第45話 ヴェゼル隊一行の潜入捜査

「ミーシャ、げっそりだな」

「クロユリ様、送ってくれたのは嬉しいけど、規格外過ぎますよ……」


私たち暗殺部隊はクロユリ様が空を飛んでニンゲンたちの住処である王都近くまで送ってもらった。


「実験とか言って満面の笑みだったわね……」


キツネの半魔のメルリアちゃんも私と同じくげっそりしている。


「樹脂であんな馬車を作るなんてな……」


タヌキの半魔のカイダルが言った馬車。

あれはそんな物じゃなかった。


透明で四角くて薄い箱。

それに私たちヴェゼル隊長を含めた6名は突っ込まれ、クロユリ様は楽しそうに笑いながら空を飛んだ。


「アレは流石にワシも堪えたな」

「ゲイルもそーですよね……」


老師っぽいウルフヘアのゲイルも吐き気を抑えているようだった。


「オレは楽しかったけどな」

「トールス、アレのどこがよ?」

「あのぐるぐるするやつとか」

「死ぬかと思ったわよ!!」


クロユリ様、高らかに笑いながらぐるぐるとジャイロ回転しながら私たち振り回してたのよ?!


出発前に食べたご飯吐くところだった……


「お前たち、そろそろ準備しとけ」


ヴェゼル隊長が準備を促した。


ヴェゼル隊長はどこかよそよそしいし素っ気ない。

距離を感じる。それは仕方ないとは思うし、私たちだってわだかまりが無いわけじゃない。


「潜入捜査の段取りの確認だ。グランドル王国王都への潜入は夜。私が魔物を操り城壁の上の連中を引き付けている間に侵入。その後一夜明けて情報収集開始だ」


今回の目的はあくまで勇者の情報収集。


クロユリ様はこの間王都に単身(実質)で乗り込み奴隷2人を返した。

その時についでに聞いておけばよかったわと笑っていたけど、クロユリ様1人で国1つくらい制圧できたんじゃ?と思ってしまったのは私だけだろうか。



☆☆☆



「ニンゲンっていっぱい居るんですね」

「ミーシャ、あんまりジロジロ見るな」


私たちは光魔法でニンゲンの冒険者の姿に偽装し町を歩いていた。


半魔である私たちはニンゲンも魔族も避けてひっそり生きてきた。


こうして見ると、ニンゲンも魔族も半魔もなにも変わらないように思える。


誰かと喋って笑って。

悪意のない日常。


「お前たち、酒は飲めるか?」


ヴェゼル隊長が突然そう聞いてきた。


「隊長、ワシとカイダルは飲めるがその他はまだ飲んだことが無い」


ゲイルは5人の中で1番歳上。

カイダルはヤコタ村長の付き合いで多少飲んだことがある。


けど私とかメルリア、トールスはまだ大人として認められていない。


「……そうか」

「どうしてですか?」

「ニンゲンの冒険者が集う場である冒険者ギルド、そこへ行こうと思っていたが不安だ」


クロユリ様はニンゲンの町をあまり知らないとの事で、ヴェゼル隊長に現地に着いてからどうにか情報収集をしてと言われていた。


現状私たちは完全にこの町からすればよそ者。

住民として暮らして馴染んでからでは時間がかかる。


「ヴェゼル隊長、まあ、大丈夫でしょう。我々はその辺のニンゲンよりは多少頑丈。浴びる程飲まなければ問題ない」

「飲み過ぎて阿呆を晒して潜入がバレない事を祈ろう」


ニンゲンの冒険者たちはそのギルドという集まりで冒険者登録というものをしているらしく、私たちは登録もしていない。


なので冒険者ギルドの酒場で飲み食いして周りの冒険者が喋っている内容を盗み聞きすることにした。


入ってみると、怖かった。

おぞましいニンゲンがたくさんいる。

殺意も湧く。


なんで入っただけで睨まれないと行けないのかと思った。


