最終話 『賑やかな笑顔に囲まれて』
そうして迎えた次の日曜日。念のために美桜の帽子はカバンに忍ばせたまま、2人一緒に玄関の外へ出た。すると外階段を上がって来る凛と会った。
その手の中には一匹の猫が抱っこされていて。
「え、サン!?」
「にゃーん」
猫の姿のサンだった。
どうやらサンは、よくアパートの近くでこっそりと俺たちの様子を眺めていたらしく、そんなサンを見かけていた凛が、寂しそうなサンの様子になんとなく自分を重ねて、よく話し掛けていたらしい。そしてある日、『うちの子になる?』と話し掛けてみると、サンがすり寄ってきたから、拾って帰ることにしたんだそうだ。
俺はてっきりアパートで猫は飼えないと思っていたのに、凛はあっさりとアパートの大家さんに許可をもらっていて。
それだけでも驚いたのに、その日の夜。ピンポーンと人間の姿になったサンが俺の家にやって来たからさらに驚いた。
「コータ、サンね、凛ちゃんのおうちで猫として暮らすことにしたんだ。だから、人間になるのは今日でおしまい。近くの大きな公園でね、お兄ちゃんに会ったんだよ」
サンが言うお兄ちゃんとは、美桜とサンと三つ子で生まれた実の兄の事。名前をラードと言い、美桜が生まれた国の王子として育てられている。
実はアパートの傍にある大森猫國伝公園の中にある小さな神社は、美桜が生まれたネコピト王国に繋がっていて、俺が狐の像だと思っていた狛犬は、猫の像だったらしい。
そうしてサンがお兄ちゃんから聞いたという話によると、美桜もサンも、人間界に捨てられる前に、完全な猫になる薬を飲まされたらしい。
けれど美桜はたまたまそれを途中で吐き出して、サンはそのまま飲み込んだ。
それが、美桜とサンの人化した時の違いの理由だったらしい。
本来ならすぐに効くはずの薬だった。だから飲ませた家臣も油断していた。
けれど美桜もサンも王族の娘だったから、思いの他、人化する力が強かったらしい。
けれど大人になるにつれて、身体は猫か人のどちらかに安定してしまう。本来ネコピト族は大人になると人の身体に安定する。だから猫化の薬を吐き出した美桜は人に、飲み込んだサンは猫の姿で安定したようだ。
「サンね、もうずいぶん人の姿にはなれなくなってたんだ。でも、お兄ちゃんに会った時にお願いしたの。もう一回だけ、人の姿にしてって。ちゃんと、コータとお姉ちゃんに、おめでとうって言いたいからって」
その時点でのサンの言うおめでとうは、俺と美桜の結婚のことではなく、二人の仲を祝福するという意味だったのだけど、サンは俺と美桜におめでとうと言ってから、とあるお願いをしてきた。
「コータ。お願いがあるの。私に……お姉ちゃんみたいな名前を付けて。サンって名前は、ただの三番目って意味でしかないから。サン……ずっと前からコータに名前、つけて欲しかったんだ」
その時、サンと美桜の髪が風にサラサラっと揺れた。あぁ、二人は姉妹なだけあって、似てるなぁとふと思った。
「
突然思いついた名前だった。けれどサンは思いのほか気に入ってくれたみたいで。
「うん!! 今日から私は猫のサラとして生きていく!! だからコータ、これからも、よろしくね。お姉ちゃんの事も、凛ちゃんの事も、そして、サラのことも!!」
そう言い残すと、桜良はあっさりと猫の姿に戻ってしまった。
そして俺は桜良を抱いて、美桜と一緒に凛の部屋のインターホンを押す。
「凛―。おまえんちの猫、連れてきたぞ。サラって呼んだら鳴くから、サラって名前にしたら?」
「え、そうなの? ニャンコリンって名前にしようと思ってたのに!」
「え……?」
「ねーニャンコリン?」
「…………」
「なーサラ?」
「にゃーん♡」
そんなやり取りをして、めでたくサンは桜良として凛に飼われることになった。
そのうち、凛は桜良を連れてたまに俺の部屋に遊びに来るようになって。
いつの間にか美桜と凛と桜良が俺を取り囲んで雑魚寝するようになっていた。
けれどもう、凛も桜良も俺の気持ちを自分に向けようとはしなくなっていて、時に騒がしくも、平和に穏やかな日常が過ぎていく。
そんなある日、凛とは逆隣の部屋に誰かが引っ越してきて、俺の部屋に挨拶に来た。それは、以前電車の中で会い、その後スーパーの中で美桜をスカウトしてきたファッションデザイナーの桐沢玲奈さん。事務所兼自宅として俺の隣の部屋に引っ越してきたらしい。
まさかの偶然に驚きつつも、桐沢さんが隣になったことで、美桜は桐沢さんと仲良くなり、美桜は桐沢さんのところでちょこちょことモデルや事務の仕事をするようになり……。
ある日美桜がモデルとして大森猫國伝公園で写真撮影をしていると、貴族のコスプレみたいな格好の男の人が現れて、『ニィ!』と呼び掛けられ、それが実の兄だと知るのだが。
いつの間にかネコピト国からよく脱走してくるラード王子のサボり場が、俺の部屋になっていって。そしたらラードの
美桜と二人静かに暮らしていた俺のアパートの一室は、どんどん賑やかになって行った。
◇
そして、そんな賑やかなメンバーに囲まれて――
良く晴れた吉日の日曜日。俺と美桜は、大森猫國伝公園の中にある小さな神社で結婚式を挙げた。
そこは、美桜が捨てられて猫として俺と出会い、そして人の姿になった美桜が、再び俺に会うために辿り着いた場所。
今日は綺麗な桜に囲まれて、賑やかな声で溢れ返っている。
「おにーちゃん!! おねーちゃん!!」
「
「美桜ちゃん、浩太さん」
「ニィ!! コッタ殿!!」
「ミオ様、コッタ様」
みんなそれぞれ俺たちの呼び方は違うけれど、最後の言葉は一斉に。
「結婚、おめでとうっ!!!!!!」
まだまだ俺達はこの先も、この賑やかなメンバーたちに囲まれて、二人幸せに、暮らしていくのだ――。
――拾った美少女には猫耳ついてて、俺の嫁になりたいらしいのだが、毎日可愛すぎて困っています。(完)
――――――――――――――――――――――
ここまで読んでくださった全ての方々、ありがとうございます。
しばらく更新が止まって未完のままだった今作ですが、こちらで完結となります。
本当は、もっと執筆力が上がってから、もっと話数を使って詳しく更新していく予定でしたが、『そんなの一体いつになるんだよ』ということで、一旦速足ではありますがこのような形にて、完結させることに致しました。
『いらない子』として親に捨てられた美桜と、自己肯定感が育たないまま大人になった浩太が出会うことで、お互いにかけがえのない存在となり幸せになる物語として書いた今作品。少しでも誰かにとってお楽しみいただけるものになっていたら嬉しく思います。
その時は、ぜひ、★でのエールをいただけたらとても励みになります! ★★★だとさらに嬉しいです!!
現在連載中の作品や、他の作品ともども、これからもよろしくお願いいたします。
(コレクションにおすすめ順で並べています)
空豆 空(そらまめ くう)
【完結】拾った美少女には猫耳ついてて、俺の嫁になりたいらしいのだが、毎日可愛すぎて困っています。 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711
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