第69話 争い

「今後についてなのだけれど」


グランドル王国を墜した夜。

わたしは幹部クラス以上のメンツを集めて今後の話を始めた。


メンツはわたし、カトレア、レビナス、キャンベル、ヴェゼル、クロム、アスミナ、ニーナ、重要参考人としてモモ。

あとの幹部は知らない。


ちなみにモモには首輪として黒百合のチョーカーを付けさせている。


「まず各隊の被害状況ね」


レビナスからおおかた聞いてはいるけれど、全体で共有しなければいけない。


各隊からの報告はレビナスから聞いたものとほぼ同じ。

加えて現場の報告もあったが、大したことはない。


違うのはキャンベル率いるアンデット隊。

わたしが強化したアンデットに加えて肉塊兵の大幅戦力増強。

キャンベルはニコニコしているようだが、骨なので表情は見た目ではわからなかった。


「とりあえず状況はわかったわ。モモ。ニンゲン側の情報を教えてもらっていいかしら」


わたしがモモにそう言うと立ち上がりたわわな胸を揺らした。


わたくしたちニンゲン側の連合国はエルバー大公国、タルタエズ王国の3国でした。今回グランドルが陥落し、残りの敵はその2国とウィージス教国。ウィージスは他国との連合を拒んでおりました」


まるで元から魔王軍側かのように話し始めるモモ。

まあ、わたしの性奴隷になったし、女王という呪縛から開放された今のモモにはもうどうでもいいのだろう。


幹部の中には物申したい者も居るようだけど、モモの首元のチョーカーを見て何も言えないみたい。

権力者って便利ね。


「グランドルを犠牲にして行った今回の作戦には連合国それぞれの総兵力の4割を割いていました。しかしクロユリ様方のご活躍によりほぼ全滅。加えてアンデット隊の戦力増強に伴いこちらは圧倒的有利となっています」

「とりあえずその連合国の2つを潰そうと思っているのだけど、どちからから潰すのが早い?」

「エルバー大公国がよいかと」


エルバー大公国のトップは少し覚えている。

レフィーネとドドルガを返しに行った時に薄ら笑いを浮かべて発言しようとしたやつ。


モモから聞いて顔と名前は一致した。


「どうしてタルタエズ王国は後なの?」

「タルタエズの王は賢王と呼ばれる頭脳と言われ成り上がった王、エルバー大公国を吸収してから攻める方が確実でございます」


エルバーを吸収というのはわたしやキャンベルの能力の事だろう。


わたしとしても、龍神との戦闘を考慮するなら戦力は多い方がいいかもしれない。


どの段階で龍神がしゃしゃり出てくるかわからないしそもそも今も存在するか怪しいけど、原初の魔王クロムが勝てない相手なら少しでも準備はするべきだろう。


「クロユリ様、宜しいですか?」

「ええ。どうぞ」


レビナスが意見しようと手を挙げた。

軍事においてほぼレビナスに丸投げのわたしとしてレビナスの意見も聞きたい。


「お言葉ですが、バーメルは昨日まで敵だったニンゲン。私は信用ができません」

「まあ、奴隷紋もしていないしね」


幹部たちも不満をついに漏らしてレビナスに加勢しだした。

最高幹部のレビナスとして急に出てきたニンゲンの意見を聞きたくはないのだろう。


「でもレビナス。わたしも身体はニンゲンよ?」

「クロユリ様は魔王でございます」

「わたしがニンゲン側からのスパイとして魔族側にいる可能性もあるわよね? 魔族を滅ぼすために」


レビナスのわたしに対する忠誠心は知っている。

だからこうしてモモを危険視している事もわかる。


「クロユリ様が魔族を滅ぼせるだけの力をお持ちなのは皆が周知の事実。クロユリ様であれば大鎌の一振りで私たちは消し飛ぶでしょう」

「そうね。簡単ね」


わたしは笑顔でみんなに微笑んだ。

わたし個人なら龍神を覗いておそらく敵はいない。


「しかしバーメルは違います。ニンゲンであり、クロユリ様に対抗する勇者は既に堕ちた。残されたのはクロユリ様の奴隷となり操り魔族の衰退を目論む、またはニンゲン側の勝利の為の時間稼ぎを企てている可能性があるのです」


レビナスたちからすれば、ニンゲンを簡単に裏切ったようにしか見えないだろう。


実質的な奴隷となったニンゲンの女王であるモモは、逆にまた簡単にわたしを裏切る可能性もある。


前世でも「九尾の狐伝説」は有名だ。


九尾の狐が見目麗しい娘に化けて権力者に見初みそめられ、裏から権力者を操り人間たちで争わせたりする伝説。詳しくは覚えてないけど。


レビナスはそのような可能性も予想して発言しているのだろう。


優秀な部下は好きよ。レビナス。


「ではこうしましょう。タルタエズ王国をモモが指揮して墜す。使っていいのは肉塊兵とアンデット隊だけ。あとは……勇者たち」


賢王と呼ばれるタルタエズの王にモモをぶつける。


ニンゲン側の希望のあられもない勇者たちを使って。


「キャンベルとわたしならそれでも問題なく戦力を増やせるし、モモが信用に足るかどうかはあなたたちが観て判断すればいい。魔族とニンゲンの戦争に、モモが加わる。意味はわかるかしら?」


一国の女王だったモモがニンゲンを殺す。

指揮をとり、モモは裏切りのタクトを優雅に振るうのだ。


どうなるのだろうか。

タルタエズの賢王はどのような顔をするのか。


朽ちた者の果てのアンデットであるニンゲンの兵。


虚ろな目をしてかつて同胞であり同じく平和を願って剣を振るった国の兵が肉の塊となって襲いかかる。


賢王は何を思うのか。

魔族とニンゲンの戦いだったはずだと目を疑うのだろうか。

平和を願い魔族と戦っていたはずなのに、どうして今自分たちはニンゲン同士で斬り合っているのか。


「モモが教えてくれるわ。平和とはなにかを、ね?」

「はい。クロユリ様。わたくしはクロユリ様の為に、剣を振るいましょう。女子供を虐殺し尊厳を奪い、兵士には戦う意味も分からなくなるほどに苦痛を与えて殺しましょう」


モモはわたしに縋り付くように身体を寄せた。


わたしがモモの頭を撫でるとうっとりして頬を擦り付けた。


「期待してるわ。モモ」


わたしは、カトレアの為にニンゲンを殺す。

そのためには、なんでもする。


魔族でありニンゲンでもあるカトレアは実験台にされて身体を弄られた。


だから、わたしは同じことをするだけ。

因果応報、自業自得。


素敵な言葉ね。本当に。

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