怖いけど、クロユリ様との戦闘よりは怖くないなとも思った。

それに、この場にいるニンゲンにクロユリ様より強い者はいない。


私が怖がっているのは「ニンゲン」に対してなのだろう。


ヴェゼル隊長が適当な席を見つけて私たちは座って注文をした。


ニンゲンの使うお金はレビナス様から頂いていたから問題ないらしい。

算術はこの中でできるのは隊長とゲイル、あとはカイダルだけ。


ニンゲンの冒険者は頭が悪い者も多いと聞くのであんまり問題にはならなさそう。

わたしは馬鹿をそのまま演じていればいい。


ニンゲンたちがヒソヒソと何か話しているのがよく聴こえる。


周りから見ればただの冒険者。

だけど私たちは亜人の半魔。


その辺の弱いニンゲンよりは聴覚がいい。


「(おい聞いたかよ、王城で会議中に襲撃されたって話)」

「(確かにデカい爆発音はしたけどよ、別にその後何にも無かったろ?戦闘してたなら魔法やら剣撃とか響いてるだろ)」

「(王城なら勇者が10名も居るんだ。案外簡単に終わっちまったりしてな)」


勇者が10名もいるの?

多すぎじゃない?

しかも勇者10名を王城に囲ってるとか最悪だ。


この辺で身元を調べられないのなら忍び込まないといけない。


「はいよ、注文の品だよ」


酒場の店員が料理と飲み物を持ってきた。


「あんたら見ない顔だね」


ヴェゼル隊長がお酒をぐびぐびと一気飲みしてから返答した。


「俺らは山奥でずっと暮らしててな。最近魔物の動きが活発になってきて山奥から出てきたんだ。この王都にツテがあったはずが、そいつはいねぇし、コイツらが腹減ったんでんでここに入ったのさ」


普段はお堅いヴェゼル隊長が、まるでその辺のニンゲンっぽく振舞った。

本当にそれっぽいかはさておき、少なくとも私から見て完全にその辺の弱そうなニンゲン。


「そりゃ大変ねぇ。この間魔王が復活したらしくってね、魔物は半狂乱になって暴れるし大変だったらしいわよ。バーメル女王様が勇者様方を召喚したって発表するし、いよいよ魔族との戦争だね。むしろ王都の方が危ないかもしれないわよ?」


魔物が暴れたって話は知らない。

野生の魔物がクロユリ様の影響でも受けて変になったのだろうか。


「勇者様っての強いのかい?」


ゲイルもそれとなく聞いた。

聞き取り調査はヴェゼル隊長とゲイルに任せて置いた方がボロが出なくて済みそう。


チキン食べよ。


「この目で見たわけじゃないからね、どうかはわかんないね。でもね、魔物が暴れてる時に超大型のゴーレムが来たって話だ。王都の城壁と同じような背丈のゴーレムを初陣なのに退けたって言うから、相当強いんじゃないかい?」


超大型のゴーレムの話も聞いてない。


魔族側とは違う勢力でもあるのかな?


「そんなに強えんだな」

「召喚されたって言うと、異世界からなのかい?」

「そうらしいね。名前はちょっと変だったね。忘れたけど」


名前を聞けたらよかったけど、流石にわかんないか。


クロユリ様曰く、異世界の者の名前ならどんな相手かわかるかもしれないって言ってたけど、それ自体よくわからない。


「あ、でも1人は覚えてるよ、名前。10名いた中でも別格って感じだったからねぇ」

「そうなのか」

「ええ。確か、カンザキコウヤって言ったね。光の勇者って言ってた気がするわ。カッコよかったのよねぇ」


カンザキコウヤ。

変な名前。

この世界じゃ確かに聞かないような名前。


クロユリ様はこれで何がわかるのだろうか?


その後も店員の話を聞きながら食事をして宿屋を紹介してもらった。

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