第43話 王国side 各国首脳緊急会議②

会議も終盤、リビィーフェ女王の元に半透明の小鳥がやってきた。

仮にも各国のトップが集まっての会議。


「魔王に囚われていたレフィーネからです……」


リビィーフェ女王はその半透明の小鳥がレフィーネ第三王女から飛ばされた召喚獣であると瞬時にわかり、会議の間を割るように発言した。


「流石は第三王女様ですねぇ。今度は三英雄殿とおせっせでもして飛ばしてもらったのでしょうかね〜」


睨まれて再び黙るロメジーナ三世。

既に異常事態であろう状況でもへらへらとしていられる精神にバーメル女王は呆れていた。


リビィーフェ女王は召喚獣の小鳥から話を聞いた。


「…… レフィーネ第三王女と三銃士にして三英雄ドドルガの身柄の引渡し、と……」

「何を、考えているんだ魔王はよぉ?」


ドルーグ王を頭を抱えだした。

エルフとドワーフ側からしたら人質を解放すると言っているのだから喜ぶべき。


しかし、この世界情勢の中で急にそう言われて手放しで喜べるようなお花畑な頭をしている者はこの場にはいない。


リビィーフェ女王は召喚獣の小鳥に言葉を伝えて返した。


「相手の要求を聞きます……少しでも情報を得なければ」

「幸い、今は会議中であるしな。みんなで話し合えるのは良い事だ」


タルタエズ王国のカンデラ王は冷静に言った。

どんな要求をされるかもわからない。

ましては当事者中の当事者のエルフの王女とドワーフの王が今ここに居る。


この会議中に少しでも有利に事を進めたいのはこの場の皆が同じだろう。


だがバーメル女王にはもう嫌な予感しかしなかった。


「……私の予想でありますが、エルフとドワーフ側に手を退かせるのが目的ではないかと」

「なぜそう思われる?バーメル女王」


カンデラ王が根拠を聞いてきた。


「我がグランドルが最初の魔王の魔力感知後の調査では、調査隊は全滅。一人は連れ去られて尋問ののち殺害」


バーメル女王は考えていた事を話し出した。


「一方エルフ・ドワーフの両者の奇襲時は各隊が壊滅し隊長二名を捕虜とした。接吻をさせて面白がり、隊の部下を全員治癒して解放。対応があまりにも違い過ぎるのです」

「つまり魔王は、ニンゲンには明確な殺意があり、エルフとドワーフには無い。そういう事だろうねぇ。接吻させるなんて頭イカれた事して遊んでるけど」


この場で接吻事件を弄り倒す頭のイカれた行動をしているお前が言うなとさらに睨まれる。

コイツは本当に貴族なのかとしまいには疑われている。


「異世界より召喚された魔王。明確なニンゲンに対しての殺意。ともすれば、我らニンゲンは愚かな罪を犯し続けた罰が下るのであろうか……」


ほとんど口を開かなかったウィージス教国のヒッギス教皇が祈りながら呟いた。


すると再びレフィーネ第三王女からの召喚獣が来た。


リビィーフェ女王はその伝言を聞き、目を見開いた。

直後になんとも言えない顔をしてこう告げた。


「今から行く。と……」

「……ん?」「え」「はぁぁ?!」「……神よ……」


一同は困惑と驚きのあまり会議室は混沌とした。

各国のトップとあろう者が威厳のない反応をするのも仕方ない事である。


「リビィーフェ女王よ、先程どう告げたのだ?」

「『現在、各国首脳会議中の為、その場で決める』と」


ロメジーナ三世は頭を抑えて「あちゃぁ〜」と笑っている。


「国のトップがこの場に全員いると知れば下手な要求をしないのではと賭けに出たが……」

「いやいやいや、てかまず魔王城からここまでどんだけ離れてると思ってんの?魔王が来る頃には俺ら全員帰れてるだろ?」

「『今から行く』と言うのがもし、本当に今から来るのだとしたら……」


その時、突然会議室の壁が破壊された。

一同はその破壊音の方向を見ると埃が舞っていた。


「着地に失敗してしまったわ」

