第77話 光柱

「近くで見ると、教会というより神殿ね。見たことなかったから知らないけど」


夜であるにも関わらず、鐘を斬られた神殿は月明かりに照らされて神秘的な雰囲気を醸し出している。


教国というだけあるわね。


「……そういえば、観光とかしたことなかったわね」


観光気分で血飛沫の飛ぶ戦場を大鎌片手に歩く。


群がってきた敵の聖騎士たちを影狼に襲わせてわたしは目立つ様に進む。


クロムたちがヴィナトを捜しやすくする為にも派手にお出迎えしてもらわなければいけない。


(クロユリ様、敵国の防衛線を突破致しました。このまま侵攻します)

(わかったわ)


無事にレビナスたちも突破したようだ。


戦線付近ではまだぽちとたまが遊んでいるのか、ニンゲンたちの悲鳴が上がり続けている。


別方向では聖騎士同士が「死ねぇ魔族風情がぁぁ!!」と叫びながら斬り合っている。

ヴェゼルぐっしょぶ。


わたしはその味方同士で戦っているのを体育座りをしながら観ていた。


さらに向こうでは魔族の姿と聖騎士とで戦っているように幻惑魔法を掛けられている。


認識を狂わし、幻惑魔法で惑わしてそれぞれ戦場を混乱させている。

……えげつない事するわね〜。

お母さん、あんなの教えてないわよっ。


「クロユリ様、ご無事でしたか」

「ええ。モモも元気そうね」

「クロユリ様に夜のお相手をして頂けるように常にわたくしは体調には気を使っておりますので」

「活躍したらご褒美をあげるわモモ」


そう言うと張り切って聖騎士たちに突っ込んでいったモモとニクイ兵たち。


……いかがわしい格好の元女王様とほぼ全裸の勇者たちが襲いかかっていくのはこの世の終わりを連想させた。


モモの桃が揺れてる〜

効果音を付けるなら「ばいんばいん」


「ご褒美じゃなくておしおきにしよう」


わたしは自分の胸を抑えながらそう決めた。


「それにしてもおかしいわね」


混沌な空気の戦場。

わたしたちが来るのを知っていて大規模魔法なんて撃ってきたのだから、もっと敵の反撃がしっかり来るものだと思っていた。


だけどあまりにもぐだぐだ。

素人目で見ても聖騎士の質は一般兵に毛が生えた程度。


わたしは翼を生やして空を飛びながらレビナスに念話した。


(レビナス、戦況報告を)


もっと試作品を作っておけばよかった。


(現在、神殿前にて敵戦力と交戦中。戦況は上々です)

(敵魔法部隊は? 最初の大規模魔法撃ってきたやつら)

(いえ……あれほどの練度を持った敵はほとんど見ておりません)


ウィージス教国上空から全てを見下ろす。

獣化し状況を把握する。

情報が多過ぎて頭が割れそうだ。


刃がはらわたを引きちぎる感触すら耳元で聞こえる。


(おかしいわレビナス)

(如何なされました?)


ここまでの侵攻が早すぎる。

ウィージス教国の敷地はグランドルの王都と対して変わらない。


街中には住民は見当たらなかった。

すでにわたしたち魔王軍が来ることは知っていたから大規模魔法も発動したし、避難した。

それならわかる。


神殿辺りにいる聖騎士は雑魚ばかり。

消えた精鋭は推定200以上。


アスミナが結界を張っているから外には出られないはず。


「どれだけ探っても神殿の中がわからない」


(レビナス、屍兵だけを神殿に集中させてみんなは撤退して。1分後に神殿を吹き飛ばすわ)

(ッ?! 了解!!)


理由も聞かずに動いてくれる部下は優秀ね。

助かるわ。


わたしは左手首から影狼をありったけ垂れ流した。

右手で眼球を抉り取って握り締めた。

眼球の中に魔力を圧縮しながら注ぎ込んだ。


魔力量と圧縮間違えたら神殿はおろか教国全部が吹き飛ぶ。


(レビナス! クロムたちがどこにいるかニーナに聞いて!)

(……神殿から離れた施設の地下、だそうです)

(ニーナに、その地下から出てこないようにクロムに伝えさせて。うっかり死ぬから)

(了解しました!)


影狼たちがモモたちを回収。

レビナスの隊もあらかた避難してる。


……キャンベルは屍兵が消し飛んで嘆くだろうけど、貰い物なんだから許してね。


(レビナス。吹き飛ばすわ)

(了解しましたぁぁぁ!)


レビナスたちが全力で逃げているのがわかる。


「【黒一天こくいってん】」


わたしは魔力を込めた眼球を神殿に落とした。

イメージは核爆弾。


神殿に信者を集めているとしたら、何をしてるのか。

なにかの儀式。


モモが言っていた血炎術式。

もしも、大量の信者を使って龍神を復活させる儀式でもやってるのだとすれば、かなりまずい状況になるかもしれない。


「着だ……くッ!!」


神殿にぶつかり、真っ黒い光を放った瞬間に神殿から真っ赤な光柱がレーザー光線のように昇った。


神殿のみを破壊できるように調整していた魔力では赤い光柱に押し負けてしまった。


神殿の周りは抉れた土がクレーターようになっていた。


「遅かったか……」


霧散するでもなく、赤い光柱は天高く聳えている。

暗い夜空に光る赤い光柱は不気味に美しかった。



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