第40話 王国side 各国首脳緊急会議
「これはこれは、髭の小人の王ではありませんか。そのような不潔な容姿で会議に出席されるとは思っておりませんでしたわ」
「誰かと思えば耳長の女王じゃねぇか。おたくの第三王女のお陰で仲良く捕虜になっちまったなぁ全くよぉ」
バーメル女王は頭を抱えていた。
エルフの王女リビィーフェ・エゼフロール。
そしてドワーフの王ドルーグ・ドドルゴ・ガンザス。
この二国の王はどうやっても仲が悪い。
加えて接吻事件により溝はさらに深まっている。
おそらく天地がひっくり返っても仲が悪いままだろう。
「リビィーフェ女王もドルーグ王は相も変わらず仲がよろしいようで」
「ロジメーナ三世殿は一度、眼と頭を医者に見てもらった方がよろしいかと」
「そんな事をするより前に頭を打てば治るかもしれん。どれ、頭を差し出せ大公」
頭を抱えていたバーメル女王は偏頭痛に悩まされていた。
ロジメーナ三世。エルバー大公国を治める貴族である。
美女と間違う程の美男子であり魔法の才能と学の深さで国土を広げている勢いのある国である。
若い故にか、エルフの女王とドワーフの王をからかい遊びを楽しんでいる。
国を治める貴族でありながらふらふらとした態度で掴みどころが無いようにも感じるが、相当のやり手だ。
「聞きましたよ?エルフの第三王女とドワーフの三英雄のドドルガの熱烈接吻スキャンダル。世界を賑わす大恋愛ではありませんか?!」
1番触れてはいけない話題に火をつけて騒いでいるロジメーナ三世。
ふざけているように見えて、両者を自滅させようと笑顔で煽る姿はピエロを超えて悪魔そのものではないかとバーメル女王は思った。
「ロジメーナ三世、その辺にしておけ」
「良いではないですかカンデラ王。魔王復活なんて重々しい話をこれからしなきゃいけないのですから。国のトップたるもの、常に笑顔でなければ」
「他国の話で笑っている者は外道と相場は決まっておるわ」
タンタエズ王国のカンデラ・サージベル王。
荒んでいたタンタエズ王国を孤児として生きていたカンデラが王になり国を立て直したと言われているほどの男。
年老いた国王であり、孤児院出身という貧しく差別され続けたからか、民衆に愛される政策を繰り出して豊かな国として存在している。
「内輪揉めをしている余裕はありません。龍神より与えられし時を無駄にしてはいけません」
「はいはい。そうでございますねヒッギス教皇殿」
ロジメーナ三世は肩をすくめておどけながらも真面目な顔をしだした。
ヒッギス教皇。
ウィージス教国の実質的なトップ。
国は小さいながら貿易自体は盛んな国だが、大陸に唯一の宗教国家。
ドラゴンなどという伝説上の存在を神と崇める国家。
バーメル女王はヴィナトとの交流で女神エリアという神がいた事は聞いていたが、龍神の話は聞いた事がない。
もし居るなら、または、もし居たならヴィナトから話を聞けているだろうと思っているが、あえて話していない可能性もある。
どちらにせよ、バーメル女王はヒッギス教皇をあまり信用していなかった。
「それでは各国首脳緊急会議を始めさせて頂きます。本日は我がグランドル王国で執り行う為、
一悶着ありながらも首脳会議を始める事ができたバーメル女王。
「では今回の議題、魔王復活による対処についてです」
「バーメル女王さんとこの勇者でやればよくないですか?」
さっそく弄り回そうとしたのはロジメーナ三世。
戦争なんて真っ平御免と言いたげだ。
「そうですね。私たちエルフはグランドルの嘘の報告のお陰で多大な被害を受けましたもの」
「耳長、報告と違ったのは幼女か少女かの違いだけだ。グランドル王国の落ち度はねぇよ」
「お、ドルーグ王、男前な発言ですね〜」
「グランドル王国の要請を無視し先行して調査及び討伐へ向かったエゼフロール王国に、グランドル王国を批難する資格は無いとは思うがな」
ドルーグ王とカンデラ王はバーメル女王をフォローした。
現状エゼフロール王国は悪者扱いだか、自国の失態を他国であるグランドル王国のせいにするのは流石にどうなのか。
「この場は失態や失敗を擦り付ける場ではありません。今は魔王をどうするか、その1点のみ」
ヒッギス教皇のフォローもありリビィーフェ女王は黙った。
「我がグランドル王国の調査隊からの報告時は確かに人型の魔王であり幼女の姿だったとの報告でした」
その後調査隊が消息を断ってから程なくしてエルフ・ドワーフの奇襲作戦という時系列である。
「しかしエゼフロール王国の討伐隊、そしてドルーグ王の差し向けた三英雄の率いる隊の報告では少女の姿。グランドル王国が観測した最初の魔力検知から二国の奇襲の際の魔力検知ではさらに跳ね上がっています」
「今回の魔王は成長しておると」
「はい。それもかなり急速に」
幼女から少女の姿へ。
人間ではまずありえない。ましてや亜人とて不可能。
「最初の検知から調査隊が発見し戦闘になった際はすぐに見つかっています。それから二国との戦闘時には殺さずリーダー格を捕虜にし接吻させ犬猿の仲であったエルフ・ドワーフ間の仲をさらに悪化させニンゲン側の連携を難航させている当たりから見ても、魔力だけでなく知性も成長している可能性もあります」
「敵ながらあっぱれですね〜。今もこうして仲良く喧嘩してるわけですし」
リビィーフェ女王とドルーグ王が鬼の形相でロジメーナ三世を見た。
それをまたしてもおどけながら躱す。
「
失敗に終わるかと思ったほどの悪戦苦闘。
もしもあのタイミングで魔物の暴走が起きていたらグランドル王国はこの会議を自国で開催できていたかも怪しい。
「かつての魔大樹の魔王の時と比べても比較にならない程の強さを誇る魔王である事は間違いありません」
知性と圧倒的な魔力による暴力。
それができる魔王。
どう考えても一国で戦ってどうにかなる相手ではない。
世界的歴史においても最大の最悪であり災厄である。
「此度の魔王討伐は、各国の協力は必須であり、我々人類が生き残る最低限必要な事です」
バーメル女王はわかっていた。
グランドル王国のほとんどはニンゲン種。
数は多いと言っても、魔王の広範囲の破壊力であれば王都はおろか国1つ丸ごと地図から消せる。
ましてやニンゲンに恨みがある魔王だと推定されるため、どう考えても勝ち目はない。
「エルフの自然を味方に付ける力と気高さ、ドワーフの炎に愛された武具、ウィージス教国の豊かな魔法、カンデラ王の国を立て直した知恵と人脈、ロジメーナ三世の駆け引きと財力。全てを持って挑まなければ、世界は滅亡するのです」
渋い顔をする国のトップたち。
しかし、この事態が世界を揺るがす事はこの場の誰もが感じ取っていた。
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