第39話 キャンベル・スクワート

わたしの胸の中で泣いているヴェゼルをあやしていると、後ろから声が聞こえた。


「もういいのか?」

「ええ大丈夫よクロム。カトレアを解放してあげてほしいのだけど」

「ああ」


魔族を襲わせていた影狼たちはもう引かせていた。

だからクロムたちは大まかな後処理をしてからこちらに来てくれたのだろう。


「カトレア、無事でよかったわ」


わたしがカトレアに微笑みかけるとカトレアも疲れの溜まった笑みを返してきた。


のちのちカトレアから昔の話をまた詳しく聞かないといけないけど、しばらくは難しそうだ。


「さてと、今回の件をきっちり終わらせるとしましょうか」



☆☆☆



わたしと同じ姿の黒影たちを使って配下の者へ呼び掛けた。


今回の事件について沈静化する必要があった。

わたしは魔王着任式で使った玉座の間に皆を集めた。


「戻ってきて早々のおもてなしをどうもありがとう」


わたしはにっこり笑顔で微笑んだ。

みんなは凍りついた。


「死んじゃった者も多いけど、アンデットとして復活させるから反逆した者、そそのかされた者に関しては許すわ」


ニーナをアンデットとして蘇らせたキャンベルというアンデットがいるという。


それもレビナスに続く幹部の1人だというのでわりと優秀なのだろう。使える。


「今回の件の主犯はヴェゼルだったけど、どうやら何者かに洗脳をされていた痕跡があったので、ヴェゼルにも重い処罰は与えないわ」


ザワつく玉座の間。


「魔法や呪術の類いでは無い未知なる力によるもので、ヴェゼルも気付いてないようだったわ。何処でされたのか、誰にされたのかも全く不明」


これは真っ赤な嘘だけど。

こういう時は妖怪のせいにでもすれば大抵何とかなる。

この世界だと妖怪も居そうだから、謎の何かのせいにしてしまうのだけど。


「とはいえヴェゼルには、半魔たちを率いて勇者たちの素性を調べてもらうわ。潜入捜査よ。もちろんバレたら死ぬし、拷問とかもされるかもしれないわ。汚名返上という事でチャンスを与えるわ」


落とし所としてはこの場で処刑が1番楽だけど、楽なのはつまらない。


「あなたたちが半魔に対して未だに思うところがあるのはわかるわ。でも悪いのはニンゲン」


半魔と呼ばれる亜人たちの半分はニンゲン。

特徴的な耳や尻尾を見れば憎悪は増すのだろう。


「そんな半魔を作ったニンゲンが、魔族と半魔に殺られたらどんな顔をするのか、わたしはすっごく興味があるわ。想像してみて。魔族を殺す為の道具とし創った半魔が、魔族と協力して自分たちニンゲンを苦しめるの。どんな顔をするのかしら?どんな風に顔を歪ませて泣くのかしら?」


魔族たちのヘイトがニンゲンへと向くのがわかった。


嫌がらせを受けてきたわたしは、どんな事をされたら嫌かよく知っている。


自分より弱い者を虐めるのは自分が虐められたくないから。自分は強いと思い込みたいから。


たくさんの理由がある。


「半魔たちだって被害者。だからわたしはニンゲンに苦痛を与えたい。罪であり、罰を受けるのはニンゲン」


この世界のニンゲンに別に恨みがある訳では無い。

できるならわたしを虐めたクラスメイトにそうしてやりたい。

でもそれはできない。


だけど、カトレアを苦しめたのはこの世界のニンゲン。

だからわたしはニンゲンを殺す。


わたしは魔王。そのためにこの世界に生まれてきた。


「どうしてわたしが半魔たちを連れてきたか、まだ説明は必要かしら?」


みんなは黙っている。

それは完全にニンゲンへと向いている敵意、悪意、恨み。

それら全てを表していた。


「というわけでこの内乱の話は終わり。ついでに紹介したい人がいるわ」


わたしは目配せして合図した。


「原初の魔王クロムよ」

「……」


再びザワつく玉座の間。


「久しぶりだな、キャンベル」

「これはこれはクロム様、ずいぶんとお懐かしい。もう1000年になりますか」

「らしいな。姿は変わってないが、口調はずいぶと変わったな」

「それだけ年月も経っていれば丸くなるものですよ」


魔族の中では相当な古株であるらしいキャンベル・スクワートというアンデットとの会話を見てどうやらクロムが原初の魔王であるというのは本当らしいとみんなは感じたようだ。


「というわけで封印されていた『原初の魔王』も復活させた事だし、戦争を始めるわよ」


戸惑いも若干混じりつつ、それでも玉座の間にいたみんなは闘志を燃やして叫んだ。



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