第60話 『焦る浩太』


 う、わー、まさか帰った直後に美桜の裸見る事になるとは。


 呼ばれたと思ったのに……なんだったんだ?


 そんな考え事をしつつ、ひとまずローテーブルの前に座って美桜を待っている。



 それにしても、久しぶりに見たけど……相変わらず美桜の裸は破壊力があり過ぎる。


 それに、なんとなく前より……色気が増した??


 あんなスタイルの良過ぎる子が、俺の彼女?? 

 

 一緒に住んで、一緒にご飯食べて、一緒に寝てるの??


 ただでさえ可愛いのに??


 さらに毎日うまいご飯作って、掃除して、家事までしてくれてるの??


 これは大切にしないとバチがあたるな。


 ……自分の幸福すぎる状況を再認識した頃、


「こーた、ただいまあ……」


 少しまだ赤い顔をしたパジャマ姿の美桜が戻ってきた。


「おかえり、美桜。ごめんな? 風呂上がりだと思わなくてドア開けちゃって。俺……呼ばれたと思ったんだけど……違った??」

 

「う。い、いいの。いいんだけど……。よ、呼んでたんじゃなくて、……こーたの名前呼ぶ練習してた、とか……恥ずかしくて言えない」


「え?」


「うー、美桜、こーたの彼女として、ちゃんとこーたの名前上手に呼べるようになりたいなとか思って……」


「何それ、可愛い」


 そんなこと言いながら照れて赤くなってる美桜が可愛すぎて、思わず美桜を抱きしめた。


「きゃっ、うう、もおお、ごしゅじんさま、急に抱きしめないで」


「美桜美桜、またご主人様呼びになってる」


「え、え、え、うー!! 練習したのにー!!」


 俺に抱きしめられながら、赤くなって照れてる美桜がたまらなく可愛い。


 しかも風呂上がりですごくいい匂いがする。


 けど。


「……あれ? ……なんか……こーた、汗の匂いに混じって凛ちゃんの匂いする……」


 美桜のその言葉に、一瞬にして凍りついた。


 あ、あの時だ。大泣きする凛をしばらく抱きしめて撫でてたから……


「え、あ……棚とか組み立てて汗かいたから……」


「それは分かるけど……なんで凛ちゃんの匂いするの?」


 ……今さっき大切にしないとバチが当たると思ったばかりなのに。


 美桜は泣きそうな顔になっていて。


 俺、凛だけじゃなくて美桜まで泣かせようとしてる!?


「ち、違う、美桜、泣かないで。やましい事は何もしてないから! 凛が、カーテンにつまづいて転びそうになって、それを俺が支えて! そしたらそのまま凛が倒れて来たから抱きしめる形になってしまっただけで! そ、それに、凛、“彼女さんによろしく” って言ってたよ、彼女さんといる時は俺、幸せそうな顔してたって!」


 何を焦っているんだろう。やましい事がないのは本当なのに、いつになく饒舌になってしまう。


「……ほんと? ……うん、分かった。でも……やっぱりちょっとだけいやだから、シャワー……浴びてきて?」


 静かにそう言う美桜に促され、俺はシャワーを浴びることにした。

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