第41話 特訓
「勇者の身元調査に行く前に、まずはわたしと戦ってもらう」
内乱も落ち着き、各々が戦争の準備を始める中、わたしは暗殺部隊の教育をする事にした。
と言っても基礎はあるし、応用の仕方を異世界人であるわたしがてきとーにああだこうだと口出しするだけ。
亜人の半魔であるみんなは戦闘能力はそこまで無いけど、暗殺においてはなんとなく光るものがありそうだからだ。
「ヴェゼルと暗殺部隊の5名、計6名でわたしの首を落とせたら勝ち。落とせなかったら死なない程度の拷問よ」
12名いる暗殺部隊のうちの今回調査させる5名はわたしたちに奇襲を仕掛けてきた例の5名だ。
捨て身で村の為に囮になる覚悟もあるし、1番戦い慣れている。
「……クロユリ様、無理です」
ネコ耳娘のミーシャが半泣きで訴えかけてくる。
「出来なかったらニンゲンたちに殺されるだけよ」
わたしが暗殺部隊に出した任務は勇者たちの身元調査。
どういう状態かはわからないけど、簡単に手を出せる状況下にない事は確か。
戦争で主力部隊をその辺の宿屋に泊める訳が無い。
もし泊めているようなずさんな警備体制ならわたし1人でニンゲンを殲滅できる。
「ミーシャたちは光と闇の魔力を駆使してわたしを惑わし、味方を守りわたしの首を落とす。ヴェゼルはみんながどう動くのか、自分がどう動けばより効率的に殺せるのか考えて動く事」
ヴェゼルは光と闇の魔法はあまり適正は無いけど、基本スペックが高い。
どういう立ち回りが必要か考えながら戦ってもらわなければいけない。
「状況は、暗殺に失敗し逃走するも戦闘、仲間を見捨てられずに強敵と対峙。暗殺者として、仲間を見捨てるか、仲間が捕虜になる前に殺して逃げる。それが最もマシ」
……まあ、本当にそうかは知らないけど。
情報を漏らされても困る場合があるだろう。
あらゆる想定で訓練したいけど、あんまり時間はない。
「それと、全員ニンゲンの姿になって戦闘を継続する事。これは他国とのいざこざに巻き込める可能性も考えての事よ。ただでは死なないでね?」
たとえ刺されてもニンゲンの姿をある程度維持出来るくらいには魔力コントロールを出来てもらわないと困る。
「それでは始めるわよ。わたしは死なないし死ねないから、遠慮なく殺しに来てね」
わたしは大鎌は召喚せずに獣化して素手での戦闘。
獣化した状態での複数戦闘の練習でもある。
ケモ耳がわたしにもある状態だと音や匂いの情報量が桁違いに多くて辛い。
だからこれはわたしにとっても修行だ。
「いい動きねミーシャ」
匂いでわかる。
目の前から突っ込んでくるミーシャは光魔法で作った幻影。
本体は左後方から来る。
「ミーシャなら真っ先に首を狙うと思っていたわ」
「うわぁぁぁ!!」
忍び寄る短剣を躱して手首を掴んでさらに迫ってきたゲイルというウルフヘアの老師風の男にぶつけた。
「ゲイルもミーシャの動きを熟知した先読みの動きはとてもいいわ。敵を知らない状況下では仲間がどう動くかくらいは把握して戦わないと自滅するわ」
わたしがぶつかって倒れているミーシャとゲイルに拳を振るおうと接近した直後に火炎魔法が邪魔をした。
「ヴェゼル、いい対応よ。全体を見てフォローして流れを掴んでコントロールして」
そう褒めながらヴェゼルへと接近した途端に両サイドから角度の違う斬撃が2つ。
わたしは身体を捻って回避した。
「メルリア、カイダル。2人も良い連携ね」
キツネの目と尻尾のメルリア。
タヌキの亜人のカイダル。
2人の相性もかなり良い。
カイダルはヤコタ村長の息子という事もあり張り切っているみたい。
「獣化してないわたしなら捻りが効かなくて身体を裂かれていたわ」
微笑んでいたわたしの背中にしがみついてきた虎の亜人のトールスが短剣で首を掻っ切ろうとしてきた。
「トールス、エッチね」