「死ぬかと思ったわい!!」

「私のシルフの加護がなければどうなっていたか……」

「まあいいじゃないの。死んでないのだし」


そう言って無邪気に笑う邪悪な何か。


「国のお偉いさんが集まっているのはここでいいのよね。あら上品なお顔立ちのがたくさん。ここね」


その場の誰もが凍り付いていた。


長い黒髪に黒いゴシックドレス。

顔が幼げで少女にも見えるが、成人していてもおかしくないような背丈や雰囲気でもある。


魔王と思しき者と目が合うと、絶望的な殺気を振り撒いた。

バーメル女王は全身の力が抜けてしまった感覚に陥った。


「初めまして。わたしは魔王クロユリ。今日はご挨拶とさっきの件で伺ったわ。騒がなかったらこの場では殺さないから、安心してね?」


クロユリと名乗った少女の微笑みは可愛げのある表情なのに、背中から剣を突き刺されたような感覚に襲われている。


「それで、続きの話なのだけれど、奴隷を解放する代わりにエルフ側とドワーフ側は今回の戦争から手を退いてほしいの。殺す気がないから」


魔王クロユリはリビィーフェ女王とドルーグ王に向かって微笑んだ。

子供がちょっとしたおねだりをするような感覚でそんな事を言う魔王クロユリ。


魔王の要求はバーメル女王が予想した通りだった。


「そ」

「ニンゲンは黙ってて。今あなたたちに許されているのは息をする事だけよ。お花を摘みに行きたいならゆっくりと手を挙げてね?」


ロメジーナ三世が何かを言おうとした瞬間に遮られ、ニンゲンは息をしてもいいと許された。


発言をしたら死ぬ。

圧倒的強者らしい問答無用の圧力。


兵士が湧くと面倒ね……」


魔王クロユリは自身の手首を噛みちぎって血を垂らした。


その血は真っ黒で、そこからこの世の者ではない邪悪な何かが蠢いて形を成した。

それがいくつも現れ、やがて大量の真っ黒い狼が会議室を満たした。


「【影狼カゲロウ】、外から来るニンゲンは喰べてもいいわよ」


バーメル女王は絶望していた。

魔王クロユリが生み出した真っ黒い狼。

一体当たりの推定討伐ランクは少なくともB。


魔王の魔力の調整ができてさらに強くなるのなら、ランクAは間違いない。

そんな化け物をパッと見でも30匹は生み出している。


「で、お返事は?あ、エルフとドワーフの王は自由に喋ってもいいわよ」


喋れと言われても、無事に吐く息が喉を通る事に安堵しているような状況で話せるはずも無い。


それでもなんとか声を絞り出してドルーグ王は話し出した。


「……どうして、俺らを退かせたいんだ?……」

「興味があるから。それだけ。それでもニンゲンと協力するなら遠慮なく殺すし、奴隷にでもして調べるわ」


できればドワーフとエルフとは仲良くしたいわね、と微笑みかけている。


しかし言われている側からすれば脅しでしかない。


「権力者なら早い決断をお願いするわ。メイドがご飯を作って待っているの」


リビィーフェ女王とドルーグ王は私達を一瞥し、答えた。


「……わかった」「……承知した」

「そう。話が早くて助かるわ」


そう言って魔王クロユリは三英雄ドドルガを呼んだ。


魔王の指先を刃物で切らせて、指の腹の血で2人の首に刻まれている奴隷紋を擦って消した。


「じゃあ交渉成立ね。破ったらおしおきよ」


そう言って魔王クロユリは背中から悪魔の翼を生やして宙に浮いた。


「じゃあね。ドドルガ、レフィーネ」


手を振って、魔王クロユリは飛んで帰っていった。


バーメル女王は、勇者を呼ぼうと思えば呼べた。

自らの命を犠牲にしての話だが。


しかし呼べなかった。

今呼んだとしても、きっと勇者は全員死んだだろう。


今の彼らでは、なにも出来ない。

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