第62話 『プロポーズの言葉』
「美桜、そろそろ……寝よっか」
美桜と何度もキスした後、美桜を抱きしめたまま声を掛けた。
そうして美桜と一緒にベッドに入ると、やっぱり美桜は俺に強く抱きついてきて、そのまま上目遣いで俺を見つめて目を閉じた。
それはまるでキスの続きをしてと言っているようで、俺は何も言わずに美桜の唇にまたキスを落としていく。
「ん……こーた、すき……」
時々漏らす美桜の甘い声と吐息にどんどん止まらなくなってきて。
少し前までは俺の名前を呼ぶのもたどたどしかったのに、随分上手になったのは、俺の彼女として俺の名前を呼べるように風呂場で練習していたからで。
そんな事を思うと、さっき見てしまった美桜の素肌を思い出して、いつにも増して香る美桜の髪のにおいに、胸が高鳴った。
「美桜。俺も、好き……」
そう言って美桜の髪に触れると、指先が美桜の猫耳に触れた。
なぜか分からないけれど出会った頃より小さくなった猫耳が愛おしくて、俺はそのまま猫耳を撫でながらキスの続きをした。
「んっ、……んんっ」
すると美桜の身体が少しピクッとして、声とも息とも言えないような、甘い声を漏らして身体を跳ねさせた。
あぁ、そうだ、美桜は耳が弱かったんだ。
いつかの美桜とのキスを思い出して、あの時はキスの先にある行為を俺は堪えたんだと思い出す。
けれど美桜は俺の彼女で。キスするのにも慣れてきて。あの頃よりも、美桜は随分大人になった。
もう、いいんじゃないかな。いい、よな。
俺の中で押さえていた気持ちが膨れ上がってきて、もう抑えられなくなっていた。
「美桜……愛してる」
「……美桜も。こーた、あいしてる……」
俺の言葉に言葉を返す美桜がたまらなく愛おしくて。
俺から強く押し付けた唇に、美桜も唇を強く押し返してきたから。
「美桜……美桜のカラダ、俺にちょーだい」
そう言って、美桜の首筋にキスをした。
そしたら美桜は、ピクッと身体を跳ねさせながら……
「全部。美桜の全部、こーたにあげる」
そう言ったから。
俺はそのまま、優しく美桜の身体を抱きしめた。
――いつの間にか2人、素肌のまま眠っていて、朝が来た。
差し込む光に目が覚めて、俺の腕枕で眠る美桜を見てみると。
そこにあったはずの猫耳は消えていた。
まさかと思って美桜の髪を撫で上げると、そこにはさも最初からそこにあったかのように可愛い人間の耳がついていた。
――『美桜、ごしゅじんさまのお嫁さんになりたい! 猫の耳なくなったらお嫁さんにしてくれる?』
――『んー、そうだな。その時美桜がまだ俺のお嫁さんになりたいと思っていたらいいよ』
それはまだ美桜が俺をご主人様呼びしていた頃の約束。けれどあの時の俺は、こんな可愛い子に俺が釣り合うはずはないと思っていて、猫の耳がなくなる日が来ることも、想像も出来なかった。けれど、もしもそんな日が来たとしても、その時美桜が選ぶのは俺じゃないと思っていた。
――「じゃあ……美桜がもう少し大人になったら、俺のお嫁さんになってくれる? その時猫の耳はあってもなくてもいいから」
けれどそれがだんだん、“猫の耳がなくなる” という、来るか来ないか分からない未来じゃなくて、“いつか大人になったら” という、いつか来る未来に向けて約束するようになっていて。
それは美桜と一緒にいるうちに、俺は美桜じゃないとダメで、美桜にとっても俺じゃなきゃダメだと思えるようになっていたから。
そして、今、美桜は俺の彼女で、あの頃よりずっと大人になっていて、俺はこの先もずっと、美桜と生涯を添い遂げたいと思う。
後は……いつ、美桜にプロポーズするか。
プロポーズするなら、最高の指輪を用意してあげたい。
美桜はどんな指輪が好きだろう。指のサイズは……どのくらいだろう。
さりげなく一緒に出掛けた時に、探りをいれよう。
そんな事を考えながら、美桜の小さくてかわいい色白な耳にそっと話しかけた。
「美桜、おはよう。朝だよ」
すると美桜は寝ぼけながらはっきりと……
「浩太、おはよー」
俺の名前を呼びながら、微笑んだ。なんだかまた、美桜が一段と大人になったような気がする。
「ふふ、おはよ、美桜」
「へへー。おはよー浩太。美桜ね、幸せな夢を見たんだよ。神様が、美桜のお耳を人間のお耳にしてくれたの。それでね、……浩太の、お嫁さんになるの」
美桜が言う神様の話には驚いたけれど、案外本当に神様が現れたのかもしれない。
「美桜は今も俺のお嫁さんになりたい?」
「え? うん! もちろんだよ?」
「そっか。じゃあ――、次の日曜日、その時のために指輪、見に行こっか」
「うんっ!」
思えば俺にはサプライズなんて向いてなかったのかもしれない。
もっとさりげなく、美桜の指輪の好みや指のサイズを探るはずだったのに。気付けば指輪という言葉を口に出してしまっていた。
それでもまだ、プロポーズは指輪を用意してから、そう思っていたのに――。
「こーた、こーた、こーた、こーた!!!!」
顔を洗いに洗面所に行った美桜は、自分の猫耳がなくなっていることに気付いたらしく、大騒ぎで俺の元に走ってきて、俺に胸に飛び込んだ。
そんな美桜を受け止めて、俺が美桜の髪を撫でると、美桜は俺を上目遣いで見つめて“気付いていたの?” と言うような顔をしてから。
「美桜……浩太のお嫁さんになりたい」
強い意思を感じる瞳で俺をまっすぐに見つめて来たから。
俺はあっさりと答えてしまった。
「うん。美桜、俺と、結婚しよっか」
本当は、もっとサプライズ的にプロポーズして喜ばせたかったのに。
そう思ったけれど。
「うん!!」
美桜はこれ以上の幸せはないとでも言うように、両目からたくさんの涙を溢れさせながら、真っ赤になった顔を俺の胸に埋めて、力強く抱き着いた。
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