第80話 龍神
「眠い」
巨大な龍はヒッギス教皇を下敷きに一言そう呟いた。
巨大な龍は鱗の隙間から赤く光る流動体のようなものが見えている。
翼は溶岩を固めて作ったかのように重厚感があり、吐く息からは炎が舞っている。
潰された神殿からは篭っていた血の匂いが蔓延している。
直感すら必要ないほど伝わってくる圧倒的力。
こいつは間違いなく4体いるうちの龍神の1体。
レビナスがドラゴンが大量に来ていると言っていたが龍神で間違いない。
「みんな離れて!」
寝ぼけてるなら好都合。
そのまま死ね。
わたしは大鎌を握りしめてありったけ魔力を込めて跳躍した。
「【
的がでかいとはいえ、被害が大きくなる。
力いっぱいの斬撃波で一刀両断する。
動きが鈍いため簡単に頭から振りかざした。
「っなッ!!」
大鎌が弾かれた。
握った手に電気が走ったように痺れる。
わけがわからないくらいに硬い!!
「……羽虫風情が小賢しい」
「っがッ!!」
「クロユリ様ぁぁぁぁぁ!!」
龍神の右腕で叩かれ吹き飛ばされた。
大鎌でガードしてもなお地面をわたしが抉っていく。
ガード越しの腕があらぬ方向に向いていて、人体からしてはいけないありえない擬音が聞こえながら腕が破壊と再生されていく。
「……はっはっはっ。……死ぬかと思った。しかも死ねてなくて笑う」
ぐちゃぐちゃギャチャギチャと治っていく腕や体をどうにか動かして立ち上がった。
「クロユリ様ぁぁぁぁぁ!! 大丈夫ですか?!」
「大丈夫よ」
クロムとヴィナトが龍神を引き付けてくれている間にモモが駆け寄ってきた。
視界がぐらぐらだからか、いつもよりモモの胸が揺れているように見える。
「でも頭に来たわ。あいつムカつく」
叩かれたのはお父さんに虐待されていた頃以来だ。
ゴミを見るかのように叩かれたし。
もうどうなってもいい。
魔力を使い過ぎるのは懸念すべき事だけど、どのみち龍神殺せなかったら意味が無い。
「ヴェゼル」
「はい」
呼べばすぐ隣にいるのはほんとに便利ね。
クロムたちが合流してるから居るとは思っていたけど。
「ミーシャをここに残して魔法でわたしの周囲を隠して。後は雑魚ドラゴンの殲滅に尽力して」
「わかりました」
「モモはわたしの援護をお願い。少し動けなくなるわ」
「かしこまりました」
「クロム! ヴィナト! 後1分時間稼いで!」
吐血してるがサムズアップしてるからまだ元気そうだ。
クロムの大技の打撃でもほとんど効いてないが、それでもなんとか攻撃は上手く捌いてくれている。
えげつないマグマブレスなんて口から吐き出して攻撃してくる龍神。
下手にレビナスたちの方向に向けられたら一瞬で戦況は最悪になるだろう。
「石頭に硬質のボディ、加えて攻撃力と熱いマグマブレスなんて出す下劣な龍神様にはとっておきをお見舞いしてやるわ」
わたしは片腕を肩の関節からバッサリ切断した。
黒い血がどっさり出てくるのも構わず残った腕でその血まみれの腕を掴んだ。
黒い血と腕を素に
「……ありったけのスナバコノキのタネと植物性燃料を詰め込んで圧縮……琥珀で3層コーティング……奥でつっかえるように起爆装置付きの返しと…………できた」
即席だから無骨だけど、これでいいだろう。
「クロユリ様……これは……」
モモが引き攣った笑みを浮かべている。
「お見舞いしてやるわ」
使い捨てだから失敗するとかなり面倒。
龍神はまだ本気出してないみたいだから、このまま殺す。
わたしは羽を生やして槍を持ち龍神の元へ突っ込む。
「クロム! ヴィナト!」
「ッ?!」
龍神がマグマブレスを繰り出そうと息を吸っている。
かますならこのタイミングしかないだろう。
わたしの特攻になにか察したのかクロムとヴィナトは後退した。
「死ね……虐待魔法 黒槍 【
口を開いてマグマブレスを放とうとした瞬間にわたしは非道酷槍を龍神の口の中に投げ付けて喉奥に突き刺した。
収納型の返しが起爆して喉奥の肉に刺さり抜けなくなった。
喉の気道を大きく塞ぎ、迫り上がってくるマグマブレスの熱により槍の樹脂コーティングが溶け出して内部の植物性燃料が爆発し龍神の首は吹き飛んだ。
「ごっくんできて偉いわね」
辺り一帯に龍神の肉と血脂が飛び散り降ってくる。
「ほんとは肛門にぶち込んであげようと思ったのどけどね」
お尻を開発する趣味はわたしには無いので止めた。
「……クロユリ……」
「……お主、えげつないことするのぅ……」
「魔王だし? いいじゃないの」
地面に着地してわたしは膝を着いた。
頭が割れるように痛いし額がムズムズする。
吐血した血が黒い。
自傷行為をしてないのに黒い血が出てきた。
「クロユリ?!」
「……カトレア」
爆発を見てかカトレアが駆け付けてきた。
カトレアは魔法部隊を率いていたはずなのだけど……
「大丈夫よカトレア」
わたしは黒い血を拭いながら答えた。
「あんな巨大な龍の首が吹き飛んでて膝着いてる状態のどこが大丈夫なのよ?! そもそも血だらけじゃない!!」
カトレアが体をあちこち触って確かめてくる。
ほとんど死なないし治るのに血だらけのゴスロリ服を見てカトレアは心配してくれている。
考えてみれば、こんなに心配を掛けてしまったのは第一次成長期以来。
申し訳ないと思いつつ、こうなるかもしれないからとあえて後方の魔法部隊を率いさせていたのに結局心配させてしまった。
「クロユリよ、龍神の一体は倒したが問題があるのじゃ」
「どんな問題?」
「アレじゃ」
ヴィナトが指したのは未だ赤く光る光柱だった。
「あれがなに? あれって血炎術式のやつよね? たぶん」
「そうじゃ。あの血炎術式が展開されておる限り呼ばれた他の龍神がここへ来る」
「……順番に復活してくるとかじゃなくて、復活した龍神がそのままこっちに真っ直ぐ向かって来てて、今さっき倒したヤツは早めに来てた……的な?」
「おそらくそうじゃの」
「僕が1000年前に戦った時、龍神は4体がほぼ同時に襲来した」
つまり、いつ来るか全くわからない。
「ガ、ガガーーーーーーーッ!!」
音の方を咄嗟に向くと、ぽちが何かに貫かれている瞬間だった。
遠目から見てもわかるほどの威力。
「あのブレス、神龍
(レビナス、現状報告を)
「……レビナスの応答がない。行くわよ」
わたしたちは走り出した。
「なんで龍神の気配を察知出来ないの?」
並走するクロムとヴィナトにわたしは尋ねた。
さっきの硬い奴もそうだけど、あれだけのブレスを放てるのになぜ直前まで気付けなかったのか。
「あいつらは自然そのものなんだ。今僕たちが無意識に踏んでる地面と同じ。この手の魔力を探れるのは妖精くらいだ」
「魔力の概念の違いが全然わかんないわ」
元の世界にはそもそも魔力の概念は創作くらいでしかない。
霊能者とかなら話は別だろうけど。
「正確には魔素じゃの。妾たち生物は魔力を消費し、息をして食べて寝て初めて魔素を体内に取り込むのじゃ。そうして魔力として還元しておる」
「わかりやすくいうと、龍神は魔素の塊って感じね。クロユリにはちょっとわかりにくいかもしれないけど」
確かにわたしにはわかりにくいのかもしれない。
でも気配を探りにくいって事だけわかればまだなんとか対処出来る。
さっきの奴はデカいし動き自体はなんとかなったから気配の違和感は気付けなかったけど。
「お〜、こいつらが
「
「風善、その女は殺すなよ。邪神エリアの置き土産なんだからさ」
「うっさいなぁ
ドラゴンと魔族の屍の上にいたのは三体の人型の龍神だった。
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