第44話 ♨️お風呂回♨️

「クロユリ、お風呂入ろっか」

「いいわね」


ドドルガとレフィーネを返して帰ってきて、食事を済ませた後にカトレアと一緒にお風呂に入る事になった。


つい少し前まではわたしは幼女だったし、カトレアと一緒にお風呂に入る事もあったけど、今だとたま少し思うところもある。


親と子供みたいな関係値から、背丈もおんなじで姉妹みたい。


双子の姉がもし生きていて、2人で暮らせていたらきっとこんな感じなのかなって思う。


「このお風呂って大っきいわよね」

「二代目魔王がお風呂を拘ってたって聞いたわよ」

「魔大樹の魔王ジュリアね」


元々異世界から来たジュリアだ。

お風呂は拘りたかったのだろう。

ぐっじょぶジュリア。


カトレアが服を脱いだ。

白い肌と長い白髪。

華奢な身体付きまでわたしと似ている。


「クロユリも成長したわね」

「まあわたし、魔王だし?」


2人で笑って背中の流しっこをした。

カトレアのすべすべのお肌は触っていて心地良い。


「わたしもカトレアみたいな綺麗な白髪がよかったわ」

「わたしはクロユリの黒髪いいなって思うわよ。艶もあるし。髪の艶が天使の輪っかみたいだもの」

「魔王だけどね」

「そうだったわね」


そう言ってまた2人で顔を見合わせて笑った。


黒髪は嫌だった。

真っ黒い髪が、より一層呪いとかおばけとかの印象を与えるから。


でもお父さんは髪を切るためのお金なんて当然くれない。

前髪だけ自分で仕方なく切ってた。


黒髪ロングはきっと、お母さんにも似てたんだろう。


「ふぇ〜」「気持ちいいわね」


2人でお風呂に浸かって一息着く。

前世の家には足を伸ばせる浴槽なんて当然ないから、こんなにゆったりくつろげるお風呂はわたしにとってかなりの贅沢だ。


なんなら黄金のライオンが口からお湯を出していたりする。


「えいっ!」「あ!ちょっ!カトレア!」


不意にカトレアが抱き着いてきた。

肌を擦り寄り胸を押し付けてくる。

同サイズか、ちくしょー。


「大きくなったのう〜」

「どこのおじさんよ!」

「ここがええんか?それともここかのう〜」

「ちょ、カトレア!えっち!」

「クロユリ様ぁぁぁ!大丈夫ですかぁぁぁ?!」


豪快に入ってきたのはレビナスだった。

頬を赤らめながらも何事かと慌てふためくレビナス。

……揺れおる……


「カトレア、わたしたちの敵が現れたわ。あやつを確保せよ!」

「かっしこまりました!」

「カトレア様!あ!ダメです!ク、クロユリ様ぁぁぁ」


暴力的な胸を揉みしだき、わたしとカトレアで至る所を触りつつ引っ張って浴槽に連れ込む。


「さてレビナス、なぜさっきからずっと脱衣場でむんむんとしながら聞き耳を立てていたか聞かせてもらおうかしら?」

「い、いやぁ、それは、そのぉ〜ですね……」

「クロユリも気付いてたのね」

「ええ」


【獣化】の影響か、【獣化】を使っていなくても多少は耳が良くなった。

とは言っても建物の構造を把握したりはできない。

気配を消せる相手には通用しない。


今回はただレビナスがはぁはぁしてるのが聞こえただけだけど。


「それにしても、如何わしいお胸ですわねカトレアさんや」

「そうでございますね魔王様」

「いっそもぎ取ってしまいましょう」

「ええそうしましょう」


レビナスの悲痛な喘ぎ声が浴室に響く。


わたし、別に女同士にそこまで趣味はないのだけれど、これは中々。


「一体どうやったらこんなになるのかしら?」

「それ聞きたいわね」

「……どうやったらと、言われましても……」


赤面するレビナス。

魔王軍最高幹部なのに、なにこのギャップ。

可愛いわね。


「レビナス様からは大人の色気がむんむんですからね」


音もなくその場にいたのはミーシャだった。


「ミーシャ!びっくりしたわ!」

「すみません。日頃から気配を消す訓練しているもので」


わたしはミーシャの身体をまじまじと見つめた。

それはもうジロジロと。


「クロユリ様、見すぎじゃないですか」


わたしはカトレアと目を見合わせて俯いた。


「カトレア」

「クロユリ」


わたしたちは言葉も交わさずにミーシャにお湯をかけてその一瞬の間にレビナスと同じように浴槽にぶち込んだ。


「ミーシャ、貴女はきっと、そんなはずは無いと信じていたのに……」

「クロユリ様!訓練より辛い仕打ちです!」


ミーシャ、ロリで低身長でネコ耳なのに、なんでわたしよりも大きいのか。

推定Cカップ。


「着痩せするタイプだったなんて」

「なんでカトレア様まで裏切られたみたいな反応なんですかぁ?!」


カトレアがミーシャの胸をまさぐり、わたしはネコ耳に甘噛みし尻尾を掴んだ。


ミーシャが喘ぎ叫び暴れている中、レビナスはほっと一息ついていた。


「なにレビナスはのほほんとしてるのかしら?」

「あ、いや、そのぉ……」


配下2人はそれからしばらくわたしとカトレアに遊ばれていた。



☆☆☆



お風呂から上がり、わたしは部屋の窓から三日月を見ていた。


異世界に来てから、全てが変わってしまった。

魔王になった事は客観的に見れば良くない事だろう。


でも、わたしは今の方が楽しい。


「クロユリ、起きてる?」


ドア越しに声を掛けてきたのはカトレアだった。


「起きてるわよ」

「入っていい?」

「ええ」


ベットに座るカトレア。

とても穏やかな夜。


「こうしてふたりでいる時間も久しぶりね」

「そうね。わたしもわたしでバタバタしてたし」


わたしが魔王として覚醒する前の静かな5年感だった。

それから考えれば、ずいぶんと騒がしくなったかもしれない。


「この間、ありがとね。助けてくれて」


内乱の時の話だとわかった。


「たぶん、助けるのは当然よ。家族みたいなものなのだし」


家族だから助ける。

その感覚はわからないけど、カトレアは助けたいし一緒にいたい。


カトレアが手を繋いできた。

指先まで絡めるようにしっかりと。

わたしも握り返した。


カトレアの白く長い髪は僅かな三日月の月明かりでも輝いて見えた。


「でもごめんね。ヴェゼルを処分しなくて」

「大丈夫」


カトレアからすれば、ヴェゼルは加害者でカトレアは被害者。

された事を考えれば、簡単に納得いくものではなかったと思う。


「私は知ってるの。魔族の憎しみも、ニンゲンの欲望も全部。観てきたから」


カトレアの紅い眼は少し悲しそうに細めた。

わたしはカトレアを抱き締めた。


わたしはひとりじゃない。

カトレアもひとりじゃない。


こうしてカトレアの少し火照った体温を感じていられる間はそう思える気がした。


「カトレア。今日は一緒に寝ましょ」

「ふふっ。クロユリもまだ子供ね」

「わたし、こう見えてまだ5歳児なのよ?知らなかったかしら?」

「あら、そうだったかしら?」


またふたりで笑った。


カトレアとふたりでこうしてずっといられたら、どれだけいいだろう。


そう思うと意識は途絶えた。


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