第57話 大胆不敵

ヒトがまるでゴミのようだ。

とは確かによく言ったものだ。


まあ、わたしから見れば蟻の行列を啄いて逃げ回る様にしか見えないけど。


「カトレア、凄い景色ね」

「ええ! そうね!」


カトレアも楽しそうに笑う。


ぽちがうっかり民家を踏み潰した。

おもちゃでも踏んだみたいに簡単に破壊される建物は見ていて爽快感がある。


(クロユリ様!!)

(どうしたのレビナス)


ものすごく慌てているレビナスの声が念話で届いた。


(巨大ゴーレムが?!)

(あ。レビナスに言うの忘れてたわ。ぽちよ。今一緒にいるの。楽しいわよ)

(……ぽち? ……へ?)

(そう。ぽち)

(……あの土ゴーレム、ここまで大きかった、ですか?)


レビナスが混乱しながらも必死に頭を落ち着けようと言葉を捻り出している。


(なんか大きくなってたわ。わたしがさっき黒花火を上げてたからわたしに気づいて来たのよね。せっかくだからぽちの肩に乗って街を歩いてるわ)

(……左様でございますか……)

(王城に行くから、指揮を引き続き頼むわね)

(畏まりました)


仕事を丸投げできる優秀な部下っていいわね。楽だわ。


「それにしても、勇者たち来ないわね」

「そうね。冒険者とか連合軍の兵士たちはいるけど」


自国の王都が魔族に攻め込まれてるのに、勇者を寄越さないのっておかしくない?


クラスメイトである勇者たち10名が元の世界に帰るにはわたしを倒し、わたしの核を触媒にしないと帰れないらしい。


だから、帰りたいならわたしを倒しに来るはず。

女王が止めているのか、あるいは勇者たちが逃げた?


復讐ができないのは非常に残念なのだけど。


「クロユリ、向こうから冒険者のパーティが来てる」

「わかったわ」


【影狼】を出して応戦させた。

そこまで強くはなさそうなので問題ない。


ぽちは直線距離で王城へ歩く。

街はパレードのように賑やかに悲鳴が響いている。


「あ。あっちののそのそ歩いてる兵士たち、キャンベルの兵たちね」

「あ、ほんとだ。キャンベルは死体使って軍を増やしてくからね〜戦争じゃえげつないよね」


なんでもキャンベルの死霊術は死体を操るだけでなく、身体の筋力などのリミッターを強制的に外させる事ができるらしい。


その辺の一般人でも破壊力とスピードを出す事ができるけど、身体の負荷が凄くて並のニンゲンの肉体だとすぐ壊れるらしい。


まあ、死体に困らない戦場ならいくらでも増やせるし、そもそも敵軍の死体なんて壊れてもどうでもいい。


……キャンベルって、魔王に相応しくない?わたしより。


「勇者の動き次第では、今日中にここは落とせるわね」

「グランドル王国取ったら次はどうするの?」

「近いニンゲンの国に適当に進軍?かしらね。あ、でも王都なら食糧いっぱいあるし、残ったニンゲンの選別して準備も必要よね。あとでレビナスと話さないといけないわね」


残ったニンゲンを皆殺しにするのもいいけど、吸血鬼にはニンゲンの血は必要だ。

カトレアは半魔だし、動物の血でもある程度は持つらしいけど、やっぱり血は必要。


ニンゲンに恨みを持っている魔族も多いから拷問用で確保したり、性奴隷にしたいって物好きな魔族もいるみたいだし。


家畜として必要なニンゲンと、それから殺さない方がいいニンゲンがいるかどうかも調べないといけない。

他国の情報持ってるニンゲンとか。


戦争ってやる事多いのね。大変だわ。


「ぽち、王城の皆さんにご挨拶よ」

「アイ」

「ごきげんよう」


わたしの挨拶と共に振りかざされたぽちの足が王城の壁を破壊した。

轟音を愉快に響かせながら、わたしはゴシックドレスのスカートの裾をつまみ上げた。


「勇者様方はいらっしゃるかしら?」


ぽちは構わず王城を破壊し続ける。

響くのは兵士たちの悲鳴や怒号だけで、勇者は現れない。


せっかくお嬢様っぽく挨拶とかしてみたのに、ニンゲンたちはガン無視である。


「カトレア、わたし、無視されてない?」

「無視というか、誰も構ってられないからね。仕方ないんじゃない?」

「王城攻められて勇者が魔王倒しに来ないって、それはどうかと思うわ」

「勇者はどこなのかしらね?」


散らばって魔族たちとの戦闘に加勢してるのかしら?


(レビナス、いいかしら?)

(はい。如何されました?)

(勇者たちが王城にもいないのだけど、そっちの状況はどう?勇者はいる?1人でも)

(いえ、確認出来ておりません)

(そう。ありがと)


「レビナスにも勇者たちの情報は上がってきてないみたいね」


わたしは転がっている瀕死の兵士たちにトレントの種を植え付けながらカトレアに言った。


寄生された兵士が生きている兵士たちと鍔迫り合いをしているのを踏み潰すぽち。


「罠の可能性もあるわね」


カトレアが顎に手を当てて辺りを見回しながらそう言った。


「やっぱりそうよね〜」


ここまで攻め込まれて勇者を温存する意味なんてない。

捨て身でなにか仕掛けていると考えないといけない。


「クロユリならどうする?」

「わたしがグランドルの女王だったらって事よね?」

「ええ」

「……全くわからないわね。この状況を見てから、グランドルの女王が何を考えてるか想像が付かないわ。どうしようもないもの」


戦争ではなく一方的な蹂躙。

逃げるが吉。


現状はそれしかない。

勇者さえ死ななければ、魔王であるわたしを殺せる可能性は残っている。


女王が国の存続を捨ててでも魔王討伐を優先した判断をしたなら勇者を温存して他国へ逃げる。


自国を守りたいなら勇者を宛てがう。

けれど勇者は来ない。


「もしかしたら、王城の中に隠れて震えてたりし……」


わたしがそう言おうとすると、不意にドロっとした何かを感じた。


「カトレア!掴まってて」


わたしはぽちごと覆うように【合成樹脂魔法】で大きな結界を張った。


直後、凄まじい爆発がした。

王城自体が吹き飛ぶ程の爆発。


咄嗟に張った樹脂結界にはヒビが入っていた。





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