第79話 復活

速い。

まずそう思った。


血の気のない顔をした聖騎士たちは屍兵よりも速い。


聖騎士から心音は聴こえない。

屍兵と同じく死んでいる。

にも関わらずスペックは屍兵以上。

元が強いからさらに強いのか、それとも血炎術式によってさらにパワーアップしているのか。


「モモ、とりあえず自分を守ることをだけに集中して。わたしは数を減らすから」


囲まれている状態で【魔広波】は隙が出来てしまう。


大鎌で首を落としながら影狼と黒影を絶え間なく召喚しながら数で対抗する事にした。


ちまちま殺るのは面倒。

でも多勢に無勢、さらに一人一人が強い。


一掃するのが1番楽だけど、現状難しい。


「魔王というわりには動きが素人ですな。幼き魔王殿?」


後ろに手を組んで見物しているヒッギス教皇が挑発してくる。


血炎術式を掛けた精鋭の聖騎士200体程度で余裕そうな顔をしている。


神殿から未だ聳えている赤い光柱は勝利の狼煙と言わんばかりだ。


「わたし、こう見えてまだ産まれた時間経過だけで言えば5歳なの。素人どころか幼女よ老いぼれ」

「はっはっ。幼女のわりには発育が良いことですな」

「ロリコンめ。目とイチモツが腐る呪いでも掛けてあげようかしら?」


大鎌を振り回しながらもわたしはヒッギス教皇に対する悪口を止めない。


こういうゲスいやつは心底嫌い。


ムカつくから一瞬だけ本気出すわ。


「【零式】」


口から軽く血を吐いた。

負担が大きいからあんまり使いたくはない。

治るけど、頭が溶けそうになるくらい熱い。


でもこれで周りの動きがわかる。


「豚箱に突っ込んでやるわ」


わたしは左手首を切断して黒い血を垂れ流した。

地面に染み込んでいく黒い血をわたしは魔大樹の魔王の力を使い、植物のツタを大量に生やした。


そして蔦で聖騎士を次々と捕まえていく。


「【人喰山小屋グーディナル】」


わたしは寂れた山小屋を召喚し、次々に捕まえた聖騎士たちを放り込んでいく。


本来は山の妖力で出来た山小屋は誘い込んで喰い殺す。

でもこんな状況では誘い込めない。

なのでぶち込んでおく箱として利用する。


お掃除をするなら吹き飛ばすか詰め込んどくかが1番手っ取り早い。


バキバキと音を立てる山小屋からは血が滲んでいる。


わたしは【零式】を解除した。


「ごめんなさいねヒッギス教皇。散らかっていたからお掃除しておいたわ。お礼くらい言ってくれてもいいのよ?」


ゴスロリ服が汚れていないか確かめつつスカートの裾を叩きながらヒッギス教皇に言った。


悔しがると思っていたが、わたしの予想とは違い笑顔のままだった。


「思いのほか早く殺られてしまったなぁ」


まだなにか隠してるのか薄汚い笑みが気持ち悪い。


現状、ヒッギス教皇の手駒はもうほとんど残っていない。


光柱の伸びる神殿以外には近くに建物はおろか草の1本も生えてはいない。


「ヒッギスよ、涼しそうな顔をしておるのぅ。お主の最期の夜風はそんなに心地よいのか?」


目の前に突如現れたのは紫紺の長髪を靡かせて優雅に佇む少女だった。

病的なまでに白い肌に紅の瞳はカトレアと似ている。


真っ黒いワンピースのスカートから見える細い脚は幼さを感じた。


わたしと似たような身体付きにも関わらず妖艶であり、吸血鬼の女王。


「……ヴィナト様……」


モモが小さくそう呟く。


この人がヴィナト。

かなりの実力者なのだろう。


獣化して気配探知もある程度できるはずのわたしが直前まで気付かなかった。


「……どうやって抜け出したヴィナト……」

「妾の愛しき眷属が迎えに来たのじゃよ。処女を捧げる間も無く爆発音は響くし血生臭い。せっかく1000年振りの外だと言うのにのぅ」


悔しそうな顔をしているヒッギス教皇。

聖騎士を殺されても平気な顔をしていたヒッギス教皇の顔が初めて歪んだ。


「ヴィナト、病み上がりなんだから勝手に出歩くなよ」

「すまぬのクロム。1000年も退屈じゃったのじゃ。許してくれぬか」

「多少のわがままは許すさ」

「ク、クロム……原初の魔王クロム……だと……」


ヴィナトはわたしを見て近付いてきた。

女のわたしでもエロいと思わされる謎の妖艶さ。

モモとは違う淫美な雰囲気。


「そなたが此度の魔王か、礼を言う。我が眷属を復活させ、妾を救出するために尽力して頂き感謝する」

「礼は要らないわヴィナト。信じて待っていたのでしょう? クロムが来るのを」

「そうじゃのぅ。1000年待ったのぅ」

「この戦が終わったらゆっくりと愛を育むといいわ」

「うむ。欲求不満じゃしの」


そうしてヒッギス教皇を見たヴィナト。


「じゃが、状況はあまりよろしくないのぅ」

「……やっぱり?」

「うむ」


血炎術式を掛けられた聖騎士たちを殺し尽くしても平気な顔をしていたヒッギス教皇。


ヴィナトを見て顔を歪めたものの、捉えていたヴィナトが逃げ出したからそういう反応をしただけなのだろう。


となると、ヒッギス教皇の余裕は別のところからきている。


「あの光柱はおそらく……」


(クロユリ様!! ドラゴンの大軍が押し寄せています!)


「ドラゴンが大量に来てるらしいわ」

「本当かクロユリ?」

「ええ。クロムもニーナから状況を聞いて」


ニーナもレビナスと同じところにいる。

状況はクロムとヴィナトにも入るだろう。


「ふっふっふっ……ふははははははぁぁぁぁぁ!!」


汚らしく笑うヒッギス教皇。

ギラつく目はおぞましく、歪んだ笑みは老けたのも相まって恐ろしい。


その顔で教皇と名乗るのはどうかと思う。


「時は満ちた……龍神様は世界の破壊と再生という天命を遂行される為、世界を蹂躙しにいらっしゃる」


膝を着いて笑顔で夜空に手を合わせてそう言ったヒッギス教皇。


泣いて喜んでいるヒッギス教皇は不意に何かに潰された。


空から降ってきたのは巨大な龍だった。

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