第59話 再会

「カトレア、大丈夫かしら?」

「ええ。とりあえず」


ぽちもとりあえずは問題なさそう。


「えげつない爆発ね。魔大樹を爆破ついでに王城にも爆破術式組み込んでたのね。捨て身ね」


このは死なないとはいっても痛いものは痛いのよ。

爆破なんてされたら全身痛いだろうし熱風が喉を焼いて呼吸はできないしでごめんよ。


「やっと勇者様方のご登場ね。待ちくたびれたわ」


砂煙の中からこちらに向かって走ってくる10名の気配。

忌々しい空気を纏っている。


「カトレア、ぽちに守ってもらっていて」

「分かったわ。見てるわね」

「ええ」


ぽちの肩から降りて大鎌を召喚した。


やっとこの時が来た。

この手で復讐をする時が来たのだ。


「盛大な歓迎に感謝するわニンゲンの勇者」

「黒崎……」


神崎光也を始めとした10名の元クラスメイトたち。

馬子にも衣装とばかりに忌々しい剣を私に向けている。


「あなたたちの女王様は自分の王都が魔族に蹂躙されるのを遠隔で観ていたのでしょう?楽しんでいてくれたかしら?」

「なんでこんな事をするんだ黒崎!」


『光の勇者』である神崎光也がわかりきった事を聞いてきた。

それがわからない事自体に気持ちが悪くて吐きそうになる。


私はそれを無視して話を続ける。


「風間彩希、素敵な藁人形ありがとう」

「……」


私の机に藁人形を突き立てた『風の勇者』風間彩希に微笑んでみせた。

今の私にはわかる。

呪いを司る私には、誰が誰に呪いを掛けたのか。


まあ、私がクラスメイトをどう呼んでいたか覚えていないというか呼んだことないから、大臣を拷問して得た勇者一覧とフルネーム、そして憎たらしく憶えていた顔を合わせて名前を呼んでいるけども。


「火谷佳奈、宵崎紗夜、空井実星、貴女たちを見ると蹴り付けられたお腹がこのでも疼くわ。……生理の時にレバーが出てきてて死ぬのかと思ったのも素敵な思い出よ」


死んで生まれ変わっても、心の痛みを伴った傷は消えない。


「黙れ死神!貞○!黒百合のクセに生意気なんだよ!」

「アンタが自分で机に藁人形なんて突き立てたんでしょ?!勝手なこと言わないで!」


神崎光也が豹変した火谷佳奈と風間彩希の様子を見て驚いている。


「風間彩希、私は私の藁人形を突き立てられたなんて一言も言ってないわよ?本来藁人形の使い方は丑の刻参りだもの。ちゃんと調べてから呪いは掛けた方が身のためよ?」


まんまと引っかかった風間彩希を見た神崎光也は更にショックを受けていた。


「そういえば、火谷佳奈と風間彩希も神崎光也の事が好きだったわね。どうかしら?死ぬ前に愛しの相手に告白でもしたら?」


誰にでも優しい神崎光也。

私にすら声を掛け、私に対するヘイトは増えていった。

まあ、それだけではあそこまでされないけど。


「デタラメを言うな黒崎!……コイツらはそんな事……」

「まだ目を逸らし続けるの神崎光也?」


私は一瞬で神崎光也に肉薄し、鼻先が届きそうなくらいに顔を近付けて眼を覗き込んだ。


「光也に近づくな!」

「神崎光也、貴方、私が虐められてたのを見て見ぬふりしてたわよね。1度だけ私の身体の痣も見ているわよね?坂力智樹と砂川与一が私をレイプしてたのも知ってたわよね?私の靴の中に画鋲を入れていた稲妻三雲の事も知っていたわよね?火谷佳奈たちからの虐めの標的にされそうな阿水静がヘイトを私に擦り付けたのも知ってたわよね?全部全部。お父さんから虐待されてたのだって貴方は全部知ってた。違う?貴方は自分の顔と周りを見て上手く立ち回っていて生きてきたからその場所にいる。だから全部無意識に見えてた。違う?だからさっき、なんでこんな事をしたんだ?って聞けたのよね?ねぇ教えてよ。無意識にわかってて綺麗事言える神経ってどんな気持ち?気持ち悪いこと言っている自覚はあるの?あなたたちは本当は自分が御伽噺のような『勇者』なんかじゃないって分かってるんじゃないの?まだ自分は幸せになれるなんて思ってるの?ねぇ。ねぇ教えてよ。私は既に1回自殺してるからきっとわからないわ。まだのうのうと生きているあなたたちに教えてほしいの。まだ死んでないあなたたちに教えて欲しいの?何が正しいの?魔王を殺すために平気で王都のニンゲンを殺そうとする女王様の判断を鵜呑みにして私を殺しに来ているあなたたちに聞きたいの。今も向こうで四肢が千切れて泣いている子供たちがいるのに私を殺しに来て綺麗事を恥ずかしげも無く言えるあなたたちに聞きたいの。きっと正しいんでしょ?教えてよ。正しいってなに?あなたたちの持ってるその剣は『勇者の剣』なんでしょ?教えてよ教えてよ教えてよ」

「うるさい!」


神崎光也が斬りつけてきてそれに続くように他のクラスメイトたちも襲いかかってきた。


連携がまるでなってない。

これならでも問題ない。

ミーシャたちの方がよっぽど動きがいい。


クラスメイトがいる方向にも関わらず魔法を放ってくるクラスメイトを嘲笑いながら仲間に被爆させた。


「まだヒトを殺した事ないでしょ?剣筋が甘いわ」


そんなんじゃ私は殺せない。


「安心して。すぐには殺さないわ。聞きたい事も言いたい事もたくさんあるの。お礼がしたいのよみんなに」


魔眼の勇者の目黒摩耶の力で一瞬動きを封じられてしまった。

さらに大地の勇者の砂川与一が地面をうねらせて私の足を固めて動けなくなった。


「くっ?!」


抜け出ようとしたら大鎌を持っていた腕を斬り落とされた。

腕がすぐに再生しない?

勇者の力?これは大臣からも聞いていなかった。


もう片方の腕も斬り飛ばされた。


「クロユリッ!!」


カトレアの叫ぶ声が聞こえた。

私はしくじった。

復讐心に蝕まれてしまった。


ヴェゼルに諭しておきながら、こうもあっさりと。


「私が封印する!」


忌々しい。

風の勇者、風間彩希が呪文を唱えだした。


「『邪悪なる者を風の刃で切り裂き、永遠を風と共に牢獄へのいざなえ。魔風導印』!」


勇者たち10名の勇者の剣が風で舞い上がり私の背中に深々と突き刺さった。


身体の魔力が霧散していくのがわかった。


「……わ、私の……」


はここまで。


「【黒拍こくはく】」


わたしが手を叩くと、勇者たちは膝から崩れ落ちて痙攣した。


「な、なにを、した……?」

「実験台使いながら時間稼ぎよ」


わたしは地面に這いつくばるみんなを見下ろして微笑んだ。




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