第42話 奴隷の身柄
「調子はどうかしら?」
わたしはドドルガとレフィーネにあてがっていた部屋を訪れていた。
奴隷とは思えない広々スペースで寛いでいる。
「それ聞くか?」
「なぜ髭の小人と一緒の部屋なのか聞きたいわ。死ねるなら今すぐ首を吊りたい」
「仲良くって言ったじゃない」
わたしは2人を見て笑った。
「それで、どのくらい国に報告できたの?頭のおかしい魔王の奴隷にされて辛いから助けて!みたいな感じかしら?」
2人ともが一瞬目だけを鋭くした。
仮にも部下を率いるリーダー格の2人。
情報をどうにか自国に届けているに違いない。
わたしはそもそも奴隷としての縛りをキツくしていない。
泳がせていた、という程頭良く立ち回っているわけでもない。
「こんな状況で下手にできるかよ」
「魔法の類いは感知されかねないものね。でも石ころとかに種族特有の暗号とか刻んでキャンプ地跡に転がしたりはできるじゃない。それに、ここに来てからは魔法なんてそこらじゅうで飛んでるし、やろうと思えばできるわ」
キャンプの痕跡のある場所に伝言を残す方法はいくらでもある。
それに手錠とかの類いはつけてないから加工するのも容易だろう。
「レフィーネは妖精に伝言を伝えるようにすることも出来たりしそうだしね」
「わかっていたならなぜ放置した?」
「レフィーネ素直ね。素直な子は好きよ」
ふんっ!と鼻であしらわれた。
つれないわね。
「理由は単純よ。エルフにもドワーフにも恨みはない。奇襲されたからとりあえず捕虜にしたけど、わたしは誰一人として殺してないわ」
きっちり治療までしてあげたもの。
「わたしがしたいのはニンゲン、人種?を殺す。それだけ。さらに言えば、本命はわたしの世界のニンゲンたち。この世界のニンゲンはついで」
「ニンゲンを殺したいなら好きにすりゃあいい。だがお前さんが今ここで俺らと話してる動悸がわからん」
ドドルガは酒を煽りながらわたしを睨んだ。
「ちらっと聞いたけど、かつての魔王との戦いではドワーフもエルフもニンゲンも協力して戦った事があると聞いたわ。もし今回も協力されると嫌だなと思ったの」
「お前さんの力なら、どれだけ束になっても脅威にはなりえんだろうさ」
「だからよ。わたしに数は意味を成さない。なんならわたし1人でもしかしたら世界は消せる」
「冗談に聞こえねぇからより怖ぇんだよなぁ」
たぶんだけど、黒影から生まれる
ワイバーンの群れを消し飛ばした【魔広波】の一振りで敵軍の1万くらいは簡単に消せるわね。
「レフィーネ、召喚獣とか使えるでしょ?交渉して」
「……どう伝えればいい?」
「そうね……レフィーネ第三王女と三銃士にして三英雄ドドルガの身柄の引渡し」
2人は目を丸くして直後に嫌そうな顔をした。
何考えてんだ?って顔止めてもらえないかしら?
あなたたちは助かるんだからいいじゃないの。
「見返りは?」
「エルフ、ドワーフの二国は魔王討伐から手を引く事」
「……承知」
レフィーネは左耳のイヤーカフにそっと触れて小さく呪文を唱えた。
どこからともなく現れた半透明の小さな小鳥がレフィーネの指先に止まった。
目を閉じて念じ、レフィーネはその半透明の小鳥を飛ばした。
「わたしね、エルフとドワーフには興味があるの。自然と共に生きるエルフと、職人魂に生きるドワーフ。わたしは前世の世界でそう認知しているわ」
「間違ってはねぇな」
「髭の小人共は山を破壊し武器を作るしか脳の無い阿呆よ。間違ってはいない」
「言ってくれるなぁ耳長」
ニンゲンは嫌というほど知っている。
良さも悪さも。
「この世界にはもっと色んな種族がいるんでしょう。わたしは前世で自殺して、なぜかこの世界で魔王になった。せっかくだから、ニンゲンを殺して、わたしは世界を見たい」
もちろん、前世にだって色んな人種がいる。
わたしの知らない世界もたくさんあっただろう。
でも、前世の世界はもうどうでもいい。
復讐さえできればいい。茫然とそれだけを願う。
「エルフとドワーフは仲が悪い。それも認知してた。だからわたしは2人を奴隷にして少しだけ観察してみた。面白そうだから、あまり殺す気はないのよね」
わたしは頬杖をつきながら2人を見つめた。
本当に見てても仲が悪いのだと思う。
いがみ合っているのもわかる。
でも、それぞれ良いところはあるし、ニンゲンにはない何かを持ってる。
そこまで長い付き合いではないから、きっと思い違いかもしれないけど、興味がある。
だからわたしはまだエルフとドワーフを殺さない。
「俺たちはニンゲンに恨み辛みはとくにねぇが、味方ってわけでもねぇ。ドワーフが助かるんならそれが1番良い」
不意に半透明の小鳥が戻ってきてレフィーネの指先に止まった。
レフィーネはうんうんと聞いている。
……早くない?
「現在、各国首脳会議中の為、その場で決めるとの事」
各国首脳会議。
先進国のトップが集まっての会議だったっけ?
日本では先進国という表現をしてるけどうんたらかんたら。
「大陸のトップが集まってるのね……じゃあ今から行こうかしら」
「はぁぁ?!」「はいぃ?!」
「ドドルガ、レフィーネ。飛ぶから武器持って準備して」
空の旅へご案内〜。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます