第76話 教会でのご挨拶
「ごきげんよう魔族諸君」
5万人の魔族、屍兵を収容している駕篭の中、各フロアにスタンバイしている配下に向けてわたしは話し出した。
「これから龍神という神を崇めるニンゲンたちを虐殺しに行くわけなのだけれど、龍神様が怖いって子はいるかしら? おトイレならあっちにあるから今のうちに行くか、逃げるかのどちからをおすすめするわ」
フロアから「誰が逃げるかよ!!」と元気なヤジが飛ぶ。
「グランドル、エルバー、タルタエズ、3国を順調に潰して残りのニンゲンの国ウィージス教国。……個人的には早く終わらせて美味しいご飯が食べたいから、世が明けるまでには終わらせて欲しいのだけど、どう?」
わたしはおちゃらけてみんなに問うた。
ほとんどの配下は「文字通り朝飯前だ!」とか調子のいいヤジを投げつけてくる。
順調過ぎるほどに戦いに勝利している為か、みんなは余裕だとかなりの人数がそう思い込んでいるようだ。
ヴィナト救出作戦はクロムたち一部の人員以外は知らない。
知る必要もない。
あくまでニンゲンと魔族の戦争。
「もうすぐ目的地に着くわ。これがわたしたち魔族にとっての平和の最終戦争よ。ニンゲンを家畜にしてもいい。仲良しこよししてもいいわ。奴隷が欲しいなら好きなだけ持っていってもいい。でも取り合ってケンカしちゃダメよ? みんな仲良くしてね? 仲良くお城に帰るまでが戦争よ? わかった?」
フロア中に雄叫びが上がる。
素晴らしいレスポンスね。
オタクの鏡と言える。
武道館でLIVEのMCでもしているアイドルのような気分になったわ。
死んでからなのが残念ね。
「それじゃ、始めましょうか」
☆☆☆
ウィージス教国が見えてきた辺りまでぽちとコハクで進行していると、モモとレビナスが血相変えて飛んできた。
「ふたりとも気合い入ってるわね」
「クロユリ様!! まもなく大規模術式魔法が放たれます!!」
「出迎えてくれるみたいね」
「クロユリ様、お言葉ですが、あまり悠長な事を言える規模ではありません」
魔力感知ができるモモが暗い顔をしている。
この距離にして今更気付いた事による罪悪感でもあるのだろう。
まあ、モモが気付かないという事はなにかしらの隠蔽魔法とかでわからないようにしていたのだろうけど、今更隠蔽魔法を解除したのは混乱でもさせたいのか。
敵からすれば、当たれば痛恨の一撃、混乱し被害が少なくても魔王軍の指揮を揺らがせるならそれでいいのだろう。
「モモ、敵がお出迎えしてくれるだけよ。どんな花火が観れるのか楽しみにしなきゃ失礼だわ」
「しかし……」
「問題ないわ」
「……はい」
「レビナス、予定通りに兵士たちを配置して」
「はい」
「レビナスは軍全体の指揮、モモはニクイ兵たちと少数精兵で敵の主要拠点の制圧」
クロムとニーナ、アスミナ、ヴェゼルたちも呼んで指示を出した。
「クロムはヴェゼルたちと隠密行動しながらヴィナトの捜索。ヴェゼルたちは魔法で戦場を掻き乱しながら時間も稼げる所は要所要所お願いね」
「ああ」「はい」
「ニーナはレビナスと一緒にいて。召喚獣のチュンちゃんでクロムたちのサポート。アスミナは結界でサポート及びバックアップ。龍神に対処できるように準備しておいてね」
あと2時間もすれば夜が明ける。
「クロユリ様!! 大規模魔法が来ます!!」
モモが焦りながら叫んだ。
「じゃあ作戦開始ね」
わたしは大鎌を召喚し、翼をケモ耳としっぽを生やして宙を舞い目を閉じた。
「……規模は魔術師200名くらいか……」
聴覚を研ぎ澄ましてもこの距離では正確には把握できない。
加えて騎士らしき慌ただしい足音も混ざっているからさらにわからない。
「モモ!! 見ててね」
わたしは両の手のひらに深い傷を付けて大鎌を握りしめて黒い血を大鎌に纏わりつかせた。
「確かに大規模魔法は中々のものね」
200名以上のニンゲンが共同であの魔力量を安定させて同じ方向になるようにコントロールするのは至難の業と言える。
ニクイ兵、もとい勇者たちはわたしと戦う前なんて魔力制御も甘かったから、あんな事したら魔力暴走で一大事だっただろう。
「それでも200人程度なら問題ないわ」
わたしは黒血の滴る大鎌を構えた。
ヴィナト救出作戦もあるから直撃させると厄介。
「【黒血魔広波】」
ギリギリまで引き付け、わたしは大鎌を横一線に振り抜いた。
迫り来る大規模魔法を飲み込み打ち消し、ブラックホールのように光すら飲み込んでいき、夜空を掻き消すように『無』を広げていく。
月明かりが照らしていたはずのウィージス教国王都は一瞬にして闇夜に包まれた。
山を吹き飛ばしちゃった【魔広波】とは違い、全てを飲み込み深淵へと引きずり込む【魔広波】。
龍神に
「わたしも改めてご挨拶としましょうか」
全速力でウィージス教国の王都に突っ込んだ。
一瞬にして近づき、わたしは教会らしき建物の大きな鐘を真っ二つに斬り裂いた。
「こんばんはっ!!」
ひしゃげながら悲痛な叫びにも似た歪な鐘の音がリズムも情緒もなく甲高く響いた。
この世の終わりかのような音が敵の悲鳴を喰い潰していった。
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