第57話  『今日だけ……撫でて』


 ……ど、どーしよう。どうするのが正解?


 俺の身体は、凛を支えて尻餅をついていた形から、凛に抱きつかれながら床に仰向けに寝ている状態になっていて。そして俺の右手は……凛の頭を撫でていて。


 脳裏には昨日凛にされたキスが浮かんでいて。急に心臓が……バクバクと音を立て始めた。


「……凛、もしかして、まだ……俺のこと、好き?」


 沈黙に耐えきれず、つい、そんな事を聞いてしまった。すると凛は、泣き顔をさらに赤くして。


「……また凛の事振るくせに。そーゆー事、聞かないで欲しいなー? ばか」


 赤い顔をしながら、小さな声でそう言うと、目を逸らしながら軽く膨れっ面をした。


 どうしたらいいのか分からなくて。


「え、俺……一度も凛の事振った覚え……ないんだけど」


 そう言うのだけど。


「……いいよ、もう。なんか……二番目でいいから彼女にしてって、こーゆー時に言うんだろうな。けど、お兄ちゃんはそんなことしなさそうだから。凛はやっぱりお兄ちゃんの……妹でいたい」


 俺の上に乗りながらそう言う凛は、なんか……弱々しくて。


「え、あ……ああ、もちろん。凛はずっと俺の妹だよ。それは、変わらない。けどなんか……ごめん、な?」


 そう言う俺に


「……謝らないでよ、ばかああ」


 弱々しい声のままそう言うから


 つい……また、頭を撫でていた。


 そしたら凛は


「……ねー。嬉しくなっちゃうから、そーゆー事、やめて欲しいな? 凛……子供の頃からママは入院してたし、そーゆーのに、飢えてるんだよ。けど、甘え方も分からなくて、どーしたらいいのか分からない」


そんな事を言うから。


「嬉しいなら……撫でてたらダメか?」


 そう言うのだけど。


「そりゃ……本心は、撫でて欲しいよ。でも、凛は、お兄ちゃんと彼女さんのこと、応援してるんだよ。だって、お兄ちゃんが……幸せそうな顔して笑ってたから」


……そんなこと言われて、俺はどうしたらいいの?


「あ……じゃあ俺は、どうしたらいい? 凛の彼氏にはなれないけど、兄として、凛に……泣き止んで欲しいんだけど……」


 男気のない俺の言葉に、凛は。


「じゃあ……お兄ちゃん。今日だけ……このまま、泣かせて? 凛……ずーっと好きだった初恋の人に、失恋しちゃった。寂しくて、どうにかなりそうだから、頭……撫でて欲しい」


 そんなこと言われて、嫌だなんて言えなくて。


「……わかった」


 俺はそのまま、俺の胸で大泣きし始めた凛を、抱きしめて撫でていた。

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