第38話 『誘ったの、美桜の方だからな』

 目の前にいるほろ酔い状態の美桜は、童貞を殺すセーターを着ていて。それはむしろ俺の知っている進化版。


 胸元が大きく開いていて……そこからは美桜の大きな谷間が存在感マシマシで覗いていて。


「さっき見てたほんにのってたのー。ねー、ごしゅじんさま、ドーテー? これきてたら美桜のこと、すきすきになる?」


「ちょ、美桜、え、まって、それは、さすがに……」


 破壊力! 破壊力やばすぎなんですが!


「ねー、ごしゅじんさま? どこ見てるの? 美桜のおっぱいばかりみてないで、美桜のお顔みてよー」


 そう言う美桜に俺は両手で顔を挟まれ、美桜の顔の方へと向けられた。

 

 え、なに、これ……、美桜に顔抑えられて見つめ合ってる。それも至近距離。


「あ、えっと、その……』


 何か言おうとするがうまく言葉にならない。


「……みお、なんかちょっとへんなきぶん。ちゅーしたい」


「え、まって、ちょ、え、……美桜、聞いてる?」


「んー? なぁに? 聞こえなーい。ほら、聞こえなーい」


 美桜は、いたずらな顔を浮かべて、俺の両耳を塞いだ。


 それ、聞こえないの、俺の方!!……と、思いつつ。


 美桜は俺の両耳を塞いだまま……


 その柔らかな唇を、俺の唇に重ねた。


「!!」


 美桜に軽く聴覚を奪われ、柔らかな手で拘束されてる俺は、なんかもう……抵抗も出来なくて。


 美桜の唇に触れる俺の唇が……もう、溶けそうなほど気持ちよくて。


 うっすら開いた俺の目から見える美桜の表情は、すごく……色っぽくて。


 俺の唇から唇を離すと、へらっと嬉しそうに笑って、俺の両耳を塞いでいた手を解いた。


「だーって。サンばっかり、ずるいんだもーん」


 ……美桜からのキスは、サンみたいに激しいものじゃなくて、ただ唇を重ねるだけだった。


 けど、何倍も……気持ちいい。耳を塞がれていたからかもしれないし、美桜の唇が特別柔らかいからかもしれないし、……俺が、好きな相手だからかもしれないけれど。


 ……はあ、もう、無理。俺……なんかもう、骨抜きにされた気分なんだけど。


 けれど美桜はまだ止まらなくて。


「ねー、ごしゅじんさま? 美桜、悪い子しちゃったから……お仕置き、する?」


 そんな事を言う。


 前に俺が美桜に首筋にキスをされたのを仕返しした時に言ったそれ。


 俺からも、キスしろと?


 ……そんなことしたら、俺、襲っちゃうよ?


「ねえ、ごしゅじんさまからは……だれかにちゅーしたこと、ある?」


「いや、ない……けど」


「じゃあ、美桜、ごしゅじんさまのはじめて、ほしーいなー」


「え」


 「……美桜、ちゅーしたの、ごしゅじんさまがはじめてだよ?


 でも、まだされたことはないから……


 美桜のはじめて、ごしゅじんさまがもらって?」



 ……え、もう、無理なんだけど。



 こんな……迫られて。こんなこと言われて、目の前には大好きな子が童貞を殺すセーター着てて。


 散々待たせてキスねだられて……しないとか、ある?


 ないだろ。


「美桜、好き。こっち向いて」


 ……気付いたら俺は、美桜の顎に手を掛けて、美桜の柔らかな唇に、俺のそれを重ねてた。


 美桜は咄嗟に俺の服を掴んだけど、その手には力が入ってなくて。



 ただ、唇を離したあと、小さな小さな声で、


「ごしゅじんさま……だいすきぃ……」


 そう言って、カクッと俺にもたれかかった。


「美桜?」


 美桜は俺に身体を預けてスースーと寝てしまってて


——ポコン


 その時俺のスマホに部長からの催促のメッセージが届いた。


『おーい、終わったか? データ送って』


 その瞬間、サーッと血の気が引く。


 やっば、早く送らなくては。


「美桜、ごめん、マジであと少しだからっ!!」


 俺はそのまま俺の方に頬を寄せて眠る美桜の体温を感じながら急いで部長にデータを送った。



「終わった——!!!! なんなんだよ、これ、全然……仕事した気がしない。……美桜の、バカ。ほんと……どこまで俺を惚れさせるんだよ」


 それにしても。コーヒー飲んで酔っ払うとか思わなかった。ネットで検索してみたら、猫はコーヒー飲むと興奮してしまうみたいだけど……それが美桜の場合は酔っ払ったみたいになるのか。


 ……まったく、美桜ならではだな。


「美桜ー仕事終わったからベッド行くぞー?」


 声をかけるものの美桜はすっかり寝てしまってて。


「もう、仕方ないなあ……こんな格好で……眠りこけないでくれ」


 そーっと美桜をベッドに下ろしてみるが、相変わらずやっぱり降ろされたまんまの形でスースーと寝ていて。



 無防備にもほどがある。


……なあ、今まで襲わなかった俺、めっちゃ偉いよな?


 もうそろそろやばいんだけど??


 


『ねーごしゅじんさま、ドーテー? これきてたら美桜のこと、すきすきになる?』


 こんな目の前で俺の大好きな子が、こんな服着て寝てたら、すきすきどころじゃないんだけど?


「誘ったの、美桜の方だからな」


 俺は眠る美桜の唇に、そっとキスをした。


 そして美桜の頭を撫でて、美桜に布団を掛けると


「あー、それにしても疲れたー!!」


俺も布団に入って美桜を抱きしめて眠りについた。


 いつも、俺からは抱きしめないようにしてたけど、それくらいは……許してくれる、よな。


 ああ、もう、好き。すきすき通り越して大好き。


 大好き通り越して……爆発しそう。

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