第2章 俺の周りの美女たちが賑やか過ぎて困る!(仮)

義理の妹 凛の登場!

第40話 『義理の妹・凛登場!』


——ピンポーンピンポピンポーン


 日曜日の昼下がり、突然けたたましいインターホンが鳴った。


「なんだ?? ちょっと見てくるから、待ってて」


 美桜にそう言って玄関まで向かう。


「はーい? どちらさ……ま」


 扉を開けながら、言葉に詰まる。


「やほー! お兄! 久しぶりー!」


 そこに居たのが、妹だったからだ。


「え、りん……どした? 急に……」


 凛は、妹とは言っても義理の妹。ここしばらくは会っていない。


「えーっと、お引っ越しのご挨拶に来ましたあ! お隣に引っ越してきたので、これからよろしくお願いしますっ」


 ………はぁ?????????



 一瞬、脳が思考停止した。は?? 引越し??

お隣?? 久しぶりに会って言う言葉がそれ??

今日って……エイプリルフールだっけ……


「……なんだ、凛、なんの冗談だ」


 淡々たんたんと聞くが、凛も飄々ひょうひょうと答える。


「えー、冗談じゃないよ? お兄のお隣に引っ越してきた! 今日からよろしくねー! で、お兄今日ヒマ? ヒマなら引っ越しの荷解き手伝ってっ」


 はあ???? 意味が分からない。よりによってなんで俺んちの隣に引っ越してくるんだよ! 俺、妹には嫌われてるはずなんだが??


「え、いや、急に言われても、引っ越すとか初耳なんだけど」


「だって言ってないもん。初耳で当たり前じゃん?」


「いやいや、そーじゃなくて。え、普通引っ越すとか言わない? いや、言わない方が普通なのか? いや、でも、なんで隣?」


 あまりに突然で、何が普通なのか分からなくなる。


 まあ、それなりの歳だし、兄妹と言っても義理のだし、仲がいいわけでもないから引っ越すとか言わないのは分かるけど、なんで隣なんだよ。


 俺がここに住んでるのは知ってたはずだろ。いや、知ってて引っ越して来たみたいじゃないか。


 俺……凛には嫌われてるのに??



——

————


 凛と出会ったのは、俺が高校二年の時。親が再婚して、再婚相手の父親の連れ子として来たのが凛だった。


 凛の父親は凛を溺愛していたが、再婚したばかりの両親は、仕事は忙しいながらも空いた時間は二人で出掛けることが多く、俺たちは家で二人で過ごすことが多かった。


 俺は……親の再婚に伴って引っ越した新居からも、今までと変わらない高校に通えたので、家の中以外はそれまでと変わらず過ごせていたが、凛は……通う中学が変わってしまった。


 中学三年、多感な時期、それも受験生の夏休みの引っ越しは、俺が想像する以上に負担が多かったのだろう。


 凛は……夏休み明けから通い始めた新しい学校に馴染めず、不登校になってしまった。


 それまでは明るい性格で友達も多く、成績も良かったと義理の父親から聞いていたが、俺が知る凛は……友達もいなくて家に篭り切り。


 勉強する気配もなく、リビングでテレビを見てダラダラと過ごしている事が多かった。


 親が忙しいから仕方ないとは思いつつ、家に食事が用意されていることもほぼなくて、あっても貰い物の類で、現金が置いてあることが多かった。


 俺が一人の時は適当に買って済ませていたが、凛はほっとくとアイスばかり食べてるし、それでは身体にも悪いと思い、俺が作るようになった。


 けど……凛は好き嫌いが多く、口も、悪かった。


 反抗期だったのかもしれない。


 オムライスが好きだと言うから作ってみても


「えー卵破れてるじゃん! あー! ピーマン入ってる。嫌いなんだけど!」


 ゲームを一緒にやろうと誘ってみても


「えーお兄強すぎてキモい。キライ」


 まあ、だいたい嫌がられるばかりで。


 それでも食事は毎日のことだから文句言われつつも俺が作って一緒に食べてたし、凛も話し相手が俺しかいないからなんだろう、突然俺の部屋に入ってきて長居してたり、文句いいつつ俺とゲームしたり、なんだかんだ一緒に過ごすことは多かった。



 けど……俺が大学への進学で一人暮らしを始める事が決まった時。


「え、お兄出てくの? ……お兄なんて大っ嫌い!! 早く出てけ!! もう二度と顔も見たくない!! あーうざいお兄がいなくなってせいせいする!!」


 大泣きする凛に……そんな言葉を言われた。


 やっぱり、嫌われてたんだなあと。大学に進んで一人暮らしをはじめてからは、凛に会うことはなくなった。


 なのになぜ?? 嫌ってる俺なんかの隣に引っ越してくるんだよ。




「えー? いやーお兄いなくなってしばらくしてから始めたバイト先の店長がさ? よくご飯食べさせてくれるから、いつの間にか店長の家に住み着いてたんだけどー、途中からストーカーみたいになっちゃって。実家にいても待ち伏せされててキモくてさあ」


