美桜とお買い物

第11話 『美桜とお買い物』



 ひとまず大型のショッピングセンターに来た。


 何はともあれとりあえず……服だ。美桜の服を買いたい。

 ここへ来た時みたいに変身させればいいじゃないかと言われそうだが、朝みたいに突然全裸になってて寝起きびっくりさせられたらたまらない。


 そんな事をされたら俺の心臓がもたない。俺の心臓の平穏の為にも、消えないと言い切れる服を着て欲しいのだ。


 女性ものの服屋は行ったことがないが……とりあえず二階か。よし、エスカレーターに乗ろう。エスカレーターは……あっちか。


 そう思った時、何かが俺の裾をピンと引っ張った。——美桜の指先だ。

 

「ごしゅじんさま……早い。置いていかないで」


 振り向くと困り顔の美桜。


「あっ!! ごめん!!」


 考え込むと早足になる上に、女性と歩いた事がないので配慮に欠けていた事に気付く。美桜の服を買いに行くのに美桜を置いていくなんて本末転倒だ。

 美桜の歩幅に合わせてゆっくり合わせなければ……


「ねぇ、ごしゅじんさま。美桜……あれやりたい」


 今しがた美桜を置いて行ってしまった事を悔いていたので、叶えられる事なら叶えてやろう、そう思って美桜が指差す方を見た。

 するとそこには女性ががっちりと男の腕に抱きつきながら笑顔で歩いているカップルの姿。


 ……さすがに無理だ。いや、男としては羨ましい限りだが、あんな事して歩いたら美桜の胸が俺の腕に当たってしまう。それはそれでいろいろ困るのだ。


「う、いや、あれはちょっと……手、繋ぐくらいにしてくれないか」


「えー美桜、ごしゅじんさまにくっつきたかったのにー。でもいいやっ。これでもう置いていかれないもんね。へへ、ごしゅじんさまは美桜のだもーん」


 俺としては精一杯譲歩したつもりだったのだが、なんだこいつ、可愛い。


 俺の左手に伝わる美桜の手の感触は、華奢で、いかにも女性という感じで。女性と手を繋いだ事もない俺にとってはこれだけでも心臓がドキドキしてくる。


 はあ……手繋いだくらいでドキドキしてんなよ、俺。ちょっと今だけは手汗止まっていてくれ。


 くだらないことを思いながら美桜と手を繋いでショッピングセンター内を歩く。ただ歩いているだけなのに、人々の視線が痛い。


“あの子可愛いー”

“モデル? インフルエンサーかなあ?”


 そーだろ、美桜は可愛いんだ。モデルだと思うよな。インフルエンサーだと思うよな。


“隣の男は彼氏か? ありえねぇ”


 男ども、安心しろ、俺は彼氏じゃない。ただの世話係のご主人様だ。


 勝手に心の中ですれ違う人の言葉に返事する。


"うっわ、あの子可愛いー! 胸デカくない?”


 ピキ……


 俺の頭の中で何かがひび割れる音がする。


 あーもう。美桜をそんな目で見るなっつーの! わざわざ目立たないように緩めのニットを選んだのに。スケベめ。そりゃ美桜の胸はデカいけど! 今朝とか生で見てビビったけど……!!


 寝起きに美桜の全裸を見てしまった事を思い出し、勝手に自爆しそうになった時


「ねぇ、ごしゅじんさま。そんな強く握らなくても美桜、ちゃんと付いて来てるよ?」


 美桜のきょとんとした顔。

 

「あ、ごめん、ついつい力入ってた」


 ……自制出来るようになりたい。そう思いつつ、美桜の雰囲気に合いそうな服屋があったので入ってみる。


「美桜、気になるのあるか?」


「んー、美桜あんまりどういうのがいいのか分からない。ごしゅじんさまが好きなのがいい」


 美桜はあまりファッションに興味がないのか、それとも俺に遠慮しているのかそう言うので、俺が何個かピックアップして試着してくるように促した。


 ……予想はしてたけど、美桜は小柄だけど出るとこ出てるので、一見なんでも着こなせそうなのにいざ着てみると着られない服がまあまああった。


 前にボタンがあるものは胸の膨らみでボタンが止められないし、ワンピースなどのファスナーがあるものも物によっては胸の下でつかえてファスナーが閉まらない。胸元にデザインがあるものは胸でデザインが間延びしてデザイン性が損なわれる……


 海外製ならまた違うのかもしれないが、スタイルが良すぎるのもそれはそれで大変なんだなあと少し思ったりしつつ、美桜が着られるものの中から部屋着用とお出かけ用と数着ずつ買った。


 靴や靴下なども買って、ああ、来月のクレジットカードの支払いがすごそうだなと思いつつ、特段、金のかかる趣味もない俺はそれなりに貯めていたので、まあいいかなと思ったりした。


 さて……色々買い揃えたが、肝心なものをまだ買っていない。


 俺が付き添ってもいいのか悩ましいところであるが、俺は朝の教訓を忘れるわけにはいかないのだ。


 そう、下着。


 どんなに服を買ったとしても、全裸にそれと言うわけにはいかないだろう。これは避けて通れない事なのだ。


 ……美桜のブラのカップはいくつなんだろうな。


 などと言う事は考えないようにして、俺は美桜と下着売り場へと向かうのだった。

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