分岐点
第46話 『散歩(大森猫國伝公園)』
「美桜、ちょっと散歩でも行こっか」
なんとなく外を出歩きたい気分になって、美桜に声を掛けた。
「え? うん! 行くっ」
美桜も嬉しそうな弾んだ声で返事をした。
特に行きたい場所もないので、手軽に近所の公園……美桜と再会した大森猫國伝公園に行くことにした。
この公園は相変わらず綺麗に整備されていて、木々の新緑が美しい。
日曜日と言うこともあって、公園内の広場で遊ぶ家族連れや、公園内に植えられた花の写真を取りに来た老夫婦、スワンを楽しむカップルなどで賑わっていた。
「ねー、ごしゅじんさま、なんかいい匂いするー!」
「ああ、売店の匂いかな。せっかくだし何か食べる?」
「食べたい食べたい!! どれにしよっかなー」
美桜は売店前に並べられたメニュー写真を見ながら、わくわくとした表情で何にするか悩んでいる。
ここの売店は意外とメニュー豊富で、ポテトや焼きそば、ソフトクリーム、ホットドッグなど、いろいろな種類がある。その中で美桜はフランクフルトを選んだので、俺もそれにすることにした。
「よし、美桜、じゃあ、フランクフルト二本買ってきて。買い方は……大丈夫そうか?」
「うん! 大丈夫! “有料のレジ袋” は……いらない?」
「ああ、今回はレジ袋ないかな。フランクフルト二本下さいって店員さんに言って、お金を渡したら商品を渡してくれるから、受け取ったらいいよ」
「あれ? 商品持って行かない? ……わかった!! じゃあ、美桜行ってくる!!」
コンビニやスーパーでの買い方とは少し違う事に戸惑いつつも、意気込んで行った美桜を後ろから見守る。
もしも美桜が普通の女の子なら、俺が買いに行くところだが、美桜は見た目普通の女の子なのに、売店で何かを買うことさえはじめてなんだよなあ。
過保護にならない範囲でいろいろなことを経験させてあげたいなと思う。
しばらくすると、嬉しそうな顔をしてフランクフルトを両手に持つ美桜が戻ってきた。
「ごしゅじんさまー! 買えたよおおお!!」
「おお、えらいぞー美桜」
「フランクフルトのおじさんがね、今日は特別美味しい二本をあげようって言ってくれたからね、この二本は特別おいしいやつだよー! へへ、嬉しいな」
相変わらず美桜は嬉しそうで。その笑顔見てたらさらにフランクフルトが美味しくなりそうだと、くすりと笑みが溢れた。
「そうかあ、それは美味しそうだなあ。ベンチに座って食べようか」
「うん!!」
売店側にあるベンチに座る。
フランクフルトと共にもらったケチャップとマスタードが
「こうやって、パカって折りたたんで押すとケチャップとマスタードがいっぺんに出てくるんだぞ」
なんて事を教えると、
「え、フタ開けなくていいの? すごーい!」
ケチャップをかけるだけのことを興味津々に楽しんでいて、
あのおじさんの言葉は本当だったなーなんて思いながら、いつもよりおいしいフランクフルトを美桜と一緒に食べた。
食べ終わってから公園内のウォーキングコースを道なりに歩いて行くと、たくさんの花が植えられている開けた場所に出た。
いわゆる映えスポットなだけあって、何やら本格的なカメラ機材で撮影をしている人達がいた。
雑誌の撮影かなにかだろうか。スタイルのいい女性が、数秒毎のシャッターを切る音と共にポーズや表情を変えながら眩しい光を受けて撮影されている。
なんとなくその光景に目を奪われていると、そのモデルと思わしき女性と目が合った。
「え、あれ??」
「……あっ!」
その瞬間、俺とそのモデルの声が重なった気がした。
そしてそのモデルと思わしき女性はカメラマンに手で合図を送ると、その場から離れて俺の元へと歩いてきた。
「こんにちは、えーっと……前に電車で会った方ですよね」
俺にそう声を掛けてきたその女性は、以前電車とスーパーの中で会った桐沢さんだった。
「ああ、はい、久しぶりです。びっくりしました。撮影……ですか?」
「はい、そうなんです。私のブランドの服の新作で。イメージに合うモデルさんが見つからないのと、経費削減も兼ねて私がモデルまでしてしまってます」
桐沢さんは笑いながらそう言った。
そういえば前にスーパーで会った時、スタイルのいいモデルを探しているって言ってたな……
そんな事を思う。
「自分のブランドなんて……すごいですね」
「いえ、そうでもないですよ。まだ立ち上げたばかりなので業績もそんなですし……今日だって、撮影スタジオ借りるの高いので、ここで撮影してますし」
「なるほど……、いろいろ大変なんですね」
そんな雑談をしていると、
「あの……その、お兄さんはこの辺りに住んでるんですか? 住み心地とか、いかがですか?」
そんな事を聞かれた。
「ああ、そうですね、この辺りは割と住みやすいですよ。駅もスーパーも近いですし、治安も悪くないですし」
「そうですか。最近この公園で撮影する事も増えて来ましたし、お世話になっている生地屋さんも近いので、この辺りに事務所兼自宅を探そうかと思っていまして」
「そうなんですね。いい部屋が見つかるといいですね」
そんな会話をした後、桐沢さんは
「ありがとうございます。ごめんなさい、また呼び止めてしまって。戻りますね、それでは」
俺と美桜にまた感じのいい会釈をして、撮影へと戻って行った。
撮影へと戻る桐沢さんの後ろ姿を見送ってから
「……帰ろっか」
「え? うん」
家へと帰ることにした。
公園内の元来た道を戻る。
広い公園なだけあって、いろいろな人がいるなあと思う。
「ちょっとー! ラード王子!! お待ちください!! もおおおおおお」
……貴族みたいなコスプレした人までいる。
たしかにコスプレして写真撮るにも打って付けの場所だよな。日曜日だし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます