第63話 地獄絵図
連合軍のニンゲンの色を分けて幻影魔法を掛けて惑わしつつ私もニンゲンの兵士に幻影魔法で偽装しながら適当な兵士に斬り掛かる。
(こちらゲイル班、南東も順調。そのまま東の連合軍本部付近へ向かう! 送れ)
(こちらヴェゼル班ミーシャ、こちらも本部へ向かいます! 以上)
「ヴェゼル隊長、ゲイルたちも東の連合軍本部へ向かうようです」
「わかった」
私とヴェゼル隊長は南門辺りの兵士たちを片っ端らから惑わし斬りつけ掻き乱す。
王都の中心辺りではクロユリ様の巨大ゴーレムのぽち様の頭がここからでも見える。
にもかかわらずニンゲン同士で争い始めるというのはとても滑稽な景色だ。
まあ、私たちが仕向けた訳だけど。
「隊長!」
「ああ」
本部が見えた。
本部はまだ警戒態勢を維持している。
今回の作戦は戦闘能力の高いヴェゼル隊長と連携の取れる私が突っ切って先行し乱戦の火種を撒き、後続のゲイル班4名が乱戦を大きくする為にさらに幻影魔法を掛けていく。
連合軍という多国籍なニンゲンたちの軍のため、繋ぎ目である他国兵同士を煽るのは簡単だった。
難易度はゴブリンと変わらない。
「ヴェゼル隊長、勇者たちが本部中心部へと向かっていますがどうしますか?」
「勇者たちのサポートに徹する。クロユリ様の考える事だ。『勇者たち』に『女王様』が攫われるのをお望みだろう」
「えげつないですよね〜」
(こちらヴェゼル隊ミーシャ、勇者たちを本部中心部にて発見。勇者たちをサポートせよ。以上)
クロユリ様お手製の魔力回復ポーションを飲みながら幻影魔法を掛けて本部中心部を囲っていく。
勇者たちは女王を始めとした他国の重鎮を護衛している兵士たちとの戦闘に入っている。
かなりの腕の持ち主たちらしく、彼らには幻影魔法は効き目が薄いだろう。
幻影魔法は既に気付かれているだろうけど、勇者たちも中々やるようで手がいっぱいみたい。
ゲイル班も合流して乱戦の飛び火に注意しつつ勇者たちを援護する。
幻影魔法で護衛たちの背後から斬り掛かり消えるの繰り返し。
周りでは無駄に争い女王様方そっちのけで戦う兵士。
ニンゲンたちからすれば地獄絵図の1つと言っていいだろう。
時間があれば、この醜い光景を眺めて笑ってやったのにと思う。
「まずいな」
「何がですか?」
「ぽち様が動いている」
「え?……」
基本的にはクロユリ様の指示を聞くらしいぽち様が動いている。
クロユリ様は何を指示したの?
え、聞いてないです私。
城壁が勢いよく蹴り飛ばされて破片が連合軍の北側に降り注いでいる。
視力を出来る限り強化してぽち様を見ると、肩にクロユリ様とカトレア様、そしてぽち様の手に何かが乗っている。
……なにあれ?
その何かが地面に着地してこちらに向かってくる。
全身肌色のネコのようなわりかし大きな化け物だった。
その化け物の上にクロユリ様が乗っており、カトレア様はぽち様の肩に乗ったまま。
「たま! ネコパンチ!」
クロユリ様の無邪気な顔とは不釣り合いな歪な化け物が本部もろとも殴り飛ばした。
近くでその化け物を見ると、おぞましいほどのニンゲンの顔やら胴体、手足が蠢いていて気持ち悪い。
しかもその顔のそれぞれが呻いていて怖い。
化け物の顔付近には人質として捕らえていた勇者の1人が醜悪な顔で叫んでいる。
お尻の辺りから樹の根が三つ編み状に絡まった尻尾らしき物が暴れている。
「ヴェゼル隊長、どういう状況?」
「わからん。……だが、なんかクロユリ様、楽しそうだな……」
「キラキラしてますよね……」
血で血を洗う戦場で年相応な少女の顔をしていらっしゃるクロユリ様の隣で化け物が叫んでいる。
「遅かったから来たわ」
クロユリ様は勇者たちに向かってそう言った。
まだ命令出してから10分くらいしか経ってないんですけど……
「たま。その辺のニンゲンたちは喰べていいわよ」
たまと呼ばれて化け物が勢いよく兵士たちの元に走っていき、乱戦から一変して悲鳴が上がる。
「お、おい黒崎……あ、あれ……」
「遅かったし、せっかくだからキメラを創ったの。丁度女王様が処分したがっていた肉もあったし人質も使ったの。名前は『たま』よ」
楽しそうよね〜とたまを眺めるクロユリ様。
ニンゲンを喰いちぎっている様子の事を言っているらしい。
「さてと、グランドルの女王様。一緒に来てもらえると嬉しいわ」
クロユリ様は自分の手首を引き裂いて黒い血を垂れ流して
クロユリ様の後ろに続く真っ黒い狼は数えきれないほど召喚されていく。
ニンゲンを喰い荒らして暴れる化け物のたま。
大地を踏み荒らす巨大ゴーレムのぽち様。
おびただしい黒い獣。
戦争とはなにか。
私はいよいよわからない。
これは戦争か。
クロユリ様1人で勝つのは当然として、ニンゲンを一人残らず殲滅できるのでは? と思ってしまう圧倒的脅威。
私たちが仕込んだ乱戦がまるで前菜のように感じた。
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