第55話 『凛への心配』


——ピンポーン


 静かに扉が開いた。


「……おう、凛。お疲れー」


「あ、お兄ちゃん、お疲れ様ー。どしたの?」


 

 淡々とした感じで出迎えてくれた凛は、明らかに朝会った時より可愛くて。


 一瞬、自分の妹なのに、“可愛い……” そう思った。


 けれど何が違うんだろう? 鈍感な俺は、凛が俺に会うためにメイクをやり直したとか、髪を整え直したとか、服を選び直したとか、アクセサリーを変えたとか、そんな事は分からなくて。


 しばらく考えて、服装が違うからか?? まあ、もともと凛は誰が見たって可愛い見た目してるしな。そう思った。口に出したりはしないけど。


「ああ、引っ越し祝いにアップルパイ買ってきた。ケーキにしようと思ったけど、ナマ物より日持ちする方がいいかなと思って。あと、引っ越しの荷解きは落ち着いた? なんか手伝うことあったら手伝うよ」


「え、マジ? え……マジ?」


 俺の言葉に凛はそれしか言わないけど、なんか嬉しそうで。

 口元とか……にやついてない? 気のせいか?


「嘘ついてどーするんだよ。手伝うことなかったら帰るけど」


 そう言うと


「え、待って、あるあるある!! ある!! あるよ!! あるから!! 帰らないで!!」


 急に焦り出して。


 なに? これ、帰ってほしくないって事??

 凛ってこんなだっけ。なんか……可愛い。


 急に可愛いとか思うと、男が一人暮らしの女の子の部屋にこんな時間に入るってダメか? とか、突然そんな事を思ったりしつつ、まあ……兄妹だしな? 普通だよな? そう思ったりもして。


「おーじゃあ、お邪魔するな?」


「うん!!」


 返事する凛は、なぜかすごく嬉しそうだった。




 部屋に入ってみると、段ボールを手当たり次第に開けて、必要なものだけを引っ張り出しては押し込んだような感じで。


 ダンボールの表面には何も書かれてないし、これ、中身把握してるのかなと、ふと心配になるほどだった。


「それで?? 何か手伝って欲しいことある??」


「……ある!! 実は……すっごい困ってた!! ……カーテン、つけて欲しい……」


「え?」


「だめ?」


 凛は申し訳なさそうに上目遣いをしてくるのだが。そうじゃなくて。


「え、おまえ……女の子の一人暮らしなのにカーテン付けずに生活してたの??」


「だ、だってえええ、つけようとしたんだよ?? でも、背が届かなくて……踏み台注文したけど、届くまで日にちかかるしさああああ」


 ……飽きれた。昨日俺が来た時、テレビの配線よりもまずはこっちだろ、と思うのだが。


 凛にしてみれば、それだけテレビが大事だったのかだろうけど。


 ……カーテン付けずに昨日みたいな格好で部屋の中にいたのか????


 途端に凛が心配になって来た。


 そーいえば昨日俺が来た時も、玄関の鍵開いてたじゃないか。


 ……こいつ。防犯意識ゼロか??


 もう少し、自分の見た目の良さを理解して欲しいと思う。

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