第51話 古のお話
「クロユリ、ちょっといいか?」
拷問を終えての風呂上がりにクロムが部屋を尋ねてきた。
ニーナとアスミナも一緒にいる。
古参メンバーが揃っているから、なにか重大な話なのだろう。
「ええ。いいわよ」
わたしは3人を部屋に招き入れた。
アスミナのレースの寝巻きがセクシーだ。
なんでこんな服で出歩いてるのよ。
……中々のものをお持ちで。
「すまんな」
「いいのよ。それで?話って?」
「龍神人に接触したことがあったかどうか聞きたくてな」
「龍神人?……そいつは強い?」
「化け物だな。かなり強い」
「じゃあ遭遇したことはないわね。わたしが化け物呼ばわりされているくらいだもの」
わたしが手こずったのは黒影を制御出来なかった時くらいだし。
「それでその龍神人?がどうしたの?」
「今後、ニンゲンとの戦争で介入してくる可能性がある」
「どうして?」
「それはクロムさんが自ら封印するに至った原因であり、魔族と人類の和平を無かった事にした者共だからです」
アスミナが補足を入れた。
内容はこうだった。
魔王となったクロムは女神エリア(わたしが殺してしまった邪神)を倒し魔剣ヴィーナに封印した後の話。
魔王クロムはニンゲン側の王女であり聖女で勇者パーティーのアスミナは魔族側とニンゲン側の代表として互いに和平条約を結んだ。
穢れた女神を倒した事によって世界は魔王クロムと聖女アスミナが平和を保つはずだったが、『世界の歪み』は溜まり、新たに魔王と勇者が出現しそうになったらしい。
魔王クロムがいるにも関わらず。
しかしクロムたちはそれを認識できず、突如として現れた4人の龍神人が大量のドラゴンを引き連れて現れ歴史も物も全てを燃やし尽くした。
魔族もニンゲンもほとんどが死に、歴史も消されて今に至る。
クロムは原初の魔王とされているが、実際には女神エリアの守護天使であったサタンが地に堕とされ、女神エリアを倒す為に魔王となった。
クロムは魔王サタンから魔王を受け継ぎ女神エリアを倒したという事らしい。
「僕が自ら封印をしたのは、魔剣ヴィーナに封印した女神エリアの穢れをどうにかするための時間を稼ぐつもりだった。神として正常に機能すればある程度は『世界の歪み』をコントロール出来るようになるかもしれないと思ったからな」
女神エリアを半殺しにして封印したのは失敗だったと反省しているクロム。
やってしまったものはしょうがないし、そもそも世界の仕組みなんてわたしたちは知らない。
わたしなんて女神エリアを殺しちゃったし。
話を聞くに、女神エリアが暴走してこの状況なのだからどうしようもない。
「でも魔王と勇者が現れるのはその『世界の歪み』のエネルギーを消費するためなのでしょう?女神エリアが管理できなかったのなら元通りになるだけよね?」
魔王は歪みのエネルギーをある程度吸い取り、勇者は残ったエネルギーと女神エリアの選んだ人類にお告げとして与えられた力により勇者として力を発揮し魔王と戦う仕組みらしい。
クロムは今回、魔王であるわたしが転生したことによってニンゲン側が勇者を召喚する為に時間と魔力をかなり使っていたはずだと言う。
大臣からも、時間も魔力もかなりかかったと聞いていたし、女神エリアの恩恵がない分ニンゲン側は大変なのだろう。
「『世界の歪み』の処理方法はおそらく幾つかある。ひとつは人類を全て殺す。そうすれば動物や魔物だけの世界になる。その分歪みのエネルギーは溜まりにくい」
なんだか話が難しくなってきた。
わたし高卒ですらないし、まともに勉強なんでできる環境じゃなかったから理解力ないのよね……
「今更だけど、そもそも『世界の歪み』って何?なんで人類殺すと溜まりにくいの?」
「人類は他の動物と違い、思想や念、想いなどの目には見えないエネルギーが多い。もともとの自然災害は神という世界の創造主の怒りだと昔の人類は考えた。そういう事にしてしまった」
そうして妄想上の神は広がり存在を得て世界を管理するようになった。
前世を知っているわたしとしては、自然災害はただの現象だと思っている。
けれど、前世の世界でも自然災害をそういう風に解釈して供物を捧げたり生贄を捧げて大地の怒りをおさめる風習はある。
「元々動物たちですらなすすべの無い自然災害は人類でもなすすべがなかった。しかし魔法が発展し、『世界の歪み』から生まれたエネルギーは自然災害を超える規模になった。魔王や勇者の力は自然災害をも凌駕のはそのせいだ」
「自然災害を凌駕する程じゃ……あ」
……そいえばわたし、黒影と戦闘中に山を消し飛ばしてしまったわね。
よくよく考えると、山が消えるのって、そこそこ大きい隕石が落下して地形が変わったりとかよね。
うっかり戦闘で地図が変わるって、考えてみればえげつないわね。
自分でやったんだけど……
「……人類を滅ぼすってのが解決するひとつというのはわかったわ。他には?」
「膨大な『世界の歪み』のエネルギーを龍神人にどうにか管理させる」
「できるの?それ」
「わからん」
「龍神人はそもそも生物上最強のドラゴンが永きを生きて神格化した存在です。場合によっては女神エリアよりも力があります」
聖女であるアスミナがそういうとなんとなく説得力がある気がする。
聖女がなにかよく分かってないけど。
「さらにいえば、僕達が遭遇した龍神人は四属性の系統にそれぞれ特化していた。噴火を思わせる炎魔法、水災の如き水魔法、全てをなぎ倒すハリケーンのような風魔法、大地を震わせる土魔法」
「なるほど、自然災害レベルの魔法を使えるドラゴン。そんなのが神格化してるなら、それは強いのでしょうね」
そういう存在こそ化け物と呼ばれるべきよね。
わたし程度なんかは可愛いものよね。
孫みたいに可愛がってくれないかしら?
……まあ、可愛がられた事ないから感覚はよくわからないけれど。
「全盛期だった魔王としての僕でもどうにかできたのは龍神人の1人くらいだ。今の僕では無理だが」
「全盛期の力は出ないの?」
クロムは掌の五芒星の傷を指でなぞりながら答えた。
「封印で女神エリアを押さえつけるのに力を使った。さらにいえば、僕の中にいた魔王サタンは自分の魂を代わりに消費して僕の魂を残した」
だからもう全盛期のようには戦えないらしい。
と言ってもレビナスくらいの戦闘能力はあるらしい。
「だから、クロユリには龍神人と渡り合って交渉をしてほしい」
化け物を超える化け物と交渉。
無理では?……
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