第58話 王国side 勇者の力
バーメル女王は魔大樹というあの大樹が王都に
「バーメル女王様! あれはなんなんですか?!」
「……もう、この国は終わりだ……ははは」
絨毯を握り締めて乾いた笑いで女王様に有るまじき悪態を付いていた。
「……なんの為にあんな事まで……ヴィナト様に与えられた御知恵が……」
「バーメル女王様! どういう事?! 説明してよ!!」
街が焼かれ、大臣とメイドは攫われて、王都に大きな樹が突如生える。
この状況が異常なのは異世界人の俺でもわかる。
だけど、国のトップが項垂れた後頭部を晒しているのはダメだ。
現状分からない事だらけ。
魔王は自殺したクラスメイト。
崩壊寸前の国。
「バーメル女王、アレをどうにかできないんですか?!」
あれさえどうにか出来ればまだ立て直せるはずだ。
「……無理です。あれはかつての魔王の力の1つ。魔力と生命エネルギーを根こそぎ喰らうのです……ある程度の魔力が溜まれば魔物を産み落とします……さらに言えば、アレは恐らく魔大樹の魔王の力とはまた別種の能力。禍々しさがなく、神聖さすら感じる……対処法がわからない」
立ち上がったバーメル女王の目は死んでいた。
「樹なら燃やせるはずだろ?」
「かつての魔大樹は化け物並の再生力と凶暴性で火を放っても意味がなかった……」
再生力と凶暴性?
樹のくせに、そんな化け物なのか?
考えて見れば、植えられた時期は分からないが数秒で蠢くように空へと伸びていくのを俺たちは見ている。
確かに化け物なのだろう。
「俺ら勇者の力でもどうにかできないんですか?!」
「魔大樹の対処法は植えられてすぐに焼くしかないのです。ひとたび高々と成長すれば世界を枯らす……」
「とりあえず俺らで殺って見ます。俺らなら何かわかるかもしれない」
俺はみんなを連れて魔大樹の元まで走った。
「佳奈! とりあえずありったけの火炎魔法を頼む! 智樹は剣が通用するか試してくれ!」
炎の勇者の佳奈と、力の勇者の智樹で全く通用しないなら考えないといけない。
2人に試してもらう前に近くの兵士や冒険者に対処する為の避難と情報収集をした。
魔物を産み落としたりしていた場合は王都が地獄絵図に変わる。
元の世界の高層ビルのような高さと太さだ。
焼くにしても切り倒すにても被害が出るだろう。
あらかた避難をさせて魔大樹の破壊を試みる。
「……いくぜ。【
智樹が圧倒的なスピードで走り寄り斬りつけた。
「っがッ!!」
智樹の悲鳴と共に甲高い金属音が響いた。
智樹が両手を震わせながら『勇者の剣』を落とした。
魔大樹には傷1つ付いていない。
「なんなんだこの大樹……金属だろこれ絶対……クソが」
力の勇者でダメなのか?
「それにこいつ、剣先が触れる前に魔力を持ってかれた……魔力を吸い取られる」
確かにここに居ても身体から少しずつ力が抜けていく感覚がある。
僅かに感じる程度だが、辺り一帯から吸い取っているなら既に相当なエネルギーを吸い取っているだろう。
「防衛本能みたいな機能があるのかもな。攻撃してくる魔力を一瞬にして吸い取れる」
「勇者の攻撃魔力を一瞬で吸い取れるならなぜ王都は一瞬で吸い取らないんだ?」
未だに痺れている智樹にそう聞いた。
「一瞬で吸い取ったらエサが無くなるからじゃないか?
攻撃性の魔力がダメなら佳奈の火炎魔法も意味が無いだろう。
俺は王国兵士にありったけの火炎瓶を用意させて魔大樹に火を付けた。
そして『風の勇者』である彩希に竜巻のような風を巻き起こさせた。
魔大樹の葉を根こそぎ燃やすように燃え上がる火は燃え広がる事なく勝手に鎮火した。
「……燃えない樹とかふざけんなよ……」
剣も火も効かない。
「……粉塵爆発」
『大地の勇者』である与一が恐ろしい事を言った。
「……やるのか?」
「無理だろ。専門家でもないのにそんな危険な賭けできるかよ」
動画で見た事はあるけど、大規模になりかねない。
風の影響次第では王城が吹き飛ぶ。
「ミサイルを作ったり……」
「
科学者なんてここには誰もいない。
実験してる時間も多分ない。
それに、再生力と凶暴性があるという魔大樹とは確かに違うらしい。
これが一体どうなるのか。
全くの未知数だ。
「とりあえず一旦王城へ戻ろう」
どうしたらいいかは結局わからない。
なにも出来ないこの状況を前に、俺たち勇者は何ができるんだ?
王城に戻るとバーメル女王に呼ばれた。
俺たち勇者10名とバーメル女王のみで話し合いとなった。
神妙な顔つきのバーメル女王は早々にこう言った。
「王都を破棄します」
俺たちは、バーメル女王が何を言っているのか意味がわからなかった。
「それってどういう……」
「大多数の民を囮にし魔王クロユリ率いる魔王軍をおびき寄せ、王都ごと爆破します」
俺たち勇者は何も言えなかった……
その決断をしばらく飲み込めなかった。
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