第53話 『凛の悲喜交交』

 あーもう、本当に本当に本当に!

 私は何回お兄に失恋させられるのだろう。


 お兄の言葉を聞いて、気付いてしまった。


 彼女になるのは無理でも、せめて妹として、またお兄の部屋に行ってご飯食べたりゲームしたり、他愛たあいのない時間を一緒に過ごせたらいいなと思っていたんだ。


 けど……彼女さんと同棲してるんじゃ、それすら……無理じゃん。


 お兄が実家に居た時は、お兄と過ごすのが当たり前だと思ってたのに。


 それが今は、遠い遠い過去のことで。

 その遠い過去ですら……昨日お兄が彼女さんに見せていたような笑顔や、今朝みたいな幸せそうな顔、私は見たことがなかった。


 今思えば私がお兄の部屋に行くばかりで、お兄からは“ご飯できたぞー” って扉の前まで来る事はあっても、中まで入ってくることはなかった。


 つまりは元々、あんまり私には興味なかったんだろうな。


 ——そんな事を考えてたら、どんどん涙が溢れてきて。


 泣き腫らした顔で臨んだ面接は、散々だった。




 あーあ、帰ーろ。

 スーパー寄って帰ろかな。


 昨日失敗しすぎたから、卵がもうないんだよね。


 ……けど、オムライスの練習するのも、もうやめようかな?




 そんな事を考えつつ寄り道して、帰って適当にお昼ご飯を食べた頃、お兄からメッセージが届いた。


“夜、凛の部屋行ってもいいか?”


 え? 


 一瞬、思考が停止して、目を疑った。


 なんで?? 何しに?? 実家にいた時はお兄が私の部屋に来る事なんてなかったのに??


 ああ、だめ。変な期待しないようにしよ……大した理由じゃないはず。


 少し深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、


“いいよー”


 それだけ返事した。




 けど!! え、お兄来るの!?


 え、うそうそ、どーしよ、え、会えるの??


 二人きり?? 凛の部屋に入るのかな。


 引っ越しの荷解き終わってなくて散らかってるけど!!


 ちょっと片付けようかな!! 


 服とかどうしよう、可愛い服着たい!!


 泣いちゃったから……メイク崩れてるし!!


 やり直そうかな。


 えー!! どうしようー!!!!



 そこからの私はもう、全然冷静じゃなくて。


 ダンボールの中から服出して着替えては鏡の前に立ってみたり。


 散らかった服を片付けたりメイク直したり。


 バタバタとしている間にあっという間に夜になった。



 ——ピンポーン


 来たああああ!! あああ、早く会いたい!!


 あ、でも玄関まで走るのはなんか恥ずかしい。


 落ち着いて……落ち着いて……


 あああ、ドキドキする。


——そして扉を開けた。



「……おう、凛。お疲れー」


「あ、お兄ちゃん、お疲れ様ー。どしたの?」

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