 凛が、事の経緯を話し始めた。


 その時、俺のスマホが鳴った。義理の父親からだ。



『あ、もしもし、浩太君? いやー久しぶりだねぇ。今日あたり、凛が浩太君の隣の部屋に引っ越すから。よろしくしてやってくれよ』


「え、あ、今来てますけど……」


『ああ、そうかいそうかい。早かったねえ。いやー、なんかストーカーに狙われちゃったみたいでさ。ははは。実家も知られちゃってるし、かと言って凛みたいな可愛い子がひとり暮らしなんて心配だろ?』


「は、はあ……」  


『その点、浩太君の部屋の隣なら安心じゃないか。ほら、恵子けいこさんも浩太くんはお兄ちゃんに似て優しくて頼りになると言っているし』


「はあ……」


『まあ、よろしく頼むよ! じゃあ、また!』


「え、ちょ、ちょ………切れてるし」


 そんな感じの内容だった。


 ……はあ、またか。


 その時俺は、"お兄ちゃんに似て” と言う言葉が少しチクリと刺さったが、いつもの事なので気にしない事にした。


 それより……凛がいきなり隣に引っ越してくるとか。なんの冗談だよ。……せめて事前に連絡とかするものじゃないの? ちょっと急すぎて何が何だか頭が追いつかない。


「……ごしゅじんさま?」


 その時、後ろから美桜が現れた。


 え、待って、色々マズイ……


「え? 誰? その人。まさか、お兄の彼女?」


 美桜を見るなり凛が言う。


「いや、違う」


 俺も咄嗟に否定した。


「だよねー? お兄にこんな可愛い彼女なんて出来るわけないもんねー? どーせまだドーテーでしょ?」


「ちょ、うるさいな。こんなところで勘弁してくれよ」


「う??」


 凛と俺との会話に美桜はキョトンとしているが、ひとまず服はお出かけ着に変身しているし、猫耳も帽子で隠れているので安心する。


 けれど、この状況、どうすればいい?? 美桜には妹だと紹介すればいいが、妹には美桜をなんと言えばいいんだ。まさか拾った猫耳少女だとも言えないし、一緒に住んでいると言うのも……


 いや、ま、いいか。めんどくさい。別に凛に気を使う必要はないじゃないか。帰ろ。


「あー、とりあえず、引っ越してきたのは分かったから、じゃあな、凛」


「え、え、うそ、お兄もうおしまい? ひどくなーい? 久しぶりに可愛い妹と再会したのに、もっと何かないの?」


「何かって、なんだよ」


「えー、可愛くなったなあとか、見違えたなあとか、会えて嬉しいよ、とか」


「あー。可愛くなったな、見違えたよ、会えてよかった。じゃ」


「え、え、え、えー!!」


 俺はそのまま凛の声が響く玄関先から、ドアを閉めた。


「……なんの冗談だよ。あんなに……俺のこと嫌ってたくせに。急に現れて。なんで……普通に話せるんだよ。俺が……どれだけショックを受けてたと思ってるんだよ」


 一応俺は、凛の事を心配してたんだ。元気にしてるかなって。でも、最後に言われた言葉があんな言葉だったのに、普通になんて出来ないだろう。ましてや隣に住む?


 確かに、凛は可愛くなったよ。見違えたよ。会えてよかったよ。気になってたから。

けど……


 ……全く。俺のこと、なんだと思ってるんだよ。


 俺の中に言いようのない感情が込み上げて来て、行き場が分からず埋めいているのを感じ、片手を壁についてこうべを垂れた。


「はあ……」


 言葉にならないため息が漏れる。


 すると、そっと美桜に頭を撫でられた。


「ごしゅじんさま? 大丈夫? そんなつらそうな顔しないで。美桜がいるから」


 その瞬間、ほっとするような、気持ちが和らぐのを感じる。


「ん、ああ、美桜。ありがと」


 俺はそのまま美桜に撫でられていた。

 


「美桜ねー、ごしゅじんさまに頭撫でられると、いつも安心するんだー。だから、今日は美桜がごしゅじんさまの頭なでなでするね。ね、気持ちいい?」


 美桜は何があったと聞くこともなく、そんな事を言う。


「ああ、気持ちいいよ。美桜」


「へへー、よかった」


 俺は、今、この部屋で美桜と住んでいる。

 それは、すごく幸せな時間。


 それが壊されてなるものかと、この幸せを噛み締めるのだった。

 

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