第64話 女王
わたしは女王様と勇者たちを拘束してグランドルの王城跡の地下で拷問を開始する事にした。
「聞きたい事がたくさんあるのよね」
連合軍の残党狩りはレビナス達やぽちに任せてあるし、
「
「苦しみたくないならなるべく早く答えてくれると嬉しいわ」
メインとして聞きたいのは女王のみ。
勇者たちには拷問を観てもらう。
心を折るには手っ取り早い。
「たま」
わたしがそう呼ぶと、肉の塊が勢いよく走ってきた。
「いい子ね」
わたしがたまの撫でると嬉しそうに寝転がった。
実際には撫でているのは『たま』になった風間彩希を撫でている訳で、胴体である勇者の末裔たちは呻いて近くの勇者達を喰べようと歯をむき出しにしている。
「まずはこの勇者の末裔たちの事についてなのだけど」
「知りません」
「そうよね〜」
女王様という位の高い者と喋った事も考えてみれば全くない。
前世では底辺であるお父さんに虐待を受けていただけだし、後ろにいるクラスメイトたちからは虐められていただけ。
虐めとは気楽なもので、自分より弱い者を痛めつけて自分が強者だと錯覚したい小物がする事。
まあ他にも理由はあるだろうけど。
今目の前にいる女王様は「女王様」だ。
前世のわたしから総理大臣とかと一緒。
何をされたら苦痛なのかわからない。
わたしは拘束されて動けない女王の顔を覗きんこんだ。
「……痛い系か、エロい系か……精神系も……うーん」
人がメニューを見ながら悩むのを今初めて理解した気がする。
前世では食べれるだけで有難かったし、迷うという事はほとんどなかった。
選択肢で悩めるというのはこういう事なのね。
「もう一度聞くわ。素直に話す気はない?」
「人類の敵に話す事はありません」
「そう」
とりあえずわたしはハンマーで人差し指の先を叩き潰した。
「……ぐっ!……」
悲鳴を堪えて小さく呻いた。
お父さんみたいに醜く悲鳴をあげ散らかしたりはしなかった。
女戦士なら「くっ! 殺せ!」とか言ってくれそう。
「綺麗な爪が台無しね」
わたしは痛そうな人差し指の先っぽを啄いた。
爪は割れて血が溢れてきている。
「指は関節がいくつもあるし、指先は繊細な感覚器官のうちの1つだから拷問に便利なのよね」
後ろのクラスメイトたちが目を背けたり呻いているのがわかった。
そうして関節ごとに叩いて潰した。
今のところ泣き叫んだりしないのはやはり女王としての器なのだろうか。
覚悟の違いを垣間見た。
片方の手の関節を一頻り潰してみたけど、女王は目尻に涙を浮かべつつもわたしをしっかりと睨み付けてきた。
「痛みには強そうね」
わたしは女王の綺麗な頬を撫でながら微笑んだ。
「
「貴女は強いわね」
ゆっくりと頬から顎のラインを指でなぞった。
この女の目は強い。
自分の罪を知っている。
小を切り捨てて大を救う覚悟。
そうしなければいけない事を知っている。
それが国のトップとしてするべき事だとわかっている。
「可哀想に」
「……魔王に同情されるとは不快ですね」
「王族でさえなければそんな苦悩なんてしなくて済んだでしょうに」
魔大樹を破壊するために自国の民や兵士を犠牲にした女王。
女王が自国の民を失えばもはやただのニンゲンでしかない。
「魔大樹を爆破しようとしたのは人類の為。王都の民と、世界を天秤に掛けて決断したのでしょ?」
わたしはゆっくりと女王の太ももに跨って優しく首を絞めた。
細く綺麗な女王の首も、わたしの手では絞めるには難しい。
「どんな気分だった?」
少しずつ絞める力を強める。
絞め殺す気はない。
跨って女王の眼を見つめると、女王は罪悪感からか目を逸らした。
「勇者の末裔たちの実験。貴女は女王になった時に知ったのでしょう? 大臣も知らないような事を王女だった時に知っていたとは思えない。貴女は女王となり、責任と罪の重さを全て背負ってしまったと後悔したりはしなかった?」
また少し絞める力を強めた。
女王は一筋の涙を流した。
人ではないが、それでもまだわたしと違って人の心は多少あるらしい。
「苦しかったでしょう? 辛かったでしょう?」
人の上に立ち、命を数として見て判断を下す。
それはわたしにはわからない。
わたしには力があるから。
戦争で1人も犠牲者を出さずにニンゲンを殺し尽くす事ができるから。
それでも配下たちは戦士であった。
ニンゲンとの血で血を洗う戦いを望んだ。
この手で復讐せんとする熱意であり殺意であり意志だったから。
「今の貴女にはもうその責任は無いわ。背負わなくてもいいの」
人であろうともがく女王。
きっと王族でなければ優しい人になれただろう。
誰かを愛して、子供が産まれて、あたたかく幸せな生活を過ごせていただろう。
人並みを幸せを欲する者の眼。
誰かを想いやれる優しい眼。
女王として責任を背負い、誰よりも冷徹で残酷な選択を迫られる哀れなニンゲン。
「女王としての貴女は死んで、生まれ変われるのが今よ」
わたしは女王の頭を撫でた。
子供をあやすように綺麗な髪を撫でつけた。
「貴女は愛されていいの。人として愛されていいのよ」
女王の頬を涙が伝う。
彼女が、人としての心を捨てていればもっと楽だったろうに。
もがくからこうなる。
本当に、可哀想。
「人でありたいと願うなら、泣いていいわ。笑っていいわ。怒ってもいいし甘えてもいい」
わたしは女王を抱きしめて後ろ髪を梳くように撫でた。
嗚咽を漏らして泣く女王を哀れに思った。
「貴女はどうしたい?」
抱きついていた体勢から離れてわたしは女王の両肩に手を乗せて見つめた。
「
さながら愛し合うカップルのような雰囲気が漂っている。
女王の眼は涙で濡れていた。
「……
揺れ動いているのだろう。
女王は女王としてでもなく、女でもなく、人として答えようとしている。
「……私は、愛されたい……です」
女王が選んだのは、女王としてではなく、人としての選択だった。
「ならわたしが愛してあげる」
わたしはそっと女王の額にキスをした。
そうしてまた女王の瞳を覗き込んだ。
そして女王は言った。
「
わたしは女王の唇にそっとキスをして問いかけた。
「貴女の名前は?」
「……バーメル・シルーバ・グランドル」
「なら、今日から貴女の名前はモモ。その名はもう捨てなさい。貴女にはもう必要のない名前よ」
そう言ってわたしは頭を撫でた。
「……
わたしはまたモモを抱きしめて、モモは泣いた。
そうして女王改めモモは堕ちた。
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