第70話 情報提供
会議を終えて、わたしはクロムとニーナ、アスミナとモモを残して話を続ける事にした。
隣にはカトレアもいる。
……ちょっとムスッとしてる。
「ヴィナトの件なのだけれど」
レビナスにタルタエズを攻める準備はさせている。
墜すのはモモに任せるけど、この話はしなければいけない。
「なにかわかったのか?」
クロムがすぐに食いついた。
ニーナもそわそわしだした。
「ええ。モモ、原初の魔王クロムに半吸血鬼となった闇の聖女アスミナ、ヴィナトとクロムに仕えていたニーナよ。ヴィナトの話をしてほしいのだけど」
「原初の魔王……復活されていたのですね」
「わたしが復活させてたの」
「クロユリ様が……。人類に始めから勝ち目はなかったのですね」
人質返還の時に言ってなかったかしら? 言ってなかったわね。
原初の魔王を復活させたって言えば簡単に完全降伏してくれたかもしれないわね……
こほん、と咳払いをしてモモは話し始めた。
「ヴィナト様には
「血炎術式……よりにもよって何故ヴィナトは血炎術式を」
クロムも血炎術式を知っているらしい。
苦い顔をしている。
「あの術式は危険なものだ。僕はかつて女神エリアが選んだ勇者とアスミナを含めた仲間と戦った。一度は戦闘で勝利したが、アスミナの血を啜り魔力暴走して撤退した」
クロムとアスミナが敵対していた時の事を懐かしそうに話しながら、やはりどこか苦しそうに話し始めた。
「その時の私たち勇者パーティーは民から失望されてしまったのです。そしてガードナー司教は血炎術式を私を除く勇者たちに施す事にしたのです」
ざまぁ展開で禁忌に手を出したって感じね。
「血炎術式は大量の血を使うらしい。僕達が知っている術の効果は生贄の血を使い魔力を対象者に与える。あんなものをヴィナトは教えたのか?」
きっとおぞましいことなのだろう。
……まあ、わたしも勇者の末裔使って
「はい。ヴィナト様曰く、血炎術式は主に血を媒介にする術式をそう呼ぶ総称らしく、それを効率よく応用し勇者の末裔を増やして私たち王族は勇者の力となる聖剣を創り魔族との戦いを続けていました」
血を媒介って言うとわたしもやってる事って血炎術式?
黒影とか影狼とか多分そうよね?
……わたしも知らないうちにえげつない術式使ってたわ〜。
なんで使えたんだろう。
「血炎術式についてはわかった。ヴィナトはどこだ?」
クロムがそう聞くとモモは首を横に振った。
「わかりません。ヴィナト様は時々深夜に猫の姿でどこからとも無く現れました。警備もそれなりにしっかりしていたのにも関わらず」
「……猫のような気まぐれさはヴィナト様そのものですね」
ニーナはクスッと笑った。
懐かしそうに微笑んでいる。
「こっそりと王室や公務室に忍び込んでは話をして、そして不意に姿を消すのです。歴代の王の記した手記にもヴィナト様がどこから来るのかなどの情報は皆無でした」
「という事は手がかりなしか」
「はい。ですがヴィナト様はどうやら分身を遣わして私たちに接触していました。ほとんど魔力を感じなかったのです。それこそ。その辺の猫のような」
わたしの黒影は戦闘能力は高いけど、分身を遣わしたのに魔力がほとんどないってどういうこと?
姿形を維持するだけの魔力しか使ってないって事?
クロムはなにか思ったのか神妙な顔つきになった。
「ヴィナトは惑わす霧は使えたが、分身なんか使えなかったはずだ。ニーナ、知っていたか?」
「いえ、私も知らないです。ヴィナト様が分身を使えたらきっと私に悪戯していたでしょうし」
「だよな」
分身使って悪戯って随分愉快な事して遊ぶのね。
「……ヴィナトは僕の腕の中で死んだ。一度死んでいる」
「ヴィナト様も、死んだと話していました」
「復活したが全盛期の頃の魔力は無い。代わりに得たのが分身を使う力? ……いや、吸血鬼なら血を飲めば魔力はどうとでもなるはずだ」
「弱々しい魔力、遣いの分身、クロムたちの所へ帰って来ない。なにかしら理由はあるようだけど、ますます分からないわね」
ヴィナトがニンゲン側に肩入れしたのは魔族とニンゲンを争わせて世界の歪みの均衡を保つ為。
それだけなら魔族側に身を寄せながらニンゲン側にスパイとして暗躍しているのが安全。
魔界の魔王城まで行く力が無くなってしまったとしても、血を摂取して野生の魔物たちが潜むここの世界の魔王城や魔族との接触くらいはできるはず。
けれどそうしない。
「ヴィナトは囚われている可能性が高いわね。血も満足に飲めない状況でニンゲン側に魔族との戦いを続けさせて時間稼ぎをしていた。歪みのエネルギーや龍神の事を知っていたのなら、回りくどい事をしている理由にも一応なるわ」
囚われているが生きている。
生きてはいるが戻れない。
女神エリアがいない世界で龍神の驚異を遠ざける為にニンゲンに肩入れ。
「……ヴィナト様は時々、なにかを待っているような表情をされていました」
ふと思い出したモモがそう呟いた。
「クロユリ様にも興味を示していました。魔王の器、
「わたしへの興味。クロムが復活したらって事は、クロムが死んだのではなく自ら封印した事も知っていたのかしら?」
「たぶん、知っていたんだと思う」
わからないことだらけね。
「今更だけど1つモモに聞きたいわ。勇者の力を持ってたのはグランドルだけ?」
「……おそらくは。ですがヴィナト様がエルバー大公国やタルタエズ王国にも同様の知恵を与えていて、力を隠し持っている可能性は否めません」
「ウィージス教国は?」
教国なんて宗教臭ぷんぷんな国なら、それこそ魔族と対抗するべく力を付けていそうだけど。
「ウィージス教国にはヴィナト様は接触していないでしょう。仮にも吸血鬼です。教国は龍神を信仰する国。元々は原初の魔王が民の目の前で女神エリアを殺した事により、崩壊しかけていた人類に教会側が女神エリアを邪神として龍神にすげ替えたのが始まりなのです」
「縋りたい人なら龍神に信仰を鞍替えしてでも心の安定を得たいわけね」
政治と宗教はろくなもんじゃないわね。
「囚われているとしたらウィージス教国の可能性があるわね。タルタエズ墜したらウィージス教国を潰しましょ」
同時進行でタルタエズと戦ってる間にぽちとたまと黒影にエルバー大公国潰させよう。
「クロム。確証とか何も無いから勝手に動かないでね。うっかりわたしが国諸共破壊しちゃったら死ぬから」
「……ああ」
「クロユリ様、規格外ですものね……」
クロムが苦笑い、アスミナはなにか遠い所を見ているような顔でわたしに言った。
「国取りしながらクロムが念話で探れるようにする為に攻めるのは夜間戦闘。今度は明るい花火を打ち上げなきゃね」
そうしてわたしは話を打ち切って解散させた。
やることは多い。
ヴィナトは龍神や歪みも知っている人物。
今後の事を考えれば救出しておきたい。
「クロユリ」
「なにかしらカトレア」
ずっと黙っていたカトレアが声を掛けてきた。
「少し話があるの」
「ええ。いいわよ」
わたしとカトレアはその場に残って話し始めた。
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