第48話 『可愛い彼女』



 凛への返信を終えて、そのまましばらく凛からのメッセージを眺めて物思いに耽っていると、そっと美桜が背中に抱きついてきた。


「ん? 美桜、どした?」


「ごしゅじんさま、今日スマホばかり触ってる。……お仕事?」


 少し控えめな声で言ってくる。


「ん、ああ、ごめん、凛と話してた」


「りん??」


「妹なんだ。今日引越しの挨拶に来て、夕方にもお菓子持って来た子」


「……うん。そばにいたからなんとなくそーかなーとは思ってた。でも……美桜、ちょっとだけ、寂しいなー?」


 俺の背中に抱きついたまま、美桜がそんな事を言う。


「ごめんごめん、美桜、おいで」


 そんな美桜に、俺の膝に来るように促した。


 すると美桜は少し嬉しそうな顔をするから、抱きしめながら頭を撫でた。



「……りんちゃんも、ごしゅじんさまの事が好き?サンも……ごしゅじんさまのこと好きだったから、不安になっちゃうな。美桜は、このままずーっとごしゅじんさまと一緒に居たい」


 美桜がそんな事を言うから、


「俺も美桜とずっと一緒にいたいよ。凛がさ、『彼女さんによろしくね』って」


「かのじょさん??」


「美桜のこと」


「“かのじょさん”って、なに??」


「うーん、なんだろうなあ、お互い好き同士で、大事ってことかなあ?」


「美桜はごしゅじんさまの彼女さん?」


「それでいい?」


「……なんでだめなの? 美桜、ごしゅじんさまのこと、だーいすきだよ」


「俺も。美桜のこと大好きだ。……じゃあ、俺は美桜の彼氏って事でいい?」


「かれし?って、何?」


「お互い好き同士の二人の、男の人側のこと、かな」


「それは、ごしゅじんさまも美桜のこと大好きって事だよね?」


「そう」


「それは……嬉しすぎですね?」


「なんで急に敬語なの」


「えー、わかんなーい。ごしゅじんさま大好きって事だよ」


「……そっか。じゃあ、美桜、キスしよ?」


「……うん」



 俺が美桜と唇を重ねた後、美桜はまたなんとも言えない嬉しそうな顔をした。




 そんな美桜が可愛くて……


「美桜? ……俺のこと、『ご主人様』じゃなくて、『浩太』って呼んで」


 そんな事を言ってみた。


「えっ……ごしゅじんさまって呼ぶのは……だめ?」


 そしたら急に美桜が真っ赤になってて。


「んー、うん。だめ。俺を名前で呼ぶのは、いやか?」


 そう聞いてみると、


「……いやとかじゃなくて、なんだろう、ちょっと、照れると言うか、恥ずかしいと言うか」


 真っ赤になってあたふたしている美桜が可愛い。


「呼んでほしいな?」


 そんな美桜に俺がそう言うと、美桜は少し覚悟を決めた様な顔をしてから


「……こ、ここここここここ、こ、こーた」


 そう言ってから、めちゃめちゃ照れた顔をした。


 まるでニワトリみたいだな? なんて事、その時の俺は思う余裕もなくて


「何? 美桜。好きだよ」


 そう返事してから言うと、


「美桜も。こー、た、すき。だいすき」


 また茹で上がりそうなほど真っ赤な顔をして美桜が言った。


「美桜、俺も、好き。世界の誰より大好きだ」


 そして俺はまた美桜を抱き寄せキスをした。


 それは“世話係“ としてではなく、 “教育係“ としてでもなく、ましてや“主人“ としてでもなく。


 美桜の恋人として。

 俺の可愛い彼女へのキスだった——。

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