第39話 『セミプロポーズ』


「ごしゅじんさまーおはよー」


 美桜の声がする。


「ん、おはよー。うあーねむい」


 大きくあくびをしながら美桜を見る。

 すると美桜は少し困り顔で。


「ねぇ、美桜……昨日、なにかやらかした?」


 そんな事を言う。


「ん? なにかって……どした?」


 昨日のこと……覚えてるのだろうか。



「……美桜、パジャマ着てたのになーと思って」


 なるほど……昨日美桜はコーヒーで酔って童貞を殺すセーター姿になったまま寝てしまったけど、覚えてないようだ。



「……覚えてない?」


「うん。覚えてない」




「そっか、ならいい」


「えーなになになにー?」




「いや、可愛かったよ?」


「えー! だからなにー美桜なにしたの?」




 本当に覚えてないらしい。

 ……俺と、キスしたことも。




「んー、コーヒー飲んで……酔っ払った?」


「え? こーひー? よっぱ? どゆこと?」


「ナイショ。とりあえず美桜はコーヒー禁止な?」


「えー、わかんないのに禁止とかやだ」




 それもそうかと思いつつ、言っていいものかとも少し悩む。


「うーん、……昨日、美桜が起きてきて、サンにヤキモチ妬いてた」


「ヤキモチ?」


「うん、ヤキモチ妬いて……俺にキスしたって言ったら、信じる?」


「え、う、え、どっち? ほんと? うそ?

え、どっちー!! 美桜わかんないよ、うう」


 

 美桜が頭を抱えて困り出した。



「ごめんごめん、何もなかったよ。ほら、朝だし着替えておいで」


 やっぱり……美桜が酔っ払ったことも、キスしたことも、なかったことにしよう。



「……んー、ねぇ、ごしゅじんさまは、この服、好き?」


「え、えーっと……目のやり場に、困る、かなあ」


「そっか。ごしゅじんさま困らせたくないから、美桜お着替えしてきまーす!」



 美桜は明るくそう言うと、洗面所へと消えて行った。


……なんだよ、俺があの服好きって言ったら……美桜は何する気だったんだよ。



 その先は考えないことにして、俺は朝ごはんの用意をすることにした。最近ずっと美桜が作ってくれてたけど、頼ってばかりも悪いし。久しぶりに俺が作ってあげたくなった。



「美桜ー、朝ごはん、卵焼きと目玉焼き、どっちがいいー?」


「え? あれ? 今日はごしゅじんさまが作ってくれるの?」


「うん。たまには。俺も何かしたくて」


「んー。やっぱり美桜、昨日何かしちゃった?」


「それは気にしなくていい。俺がしたいだけ」


「んー!」



 美桜は少し拗ねたような甘えたような声を出しつつ、ハムエッグが食べたいと言うのでそうする事にした。


 ジュージューとなるフライパンを眺めながら立っていると、着替えを終えた美桜が来た。


「美桜……昨日ごしゅじんさまとちゅーする夢見た」


 唐突にそんなことを言う。


……夢と現実、ごっちゃになってるのかな。



「ふーん。それで?」


「えっと……美桜、すごく幸せだった」



……美桜は、起きてる時でも俺とキスしたら幸せなんだろうか。



「そか」


「……でも、夢だったから、ちょっと、悲しい」


「え、なんで?」


「……やっぱり美桜、サンに嫉妬してるかも。ごしゅじんさまのちゅー、美桜も、欲しい……。たまに、夢に見るの。なんか……悲しくなる」



 少し美桜が泣きそうになっているように見えた。


「美桜……?」


「でも、美桜、猫のお耳あるから……ちゅーしたら、ダメだよね。……だから、頭撫でて」



……美桜は自分の頭を撫でてと言わんばかりに差し出した。


 なんか、そのしぐさにたまらなくなって、俺は美桜の頭を撫でた。


「美桜、俺、美桜も、美桜の猫耳も、好きだよ」


 撫でながら言う。


「……美桜も、ごしゅじんさま好き。大好き。お嫁さんに……なりたい」


 美桜も、俯いて撫でられながらそう言った。


 そんな言葉を言われたら、なんかもう、腹の底から何かが込み上げてきて。


「じゃあ……美桜がもう少し大人になったら、俺のお嫁さんになってくれる? その時猫の耳はあってもなくてもいいから」


 たまらず言った俺の言葉に


「ほんと??」


ちょっと泣きそうになりながら喜ぶ美桜が可愛くて。


 うわ、ダメだ、可愛い。キスしたい。昨夜のキスがなかったことになってるなんて、なんか嫌だ。


 さらに込み上げてくる気持ちが抑えられなくなって。


「……美桜、キスしていいか? いつか俺のお嫁さんになるって、予約させて」


……そう言う俺の言葉に驚いたような顔をしてから、美桜はこくんと頷いて俺に抱きついた。


「美桜、こっち向いて……」


 静かに俺の方を見上げた美桜の唇に……俺はそっとキスをした。


 美桜はむず痒そうな恥ずかしそうな赤い顔をして


「美桜……ごしゅじんさまと、ちゅーしちゃった。へへ。嬉しい」


 そう言って、自分の唇を両手で触れながら、子供みたいに笑った。



……あーあ。ずっと我慢してたのに。やっぱりしちゃったじゃん。俺……この先我慢できるか、自信ないんだけど。






―― 第一章 【1章完結】SS級美少女が毎日ベッドで甘えてくるようになったけど…無垢過ぎて手が出せないのだが 完 ――


 ここまで読んでくださりありがとうございます!第一章、ここで完結となります。

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 そしてまだまだ二人の物語は続きます。ぜひこの先もお楽しみいただけると嬉しいです。


 空豆 空(そらまめ くう)

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