第68話 死体の有効活用法
泣き始めた神崎光也。
クラスのイケメン君がくしゃくしゃな泣き顔を晒して鼻水を垂らしている。
「……」
掴んでいた髪の毛を離すと、神崎光也は膝を着いて下を向いて泣いている。
「泣いて済むのは子供だけだよ」
ムカついて神崎光也の無防備なお腹を蹴った。
一気に吐き出された空気に泣くも止めて嗚咽を漏らしている。
膝を着いたまま今度は額も床に着けて苦しそうに息をしている。
わたしは髪を掴んで神崎光也の目を見た。
「貴方が選んだんでしょ? なんで泣くの?」
醜い顔。
どうしてわたしは彼らに怯えて生きていたのかわからなくなってしまう。
でも答えは簡単。
力を得たから。それだけ。
元の世界に絶望し、自殺して手に入れた力。
【吹き溜まりの悪魔】なんて悪趣味な力。
誰も幸せになんてならない力。
ニンゲンから嫌われ畏れられる程に強まる力。
死んでもまだ、わたしはニンゲンから嫌われ続けている。
「ねぇ。答えてよ」
ただ泣き続ける神崎光也。
この泣き顔を見ていると無性に殺したくなる。
崩れ落ちる神崎光也の頭を踏み付けて踵に体重をかけて床に額を擦り付けさせた。
彼らは誰一人として、わたしに謝ったりはしていない。
それはわたしに悪い事をしたという罪悪感がほとんどないからだろう。
だから今こうして尊厳を奪われているのも、彼らからしたら理不尽にされているだけ。
罪であり罰を受けている自覚がないのだ。
「……飽きた」
わたしは人差し指の第一関節を食いちぎって手の上に吐き出した。
その指を核に黒影を作り、わたしの複製体にした。
「コピーちゃん、貴方に権利を渡すわ。殺さなければ好きにしていいわ」
「ええ」
わたしは私に合成樹脂魔法で創った銃を渡した。
「
と適当に自作してみた大人グッズをコピーちゃんに渡す。
残念な事だけど、わたしが慣れ親しんだ玩具はそういった類いしかない。
お人形さんで遊んだりとかした事ないし買ってもらったこともない。
どちらかと言えば、わたしが使われる人形だった。
こんなものしか作れないのが残念だ。
「うっかり殺したりしないでね」
わたしは私にそう言って欲に満ちた声の響く拷問部屋を後にした。
直後、酷い頭痛に襲われて膝を着いた。
額が割れるように痛い。
全身もなにかに蝕まれるように謎の重さが広がる。
成長期の時の苦痛とは違う。
何かが、わたしを侵食していく感覚。
(クロユリ様、ニンゲンの掃除があらかた終わりました)
(そう。わたしも上に行くわ)
暗く埃っぽい壁を支えに歩くと自然に謎の侵食は収まった。
訳が分からないまま地上に出てレビナスと合流して詳しい状況を聞く。
ぽちが暴れ回ったのだろう。
家は破壊し尽くされて足跡に続く血溜まりはあちらこちらに散乱している。
魔王軍の戦死者はほとんどいないらしいが、重傷者はそれでも多い。
戦場に死に場所を求める者もいたし、戦いを全うして死ねたのならそれでもいい。
大広場には虚ろな目をしたニンゲンの兵士が列を成して立っている。
「連合軍の各国の割合比率は?」
「連合軍約10万のうち、5万はグランドル、エルバー大公国が2万、エルタエズ王国が3万。と言った具合でございます」
「使える屍兵はこれだけ?」
10万いた割には1万いかないくらいの屍兵しかない。
「はい。ぽち様や途中から参戦したたま様、加えてカトレア様の大規模魔法で大半は使い物にならないとキャンベルが嘆いておりました」
「……あとでキャンベルに謝っておくわ」
キャンベルの玩具を壊しすぎた。
そう言えばカトレア、わたしが守らなくても強いのよね。
近接は苦手らしいけど魔法とか魔術は研究してただけあってかなりのものらしい。
ちゃんと見たかった。
「そうだ。夜になる前にクロムたちにここに来るように言っておいて。「ヴィナトの情報も少しだけあるから」とね」
わたしが飛んで行けば早いけれど、やる事が多そうだし。
「それと、連合軍の各戦隊長クラスの生き残りを地下室に入れて情報を聞いてきてほしいわ。まだニンゲンの国は他にもあるのだし」
「かしこまりました」
わたしから離れようとするレビナスをわたしは引き止めた。
「どうされましたか?」
「そういえばさっき言ってた損傷の激しい死体、使えるか試すから集めてほしいのだけど、できるかしら?」
「構いません。屍兵を使えばすぐですから」
「そう。助かるわ」
「……ですが、何に使われるのですか?」
魔術の実験が何かですか? と聞いてくるレビナス。
実験といえば実験。
血炎術式とかも含めて実験したい事は沢山ある。
「……ぽちに踏まれた死体は流石に利用不可ね」
ぺしゃんこじゃん。
まあ、補強くらいには使えるかもしれない。
あらかた集まったので、わたしはキャンベルに謝るついでのお土産でも作成するとしよう。
「レビナス、近くには誰も近付けないでね。危ないから」
わたしは手首を噛み切り黒い血を垂らし、合成樹脂魔法で薄い半透明の球体の中にその黒い血を入れた。
そして集まった屍兵と肉塊の中央上空で浮いた。
「【
わたしはその黒い血の球体を両手で叩き潰した。
飛び散った黒い血は植物の種となり、四分音符のように種から翼の葉っぱが生えた。
散っていくその種はプロペラを回転させるようにしながら落ちていく。
屍兵と肉塊に落ちていく種が根付いて肉体の一部となる。
屍兵は力の発揮の代償として脆い。
それを補うように根付かせた根っこが強度を格段に上げる。
肉塊にはたまと同じように根っこを骨組みとし、細胞を繋ぎ無理やり人形として形を成形させる。
わたしは完成した人形たちを見下ろして命令した。
「吠えろ」
一斉に叫び出す屍兵たち。
誰一人として生気を感じない人型のそれたちは、おぞましい叫び声を上げながらわたしを見た。
魔大樹の魔王と獣の魔王の力。
一人一人の屍兵が化け物じみた力のと強度を持ち、わたしの声ひとつで即座に動かせる統率力。
死体があればあるほど作れる玩具。
「キャンベルが喜んでくれると嬉しいわね」
わたしは屍兵の軍勢を見て微笑んだ。
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