獣化によって生えている尻尾でわたしはトールスの足を絡めとって引き剥がした。
「相手がニンゲンならかなり有効だけど、密着してる分気を付けて」
獣化してなかったらかなり大変だ。
普段のわたしは大鎌を力任せに振り回しているだけだし。
ジュリアの力の樹脂硬化もあるけど、それをやっちゃうと完全にわたしの勝ちになってしまいそうだから止めた。
「レッスン2よ」
わたしは戦闘を継続しながら黒影を2体出して戦闘に参加させた。
敵が複数、または大勢いる前提も含めて行わなければいけない。
みんなには連携と魔法を駆使して数をカバーしていかなければいけない。
黒影には匂いを感知する能力はない。
でもそれを教える事はしない。
戦いの中で感じ取って攻略してもらわないといけない。
ペラペラ喋る敵に苦戦してるようなら既にどっかで死んでいるだろうし、どのみち足でまといだ。
その後も戦闘を続けて疲れ果てたみんなは降参した。
負けたので拷問として手足を縛ってひたすらに擽った。
ただでさえ疲れているのに笑わされて苦しいながらも笑い続ける様は滑稽で面白かった。
老師ゲイルだけは笑わなかったので鼻の穴を擽り続けてくしゃみをさせ続けた。
真っ赤になったゲイルの鼻を見てみんながさらに笑っていて、楽しかった。
「ミーシャ、貴女は少し居残りよ」
「……もうヘトヘトですぅ」
「エッチな拷問もあるけど、それをされるか居残り練習かのどっ」「居残りでお願いします」
半泣きになりながらも居残りを承諾したミーシャ。
可愛い。
「じゃあまず光魔法を使って。継続的に」
「……こうですか?」
ミーシャは手のひらの上に丸い光の玉を作り出した。
「出力を少し上げて」
「はい」
「この光を圧縮して」
「……圧縮、ですか……難しいです」
「最初は握り潰すようなイメージでいいわ」
わたしも魔力を手のひらで放出して握り潰すようにして絞った。
黒い魔力がえげつない濃度になっている。
「……クロユリ様、その魔力だけでこの辺り一帯吹き飛びますよ……」
ミーシャの顔が真っ青になっている。
爆発したら一溜りもないものね。それはそうか。
「でも元々の魔力量はせいぜいわたしの半径5メートルが爆発する程度?よ。たぶん」
「……その圧縮で、そんなに跳ね上がるんですか?」
「ええ。あなたたちは光と闇の魔法の扱いは上手いけど、圧縮して威力を上げるという概念がないわ」
攻撃に向いている火炎・水、土、風魔法などは圧縮して放つイメージもある。
だけど光と闇の魔法は補助や隠蔽、目眩しとかにしか使われていないような印象。
「光は実はとっても細かい粒らしいわ」
「?はぁ」
「ミーシャ、ちょっと乗っ取るわね」
「?え、あ、はい……?」
わたしはジュリアの寄生能力を一部使用してミーシャの右手に手を重ねた。
「ひぃッ?!」
ミーシャの右手にツタが這って絡みつく。
「ミーシャの魔力使うわね」
そうしてわたしは勝手にミーシャの右手から魔力を吸い出して先程と同じように光の玉を作り出した。
制御はわたしが出来ている。
出力を上げつつイメージだけて圧縮を重ねていく。
「……魔力消費がえげつないですぅ……」
わたしは近くにあった大樹に向けて圧縮した光を放った。
音もなく大樹は倒れた。
「光魔法で、あんな大樹が……」
「光を一点に絞る事によってこんな事もできるわ」
「す、すごいです……」
「光はみんなを照らす事もできるし、騙す事もできる。一点に集めて攻撃する事もできるわ」
スポットライトで注目を浴びるように、ただ1点。
光は闇を作り、闇と共にある。
太陽は眼を焼く事もできるし、みんなに光を与える。
「ミーシャに宿題。これを会得して必殺技を考えてきて」
わたしはミーシャの頭を撫でて居残り練習を終わらせた。
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