第54話 『美桜の乙女心』
凛の震える声を聞いて、走って行く後ろ姿を見て、何となく……やらかした? そう思った。
かと言って、本当に泣いていたのかも分からないし、泣いていたとして、自分が何をやらかしたのか分かっていないのに謝るのも失礼だ。
ただ、このまま放っておくのも気が引けた。
それに、やっぱり凛の事が心配だった。
テレビの配線も繋げられない凛が、他に困っている事はないのかなとか、荷解きは順調なのかなとか。
だから、仕事の後に様子を伺いに行こうと、昼休みにメッセージを送った。
“夜、凛の部屋行ってもいいか?”
すると一言
“いいよー”
とだけ返事が来た。
怒っているのか……それとも、ただドライなだけなのか。
まぁ、行ってみるしかないかな。
……
…………
仕事を終わらせて一旦家に帰った。
「ただいまー」
「おかえりなさいっ、こー、た」
まだ呼び慣れない俺の名前を照れながら呼んで、赤い顔して出迎えてくれる美桜がやっぱり可愛くて。少しほっとしつつ。
「美桜、お土産。アップルパイ買ってきた。けど、ごめん、ちょっとご飯食べたら凛のとこ行ってくる」
俺の言葉に少し寂しそうな顔をしつつも、
「え? そうなの? ……じゃあ、早めにご飯の用意するね」
そう言ってくれたので
「ありがと、助かるよ」
そんな会話をした後、美桜が作ってくれたご飯を一緒に食べた。
食べながら美桜はちらちらと俺の顔を見てきて。
「美桜? どした?」
聞いてみるけど、
「えーっと……なんでもない」
そうとしか言わなくて。
あれ? 俺、美桜にも何かしたっけ??
そう不思議に思ったりしつつ
「ごちそうさま。今日も美味しかった! じゃあ、遅くなる前にちょっと、行ってくる」
食べ終えて玄関に向かおうとした時
「待って」
美桜に抱きつかれた。
「美桜? どしたー?」
抱きつく美桜に声をかけると、
「……ごしゅじんさまは、美桜の、ごしゅじんさま、だよね?」
「え? うん」
「……じゃあ、こーた、は?」
俺に抱きついて、顔は横を向いたままそんな事を聞いて来た。
……もしかして、俺が凛の部屋に行くから不安になった??
「ああ、はは。呼び方変わっても、俺は美桜のだよ」
そう言ってそっとキスをした。
すると少しほっとしたような表情を浮かべて
「ほんと? うん、こーた、は、美桜の“かれし” ……だもんねっ」
少し子供っぽい無邪気な顔で言うから
「うん。そして美桜は、俺の可愛い彼女だよ」
そう言いながら、美桜の頭を撫でた。
「じゃあ、引越し祝い渡して、少し片付け手伝ったら帰ってくるから、待ってて」
「ん! 分かった! いってらっしゃい、こーた」
少し明るい笑顔になった美桜に見送られて、部屋を出た。
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