよ」


 頬をツンツンしてみるが起きない。


 全く、子供みたいだなあ。俺に抱きしめられてても平気でこんなに寝てるんだから。


 俺は美桜のほっぺをむにむにとつまむ。

 相変わらず柔らかくて気持ちがいい。


 こんなに無防備だとやっぱり寝起きのキスがしたくなるのは日が変わっても変わらないわけで。


 寝起きの俺に、判断力なんてものもなくて。


 俺は眠る美桜の頬にキスをした。


 その瞬間、美桜がピクリと反射的に動いたと思ったら、真っ赤な顔して目を覚ました。


「あ、あ、あ…… ご、しゅじんさま、、、お、おは、よ……」



「ん? 美桜、どした。赤い顔して。熱でもあるのか?」


 俺は美桜のおでこに自分のおでこを合わせて美桜の体温と比べる。


「よし、熱は……ないようだな」


「え、え、う、うう。ごしゅじん、さま?」


「ん? どした、美桜。おはよ。まだ寝ぼけてる? 顔でも洗っておいで」


 寝ぼけてるのは俺の方だと、誰かに怒られそうな事をしているとも気付かず、美桜にそう言うと


「う、うんっ」


美桜は俯いたままパタパタと洗面所へと顔を洗いに行った。



「さーて、ご飯にしよっかなー」


 俺がキッチンで朝ごはんを何にしようかと悩んでいると、美桜が帰ってきた。


「ごしゅじんさま、ただいま」


「ん、おかえり。どした? 美桜、元気ない?」


「えっそんなことない。美桜元気」


 美桜は首をふるふると振って答えた。


 んー、なんだろう。この違和感。俺、何かしたっけ。


「美桜、どした? 俺何かしたっけ。怒ってる?」


 聞いてみるが


「え、ちがう、怒ってない。ちょっと、まだ眠いだけ」


 美桜はそう言うので、まあ美桜は元々猫だもんな、昨日の昼間は寝ないで起きて俺を待ってたみたいだし、寝足りないのかと自分を納得させた。


 んでも寝足りないなら食欲もないのかなと、食べやすいものがいいかと朝ごはんはたまご粥にした。

ちょっと顔も赤かったし、昨日の夜連れ出して夜風に当たったから軽く風邪でもひきかけてるのかもしれない。


「よし、美桜、朝ごはん食べよ。食べれる?」


「え、うんっ食べれるっ」


 やっぱり美桜の様子がおかしくて。ちょっと不安になって


「美桜、俺のこと、嫌い?」


ふと、そんな事を聞いてしまった。

 そしたら美桜は首をぶんぶんと激しく振って


「全然! 嫌いなんかじゃない。好き。大好き。ごしゅじんさまが、世界で一番、好き……」


 そう言う美桜は、なぜか赤い顔をして少し涙目で。


「ん。俺も美桜好きだぞ、ほら、食べて。あーん」


 食べなきゃ風邪も治らないと思い、俺はたまご粥を美桜に食べさせた。


 美桜は赤い顔しながらそのまま素直に俺に食べさせられてて、全部、……完食した。


 ……食欲がないわけでもなさそうだし……俺と目を合わさないから俺を嫌いになったのかと思えばそうではないみたいだし……うーん、やはり風邪ひいてしまったのだろうか。


「美桜、どした。しんどい?」


 聞いてみるが首をぶんぶんと振るばかりで。


「ちがう。美桜げんき。ただ眠いだけ」


 そう言うばかりで。


 そうこうしてたら出勤の時間になってしまったので


「美桜。じゃあ仕事行ってくるな? 今日は俺帰ってくるの待たなくていいし、ご飯作ったりもしなくていいから、ちゃんとあったかくしてゆっくり寝ておくんだぞ?」


 そう言うと、


「うんっ」


 美桜は少し元気な顔をして見せたので、ほっとして抱きしめた。抱きしめて、頭を撫でてたらやっぱり何かが込み上げてきて。


「なあ、美桜、いってらっしゃいのちゅー、する?」


つい、いつも美桜がしたがる事を聞いてみた。


「えっ……うん。する」


 そしたら、顔を上げて俺を見つめる美桜の顔はやっぱり赤くて。なんか……その赤い顔が色っぽいなと思ったりして。


 けど、その瞬間。自制心が働いたりもして。


「ん。じゃあ……美桜、行ってきます」


 俺は美桜の頬に軽くキスをした。


「う……ごしゅじんさま……だいすき……」


 小さな声でそう言いながら、頼りない力で俺に抱きつく美桜をもう一度丁寧に抱きしめて


「ん、俺も。大好き。じゃ、行ってくるから。

ちゃんと寝て、風邪治してな?」


 そう言って、会社へと向かった。



——美桜はそのまま玄関にぺちゃりと座り込んだ。


「う……美桜、ドキドキし過ぎて、くるしい……」


 昨日……ごしゅじんさまに抱き締められたら、ドキドキして眠れなかった。


 ほっぺにちゅーされて起きたら、今度はごしゅじんさまの顔近づいてきて……


 今度はちゃんとしたちゅー、されるのかと思った。


 おでこくっつけてる時……ごしゅじんさまの顔、近くて……あんな近くで真剣な顔、かっこよすぎて


 どんどんドキドキしてきて、うまく喋れなくなっちゃって。

 嫌ってると思われるなんて思わなかった。


 こんなに大好きなのに、美桜、うまく喋れなくなっちゃったら、ごしゅじんさまに嫌われちゃう?


 不安になったら泣きそうになっちゃった。


 美桜、病気なのかな

 病気になったら、また、捨てられちゃう?


 美桜、ごしゅじんさまのお嫁さんになりたいな。

 ごしゅじんさまとずーっと一緒にいたいよ

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